雪之丞
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旧サイト閉鎖時にMoon Garden様にもらっていただきましたデル君災難話です
★☆ デルムッドに愛の手を ☆★
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-1-
ティニーがその青年と出会ったのは、剣の音が響き合う戦場の真っ只中だった――。
ついこの間、解放軍に加わったばかりのティニーは、慣れぬ戦場で自分の部隊を見失い、混乱の中でただ身をすくめたていた。 土煙が舞いあがる周囲には、騎兵の姿しか見えない。
「危ない!」 突然近くで大きな声が聞こえた。それと同時に、ティニーの身体は誰かの腕に抱えられ、気が付くと馬上に引き上げられていた。
「あの…」 振り返ろうとしたティニーの視界に、敵の槍騎士の姿が映る。 だが、ティニーを救い上げた騎手は巧みに手綱を操り、彼女をかばいながら一撃の下に敵兵を切り捨てた。
「だめじゃないか、こんなところに来たら」 すぐ後ろで聞こえた声に、ティニーは我に返った。あわてて半身をひねり、自分を助けてくれた人を振り返る。 すぐ目の前に、まだ若い青年の顔があった。
「君は魔道士だろう? 歩兵部隊は後方で、待機しているはずだ」 やわらかな金の髪の青年が言う。 心配そうに自分を見つめる澄んだ瞳。叱咤する言葉とはうらはらな優しい声…。 異性にこんな近くで接するのが初めてのティニーは、ぼうっとした表情のまま、目の前の青年をただ見つめているだけだった。
「わたし…迷ってしまって……」 やっとそれだけを言う。 ティニーの言葉に、青年は初めて笑顔を見せた。
「わかった。そこまで送ろう。つかまって」 彼女の手にも手綱を握らせると、青年は馬を駆り後方部隊へと向かう。 青年の両腕の間に挟まれて、ティニーは胸の高鳴りを抑えることができなかった。
その青年が馬に乗\っていたことはポイントが高かった。女の子はいつでも白馬の王子様に憧れる…ことになっているらしい。(もっとも彼が乗\っていたのは栗毛の馬だったが) そして片腕で軽々と自分を抱き上げた逞しい腕。今まで彼女が接したことのないそのワイルドな魅力に、お嬢様なティニーはすっかり虜になってしまった。
歩兵部隊の待機する場所でティニーを降ろすと、そのまま青年は戦場に戻ろうとする。
「じゃ、気をつけるんだよ」 「あっ、待ってください。お名前を・・・」 「え?俺の名前かい? デルムッドだ」
さわやかに微笑んで去って行く青年の後ろ姿を見つめながら、ティニーはうっとりとした表情でつぶやいた。 「デルムッド様・・・」 その瞳はすでに恋する乙女のそれであった。
そして次の日、解放軍の中ではちょっと変わった光景が繰り広げられていた。 「デルムッド様、デルムッド様」 まるで卵から孵ったばかりの雛が親鳥のあとを付いてまわるように、ティニーはデルムッドの側を離れなかった。 そして、ティニーのことを密かに「かわいい」と狙っていた男性陣は、あっけにとられてその様子を見守っていた。
デルムッドもまた、こんなふうに慕われるのは決して悪い気はしなかった。彼女の見るからに儚げな容姿とあぶなっかしい行動は、正義感の強い彼の庇護欲を激しく刺激した。デルムッドは弱い者を放ってはおけない性格だったのである。 自分が側に付いていてあげなくては、彼女はまたこの間のように敵の真っ只中に一人で迷い込んでしまうかもしれない……。 ラクチェやラナといった、しっかりした(しすぎた?)女の子達を見慣れていた彼の目に、ティニーという少女がとても愛しい存在に映った。 その時すでに、デルムッドも恋に落ちていたのかもしれない。
ともあれ、二人が誰もが認めるらぶらぶの恋人同士になるまでに、そう時間はかからなかった。
一見、彼らの前途は薔薇色に見えた。だがこの後、さまざまな災厄が自分に降りかかるのを、デルムッドが知る由もなかった。
★☆ デルムッドに愛の手を ☆★
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-2-
解放軍の戦いも終盤を迎え、次はいよいよフリージ攻略を目指そうというある日のこと。デルムッドは、可憐な恋人が浮かない表情でため息をつくのを見逃さなかった。
「どうしたんだ、ティニー。何か心配事でもあるのか?」 「デルムッド様…」 愛しい人の顔を見て、一瞬ティニーも笑顔を見せる。だが、それはすぐに元の沈んだ表情に戻ってしまった。
「そういえば、フリージは君の母上の生まれ育った国だったな。もし、戦うのが辛いなら、無理することはないよ」 「いえ、違うんです。私、伯母のヒルダのことを考えていて…」 「ヒルダ? あのクロノス城主だった女のことか?」 「ええ……」 そしてティニーは、母と自分がヒルダから受け続けたしうちを、ぽつりぽつりと語りだした。
「クロノス城でアーサー兄さまがわたしの代わりにヒルダと戦って下さったんですけど、あと一歩のところで逃げられてしまって…」 訴えるティニーの瞳には涙がにじんでいる。
「ティルテュ母様は、ヒルダに殺されたようなものなんです。わたし、あの人だけは自分の手で倒したい」
ティニーはむやみに人を恨むような少女ではない。その彼女にここまで言わせるのだ。そのヒルダという女は、悪魔のようなやつに違いない。 デルムッドはまだ見ぬその女に闘志を燃やした。
「わかった、ティニー。ヒルダは俺が倒す」 「えっ?」 「君の敵は俺の敵だ。君の母上の仇は、必ず俺がとる」 「デルムッド様……」 感激に瞳を潤ませるティニーを、デルムッドは強く抱きしめた。
「ほほほ。来たね、ティニー」 フリージの城門を守るかのように、その女は立っていた。 そして、ティニーをかばって前に進み出たデルムッドに、見下したような視線を向ける。
「なんだい、そんな男しか見つけられなかったのかい。やっぱりあの女の娘だねえ」
―――この女はやはり倒すべき相手だ
ヒルダの言葉に、デルムッドは決意を新たにした。
「ティニー。下がっているんだ」 恋人を安全な場所まで後退させると、デルムッドはヒルダに向かって剣を構えた。 その様子を見てヒルダが炎の魔道書を掲げる。おそらくエルファイアーだろうとデルムッドは思った。その魔法ならすでに何度が対戦したことがある。彼には勝算があった。
指先から魔法が放たれようとした時、ふと違和感を感じてデルムッドは愛馬の手綱を駆り、横に飛びのいた。何度も生死の境目をかいくぐってきた、戦士としてのカンとしか言いようがなかった。
直前までデルムッドがいた場所で、大爆発が起こった。魔法が直撃したあたりの地面が深く抉り取られて、巨大なクレーターと化している。
―――な、なんだ、この魔法は…
命中率はさほど高くなさそうだが、破壊力はエルファイアーの比ではない。もし当たったら、魔法防御の低い自分などひとたまりもないだろう。 この時初めてボルガノンを目にしたデルムッドは、冷たい汗がこめかみをつたうのを感じていた。
しかし、今更後戻りなどできようはずもない。デルムッドは、一度交わした約束を破ることなど絶対にできない、義理堅い男だった。
―――反撃を受ける前にカタをつけるんだ
ヒルダが再び呪文を唱え始めるのを見て、デルムッドは一気に懐に飛び込んだ。そのままヒルダに向かって剣を振り下ろす。
びし!びし!びし!ばし!びし!
クラスチェンジして身に付けた連続のスキルが、上手い具合に発動した。
「な、何するんだい! 痛いじゃないか!」
ヒルダが何かわめいているようだが、デルムッドの耳には届いていない。そして、ヒステリックなまでに続けざまに剣を振り下ろす。その様子を遠くでティニーが心配そうに見つめている。
どががががががっっ!!!
使い込まれた銀の剣がついに必殺の一撃を放った。
「くーっ、くやしい…」 恨みの声を残しヒルダが崩れ落ちる。それを見て、デルムッドは大きく息をついた。
―――父上、感謝します!
ヒルダに勝つことができたのは、自分の持っている連続のスキルと、そして何よりも父から受け継いだ★100の付いた銀の剣のおかげによるのは明らかだった。 形見の剣を胸に抱き、デルムッドは空の彼方の父に深く感謝の祈りを捧げた。
「デルムッド様!」 走り寄ったティニーが心配そうな瞳で見上げる。
「おけがはありませんか?」 「大丈夫だよ、ティニー」 「よかった…。デルムッド様になにかあったら、わたしも生きていられません」 そう言ってデルムッドの腕に縋りつくティニー。彼女のその一言を聞いただけで、全ての苦労が報われる思いがする。
―――だが、デルムッドの受難はまだ始まったばかりだった……。
★☆ デルムッドに愛の手を ☆★
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-3-
バーハラとフリージのちょうど中間あたりの平原で、デルムッドは今、ティニーと二人だけでイシュタルと対峙していた。姉と慕う従姉と、戦う前にどうしてももう一度話がしたいという、ティニーの涙の訴えに抵抗できなかったのだ。 かなり危険な賭けだと思ったが、万が一の時はこの身に代えてもティニーを守ってみせる。そう決意していた。
おそらくイシュタルは一人で来るだろうとのティニーの予想通り、他には誰の姿も見えない。
「お願いです、イシュタル姉さま。もう、こんなことはやめて下さい。わたし、姉さまと戦いたくありません」 イシュタルに向かって、ティニーは必死で語りかけている。
「解放軍の方達は、みんないい人ばかりです。きっと、姉さまのことも暖かく迎えて下さいます」 だがティニーの言葉を聞いても、イシュタルの表情に変化は現れなかった。
「かわいそうに、ティニー。すっかり洗脳されてしまったのね」 冷たい視線が突き刺すようにデルムッドに向けられる。 おそらくこの男が、かわいいティニーをたぶらかした張本人なのだ。
「こんなヤンキーみたいな男のどこがいいの? あなたは騙されているのよ、ティニー」
―――フリージの人間は失礼なやつばかりだ(ティニーは別だが)
デルムッドは内心、密かにむっとしていた。 それはティニーも同じだったらしい。彼女にしては珍しく憤った表情で、イシュタルに反論する。
「そんな言い方、ひどいわ! ヤンキーなんて…」 言いかけて、ふと考え込むような表情をする。 「…ヤンキーって………何ですか?? お姉さま」
イシュタルは倒れ込みそうになる自分をかろうじて抑えた。 この世間知らずの従妹は、昔からこういう大ボケなところがあったけど、反乱軍に入ってもその本質は少しも変わっていないらしい…。
―――だから、こんな男に引っかかるのよ
やはり自分が目を覚まさせてあげなくては…。 使命感に燃えたイシュタルは、気を取り直し再びティニーに語りかけた。
「とにかく…。そんな男のことは忘れて、わたしのところに戻っていらっしゃい。今ならユリウス様も、きっと許して下さるわ。また以前のように、仲良く手を取り合っていきましょう」 「いやです。わたしはデルムッド様を愛しています。お側を離れたくありません」
―――このわたしの申し出を拒絶するなんて!
すっ…と細められたイシュタルの瞳が冷たく光る。実は彼女のプライドは、エベレストよりも高かった。似てはいなくても、ヒルダの血は確かにイシュタルの身体にも流れていたのである。
「そう…。じゃあ仕方ないわ。ユリウス様に仇なす者は、たとえ妹同然のあなたでも容赦はしない……」
それ一つで軍隊を全滅させることもたやすいという、最大級の雷魔法トールハンマー。その魔道書を、イシュタルはゆっくりと取り出した。 その様子を見て、デルムッドの顔に緊張が走る。
―――どうしてティニーの関係者は魔道士ばかりなんだ!
いまいましい思いで雷神の異名を持つ少女を見つめた。 斧戦士とは言わないが、せめて剣や槍を武器にする者が相手だったら、恐れることなど何もないのに…。 実は魔防4のデルムッドは、心の中で舌打ちをした。
しかしこうなっては戦う以外に道はない。 無謀\なのは百も承知で、ティニーを守るため、デルムッドはイシュタルに向かって馬を走らせた。 そんな彼をあざ笑うかのように、イシュタルが魔道書を振りかざす。 呪文の詠唱と同時に、無数の光の矢が黄金の竜となってデルムッドに襲い掛かった。
「きゃあああ! デルムッド様!!」
ティニーの目の前でデルムッドはトールハンマーの直撃を受け、地面に叩きつけられた。 デルムッドは死んではいなかった。しかし、HPの残りは2。まさしく瀕死の状態だった。
「ティニー……君だけでも逃げるんだ………」
そんな状態にありながらも恋人の身を案じてうわごとのようにつぶやくデルムッド。その声を聞いた時、ティニーの身体の奥底から、今まで経験したことのない強い感情が湧き上がってきた。
「姉さま…ひどい……」
ティニーの全身から、銀色のオーラが立ち上っている。
「姉さまのばかぁーーーーーーーっ!!!」
轟音と共に、すさまじい電撃がイシュタルを襲った。 恋人とカリスマの支援効果を受けた「怒り」のトローンは、たった一撃で雷神と呼ばれたイシュタルを戦闘不能に陥らせるに充分だった。
恐ろしいまでの静寂の中で、一瞬ティニーは我を失っていた。 だが、自らの手で敬愛する従姉に重傷を負わせてしまったショックから素早く立ち直ると、あわててデルムッドの側に駆け寄った。 自分のわがままのせいで、何よりも大切な人をこんな目に遭わせてしまった。デルムッドにもしものことがあったら、自分も後を追おう。そう思い、彼に取り縋った。
「デルムッド様、しっかりして下さい!」
その声に、彼がうっすらと目をあける。
「ごめんよ、ティニー。俺が頼りないばかりに、君の大切な従姉を君自身の手で……」 「いいんです。デルムッド様さえ無事なら、わたしは…」
自分を責めるどころか、こうして気遣ってくれるデルムッドの優しさに、ティニーは胸がいっぱいになった。 彼女の大きな瞳から、涙がいくすじも零れ落ちる。泣きながらライブの呪文を唱えるティニーのいじらしい姿を見て、デルムッドもまた改めて彼女への愛おしさが募るのを感じた。
だが、彼の受難はこれで終わりではなかった……。
★☆ デルムッドに愛の手を ☆★
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-4-
彼に呼び止められた時、デルムッドははっきりと嫌な予感がした。今まで彼が何も言ってこないことのほうが、よほど不思議だったのだ。
「ティニーは僕の大切な大切な宝物なんだ」 どこかで聞いたようなセリフを口にするアーサーは、HP満タンのくせに、すでに「怒り」のスキル発動の兆候が見うけられた。 ティニーもそれを感じるのか、心配そうな表情で、恋人と兄をかわるがわる見つめている。
「やっとこれから二人っきりで仲良く暮らそうと思ってたかわいい妹を、君のような魔力も魔防も一桁の男に渡すわけにいかないんだよ」
押し殺したような声で、何の脈絡もないことを口走るアーサー。それがかえって彼の怒りの度合いを表しているような気がして、デルムッドは背筋を冷たいものが走るのを感じた。 雷神イシュタルを倒した時の、ティニーの「怒り」のスキルのすさまじさをふと思い出す。彼女の兄アーサーにも、それは確実に受け継がれているはずだ。
「勝負だ、デルムッド!」 アーサーは派手にマントを放り投げ、懐から魔道書を取り出した。見るからに使い込まれたエルファイアーの書。それが幾人もの敵の命を奪うのを、この戦いの間中デルムッドは間近で見てきたのだった。
―――今度こそ本当に命がないかもしれない……
やっと戦いが終ったというのに、こんなところで命を落とすなんて…。 デルムッドは無念さに、唇をかみしめた。
それよりも残されたティニーがあまりにも可愛そうだ。自分が死んだ後、彼女はちゃんと立ち直って、生きていけるのだろうか……。
これまでの人生が走馬灯のように頭の中を駆け巡った時、救いの手は思わぬところから現れた。
「なにやってんのよ、アーサー!」
★200は軽く付いているであろう細身の槍を手に、仁王立ちになっているフィーがそこにはいた。 口には出さないが、その顔には「このシスコンが!(怒)」とはっきり書いてある。
「フィー…」 振り返ったアーサーの顔は、心なしか青ざめている。
「誰と二人っきりで暮らすのよ。さっきあたしに言ったあの言葉はなんだったの!」 「ち、違うんだ、フィー…」 「さっさとヴェルトマーに行くわよ。それ以上バカなことやってると、あたしお兄ちゃんと一緒にシレジアに帰るからね」 「フィー! ま、待ってくれよ!!」
なんのかんの言っても、結局フィーがいなくては生きていけないくらい彼女を愛しているアーサーは、必死で後を追った。
その様子を呆然と見守っていたデルムッドとティニーは、アーサーの後ろ姿が見えなくなった頃、ようやく我に返った。 そして、互いの目を見つめ合う。
「ティニー…」 「デルムッド様…」
二人はひしっと抱き合った。
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「何を見ていらっしゃるのですか、デルムッド様」
デルムッドはバーハラの城郭の縁に腰掛けて、ぼんやりと遠くを眺めていた。かけられた声に振り返ると、そこには彼の恋人がかわいらしくこちらを見ている。
「イザークはあっちの方角かな…と思って。ティルナノグを発ってから、もう一年になるんだな」
デルムッドの視線を追ってティニーも、自分の知らない遠い国に思いを馳せた。そしてふと思い出したような表情をする。
「あの……さっきはごめんなさい。兄さまが…」 「ああ、気にしなくていいよ。君のせいじゃない」
それでもすまなそうな表情でその場に立ったままのティニーを、デルムッドは自分の側に招き寄せた。 すすめられるままデルムッドの膝の上にちょこんと座ったティニーは、真剣な表情で話し始めた。
「兄さま、あんなこと言ってましたけど、本当はフィーさんに夢中なんです。わたし、ちゃんと知ってます」
確かに必死でフィーの後を追いかけて行った姿を思い出すと、その言葉は真実にも思える。
「だからきっと、ふざけただけだと思うんです。兄さまを嫌いにならないで下さいね」
さっきのアーサーがふざけていたとは、デルムッドにはとても思えなかったが、ティニーの気持ちを思いやりあえて否定はしなかった。 それに、またアーサーがおかしな気を起こしたとしても、フィーがいる限り大丈夫だろう。そう自分に言い聞かせる。
「二人とも、今ごろヴェルトマーに向かってるころかな」 「そうですね。きっともう仲直りしてると思います」 「それより、ティニー。本当に俺とアグストリアに行ってくれるのか?」 「はい! わたし、デルムッド様と一緒なら、地の果てだって平気です」
腕の中で、にっこりと微笑んで自分を見つめるティニー。デルムッドはこの時、心の底から幸福を実感していた。 これで全ての障害は取り除かれたのだ。後は薔薇色の未来が待っている。そう信じて疑わなかった。
だがこの後、最大の災厄が彼を襲うのである。
★☆ デルムッドに愛の手を ☆★
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-5-
「今、なんとおっしゃいました? セリス様」 デルムッドは、唖然とした表情で目の前で微笑む光の皇子を見た。
ここは、バーハラ王宮の謁見の間。ティニーと共にアグストリアに向かうことを報告に、デルムッドはこの場所を訪れたのだった。
「だからね、ティニーにはフリージを治めてほしいんだ。アーサーはヴェルトマーを継ぐから、フリージにはティニーしか残されていないだろう? 彼女をアグストリアに連れて行かれちゃ困るんだよ」 かんでふくめるようにセリスが言う。
「はあ…、そうですか……」 アレスを助けてアグストリアの復興と統一を成し遂げるのがデルムッドの目標だったが、そういうことであれば予定変更もやむをえない。 ティニーと一緒に暮らせるなら、別にアグストリアでなくたってどこだってかまわないのだ。
「わかりました。では私がティニーと共にフリージに参ります」 「いや、それも困る。君にはぜひアグストリアに行ってもらわないと」 「セリス様??」 「アレスはきっと立派な王になることだろう。だが、気が短いのが彼の最大の欠点だ。暴走したアレスを止めることができるのは、ナンナと君だけなんだからね」 その言い分に、デルムッドは開いた口がふさがらなかった。
「し、しかし…」 「あ、ナンナからの伝言があるんだ。『一足先にアグストリアで待ってます。夫婦喧嘩の時はわたしの味方をして下さいね、兄さま(はぁと)』・・・だってさ」 確かに目に入れても痛くない大切なかわいい妹だが、今回ばかりはほんの少し恨めしい。
「でもセリス様、ティニー一人でフリージを治めるなんて無理です!」 「ああ、それなら心配いらないよ。アミッドとリンダが補佐してくれるから」 「だったら最初から二人にまかせればよろしいのではありませんか!?」 「デルムッド……」 セリスは大仰にため息をつくと、深刻な表情を作って見せた。
「この戦いでフリージ家の直系の血筋は絶えてしまった。少しでも本流に近い者に国をまかせる。それが僕の基本方針なんだ。 君の気持ちは痛いほどよくわかるよ。でも世界の復興のため、僕はあえて心を鬼にすることにしたんだ」 もっともらしく言っているが、それが本心かどうか甚だあやしい。
「なにもずっとこのままってわけじゃない。それぞれの国が落ち着いたら君がフリージに行くなり、ティニーを呼び寄せるなりすればいい。少し離れていたくらいで壊れるような絆じゃないんだろう? それとも…」 セリスはわざとらしく間をとった。
「この僕の頼みが聞けないっていうのかな? デルムッド?」
セリスはにっこりと微笑んだ。しかし、その瞳だけが笑っていないことを、デルムッドはよく知っている。 生まれついての王者の威厳とでもいうのだろうか。昔からデルムッドはこの光の皇子に逆らえたためしがなかった。 目の前のセリスが、だめ押しのようにに~っこりと微笑む。
天使の笑顔の影に、悪魔のしっぽが見えた・・・。
「セリス様、お疲れさまでした」 謁見を終え、自室でくつろいでいるセリスの元へ、ユリアがお茶を運\んできた。 「ありがとう、ユリア」 カップを受け取り、目の前で微笑むユリアを見つめる。 レヴィンもいずこへか去り、これからは誰にも邪魔されずに、このかわいい妹とふたりっきり。そう思うと、セリスはうきうきする心を抑えることができない。
「でも、少しデルムッドがかわいそうでした」 そう言って、ユリアが表情を曇らせた。
「いいんだよ、これも二人の愛を深めるための試練さ」 「そんなことおっしゃって、本当はデルムッドにやきもちを妬いていたんじゃありません? ティニーのことを好きだったんでしょう? セリス様」 ちょっとすねたように言うユリアを、かわいくてたまらないというふうにセリスは抱きしめた。
「なに言ってるんだよ、ユリア。僕には君がいるのに」 「セリス様ったら・・・(ぽっ…)」
ちょっと危ない兄妹であった。
結局デルムッドは、一年ほどでフリージに行くことができた。離れていた間中、毎日のように手紙のやりとりをしていた二人の愛は、セリスの思惑通り?さらにさらに深いものとなった。 そして二人は、周りが冷やかすのもばからしくなるほどらぶらぶな夫婦として生涯を過ごしたのだった。
だが心優しき聖王セリスは、時折デルムッドに愛の試練を与えるのを忘れなかったという(^^)
<おわり>
1999.7.5
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[70 楼]
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Posted:2004-05-22 16:43| |
顶端
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