雪之丞
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天と地の絆
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-1-
―――トラキアよ。わが愛しき大地よ……。 それが、ずっと自分が父と信じてきた男の最期の言葉だった。
一時は、本気で彼を憎んだ。両親の仇と思い、この手で殺そうとまでした。 しかし、後になって人づてに彼の最期の言葉を聞いた時、アルテナは心の中で全ての憎しみが消えていくのを感じた。
彼は厳しい父親だった。しかし、その態度に憎しみを感じたことはない。槍を教えてくれたのも、トラキアのために利用するというよりは、戦乱の時代をアルテナが生き残っていけるようにとの配慮だったように、今では思える。
子供の頃、アルテナがアリオーンと仲良く遊んでいるところを見るのが、彼は好きだった。 いつだったか、「ずーっと兄上と一緒にいる」と言ったアルテナに、彼が問いかけたことがある。 「じゃあ、大きくなったらアルテナはアリオーンと結婚するか?」 「うん!」 「そうか、そうすればアルテナも本当にわしの娘になるな」 「今だって父上の娘でしょう?」 「もちろん、そうだ」 普段、めったに笑顔を見せない彼が、その時は笑いながらアルテナを抱き上げてくれた。それが嬉しくて、その言葉の意味は深く考えなかった。 いったいあの時、彼は何を思っていたのだろう。
だがどちらにしろ、自分と兄が結婚する日など決してこないことは、彼が一番よくわかっていたはずだ。なぜなら、二人が血がつながっていないことを教えることは、彼が両親の敵であることを自分に知らせることになるのだから。
―――あれから、もう一年になる 記憶に残っているのは、自分に向かって槍を振りかざす兄。その側で驚いたような表情で自分を見ていた彼の目。 兄の当身をくらい、意識を取り戻した時にはすでに彼の姿はなかった。戦死の知らせを聞いたのは、セリス皇子の解放軍の中でだった。全てが人ごとのようだった。この目で死を確認したわけでもないので、実感がわかなかったのかもしれない。 しかし、もう確実に彼はいない…。
執務室でぼんやりと物思いにふけっていたアルテナは、壁の暦に目をやるとゆっくりと立ち上がった。マントと飛竜の鞭を手にして、扉に向かって歩き始める。 その時おもむろに扉が開き、来客があることを家令が告げた。
「エッダ公がお見えです」 「え? コープルが?」 聖杖バルキリーの継承者、エッダ公コープル。解放戦争終了後、亡き父クロード神父の後を継いでブラギの司祭となった彼だが、それ以前はハンニバル将軍の養子としてここトラキアで過ごしていた。素直で聡明なコープルを、アルテナは弟のようにかわいがっていた。
家令に案内され、コープルが部屋に入って来る。しばらく見ない間に、ずいぶんと背が高くなったようだ。表情もだいぶ大人びて見える。
「まあ、ひさしぶりね、コープル」 もうすっかり青年の雰囲気になった彼を見て、アルテナは笑みをうかべた。 「ご無沙汰しております、アルテナ様。連絡も差し上げず、突然お邪魔して申し訳ありません」 「そんなことは構わないわ。……元気そうね」 「アルテナ様も、お変わりなく…」 そう言って一礼すると、コープルは目の前にいる美しい人を懐かしそうに見た。 「実は、昨日カパドキアの父を訪ねたのですが、まずアルテナ様にご挨拶申し上げるように諭され、遅れ馳せながら参上致しました」 「ふふ、相変わらず義理堅い人ね、ハンニバル将軍も」 目を細めて笑う。 アルテナの華やかな笑顔は、いつも見る者を惹きつける。 「コープルは、ハンニバル将軍と会うのは、バーハラで別れて以来?」 「いえ、実はシレジアで姉の結婚式があったんです。内輪だけの、あまり大げさなものではなかったのですが、その時、父も来てくれましたので…」 「そうだったの。そういえば、わたしのところにも知らせがきていたわ。結婚式か…、うらやましいわね。コープルはいないの? 好きな人」 そう聞かれて、コープルはちょっと躊躇するような表情を見せた。 「僕は子供のころからアルテナ様に憧れていましたから…。今も、その気持ちは変わりません」 「まあ、嬉しいわ。ありがとう、コープル」 社交辞令と受け取ったのだろう。アルテナが無邪気に微笑む。 言葉に込めた自分の気持ちは、一生伝わりそうにないな…。そうコープルは思った。
その時、初めてコープルはアルテナが手にしている、外出用のマントに気が付いた。 「お出かけになるところだったのですか?」 「ええ…、ちょっと……」 「では、僕は出直してまいります」 「あ、いいのよ、今日でなくてもいい用事だから…」 なんとなく歯切れの悪いアルテナの返事に、コープルは問いかけるような視線を向けた。やがて、根負けしたようにアルテナが小さく呟く。 「実は……父上のお墓に…」 「トラバント陛下の!?」 思わず声を上げてしまったコープルは、あわてて口を押さえた。 この王宮では、トラバントのことは禁句とまではいかないが、あまり表だって語らないことが暗黙の了解となっていたのだ。 新トラキアとして生まれ変わったこの国にとって、かつてレンスターの王子を砂漠に葬ったトラバントは、繰り返してはならない過去の象徴なのだ。 両国の交流を計るため、旧トラキア領であるこの城にも、多くの元レンスター王家の家臣が詰めている。彼らの耳には特に、トラバントの名を入れてはならなかった。
コープルは壁の暦を見る。確かちょうど一年前、旧トラキアの王トラバントは、レンスターのリーフ王子の剣によって倒された。今日は彼の命日にあたるのだ。 「僕もご一緒してよろしいでしょうか?」 「コープルが?」 「はい、僕もかつてはトラバント様の民でした。最後には敵対する立場になってしまったけれど、あの方を王として尊敬していたことに変わりはありません」 まっすぐなコープルの瞳に、思わずアルテナは胸がいっぱいになる。 「…ありがとう、コープル」 気がつくとコープルに向かって頭を下げる自分がいた。
トラバントの陵墓は、小高い山の中腹にあった。眼下に王宮を見下ろすこの場所に、まるでトラキアを見守るかのように代々の王の廟がある。 旧トラキア最後の王、トラバント。彼もここで永遠の眠りについていた。 周囲は険しい山が続いているため、飛竜を使わなければ容易に来ることはできない。まして、レンスターと統合され新しく生まれ変わったこの国には、このような場所に来る人はめったにいなかった。
アルテナとコープルは飛竜を降り、手綱を木に繋いだ。 アルテナの手には、美しい紫の花が抱えられている。王宮の庭でも栽培されている高山植物、竜紫蘭。特産物の少ないトラキアにとって、数少ない輸出品のひとつだった。トラバントに花を愛でる趣味はなかったが、トラキアを愛した彼ならばたぶん喜んでくれるだろう。
「アルテナ様、あそこに竜が」 その時、コープルが少し離れた場所に繋がれている一頭の竜に気づいた。自分達以外にも、この廟を訪れる者がいるのだろうか…。そう思って近づいた竜に、アルテナは見覚えがあった。
普通の竜よりも一回り大きな体躯の黒\い竜。強い翼と固い鱗を持ち、倍近い速度で飛行する。その分気性も荒く、乗\りこなせるものはそう多くはなかった。 しかし、かつてアルテナは、毎日のようにこの竜と並んで空を駆けていたのだった。
はやる心を押さえ、アルテナは廟の白い扉に手をかけた。 高窓から差し込むわずかな光の中、トラバントの棺の前にひざまづく一人の男の姿があった。
天と地の絆
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-2-
「兄上……!」 押し殺したような声が、アルテナの唇からもれる。その声に気づいたのか、男はゆっくりと立ち上がり振り返った。 バーハラのユリウス皇子との決戦以来、アルテナの前から姿を消していた兄アリオーンだった。
「アルテナか。ひさしぶりだな…」 そう言ってかすかに微笑む。しかし、何か全てを拒むような気配が、アルテナに近づくのをためらわせていた。
「あの、僕は外で待っています」 その場の空気を察したコープルが、遠慮がちに言う。 「ごめんなさい、コープル」 そう言ったアルテナの瞳は、アリオーンにくぎ付けになったままだ。
ユリウス率いる十二魔将との戦いで、メティオの嵐の中アルテナを守り抜いて戦ったアリオーンは、その後誰にも告げずに姿を消した。そして、亡くなった母の領地に引きこもったまま、決して王宮に来ようとはしなかった。アルテナが何度訪ねていっても、館の奥から出ては来ず、会ってもくれない。 戦争で荒れた大地を、アリオーンと共に立て直すつもりだったアルテナはひどく落胆した。会ってくれないならばと書状を送っても、なんの返事もない。 なぜこうも避けられるのだろう。ユリウスの傭兵として自分の前に現れた兄に、命をかけて思いを伝えた。ついには兄もわかってくれ、自分を守るために戦うと言ってくれたのに。 あの時、気持ちが通じ合ったと感じたのは、錯覚だったのだろうか…。
「お願いです、兄上。わたしと共に王宮に帰って下さい」 しかし、アルテナの必死の訴えをアリオーンは即座に退けた。 「アルテナ、それはできない」 「どうしてです!? 戦いはもう終わったのですよ。兄上がトラキアに戻るのを咎める者などおりません」 「私は、天槍グングニルを受け継ぐ者だ。あれはレンスター地方の民にとっては侵略の象徴。私が表に出れば、人々はまたトラキアとレンスターの対立を思い出すだろう。それに、私を利用して再びこの地を戦火に巻き込もうと企む者もいる」 それは事実だった。トラキアとレンスターの対立には根深いものがあり、国民の心も一朝一夕にはひとつにはならない。
「でも、わたしには兄上が必要です! わたし一人では……この国を導けません」 「アルテナ、おまえはまだ父上を憎んでいるか?」 静かにアリオーンが尋ねる。その意味は計りかねたが、アルテナはごく自然に答えていた。 「いいえ。もう憎んではいません。あの人はわたしにとって、確かにもう一人の父でした」 「そうか……」 兄の瞳に、初めて本当の笑みが浮かぶ。 「それならば、おまえは一人でも大丈夫だ。リーフ王と手を取り合って、この国をまとめていくことができるだろう」 その言葉には、有無を言わせぬ力があった。 「………どうしても…、戻っては下さらないのですね…」 無言のまなざしが、アルテナの問いを肯定している。
アルテナはふと、ゲイボルグまつわる言い伝えを思い出した。槍騎士ノヴァの直系に代々受け継がれる地槍ゲイボルグ。それを手にするものは、いつか愛するものと離れ離れになるという。 はるかな昔、ノヴァが兄のダインと決別してレンスターを建国したように、アルテナの両親キュアンとエスリンが若くして砂漠に命を散らしたように、決して愛する者との幸福な結末を迎えることはないという。 そして今、そのゲイボルグを受け継ぐのはアルテナだった。
―――それでは、所詮わたしも愛する人とは結ばれない 運\命なのかもしれない……
アルテナは目の前に立つ兄を見つめた。 いつからこの人を愛するようになっていたのだろう。 トラバントの娘ではないとわかった時、怒りと悲しみで心の全てが支配された。しかし、その激情が過ぎ去ってみると、後に残るのは優しかった兄との思い出だけだった。その思い出を一つ一つたどっていくうちにいつしかアルテナは、アリオーンと血がつながっていないことを喜ぶ自分を発見したのだった。 兄ではなかった。では、この人を愛しても許されるのだ。そう思うと、この運\命に感謝する気持ちさえ湧き起こってくる。そして、その想いはアリオーンにも届いていると思っていたのに…。
―――兄上は、わたしを受け入れてはくれなかった…
あきらめたようにうつむくアルテナに、アリオーンは暖かなまなざしを向けた。 「たとえ側にいることができなくても、私はいつもおまえを見守っている」 「兄上……」 「私の力が必要な時は、必ずおまえの元に駆けつけよう」 この時アルテナは気づいた。 アルテナが旧トラキア領を治めるようになった時、真っ先に危惧したのが旧トラキアの国民による反乱だった。トラバントは冷酷な男だったかもしれないが、民にとっては力強い指導者だった。熱狂的な忠誠\を誓う兵も多い。その彼らが、仇敵レンスターの支配をすんなりと受け入れるとは思えない。 しかし、それから半年以上。予測された反乱らしいものはほとんど起こっていなかった。不審に思いながらも安堵していたアルテナだったが、おそらくアリオーンが血気にはやる家臣達を抑えていてくれたのだろう。トラバントの嫡子であり、天槍グングニルを受け継ぐアリオーンにしか、彼らをまとめることはできない。 子供の頃と同じように、アルテナは兄の大きな庇護の翼の中にいたのだ。
「……時々は、兄上の元を訪ねてもよろしいですか?」 「そうだな。私ももう、おまえを追い返したりはしないよ。だが…」 アリオーンはいったん言葉を切ると、視線をはずした。 「それより、早く良い相手を見つけることだ。私の代わりに、側で助け、支えてくれる男を…。おまえのことを想っている騎士は、いくらでもいるだろう」 しかし、その言葉を聞いたとたん、アルテナはきっとした表情でアリオーンを睨んだ。 「わたしは兄上以外の人の妻になる気はありません!」 「アルテナ…」 「子供の時からそう言っています。兄上も約束して下さいました」
まだ、兄とは結婚できないと知らなかった幼い頃。アルテナは、「あにうえのおよめさんになる」が口癖だった。父は厳しい人だったが、兄はただ優しかった。いつもアルテナを気遣い守り、庇ってくれた。そんな兄が大好きで、アルテナはいつもアリオーンの後を付いてまわっていた。 「およめさんになる」とアルテナが言うと、アリオーンは「約束だよ」と言って微笑んでくれる。 そしてそんな二人を、トラバントは口の端に笑みを浮かべながら見ていた。 あの時、アリオーンはアルテナが実の妹ではないことを既に知っていたはずだ。どんな気持ちであの言葉を言ったのか…。アルテナには推し量るすべがない。 しかし今は、そんな小さな約束にもすがりたい気持ちだった。
アリオーンの目がふっとなごんだ。 「そうだったな」 たしなめられると思っていたアルテナは、意外な兄の答えに驚いた。 「よろしいのですか? そう思っていても」 「おまえを見ていると、自分の気持ちを偽ることができなくなる。だから今まで会わなかった…」 思いがけないアリオーンの告白に、アルテナは一瞬言葉を失った。 「もう、自分に嘘をつくのはよそう。……アルテナ、おまえを愛している。子供のころから、ずっと…」 「兄上…」 「もう兄とは呼ぶな、アルテナ」 「はい………アリオーン…」 たとえ側近く暮らすことができなくても、アリオーンはいつも自分を見守ってくれている。心はいつも共にある。 それこそが、アルテナの望んでいた幸福だった。
遅いので気になって戻ってきたコープルが目にしたのは、抱き合う二人の姿だった。アリオーンの腕の中で目を閉じているアルテナの横顔は、とても幸せそうに見えた。 ほんの少し、胸が痛い。でも、悲しそうなアルテナの顔を見ているよりはずっといい。 コープルは、そっとその場を離れた。
しばらくして、二人が姿を見せた。コープルはアリオーンに挨拶をし、トラバントの棺の前で祈りを奉げる。ひっそりと静まり返った王廟の中、聖なる祈りの声だけが流れていた。
祈りを終えた三人は、廟を出て木もれびの中を少し歩いた。木々のざわめきの音と、鳥の声だけが聞こえる。 やがて、木立の中に白い礼拝堂が姿を現した。かつては大勢の僧侶達が、王廟を守るために詰めていたのだろうが、今ではほとんど手入れされていないらしく、人の姿も見当たらない。 正面の扉の前で、ふとアリオーンが立ち止まった。 「アルテナ、式を挙げようか」 「え?」 「結婚式だ、二人だけの」 子供のころのように、二人だけの…。でも、もう二人は子供ではない。 とまどうアルテナをよそに、コープルも賛同の意を唱える。 「では、僕が立ち会いましょう」 「コープルが?」 「若輩ですが、一応司祭ですから」 ようやくアルテナの顔にも笑みがこぼれた。 「そうね。エッダの司祭なら、これ以上の見届け人はないわ」
祭壇の前に進んだ二人は、コープルの導きに従って誓いの言葉を唱和する。互いの手を重ね、ブラギの祝福を受けた。 「リーフ王が驚くだろうな」 アリオーンがそっと囁いた。 「祝福してくれるわ。いつか、きっと……」
天槍グングニルと地槍ゲイボルグ。 遠い昔、二人の兄妹によって引き裂かれた天と地の絆は、長い年月を経てここに再びひとつに結ばれることとなる―――
<END>
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Posted:2004-05-22 15:32| |
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