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火花天龙剑 -> 外语学园 -> 十字兄 253了!!!!!
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桂木弥生

头衔:我永远喜欢老干妈我永远喜欢老干妈
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游戏王国的浪人(I)冥界死徒(I)艾雷布的圣骑士(II)海蓝之钻(II)文字の契约者(II)
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十字兄 253了!!!!!

遠い夜明け


この回廊の窓から眺める不夜城の夜景は、ブルーニャにとって格段珍しいものではなかった。見慣れた光景である。
けれど、今宵、眺める夜景は、いつもより、どこか騒々しい感じが見て取れた。
こんな夜更けに灯が燈るような店は、酒場か遊郭だけだ。そんな店の灯りなど騒々しく下品で安っぽい雰囲気がするのは当然である。
それなのに、今夜に限って、何故、普段より騒々しく目障りな光と感じるのだろうか。
ブルーニャは、窓に遣った視線を長く広い回廊の先へと戻した。
月明かりのない、唯一の光源である両側の壁に掛けられた蜜蝋の火は、城の住人達の就寝を妨げぬよう数を減らしてあり、広々とした回廊を隅々まで照らすには不十分だった。城の隅々に蔓延る闇は、今現在、ベルンに巣食っているあの女のようだとブルーニャは思い、その柳眉を顰めた。
「何故、陛下はあのような得体の知れぬ者を……」
吐き捨てるように言った言葉にも、城内の静謐と蔓延る闇は動じることは無い。彼女が何を言おうとも何をしようとも、まるで、彼らには関係の無いことなのだ、と言わんばかりに。
焦燥を抱くブルーニャに鏡が目に入る。
重厚で精緻な金縁で飾られた鏡には、曇り一つ無く、ほの暗い回廊でも鮮明に自分の顔を映している。
葡萄酒のように鮮やかな色合いの長い髪との対比が美しい滑らかな象牙の肌、整った鼻梁に薔薇の一片を落としたように艶かしい紅唇、妖婉な美貌と対照的に、登城に相応しい煌びやかな純白の軍服に身を包んだ姿は凛然と、かつ堂々としたものだった。彼女を見る者は、誰しもが、流石、若くして竜将というベルン軍人にとって最高位に就いただけのことはあると賞賛するだろう。そして、妙齢の女性の容貌としても、これ以上ないというくらいに恵まれている事をブルーニャは自覚している。謙遜しても、それは返って反感を招くだけだ。
その美貌が焦燥で醜く歪んでいるように見えるのは、己の気にし過ぎなのか?
いや、そもそも、焦燥ではなく、もっと別の……。
「……こんな顔では」
ブルーニャは自分の意志を無視して進んでいく己が思考を振り払うために、首を左右に振り、軽くため息をついた。
その時、初めて、身体が酷く強張っていたことに気がついた。


折れ曲がる回廊の先に、一際豪奢な扉が待ち受けている。
その扉をノックし、参上の旨を告げると、
「入れ」という、一言が扉越しに返ってくる。
その扉の取手に手を掛けようとした刹那、紫我陇巳恧蚋菠るLした者の、僅かに露になっている雪よりも白く淡い顔が彼女の脳裏を掠めた。
それを振り払うためにも、彼女は取手を引く。
出てくるな、暗闇の巫女よ。
今はお前の出る幕ではないのだ。
ここから、この先は――、この扉を通り抜けてこの扉を再び通り抜けるまでは――。
陛下の傍にあるのは、マードック閣下でもない、ましてや、お前ではない。
この私だ、ブルーニャだ―――。
誇りと憎悪をない交ぜにした光がその紫の双眸に、部屋の、否、この城、王国の主に気取られぬ程度に宿る。
主の要望に合わせて、灰色がかった渋い青という落ち着いた色合いで統一された部屋は、豪奢な細工が目立つ王城の中と比べると派手さこそないが、天蓋のついた寝台も今は灯りの灯っていない燭台も窓際に置かれたテーブルと一対の椅子といった家具の数々は、国王の寝室に相応しいものばかりである。
その寝室のマホガニーでできた円卓に凭れかかった状態で、部屋の、そして王国の主は書類か何かに目を通していた。
窓から差し込む月光の他には、彼の手元に置かれた小さな手燭のみという暗い室内にもかかわらず、彼はそれを苦とも思わず、左から右へと素早く視線を動かしているのがわかった。
「陛下」
そうブルーニャが名を呼ぶと、書類から目をはずすこと無く、国王は言った。
「マードックの領地内で蝗が大量発生したらしい。今年の小麦の収穫は、芳しからずという報告が上がったのだ」
「マードック閣下の?あの穀倉地帯が不作とあれば、飢えに苦しむ地域が出てくるのでは……」
「南西の穀倉地帯が不作でなければ、問題はあるまい。しかし、そこも不作だった場合、直轄地の備蓄を回す他、あるまいな。それと、エリミーヌ教会が持っている貯蔵を足せば軽く五年は持つだろう」
「やはり、予てからの噂は事実にございますか?
教会が喜捨と称して、税の滞納と不正に金銭を蓄えているというのは」
「ああ。今日、その報告も上がった」
「では、いかがいたします?」
教会が簡単に不正を認める筈もなく、それを許す国王でもない。教会の財産の没収を命じても国王と対立する教会が易々と引き下がるだろうか。
「これを機に一掃したいところだが、そうはいくまい。紛い物とはいえ、奴らを信ずる者も国内に多くいる。」
「しかし、放置をしていては、増長いたしましょう。事実を明るみにいたしますか、それとも……」
「奴等が『自から』小麦を差し出すのを待つとする」
そう迷うことなく言い放つと、国王は書類を円卓に置く。それを合図とばかりに、ブルーニャは扉から離れ、国王に近寄った。
「ゼフィール陛下」
再び彼の名を小さく囁く。先ほどよりは幾分、これから行われることに相応しい甘ったるい声音で。
彼は無言のまま、太く逞しい腕を伸ばした。彼女の背中に回された腕が、乱暴に彼女の身体を彼の身体へと引き寄せる。
そして、ブルーニャの顎を指で力任せに持ち上げると、噛み付くような接吻をする。
愛情など到底感じることなど出来ない男の行動に、どこか虚脱感と充足感という相反する感情を胸に抱きながら、それでも、彼女は一抹の幸福を感じていた。


彼女と国王の関係は、主君と部下、ただ、それだけである。
それは、普段の任務中であれ、この褥の上であろうとも何ら変わりはない。
ブルーニャとて、それ以上のものを望んでいない。彼女にとって、国王は、恋愛感情を向ける対象である以前に、敬慕する主であったから。そして、国王が女性に求めることは酷く事務的なものしか存在していないから、彼女がそれ以上のものを望めば、自らの心を痛めつけるだけと分かっていたからだ。
いや、そう思いながら、こんな関係を続けていること自体、自分は主従以上のものをゼフィール王に望んでいるのかもしれないという、相反する思いが過ぎる。
正妃はおろか側室すら持たぬ彼は、密かに廓通いを続けていた。せめて宮廷の侍女を相手にさせればよいのにとすら言う者もいたが、彼は宮廷に関連する女性を敬遠していた。宮廷には、割り切らない女がいないから、とその理由を彼は言っていた。「割り切らない」とは、彼を単なる「子を産むための道具」、もしくは、「性欲の捌け口」と割り切って考えることらしい。
無理な話だとブルーニャは思う。
宮廷に務める侍女たちにしてみれば、国王というだけで憧憬の対象なのだ。
それを後押しするように、近隣諸国の王達よりもゼフィールは遥かに若く、彼を彩る武勇談は数多かった。
即位前から彼は数々の武勇談を残している。武を重んじるベルン、そして、彼はその王子とはいえ、その数は、歴代国王が王子時代に残したものとは桁が違っていた。彼は、常に文字の如く東奔西走し、数々の叛乱を鎮圧、国境線における他国との戦いに勝利を収めてきた。彼が最高司令として派遣される戦いは、その多くが激戦、苦戦をベルン軍が強いられ、既に敗北が目に見えていた戦いだった。しかし彼は、その悉くを、数々の優秀な軍師、指揮官を輩出してきたベルン史上においても一二を争うと数多くの部下から絶賛された兵法の才をいかんなく発揮し、戦場においては、自ら馬を駆り軍神の如きと称えられるほどの活躍を見せて、敗北から勝利へと導いた。当時、人は彼を王子であるにもかかわらず、始祖ハルトムート王の再来と謳ったほどである。
そして、国王になってからは、即位前と比べれば、実戦に赴く機会は当然減る。しかし、指揮官としての実力は変わらず発揮され、軍事面だけでの功績だけでなく、少々強引とも取れるが政治家として辣腕を奮い、名君としての名を欲しいままにしている。
彼の外見も、槍のようなエッケザックスを帯刀していても何ら見劣りしない堂々とした体躯に、くっきりと影を作る頬骨や伸ばされた髭が目立つ彫りの深い顔立ちと、決して美男子という訳ではないが、男性的で逞しいその容姿は、女性を魅了するには十分の容姿であった。付け加えるなら自己にも他者にも厳しい彼の周囲に漂う威圧するような雰囲気も、国王としてだけでなく男としての彼の魅力を高めていた。
そんな彼に抱かれたならば、当然彼女たちは求めるだろう。妃の地位を。
そして、何よりも、彼の心が自分に向くのを。
事実、彼が一度侍女を相手にして相応しい地位を与えようといっても彼女は満足しなかったのだという。「貴方は私のことを愛してくださいませんの?」と。
その点、廓にいる女は違うと彼は言った。これは商売だと割り切っている為に、そんな事は言わないのだと。
しかし、女性を召抱えるべき高貴な身分の者が直接廓に足を撙印⑴蛸Iっていることは、あまり褒められたものではないとマードックが国王に進言したことで、彼は廓通いを止めた。部下にしてみれば、もし廓の女が孕みでもしたら、という事態を避けたかったのだ。
そして、誰か正妃を迎えればという声は、当時も勿論今も経えず上がった。それすらも鬱陶しいと国王は言い切った。
「ならば、いずれの女を抱いて済まそうとするのですか。国王陛下といえど生身の男であることには代わりありますまい」
「そうだな……」
嘆くような口調でマードックに問い質されると、国王も言葉を濁すのみ。ここが観念すべき時だと思っていたに違いない。
その時、ブルーニャはふと気づいてしまった。
ずっと主君である彼に対しては敬慕の念を抱き続けてきた。初めて彼を主君と仰いだその日からずっと、だ。そして、彼もまた、部下である彼女を信頼してくれている。だが、それは当然とはいえ、教育係として彼に幼少の頃から仕え続けてきたマードック以上の親密さはない。これ以上のものは望めないだろう。
けれど、もし、彼に抱かれたなら、それがただ肉体だけの関係であろうとも、その一時だけは、彼は彼女に対してだけ激しい感情を剥き出しにするのだ。マードックにでも、誰にでもなく、ブルーニャという女に対して「だけ」、激しい感情を垣間見せるのだ。
それは、もしかすると、恐ろしいまでに甘美なる瞬間であるのかもしれないと、彼女は思ってしまった。
そして、マードックが所用で御前を退くと、ブルーニャは言ったのだ。「私を抱けばよろしいのです、陛下」と。
「私なら陛下の寝室に向かうことも、怪しまれるようなことはありません。それに、私であれば、ある程度の噂が立とうとも、誰かが羨んで私を追い落とそうとする女はいないでしょう」
「大した自信だな、ブルーニャ」
「それに、もし、子を宿すようなことがあったとしても、私ならば、問題はありません。……王妃になるには不適当でしょうが」
すると、彼は顎に手をやり、ふむと言った。
「確かに、公爵家や伯爵家の出でもないお前を王妃にするのは、無理が多かろうな。それにわしとて、王妃ならば別に相応しい女を迎えたい。妃にするとしても、軍人を妃にと喜ぶ者は少ないだろう。それに、お前はその性格ゆえか他の、とりわけ上位の貴族には敵が多いからな。子でも産まぬと妃になるのも無理であろう」
「そこまで、私は敵を作った覚えはございませんが……」
「そうか?こんなことを進言するような気の強い女は、そうはおるまい。その強さを嫌う者も多いと思うが、違うか?」
ブルーニャは返答に窮した。
「ふっ。まあいい。
そうだな、お前が自らそう望むのなら、抱いてやっても構うまい。わしとて、女を抱けるのだから、異論はないゆえ。
但し――」
「私は、三竜将の一人、ブルーニャにございます。陛下は我が主君、忠栅蚓·工伽ㄒ蝗摔斡饯摔搐钉い蓼埂
「よかろう」
満足げに肯いた彼は、そして、今のように、彼女を抱いた。
快楽に顔を歪ませ、彼女を求める国王の姿に彼女は痛みとは別の感情が込み上げ涙が流れ落ちるのを止められなかった。
この瞬間だけは、私は陛下を愛する事ができる。誰に憚る事無く、誰に咎められる事無く……それは今こうして私の身体を愛撫する陛下すら例外で無く……ずっと秘めてきた想いを胸に止めたままでなく、この躯で表現することができる。
それが、あられもない姿で足を開き、甘ったるい泣声を上げ、身体を弓形に反らして、王の劣情を煽るような、そんな、廓で春を販ぐ女と何ら変わりの無い行動であったとしても、ブルーニャは嬉しかった。
本当に、嬉しかった。
それは、至福の喜びといっても過言は無かった。
この一時だけ、この快楽に溺れる瞬間だけは、陛下の最も近くに在るのは、自分なのだ、私だけなのだ。陛下を悦ばせる事が出来るのも、又、私だけだと。他の誰でもない、ブルーニャという女だけなのだと……。



―――不意に、ブルーニャの胸元に口付けを落としていたゼフィールが顔を上げて、ブルーニャを覗き込んだ。
「どうした?」
「あっ………」
「上の空、か?」
ブルーニャは恥じらった様子で謝辞を口にする。彼女は傾城傾国の美女と言っても過言無き美貌の持ち主だが、対照的にその性格は、極めて謹厳実直で諏gである。気の強い女、と取らがちなのは、任務に忠実すぎるぐらい忠実で、任務遂行の為であれば誰であろうと容赦無く牙を剥くという彼女の性格の一部を見てのことだろう。強靭な精神力の持ち主であることは、若くして女性ながらに竜将の地位に就いた事からも窺える。けれど、その性格は決して、このような状況に慣れているわけではなかった。
「わしに、飽きたのならば、他の男に行っても構わんぞ。お前ほどの女ならば、相手には不自由すまい」
咎めるような、けれど甘えるような眼差しでブルーニャがゼフィールを見上げると、ゼフィールの薄い唇がにやりと歪んでいるのが見て取れた。
「陛下……」
彼女の耳元に唇を寄せ、ゼフィールはがりっと彼女の耳枻驀yむ。びくんと彼女の体が震えるのを認めた後、彼はそのまま耳元で囁いた。
「わし以上にお前を悦ばせる事の出来る男がいるのなら、好きにするが良い」
嫌な人だ。
嫌な人だと、本当にブルーニャは思う。
きっと気付いているのだろう、彼女が抱いている想いを。知っておきながら、ブルーニャを抱き、知っておきながら、そんなことを平気で口にする。
そして、ブルーニャが傷付いても、「お前が望んだ事だ」というだろう。そうだ、これはブルーニャが自ら望んだことなのだ。
ブルーニャは、ゼフィールに抱かれて初めて思い知らされた。
ゼフィールに抱かれた侍女は言ったという。「貴方は私のことを愛してくださいませんの?」と。
その言葉を聞いた時、ブルーニャはその女を心の中で嘲笑っていた。人には分相応という言葉がある。望んでも手に入らぬものを求めるものを「虹を追う者」という。愚か者の証明だと思っていた。私はそうならないと高を括っていたのだ。
けれど、抱かれて初めて気付いた。
ゼフィールの温もりで暖められ、彼の傍で一時の眠りにつく事の喜び、不意に目を醒ました時だけ、垣間見ることのできる彼の無防備な寝顔。手を伸ばせば、その先には彼の頭があって、彼のくすんだ渋い色合いの金髪に指を通すこともできれば、その頬に触れることもできる。
躯と心が満たされた瞬間の自分が初めに思ったことは、心が欲しい、ただそれだけだった。
こんなにも愛しいのに、貴方は私の事を微塵にも思っていないという事実、それを抱かれてむざむざと突き付けられたような気がする。
貴方の心が欲しい。
私のことを愛して欲しい。
抱かれる以前よりも激しく突き上げるような思いが、頭の中で擡げて幾ら打ち消そうとしても離れなくなった。
「割り切った」女になれる、私ならばなれる。
けれど、心の奥底で願っていたのだ。
私を愛してください、私だけを愛してください。私を、
――――――誰よりも、愛してください。
そんな事を考えていた人間が、「割り切れ」る筈も無かった。
愚かだわ、………なんて愚かな女。
気づいていたくせに……、はじめから、自分の想いが容易く割り切れるほど、軽くないことに気づいていたくせに……。
彼女はゆっくりと、目蓋を閉じた。
国王の淡い紫の両眼を見上げるのが辛かった。全て見透かされていることに、浅ましい女と思われている事実に他ならぬ彼によって直面させられる事が怖かった。
「私は、陛下の部下でございます。
陛下の元を離れていては、部下といえましょうか?」
彼女は、片手をゼフィールの後頭部に、もう片手を広い背中に回すと促すように力を込めた。
彼が嘲笑うように口元を歪めている様子が、目に閉じていても、ブルーニャには分かった。そして、それが苦しかった。
この一時を失えば、楽になれるのだろう。今のように、苦しみ、煩悶することも無くなるだろう。けれど、一度知ってしまったゼフィールに抱かれる悦び、ゼフィールを悦ばせることのできる嬉しさ、それら全てを捨てて全てを無に帰すなどできなかった。
彼の手が、彼の唇が、彼女の体をあます事無く愛撫する。その灼熱にも似た快楽に身を委ね、時には自らそれを求めながら、彼女は余りの熱に朦朧とした意識の中で、改めて自分の想いを確認する。
私にこの一時を捨てることなど、決してできない、と。
例え自らを痛めつけることであっても、どんなに愚かなことであろうと、この瞬間、この一時を捨て去ることなど……、できなかった。



温もりが消えたことに違和感を覚え、ブルーニャは目を醒ました。
そっと手を伸ばしてみても、そこには少しだけ浮き上がった形のシーツがあるだけで、国王の逞しい肉体にぶつかることはなかった。
「陛下……?」
視線をさ迷わせると、窓際の椅子に座りゼフィールが酒杯を傾けている様子が見受けられた。
「飲むか?」
酒瓶に記載された銘柄を見ると、それが火酒でも取り分け酒精の強い銘柄であることがわかり、ブルーニャは首を振った。
「いいえ……」
「そうか。お前は酒が弱かったか」
それは違うだろうとブルーニャは心の中で思った。
ベルンの酒は、どれもきつい酒が多い。冬は極端に寒くなる気候が酒で体を温めようという気にさせるのだろう。ブルーニャも下戸ではなく飲める方ではあるが、今、国王が呷っている火酒は、流石に飲めない。一度試しにと飲んでみたは良いが酔うこともできずに、日中耐えがたい頭痛と嘔吐感に悩まされることになった。
「ならば、適当な酒を用意させよう」
「陛下?」
「わしがお前に優しい事が、珍しいのか、ブルーニャよ」
「い、いえ、そうではありません……」
「用がある。そのついで、だ。」
ゼフィールは立ち上がると、ゆったりとした歩幅で部屋を出ていった。
その後姿を見送った彼女は、月光を浴びてぼんやりと白く浮かび上がったシーツを、その紅く染めた爪で、ぐっと握り締めた。白絹の滑らかなシーツを切り裂かんばかりに力を込めて。
ゼフィールの用事を詮索する権利はブルーニャに存在していない。また、ゼフィールがブルーニャにその内容を告げる義務はない。
彼らの関係は、恋人ではない、あくまで、主君と部下である。
その事でブルーニャが激しい焦燥や苛立ちを感じているのではない。
彼女が、激情に襲われているのは、国王が部屋を出て行った先に、あの女が待っているような気がしてならなかったからだ。
用がある、とは、あの巫女と何らかの理由で会うことなのではないか、ブルーニャはそう思わずにいられなかった。
その論理には、何ら理屈など存在せず、単なる直感に過ぎないものであったが。
「ゼフィール陛下……」
ぽつりとブルーニャは名を呼んだ。応えがないことはわかっているにもかかわらず、どうしようもない寂しさが込み上げてきた。
窓から射す銀月の光が、わけもなく眩しくて、ブルーニャは目を閉じた。

しばらくすると、国王が酒瓶を片手に帰って来た。
「これなら、お前も飲めるだろう?」
そう言いながら、彼は円卓に置いた酒杯にとくとくと持ってきた酒を注いだ。ブルーニャの髪と同じ色合いの葡萄酒だった。
杯を取りに立ち上がろうとした彼女の前に、彼は、ずいっと杯を差し出した。
彼女が受け取ると、国王は椅子に座り、自分の酒杯にも酒を注ぐ。その様子を眺めながらブルーニャは、杯の中に並と注がれた葡萄酒を口に含んだ。
「……これは、おいしゅうございます」
「今年、出来たばかりの葡萄酒だそうだ。今年は葡萄が豊作で、味も格別らしい」
国王への献上品とあれば、その中でも選りすぐられた一品なのだろう。普段、厳しい表情しか見せない国王の横顔もその酒を味わい、どこか和らいでいるような気がした。
この表情を見られる人間は、ごく僅かだ。いや、もしかしたら、自分だけかもしれない。
そう思うと、苛立ち張り詰めていた心も緩み、彼女の口元に自然と笑みが浮かんだ。
しかし、その矢先の事だった。
ふと、彼女は酒を飲もうと杯を傾けている国王の首元、そして、鎖骨が露になっている事に気付いた。出ていった時はきっちりと整っていた襟が歩いた拍子に崩れた、それだけの事に違いないだろう。が、先程から神経質になっていたせいか、ブルーニャには、そんな些細な事にすら苛立ちがこみ上げてきた。
ブルーニャとゼフィールのような、そんな関係ではない。ゼフィールとかつて彼が抱いたであろう廓の女とも違う。
それぐらい、彼女にもわかっている。
彼とあの紫我陇蛏恧死pった者の関係は、男女のそれではない。
しかし、他者の介入を決して許さぬ強固な関係である事が、ブルーニャには解った。
ブルーニャには、いや、誰にも、何も求めていない彼があの者には何かを求めていた。
言葉では何も言わない、彼はあの者を部下と同じように命令を下すだけで。
あの者も、彼を主君と仰ぎその命に従うだけで。
けれど、ずっと、傍で居続けていた、ずっと傍で彼の眼差しの行きつく先を見続けていたブルーニャには、わかった。
あれを、恋とは呼ばないだろう、愛とも呼ばないのだろう、それなのに、それ以上の深い繋がりが存在していることに、気付いてしまった。
そして、あの者を自分と同じ土台に持ってくる事が不可能な事にも気付いてしまった。
決して、彼らはそんな関係になりはしない。彼があの者に求めるもの、あの者が彼に求めるものはそんなものではないからだ。
万が一、ブルーニャと同じ土台にあの者が立った瞬間、ブルーニャは完全な敗北を告げられるだろう。
けれど、それはありえないのだ。それが歯痒い。男女の関係ですらない相手では、戦いを挑み勝つことも負けることすらできない。
彼の眼差しが、遠く夜空を仰いでいる。
その眼差しの先には、一体、何があるのか。
そこまで考えて、ブルーニャは気付かれない程度に溜息を零した。
………もう、これ以上、考えたくなかった。せめて、この一時だけは。
そう、この一時だけは、傍にあるは、ブルーニャだから。
いずれ、消え行く一時であったとしても、今、この時だけは。
葡萄酒を嚥下したブルーニャは、ベッドから離れ、円卓に空の酒杯を置いた。
傍に彼女が来ているというのに、彼は目もくれず、ただ、外を睨むようにして眺めている。
彼女は、彼の膝の上に仱毪取⒙窑欷皮い虢笤橐枻i骨にそっと指を這わせた。
その下にも上にも、数多くの傷痕がある。傷の数以上の戦場を駆け抜けた証である、それを、ブルーニャはいとおしげに見つめ、そっと口付けた。
この傷の中の一つぐらいには、彼女が彼と共に駆けた戦場の記憶が、その時の想いが残っているだろうから。




きちんと身に着けた筈の衣服が乱れていくことに気付き、それを正しながら、彼女は再び、ほの暗い回廊を歩いていた。
常ならば誰も居ぬ静寂の一時にもかかわらず、回廊をブルーニャへと向かって歩いている男の姿があった。
「おや、ブルーニャ閣下ではありませんか」
「ナーシェン……」
波打つ栗色の髪と、己が傲慢さを表現したような優男じみた顔立ち、それに、竜将しか許されぬ意匠が施された礼装を身に纏った男といえば、三竜将の一人であるナーシェンの他にはいない。
「このような時間から陛下の御許へ行かれるとは、ブルーニャ閣下のその謹厳たる態度、このナーシェンも見習わなければなりますまい」
「そうですね、ナーシェン。貴方は何の用があって陛下の元へ?」
「さて……、これは内密にと命ぜられている事、例え三竜将の一人ブルーニャ閣下とはいえ、言って良いものか……」
「そうですか。ならば、仕方がありません」
すると、ナーシェンは拍子抜けしたようだった。
「三竜将の一人である貴方が私相手とは言え、そう軽々しい口の持ち主では、貴方は勿論、貴方をご推挙されたマードック閣下の力量が疑われるというもの。
ナーシェン。貴方の態度こそ、竜将というものです」
ブルーニャの言葉に怒る様子もなく、ナーシェンは道化のように瞠目してみせた。
「おや……、よろしいのですか、あの暗闇の巫女に関する事ですよ?」
「……私には、関係のない事です」
「それは真ですか、ブルーニャ閣下?」
「ええ」
その答えを聞いた彼はにやりと嘲笑い、ブルーニャに聞こえるか微妙な声で言った。
「ふっ……、貴方には、女の意地や、まして、恥じらいというものが存在しないのでしょうかね」
「何を仰ったのか、私には聞き取れませんでした。
もう一度、言っていただける?」
「いいえ、単なる独り言です。失礼を致しました、ブルーニャ閣下」
では、と、ブルーニャを横切るナーシェンの背中を振り返る事もなく、ブルーニャはぼそりと呟くように言った。
「ブルーニャ閣下?」
「ナーシェン。貴方の部下を、エトルリア王都で見たという報告を先日、私の部下がしてきました」
背を向けていても、ナーシェンが激しく動揺していることが伝わってくる。
「貴方の部下と一緒に、そうですね、……あえて名を挙げるのはよしましょう……エトルリア貴族が会談している様子だとか……。
これは、貴方が、ベルンの有益を思って、エトルリアに対して働きかけをしているのでしょうね?」
「……そ、それは勿論」
「それは重畳。きっと、陛下や貴方をご推挙されたマードック閣下もお喜びになることでしょう。勿論、私もです。
貴方が活躍することがベルンの国益に繋がるのですからね。貴方が望むのならば、この事を私の口から陛下に申し上げましょうか?」
「いえ、それは!……結構です。
それでは、ブルーニャ閣下!」
そうナーシェンは捲し立て、言いきらぬ内に、走り去っていった。優雅さを重んじる彼らしからぬ足音が響いた。
ふぅと溜息をつき、ブルーニャは心の中で「小者……」と蔑みを通り越して哀れみすら覚えた。
彼の不必要な好奇心に満ちた言動も、蔑視の眼差しも、鬱陶しくもあったが、今のブルーニャには、却って、心地よいものだった。
感情、それが人である証だから。
思い出されるのは、血が通っているのか疑いたくなるほどの白い肌、緋色と深緑のオッドアイ、国王の命以外には何ら反応のない、固く閉ざされた唇だった。
「もう夜明けね……」
彼女が窓に目を遣ると、警邏の篝火は今だ燃えているものの左程勢いはなく、浩々としていた繁華街の灯火は完全に終息へと向かっている。代わりに、塗り固められていた闇夜が徐々に紫から赤へと塗り替えられ、闇夜の中に埋没していた街並みもその眠りから目覚めようとしていた。
そして、再び、窓から回廊に視線を戻すと、そこには、当たり前のように変わらない闇があった。
この薄暗い回廊には、まだ、夜明けは訪れていない。
訪れる時は、まだ、先なのだろう。そして、その時は、今日でもない、明日でもない、もっと、遠い未来……。
夜が明けるその時まで、自分はずっとこの暗闇に包まれた回廊を歩き続けていくのだろう。
闇に囚われた主に仕える者の、それが定めなのかもしれない。彼女に、闇に囚われた主を解放する術など、持っていなかったから。主と共に闇に身を埋めることも許されないから。
ただ、主の傍で、主が闇の中に身を埋めていく様を見守る事しかできないから……。
彼女は、いまだ、夜明けの訪れぬ回廊を足早に歩いた。
その姿は回廊を包む灰暗い闇に溶け込み、やがて、完全に見えなくなっていった。










以下是一些作者的评语
****************

勇魚さんから頂きました、ゼフィール←ブルーニャ小説です!!
陛下らぶな勇魚さんだけあって、も~う陛下カッコいいのです!!
そしてブルーニャさん色っぽいのです!!!(鼻息)
ブルーニャさんのゼフィールに対する想い、そしてイドゥンに対する複雑な気持ち。
かっこよくて健気なだけではなく、裏の素の部分も持ち合わせた上で現れているいかにも女性的な感情がとても切ないのです。
とかいっておきながらブルーニャさんと陛下の間柄はこれが理想的な私。
しょせんゼフィール←ブルーニャ檄推奨派なので、くっついてほしくはないという超わがままなヤツなので(爆)
勇魚さん、悶えな小説をどうもありがとうございました!!!!


老干妈LOVE
[楼 主] | Posted:2003-01-23 15:27| 顶端
十字锁链



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收下了...年后翻译...

我是已婚人士~
[1 楼] | Posted:2003-01-24 11:03| 顶端
桂木弥生

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再次 253



老干妈LOVE
[2 楼] | Posted:2003-01-24 22:09| 顶端
MadScientist



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Re: 十字兄 253了!!!!!

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[3 楼] | Posted:2019-02-20 10:19| 顶端

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