十字锁链 |
2003-01-23 15:15 |
私は誰よりも貴方のお傍に居りました。
[我在他身旁的时间比任何人都要多。]
貴方と共に在ることが、私の何よりの望みだったのです。
[能和你在一起,是我最大的愿望。]
例え敵に敗れ、命を失うことになっても・・・
[就算是被敌人击败,失去生命。]
貴方と共に逝けるのなら、私は幸せでした。
[如果能和你一起逝去,那是我的幸福。]
『ブルーニャ、おまえはイドゥンを守ってここを脱出せよ』
{布鲁尼亚,你保护音顿从这里突围}
呙趣稀ⅳ胜螭确浅¥胜猡韦胜韦扦筏绀Α
[命运这东西,真是无法捉摸。]
私のその望みすら、叶えることを許して下さらないなんて・・・
[连这小小的心愿,也不让我达成…]
けれども私は、貴方にお仕えする騎士。
[但是我,是侍奉您的骑士。]
貴方の命を果たすことも、私の望み。
[完成您的命令,也是我的心愿。]
私は女であることよりも、騎士であることを選んだ。
[我选择成为一个骑士,而不是一个女人。]
それが、私の誇りであることを信じて・・・
[那是因为,我坚信那是一种荣耀…]
~美しき世界~
~美丽的世界~
目を開けることが出来た。
[(终于)能睁开眼睛了。]
そのごく当たり前の動作が、酷く不思議に感じられた。
[这么平常的动作,竟然感到相当不可思议。]
体の横にある腕。そこから伸びる手の先にある指。
[身旁的手臂,以及那舒展的手掌、指尖。]
動かせることに違和感を覚えた。
[活动时发觉不一样了]
もう二度と、この目で物を見ることなどないと思っていたから。
[因为我曾经以为再也不能看见任何东西了。]
この身体を動かすこと、もう出来ないと思っていたから。
[以为再也不能自由活动身体了。]
視線の先には、少し汚れた木の天井があった。角には蜘蛛が巣を張っている。
[进入视线的,是有点脏的木质天花板。角上挂着蜘蛛网。]
自分が横になっているのは、普段使用していたものより質の悪い寝台。少し体を動かすだけで、きしむ音がした。
[承载我身体的床,比我平时使用的要差。稍微动一下,就发出“吱、吱”的声音。]
起き上がろうとして体に力を入れるが、それもなかなか出来ない。
[我使劲想起身,可是无法使出力气。]
全身が鉛になったように重い。まるで自分の体ではないみたいだ。
[全身像灌了铅那样重。简直不像自己的身体似的。]
それと胸に、思わず声を上げそうになるほどの激痛が走る。
[而且胸口,那阵阵疼痛可以使人不自觉地喊叫出来。]
「おや、気付かれましたか」
[哦,你醒过来啦。]
がちゃりとドアが開く音。それと共に男の声が聞こえた。
[随着“咔嚓”的开门声。听见一个男子的声音。]
聞きなれない声だった。
[从没有听到过的声音。]
声の主の姿を確認するために再び体を起こそうとすると、青い髪の男が視界に入ってきて自分の体を支えた。
[为了确认发出声音的人的相貌再次支撑着想起身,结果一个蓝发的男子进入了视界并扶住了我。]
「まだ動ける体ではありません。無理はなさらないで下さい」
[你的身体还不能活动。请不要勉强。]
法衣を身に纏った男の口調は優しく、彼は自分をそっと寝台に横たわらせる。
[身穿法衣的男子用温柔的口气说着,然后帮我轻轻躺回床上。]
「あなたは・・・・・・」
[你是……]
男の顔には見覚えがあった。
[我见过这男人的脸。]
それが引き金になって、意識を失う前の記憶が一気に蘇る。
[这个成为线索,我一下子回想起失去意识前的记忆。]
「そうか・・・私は・・・」
[对…我…]
「思い出されましたか、ブルーニャ殿」
[您想起来了吗,布鲁尼亚小姐]
ブルーニャの顔を覗き込んで、青い髪の神父は穏やかに微笑む。
[蓝发的法师脸上浮现着平静的微笑,凝视布鲁尼亚的脸。]
「私は・・・死んだのではなかったのですか?」
[我…没有死去吗?]
「確かに・・・貴方は胸に矢を受けて、瀕死の重傷を終われました。しかし、奇跡的にも急所を外していたのですよ」
[的确…你胸口中了一箭,负了濒死的重伤。但是,那像是奇迹一样并没有命中致命的地方。]
「そうだったのですか・・・あなたが、私の治療を?」
[是这样啊…是你为我治疗的?]
「はい。エリミーヌ教団のサウルと申します」
[是的。我是艾利米奴教团的萨乌鲁]
「サウル神父・・・何故、あのまま私を死なせて下さらなかったのですか?」
[萨乌鲁神父…为什么、不让我就那样死去?]
吐き捨てるようにブルーニャは言った。
[布鲁尼亚脱口而出。]
サウルから、笑顔が消える。
[笑容从萨乌鲁脸上消失了。]
「あのまま死ねば、陛下のもとに逝くことができたのに・・・・・・」
[如果那样死去的话,就能回到陛下的身旁了……]
涙が零れてきた。
[泪珠滚落。]
今までずっと堪えていた涙が、堰を切って溢れ出す。
[忍耐至今的泪水,现在缺了堤。]
愛する男が死ぬとわかっているのに傍にいることを許されなかった時も、
[明知心爱的男人死去却无法与其共逝的时候,]
愛する男が死んでもそれでも戦わなくてはならなかった時も、
[心爱的男人死去却还是要战斗下去的时候,]
自分を信頼する多くの部下を死なせてしまった時も、
[使许多自己信赖的部下踏上不归路的时候,]
ずっとブルーニャは泣かなかった。泣くことが出来なかった。
[布鲁尼亚早就想哭了。可是流不出眼泪。]
彼女のプライドが、それを許さなかった。
[她的自尊不容许她那样。]
だけど今は、ブルーニャには何も残されていない。
[但是现在,布鲁尼亚一无所有了。]
愛する男も、守るべき国も、騎士としての誇りも、何も・・・
[心爱的男人、应该守卫的祖国、骑士的荣耀、所有…]
「どうして・・・私を死なせてくれないの」
[为什么…不让我死?]
ブルーニャは泣いた。
布鲁尼亚哭泣着。
先程初めて言葉を交わしたばかりの、敵軍の・・・いや、敵であった男の前で。
[就在刚刚交谈过的、敌军的…不、仇敌的那个男子面前。]
人前で泣くことなど、もう何年ぶりだろう。
[前次在他人面前哭泣,是数年前的事情了。]
「どうして・・・・・・」
[为什么……]
「貴方が死を望んでいたからですよ」
[因为你想死啊。]
サウルは静かに言った。
[萨乌鲁平静的说]
「え?」
[哎?]
ブルーニャはサウルを見る。
[布鲁尼亚看着萨乌鲁。]
彼は真剣な表情で自分を真っ直ぐに見つめていた。
[他一脸的认真直视着自己。]
その青い瞳には一片の迷いも、後悔もない。
[那蓝色的眸子中没有一丝犹豫、后悔]
「貴方が死を望んでいたから、死なせるわけにはいかなかったのです。ゆっくり・・・心も体も癒してください」
[因为你希望死去,所以就更不能让你死。请静下心…愈合你身体以及心灵的伤痛吧。]
軽く頭を下げたサウルが再び顔を上げた時、彼はにこりと微笑んでいた。
[萨乌鲁轻轻点一下头,脸上露出一丝微笑。]
「では、失礼します」
[那么,告辞了。]
サウルは退室していく。
[萨乌鲁离开了房间。]
ブルーニャは彼の背を目で追うことはせず、目覚めたばかりの時のように天井を見た。
[布鲁尼亚没有看他的背影,将目光投向醒来时看见的天花板。]
「まだ、生きているのね・・・」
[还,活着呢…]
これは自分が望んだことではなかった。
[这不是自己所期待的。]
誰が私が生き残ることを望んだというのだろう。
[有谁希望我活下去呢。]
部下たちはもう、皆死んでしまったのだから。
[因为部下们都,已经全部殉职了。]
先程の神父もきっと、聖職者であるから自分を救っただけ。
[刚才的神父一定,因为他是圣职者的缘故才救我的吧。]
それが彼の仕事だったから。
[因为那是他的工作。]
本人の意思からではない、きっと。
[不是他自己的意志,一定的。]
『貴方が死を望んでいたから、死なせるわけにはいかなかったのです』
{因为你希望死去,所以就更不能让你死。}
そうは思うのに、先程の彼の言葉が心に引っかかる。
[这样想着,心思便被他刚才的话吸引过去了。]
まるで胸の痛みの原因が、それであるかのように。
[好象胸口疼痛的原因,全是由此而发一样。]
あれは、一体どういう意味だったのだろう・・・
[那,到底是什么意思…]
考えても分からなかった。
[反复思虑也得不到答案。]
目を閉じて思考をめぐらせているうちに、ブルーニャの意識は遠のいていった。
[闭上眼睛胡思乱想的最后,布鲁尼亚的意识渐渐远去了。]
ブルーニャが次に目覚めた時、サウルは食事を撙螭扦皮欷俊
[当布鲁尼亚再次醒过来的时候,萨乌鲁已经把食物送了进来。]
なんとか上体を起こすことができるようになったブルーニャは、サウルの申し出を断って自分の手で食事をする。
[总算自己坐起身的布鲁尼亚,拒绝了萨乌鲁的好意,动手进食。]
その間、サウルは彼女が眠っている間の事を話してくれた。
[这时,萨乌鲁开始讲述在她昏迷时发生的事情。]
ヤアンという竜も、暗闇の巫女イドゥンも倒されて、戦いは終わった。
[叫做“阳”的龙被打倒了,黑暗巫女依沌也被打倒,战争已经结束了]
それからもう、十日も経過しているという。
[自那以后,已经过了十天。]
戦いに参加していた者達は現在はベルン城にいるが、数日のうちにはそれぞれの故郷へと戻っていくらしい。
[参加战斗的士兵们现在都聚集在贝鲁恩城,估计再过几天就要回各自的故乡。]
そしてサウルは、軍の指揮官と上司に、ブルーニャが回復するまで彼女の元にいるよう命ぜられたという。
[还有萨乌鲁接到上司的命令,陪伴布鲁尼亚直到她完全恢复健康。]
ブルーニャがいるのは湖の近くにある小さな村。空き家になっていた家を一時借りているらしい。
[布鲁尼亚现在待在一个靠近湖的小村庄里。那屋子好象是临时借用的弃屋。]
ここは『竜殿』とは、目と鼻の先。
[这里和“龙殿”,就像是鼻子和眼睛的距离。]
本来、自分が命を落とす筈だった場所・・・
[本来,应该是自己丧命的地方…]
「同じベルン人のシスターエレンがあなたの介抱を申し出たのですが、彼女はギネヴィア姫にお仕えしなくてはなりませんから、その代わりに私が・・・。どうせ私は、ただの暇人・・・いや、暇神父ですからね」
[同乡的贝鲁恩人修女艾蕾也希望作你的看护,但她要照顾基内维娅公主,因此我代替她…。反正我,也是一个闲人…不、是空闲的神父。]
笑いながらサウルは言った。
[萨乌鲁笑着说。]
しかしブルーニャは、それにつられて笑顔になれるような気分ではなかった。
[但是布鲁尼亚却没有被他所感染。]
笑わないブルーニャの分もと言っていいくらい、サウルはよく笑う男だった。
[好象要代替面无表情的布鲁尼亚似的,萨乌鲁的脸上一直挂着笑容。]
ブルーニャの前で彼から笑顔が消えたのは、多分『あの時』だけ。
[在布鲁尼亚面前失去笑容的话,多半是“那时候”。]
敵であった自分にこうして笑いかけることができるのも、彼が神父だからなのだろうか。
[能够对自己的敌人抱以如此的微笑,可能也是因为他是一名神父吧。]
「どうしてあなたは、そうやって笑うことができるのです?」
[为什么你能一直这样露出笑容呢?]
へらへら笑ってばかりいるこの男に対する苛立ちもあったのだろう。
[对着这个一直傻笑的男子,话语里似乎隐含着欺负人的成分。]
ブルーニャはその感情を投げつけるようにサウルに尋ねた。
[布鲁尼亚就是夹杂着这中感情向萨乌鲁提问。]
サウルは驚いた風な顔をした後しばし考え込み、そしてまた笑う
[萨乌鲁脸上闪过一道惊讶的神情,他稍微思考了一会儿,又笑了。]
「さて、どうしてでしょう・・・」
[是啊,为什么呢…]
「意味もないのに、笑っているのですか?」
[没有什么意义的笑吗?]
「泣くよりは、笑う方が良いでしょう。笑うと、幸せな気持ちになれるともいいますし。これはもう、癖なのでしょうね・・・」
[笑比哭好。可以这么说:笑的话,就能感到幸福的滋味。那已经,成为了我的习惯了吧。]
「・・・変わっていますね」
[…奇怪的人。]
「よく言われます」
[经常被人这么说呢。]
ブルーニャの嫌味に対してですら、サウルは笑った。
[面对布鲁尼亚的不满,萨乌鲁还是笑着。]
それとも嫌味がわからない程、馬鹿な男なのだろうか。
[或者他是一个连别人的厌恶也无法察觉的笨男人。]
取りあえず、この神父が今までブルーニャが出会ってきた男達とはどこか違うということは確かだった。
[总之,能够确定的是这个神父和至今为止布鲁尼亚所见到的所有的男子都不同。]
それが良い意味でなのか悪い意味でなのかは、よくわからなかった。
[那究竟是好是坏,就无从知晓了。]
それから数日間は、穏やかに時が流れた。
[此后的几天,风平浪静。]
サウルの献身的な介護の成果か、ブルーニャは自分の力で立って歩くことが出来る程回復した。
[可能是萨乌鲁献身般的照料,布鲁尼亚已经恢复到能够自己站立行走的程度了。]
しかし彼女は、部屋の外へ出ようとはしなかった。
[但是她并不想出门。]
寝台を降りることすら殆どなく、ずっと窓の外を見つめている。
[下床的时间也很少,只是一味的呆呆望着窗外。]
彼女の虚ろな瞳が見ているのは空の景色ではなく、何か別のもの。
[她虚幻的眸里所映照的不是天空的景色,而是别的什么。]
それが何なのかサウルにはわかっていたし、彼女がそれをもう一度目にすることは決してないということも知っていた。
[那东西萨乌鲁其实早已知道,而且还明白她已经决定不再看那东西一眼。]
「・・・ですから・・・」
[…因此…]
深夜。眠りについていたはずのブルーニャは、部屋の外から聞こえてくるサウルの声に目を覚ました。
[深夜。熟睡中的布鲁尼亚被屋外萨乌鲁的声音吵醒。]
彼の声はさほど大きいわけではなかったか、その時は酷くはっきりと聞こえた。
[他的声音不是很大,但在那时却清晰可闻。]
彼の言葉は、神に対する祝詞などではなく、誰かと会話をしているものだった。
[他并不是在背诵向神的祝词,而是好象和别人在对话。]
ブルーニャは寝台を出て、ドアを僅かに開ける。
[布鲁尼亚离开床,将门打开一条缝。]
その隙間から覗いてみると、サウルが家の戸口にこちらに背を向けるように立ち、その向こうにいる誰かと会話しているのが見えた。
[从缝隙中,她见到萨乌鲁背向门口站立,和对面的人交谈着。]
「まだ、起き上がることも出来ないのです。回復するまでは、お渡しすることは出来ません・・・お引き取りください」
[她才刚刚能站起来。到她完全恢复为止,不能交给你们…请回吧。]
それが、どういうことなのかはすぐにわかった。
[那上怎么回事立即就明白了。]
そして彼の話し相手はきっと・・・
[对面的人一定是…]
ぱたん
[啪嗒~]
サウルが客人に別れを告げてドアを閉めたので、ブルーニャは慌てて寝台へと戻った。
[因为萨乌鲁送走了客人关上门,布鲁尼亚急忙回到床上。]
そして物音を立てないように、窓から外を覗く。
[而且悄悄地从窗口向外面张望]
「・・・・・・・・・」
[………]
やはり、ブルーニャの予想は当たっていた。
[果然,布鲁尼亚猜中了。]
サウルが先程話をしていたのは、エトルリアの軍人だ。
[刚才和萨乌鲁对话的,是艾托鲁利亚的军人。]
恐らく、滅びたベルンの統括のためにエトルリアから派遣されのだろう。
[估计是为了统治灭亡的贝鲁恩,从艾托鲁利亚派遣过来的吧。]
そしてきっと、自分の身柄の引き渡しを催促にきた・・・
[而且一定是,为了催促赶快转交俘虏而来的…]
「・・・・・・所詮、神父でも敵か・・・」
[……说到底,神父也是敌人…]
あの笑顔の裏で、実際は自分の事をどう思っていたのか。
[在那笑脸的背后,到底对我有什么打算]
生かしたのも、きっとこの為。命令されたからなのだろう。
[救活我,也一定是为了这个。是被命令的呢。]
死ぬつもりだった。
[本想死的。]
だから、これからの事など何ひとつ考えてはいなかった。
[所以,以后的事根本就没想过。]
きっと彼の笑顔を見ているうちに、自分は解放されるのだろうと心のどこかで勘違いしていたのかもしれない。
[一定是因为看见他的笑容,误解自己一定会被释放的吧。]
そんなこと、許されるわけがないのに・・・
[那,是不可能的…]
これから自分はどうなるのだろう。
[以后我会被怎样处置呢。]
エトルリアに生かされたとしても、殺されたとしても、最終的には死ぬつもりなのだ。
[不管是在艾托鲁利亚当俘虏,还是被处决,最终就是死亡。]
あの人のいないこの世界で、生きていく意味などないのだから。
[因为那个人不在的世界,活着也没有意义]
自分にとってこの世界は、光を失った暗闇でしかないから。
[对自己来说这世界,只不过是失去光明的黑夜了]
ならばいっそ、今すぐ死んでしまえば良いのだろうか・・・
[那么还不如现在一死了之…]
ブルーニャは寝台を降りた。
[布鲁尼亚下了床。]
そのまま足音も立てずにドアまで歩いていき、ノブに手をかける。
[踮起脚走到门前,握住了把手。]
そしてドアを開けるとそこで初めて、キィという音がした。
[然后门开之后,才听到“吱”的一声]
ドアの向こうにはサウルがいた。
[萨乌鲁在门的对面。]
彼はテーブルについて、深夜に一人でお茶を飲んでいたようだ。
[他坐在桌子前,好象在深夜里独自饮茶。]
「おや、どうしましたか・・・?」
[哦、怎么了…?]
音に気がついて振り返ったサウルは、ブルーニャの姿を見て少し驚きの混じった顔で微笑む。
[听到声音萨乌鲁回过头看见是布鲁尼亚,脸上的微笑夹杂着少许的惊讶。]
「宜しかったらお茶はいかがですか?今日、良い葉が手に入ったのですよ」
[如果可以的话一起喝茶怎么样,今天得到一些不错的茶叶呢。]
「・・・・・・・・・・・・」
[…………]
「ブルーニャ殿・・・・・・?」
[布鲁尼亚小姐……?]
不思議そうにするサウルは無視して、ブルーニャは無言のままテーブルへと歩いてき、そしてそこにあった果物ナイフを手に取った。
[不可思议的,布鲁尼亚无视萨乌鲁的话语,直接走到桌子前,然后拿起那边的水果刀。]
「ブルーニャ殿、何を・・・」
[布鲁尼亚小姐,你要…]
ナイフを両手で握ったブルーニャは、その銀色に輝く先端を己の喉元へとつきつける。
[布鲁尼亚双手握住水果刀,将银光闪闪的刀尖对准自己的喉咙。]
「何をしているのですかっ!」
[你在做什么!]
事を察したサウルが、慌てて立ち上がって彼女の手をつかんだ。
[发觉布鲁尼亚意图的萨乌鲁慌忙站起,抓住她的手。]
ブルーニャは抵抗した。ナイフは離さず、サウルから逃れようと必死でもがく。
[布鲁尼亚用力挣扎。她抓住刀,拼命想离开萨乌鲁。]
しかしサウルも決して、彼女の手を離そうとはしない。
[但是萨乌鲁坚决不放开她的手。]
「離して!」
[放开我!]
「嫌です、絶対に離しません。あなたがそれを離すまでは・・・」
[不行,绝对不放。你不扔掉刀的话…]
サウルの手は、痛い程にブルーニャの手をつかんでいた。
[萨乌鲁用力抓住布鲁尼亚的手,她感到了疼痛。]
それだけ彼が必死だということだが、ブルーニャもそれを譲りはしない。
[虽然他也在拼命阻止,可布鲁尼亚没有放弃。]
「はなしてっ・・・!」
[放开我…!]
制止した後一気に手を引くと、サウルの手からナイフが滑りぬけた。
[她用力抽回手,刀划过萨乌鲁的手心。]
「っ・・・」
[嘶…]
ナイフの鋭利な刃はサウルの手の平を切り、木の床に赤い血が滴り落ちる。
[锐利的刀刃划开了萨乌鲁的手掌,鲜血滴落在木质的地板上。]
からん、とブルーニャの手からナイフが落ちた。
[咔琅,水果刀从布鲁尼亚手中跌落。]
「サウル神父・・・!」
[萨乌鲁神父…!]
蒼白になったブルーニャが、手を押さえてうずくまったサウルに駆け寄る。
[脸色变得苍白的布鲁尼亚,跑向握紧手掌弯下腰的萨乌鲁。]
「大丈夫ですよ、これくらい・・・」
[不要紧的,这点伤…]
顔をしかめて笑ってみせるが、手の隙間からは今も尚血が流れ出ていた。
[脸上是强忍出的笑容,手指缝中还不断的滴下鲜血。]
強く握っていた分、傷は深いようだ。
[用力握着拳,伤口应该很深。]
ブルーニャは壁際に立てかけてあったサウルの杖に気付き、それを手に取って構える。
[布鲁尼亚发觉了斜靠在墙脚的萨乌鲁的魔法杖,她将法杖横在胸前。]
しかしサウルは、赤く染まった手でそれを制した。
[但是萨乌鲁用鲜血淋漓的手制止她。]
「・・・今のあなたには無理ですよ」
[…现在的你还不行的啊。]
「大丈夫です」
[可以的。]
ブルーニャははっきりと言い放ち、目を閉じて意識を杖に集中させる。
[布鲁尼亚坚定的说,然后闭上眼将精神集中于魔法杖上。]
杖は淡い光を放ち、その光はサウルの手を包み込むように広がっていった。
[法杖发出淡淡的光芒,那光芒包住萨乌鲁的手掌渐渐扩散开来。]
奇跡の光に覆われたサウルの傷は、みるみるうちに塞がっていく。
[萨乌鲁的伤口被这奇迹之光包容,迅速愈合起来。]
「・・・・・・・・・もう、随分と回復されたのですね」
[………已经,恢复得不错了呢。]
くすりと笑って、サウルはブルーニャを見た。
[萨乌鲁看着布鲁尼亚,笑出声来。]
しかしブルーニャは、すぐに顔を背けてしまう。
[但是布鲁尼亚却马上将脸别过去。]
「・・・・・・どうしてこんなことをしたか、教えていただけませんか?」
[……为什么要做这种事,能告诉我吗?]
「・・・・・・・・・・・・」
[………]
「私は、あなたは生きる道を選んでくださったのだと思っておりました・・・」
[我一直以为你已经选择了生存下去的…]
「・・・どうせ私は、エトルリアに引き渡されるのでしょう。エトルリアに生死を左右されるくらいなら、いっそ今死んでしまいたかった・・・・・・」
[…反正我,会被带到艾托鲁利亚的吧。比起在艾托鲁利亚被人左右生死,还不如就现在死去的好……]
床にあるサウルの血の上に、ブルーニャの涙が落ちる。
[布鲁尼亚的眼泪落下,滴在涂满萨乌鲁鲜血的地板上。]
サウルは悲しそうに微笑んで、そっと彼女の肩に触れた。
[萨乌鲁悲凉的笑了笑,轻轻按住她的肩膀。]
「私は先日、あなたに申し上げた筈です。あなたが死を望んでいるから、死なせるわけにはいかないと・・・その意味は、おわかりですか?」
[我前几天说过的。因为你希望死去,所以就更不能让你死…其中的意思,你明白吗?]
ブルーニャは強く首を横に振る。彼女の美しい紫色の髪が、僅かに乱れた。
[布鲁尼亚用力摇头。美丽的紫发,乱了。]
「・・・来て下さい」
[…你跟我来。]
そう言ってサウルは彼女の手を取り、ゆっくりと立ち上がる。
[萨乌鲁这么说着,拉住她的手,慢慢站起来。]
「え・・・サウル神父っ?」
[哎..萨乌鲁神父?]
「あなたに、見せたいものがあるのです」
[给你,看一样东西。]
にこりと微笑んで、サウルはブルーニャの手を引いて歩き出した。
[微微一笑之后,萨乌鲁牵着布鲁尼亚的手走出房间。]
サウルに連れられてブルーニャは、家の外へと出た。
[被萨乌鲁拉着,布鲁尼亚也出了门。]
外の空気を吸うのは久しぶりだ。
[很久没有呼吸到外面的空气了。]
こんなにも、空気とはおいしいものだっただろうか。
[这样,空气也可以说是美味的吧。]
「少し風が強いですね・・・大丈夫ですか?」
[风有点大了呢…不要紧吧?]
「ええ・・・」
[是…]
ブルーニャは頷く。その顔には僅かに笑みが含まれていた。
[布鲁尼亚微微点一下头。脸上浮现出一丝笑容。]
確かに風は強い。
[风确实挺大的。]
しかし久しぶりに外に出たブルーニャにとって、それはとても心地良いものだった。
[但是对于久未外出的布鲁尼亚来说,却是令人觉得神清气爽。]
もうすぐ夜が明けるのだろう、周囲が段々と明るくなっていく。
[可能马上就到黎明了吧,西周逐渐明亮起来。]
「御覧なさい、もうすぐ日の出ですよ」
[你看,马上就要日出了呢。]
東の空を、サウルが指差す。ブルーニャは視線をそちらへと移した。
[萨乌鲁指着东边的天空。布鲁尼亚的视线随着他的手望去。]
彼の言う通り、山の端から少しずつ光が差し始めてきていて、それは徐々に強くなっていく。
[就像他所说的,山的边缘逐渐透出的光影,一点点亮了起来。]
やがて太陽自身も山の陰から少しずつ姿を現し、光がブルーニャを、彼女のいるこの世界を照らしていった。
[终于太阳冲破了山的阴影,光芒照亮了布鲁尼亚,还有她所在的这个世界。]
眩しさに一瞬目が眩むが、ブルーニャはその光を見つめ続けていた。
[虽然一瞬间光芒刺同了眼睛,但布鲁尼亚还是盯着那光辉。]
日の出を見たのは初めて出はない。
[看日出这并不是地一次。]
けれどもこんなにも、何かを感じたのは初めてだった。
[但是由此感觉到的,却从未有过。]
心が締め付けられる。
[心被抓紧了。]
紫とオレンジが混ざったような空が、泣けるほど美しい。
[橙紫色的天空,美丽地能使人感动地落泪。]
「あ・・・・・・」
[啊……]
実際、ブルーニャは泣いていた。
[实际上,布鲁尼亚已经哭了。]
しかしその頬を伝う流れを拭うことはせず、ブルーニャは空を見続ける。
[但她并不抹去脸颊的泪水,布鲁尼亚直直得望着天空。]
彼女の手を握ったままのサウルも、穏やかな表情で朝空を見上げていた。
[握着她手掌的萨乌鲁也一脸的平静望着清晨的天空。]
「美しいでしょう・・・あなたが生きている世界は、こんなにも美しいのです」
[很美丽是吗…你所生存的世界,是这么美丽的啊。]
穏やかな調子で、サウルが言う。
[平静的语气,萨乌鲁说着。]
ブルーニャは頷かなかったが、肯定しているのがサウルにはわかっていた。
[布鲁尼亚没有点头,但萨乌鲁知道她已经同意了。]
「私は、この世界が好きですよ。確かに人は醜いかもしれない、けれどもこうして、自然を素直に美しいと思うことができる。それだけで、充分幸せではないのでしょうか・・・」
[我,很喜欢这个世界呢。的确人可能是丑陋的,但是却可以这样,坦率的接受自然的美丽。能够这样,不已经是非常幸福的吗…]
「私は・・・・・・」
[我……]
唇を震わせながら、ブルーニャが言葉を切り出す。
[嘴唇微微颤抖着,布鲁尼亚敞开了心灵。]
「私は、あの方がこの世界から消えて・・・そのまま光も共に消えてしまったと思っていました・・・・・・」
[我以前一直以为,那位大人从世界上消失后…将会带走世界的光芒……]
「そんなことはありません。あなたが生きている限り、光は消えはしないのです」
[不会的。你生活的每一天,光芒就会在你身旁的。]
「知りませんでした。こんなにも、美しいものがあったなんて・・・この世界が、こんなにも美しいなんて・・・」
[我以前不知道。有这么,美丽的东西…这世界,是那么美丽的…]
「空を見て美しいと思うことも、誰かを愛しいと思うことも、涙を流すことも・・・生きていなくてはできないことです。生きていることが、何よりも素晴らしいのですよ」
[仰望天空感叹她的美丽,将心爱的人埋藏胸中,泪水夺眶而出…只有活着才可以感受的。活着,是比任何事情都要美妙的啊。]
「でも、生きることは苦しいです。大切な者を失ったり、希望を見失ったり・・・」
[但是,活着也有痛苦。失去重要的人,失去希望…]
「それでも、あなたの中で光は息衝いています。今も・・・これからも・・・・・・」
[即使如此,你心中的光芒也不会消失。现在是…将来也是……]
ブルーニャは一度サウルの方に目を向ける。
[布鲁尼亚将视线转向萨乌鲁。]
サウルは微笑み、そして頷いた。
[萨乌鲁笑着,点头。]
ブルーニャはもう一度空に顔を向けた後、あいている方の手で涙を拭う。
[布鲁尼亚再次将双眼望向天空后,用另一只手抹去眼泪。]
そうして再びサウルを見て、微笑んだ。
[然后再次转向萨乌鲁,微笑着。]
「ありがとう・・・ございます・・・」
[谢谢…您…]
それから数日して、ブルーニャは自らエトルリア軍へ行くことをサウルに告げた。
[几天后,布鲁尼亚将自己决定跟从艾托鲁利亚军的事告诉萨乌鲁]
「本当に、宜しいのですか?」
[真的,这样好吗?]
「はい。もう決めたことです」
[是的。我已经决定下来了。]
「あなたさえ望むなら、このままエトルリアに見つからない所へ逃がして差し上げることもできるのです・・・」
[如果你希望的话,我可以协助你逃到艾托鲁利亚军无法找到的地方…]
ブルーニャは微笑んで、ゆっくりと首を横に振る。
[布鲁尼亚微笑着,轻轻地摇头。]
彼女は今、以前着用していたものと同じ軍服に身を包んでいる。
[她的身上,穿着和以前相同的军服。]
しかしその表情は、未来に絶望し死を望んでいたあの時とはまるで別物で、酷く穏やかだ。
但是那表情,简直和以前绝望求死时别如他人,相当的平静。
「私は、私として生きることを決めました。その為にも、今は逃げることはできません」
そうしてサウルを見つめる彼女の瞳に、迷いはなかった。
[她凝视萨乌鲁的眼神中,找不到一丝迷茫。]
ブルーニャの命を救ったことに迷わなかった、サウルのように。
[就像萨乌鲁拯救布鲁尼亚时,没有任何的犹豫。]
「そうですか・・・わかりました。あなたの幸撙颉ⅳ恧辘筏皮い蓼埂
[是吗…我明白了。祝你,幸福。]
「・・・ありがとうございます。あなたには、どんなに感謝してもしきれません」
[…谢谢您。您的恩情,我真不知如何报答]
「感謝はいりませんよ。私は神父です、迷える人を光へ導くことが私の役目ですから・・・」
ブルーニャはゆっくりと頷き、そっと右手を差し出す。
[不必感谢我啊。我是神父,给彷徨的人指引光明的道路是我的职责…]
「サウル神父。私達はまた・・・どこかでお会いできるでしょうか?」
[萨乌鲁神父。我们还能…再见的吧?]
「勿論ですよ」
[当然了。]
サウルも頷いて、彼女の手を握った。
[萨乌鲁也点一下头,握住了她的手。]
「生きていれば必ず・・・。人とは、どこかで繋がっているものです」
[如果活着就一定…。人和人,都是被无形的线所联系着的]
「そうですね。・・・私も、そう信じています」
[是啊。…我也相信。]
ブルーニャの笑顔は晴れやかだった。
[布鲁尼亚露出灿烂的笑容。]
夜の闇を振り払い、眩しい程に世界を照らす朝日のように。
[就像赶走黑暗,用耀眼的光芒普照大地的朝阳。]
地上に生きる全てのものを見守りつづける、空のように。
[像天空一样,守护着地上所有的生命。]
「ですから、別れの挨拶はしません。また、お会いしましょう。ブルーニャ殿」
[所以,我不会和你告别的。以后,还会再见的。布鲁尼亚小姐。]
「はい、サウル神父様・・・」
[是,萨乌鲁神父大人…]
世界は美しいから、そこに生きる私たちは孤独ではないから、
[因为世界是美丽的,也因为我们并不是孤独的,]
その喜びを知るために、感じ続けるために、私たちは生きていく・・・・・・
[为了了解这喜悦,为了一直感受它,我们将生存下去……]
―――ほら、世界はこんなにも美しい
[———看,这世界有这么美丽]
『美しき世界』END |
|