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雪之丞

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海蓝之钻(II)
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小说

予感



--------------------------------------------------------------------------------


 レックスから剣を受け取った時から、アイラの中でなにかが変わり始めていた。
 常に不真面目そうで、いい加減に生きている男。関わらないに越したことはない。そう思っていたレックスの存在が、ほんの少しずつ気にかかるようになってきたのだ。
 勇者の剣は見た目が美しいだけでなく、剣としても確かに素晴らしい代物だった。威力こそ大剣に比べればわずかに落ちるが、その切れ味や扱い易さは群を抜いており、それにアイラの得意とする流星剣の技が加われば、大抵の敵は反撃を受ける前に倒すことができた。

 マディノ城の中庭。立ち止まると、アイラは剣を鞘から抜いた。
 陽の光を受けて銀色に煌めく刃を見つめながら、アイラの口元にふと微笑みが浮かぶ。
「よう、アイラじゃないか」
 声のした方を見ると、たった今考えていた男がそこに立っていた。いつものように、からかうような青い瞳が、まっすぐにアイラを見ている。
 以前だったら不愉快に感じたその表情を、少しばかり好意的に受けとめている自分にアイラは驚いていた。
「気に入ってくれたようだな」
 アイラが手にした勇者の剣に目を止めると、レックスは嬉しそうに目を細めた。
「ああ、素晴らしい剣だ」
 再び剣を鞘に納めながら、アイラは答えた。
「こんな剣は初めてだ。見た目も美しいが、私の手によくなじんで、もうずっと以前から使っていた分身のようにさえ思える。……ありがとう、レックス。礼を言う」
 あまりに素直な感謝の言葉を返されて、レックスの方が面食らった。憎まれ口の一つも返ってくると思ったのに…。

 いくつもの武器屋を訪ね歩き、探しに探してようやくこれならアイラにふさわしいと思える剣を見つけ出したのが、この戦いの前だった。戦う姿が最も美しいアイラは、この剣を手にした時、より一層輝くだろう。
 そしてまた、いつも真っ先に敵の中に飛び込んでいく彼女を、この剣が守ってくれるようにとの願いも込められていた。
「そんなに気に入ってくれたとは嬉しいね。…じゃあ、かわりといっちゃなんだけど、お礼をもらってもいいかな?」
「お礼?」
「そんなたいしたことじゃないんだが」
「………? ああ、私でできることなら」
「じゃあ、ちょっと目を瞑っててくれないかな」
「……わかった…」
 とまどいながらも、アイラは静かに目を閉じた。
 以前だったら、こんなに素直にレックスの言うとおりになるなど、絶対にありえないことだった。
 自分の両肩に、レックスの手が置かれるのを感じた、次の瞬間。何か暖かく柔らかいものがアイラの唇に触れた。それが何であるかわかった時、考えるより速くアイラの右手が閃いた。
 パシッ!
 高い音が響いた。
 アイラの唇を奪い、その代償として平手打ちを受けたレックスは、左頬に手をあてたまま、目の前の少女を見つめた。
 最初は本当にくちづけをするつもりなどなかった。相手の気持ちを確かめずに騙し討ちのようなまねをするのは、彼の主義に大きく反する。だが、まさかこんな古典的な手には引っかかるまいと思っていたアイラが、自分の目の前で素直に瞳を閉じた時、レックスは自分でも気づかぬうちに彼女の唇を奪っていた。

「ふざけるなっ!」
 怒りに肩を振るわせ、アイラは言葉を投げつけた。
「よくも、こんなまねを……!
 少しでもおまえをいいやつだと思った、私がバカだった!!」
「まてよ、アイラ!」
「離せッ! おまえの顔なんか見たくない」
「俺の話を聞け!!」
 レックスは、逃れようとするアイラの両手をつかんで強引に引き寄せた。
 いつになく真剣なレックスの瞳が、まっすぐにアイラを見つめる。普段浮かべている余裕の笑みも、そこには見あたらない。
「冗談なんかじゃないんだ」
 ゆっくりと、言い聞かせるようにレックスは言った。
「おまえから見れば、さぞかし俺はいいかげんな人間に見えるだろう。だが、これは冗談なんかじゃない。俺は本気だ。アイラ、おまえが…好きだ」
 怒りに燃えていたアイラの瞳に、とまどいと不安の影がとって代わる。
「……嘘だ」
「アイラ」
「信じられるものか、そんな…」
 しかし、レックスの言葉に含まれる真実は、アイラにも伝わってくる。だんだん、レックスの視線を受けとめるのが苦しくなってくる。
「私は………」
「今は、答えてくれなくてもいい」
「レックス?」
「大丈夫、必ずおまえは俺を好きになるさ」
「自惚れるな。誰がおまえなんか」
 再びアイラの瞳に怒りが浮かぶのを見て、レックスは苦笑した。
 ―――この瞳だ
 この瞳に自分はひかれた。

 初めてアイラに会ったのは、ヴェルダンのジェノア城付近の戦場だった。
敵としてレックスの前に現れた彼女は、今と同じまっすぐ突き刺すような視線で戦いを挑んできた。すい込まれそうな漆黒の瞳。戦闘中だというのに、レックスはその瞳から目が離せなくなっていた。
 やがてジェノア城陥落の知らせを聞き、アイラはいずこかへ去っていった。しかしその鮮烈な印象は不思議な感動と共に、レックスの心にしっかりと焼きついたのである。もしかしたら殺されていたかもしれない相手に心を惹かれるなんて我ながら趣味が悪いと思ったが、気持ちは止められなかった。

「何がおかしい?」
 自分を見つめたまま笑みを浮かべているレックスを、アイラは不審そうに見た。
「用がないなら、わたしはもう行くぞ」
「ああ、悪かった。これ以上嫌われたくないからな。俺も今日はこの辺で退散するとしよう」
 あっさりと背を向け、レックスは元来た方に向かって歩き出した。
「アイラ!」
 突然立ち止まり、前を向いたままレックスが声を上げる。その後姿を見つめていたアイラは、わずかにびくっとしたように肩を振るわせた。
「忘れるな。俺は本気だ」
 それだけ言うと、再び歩き始める。やがて角を曲がり、その姿は見えなくなった。
 アイラは、いつのまにか勇者の剣を胸の前で抱きしめるようにしている自分に気づいた。わずかに手が震えている。どんな強敵を前にしても、決してひるむことのなかった自分が?
「レックス…」
 もういない空間に向かって、そっと囁いた。今まで気づこうとしなかった感情が、心の底からゆっくりと立ち昇ってくる。アイラ自身にもはっきりとはわからない、それは予感だった。




<END> 

1998.11.12 



[楼 主] | Posted:2004-05-22 15:31| 顶端
雪之丞

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天と地の絆


--------------------------------------------------------------------------------

-1-



 ―――トラキアよ。わが愛しき大地よ……。
 それが、ずっと自分が父と信じてきた男の最期の言葉だった。

 一時は、本気で彼を憎んだ。両親の仇と思い、この手で殺そうとまでした。
 しかし、後になって人づてに彼の最期の言葉を聞いた時、アルテナは心の中で全ての憎しみが消えていくのを感じた。

 彼は厳しい父親だった。しかし、その態度に憎しみを感じたことはない。槍を教えてくれたのも、トラキアのために利用するというよりは、戦乱の時代をアルテナが生き残っていけるようにとの配慮だったように、今では思える。

 子供の頃、アルテナがアリオーンと仲良く遊んでいるところを見るのが、彼は好きだった。
 いつだったか、「ずーっと兄上と一緒にいる」と言ったアルテナに、彼が問いかけたことがある。
「じゃあ、大きくなったらアルテナはアリオーンと結婚するか?」
「うん!」
「そうか、そうすればアルテナも本当にわしの娘になるな」
「今だって父上の娘でしょう?」
「もちろん、そうだ」
 普段、めったに笑顔を見せない彼が、その時は笑いながらアルテナを抱き上げてくれた。それが嬉しくて、その言葉の意味は深く考えなかった。
 いったいあの時、彼は何を思っていたのだろう。

 だがどちらにしろ、自分と兄が結婚する日など決してこないことは、彼が一番よくわかっていたはずだ。なぜなら、二人が血がつながっていないことを教えることは、彼が両親の敵であることを自分に知らせることになるのだから。

 ―――あれから、もう一年になる
 記憶に残っているのは、自分に向かって槍を振りかざす兄。その側で驚いたような表情で自分を見ていた彼の目。
 兄の当身をくらい、意識を取り戻した時にはすでに彼の姿はなかった。戦死の知らせを聞いたのは、セリス皇子の解放軍の中でだった。全てが人ごとのようだった。この目で死を確認したわけでもないので、実感がわかなかったのかもしれない。
 しかし、もう確実に彼はいない…。


 執務室でぼんやりと物思いにふけっていたアルテナは、壁の暦に目をやるとゆっくりと立ち上がった。マントと飛竜の鞭を手にして、扉に向かって歩き始める。
 その時おもむろに扉が開き、来客があることを家令が告げた。

「エッダ公がお見えです」
「え? コープルが?」
 聖杖バルキリーの継承者、エッダ公コープル。解放戦争終了後、亡き父クロード神父の後を継いでブラギの司祭となった彼だが、それ以前はハンニバル将軍の養子としてここトラキアで過ごしていた。素直で聡明なコープルを、アルテナは弟のようにかわいがっていた。

 家令に案内され、コープルが部屋に入って来る。しばらく見ない間に、ずいぶんと背が高くなったようだ。表情もだいぶ大人びて見える。

「まあ、ひさしぶりね、コープル」
 もうすっかり青年の雰囲気になった彼を見て、アルテナは笑みをうかべた。
「ご無沙汰しております、アルテナ様。連絡も差し上げず、突然お邪魔して申し訳ありません」
「そんなことは構わないわ。……元気そうね」
「アルテナ様も、お変わりなく…」
 そう言って一礼すると、コープルは目の前にいる美しい人を懐かしそうに見た。
「実は、昨日カパドキアの父を訪ねたのですが、まずアルテナ様にご挨拶申し上げるように諭され、遅れ馳せながら参上致しました」
「ふふ、相変わらず義理堅い人ね、ハンニバル将軍も」
 目を細めて笑う。
 アルテナの華やかな笑顔は、いつも見る者を惹きつける。
「コープルは、ハンニバル将軍と会うのは、バーハラで別れて以来?」
「いえ、実はシレジアで姉の結婚式があったんです。内輪だけの、あまり大げさなものではなかったのですが、その時、父も来てくれましたので…」
「そうだったの。そういえば、わたしのところにも知らせがきていたわ。結婚式か…、うらやましいわね。コープルはいないの? 好きな人」
 そう聞かれて、コープルはちょっと躊躇するような表情を見せた。
「僕は子供のころからアルテナ様に憧れていましたから…。今も、その気持ちは変わりません」
「まあ、嬉しいわ。ありがとう、コープル」
 社交辞令と受け取ったのだろう。アルテナが無邪気に微笑む。
 言葉に込めた自分の気持ちは、一生伝わりそうにないな…。そうコープルは思った。

 その時、初めてコープルはアルテナが手にしている、外出用のマントに気が付いた。
「お出かけになるところだったのですか?」
「ええ…、ちょっと……」
「では、僕は出直してまいります」
「あ、いいのよ、今日でなくてもいい用事だから…」
 なんとなく歯切れの悪いアルテナの返事に、コープルは問いかけるような視線を向けた。やがて、根負けしたようにアルテナが小さく呟く。
「実は……父上のお墓に…」
「トラバント陛下の!?」
 思わず声を上げてしまったコープルは、あわてて口を押さえた。
 この王宮では、トラバントのことは禁句とまではいかないが、あまり表だって語らないことが暗黙の了解となっていたのだ。
 新トラキアとして生まれ変わったこの国にとって、かつてレンスターの王子を砂漠に葬ったトラバントは、繰り返してはならない過去の象徴なのだ。
 両国の交流を計るため、旧トラキア領であるこの城にも、多くの元レンスター王家の家臣が詰めている。彼らの耳には特に、トラバントの名を入れてはならなかった。

 コープルは壁の暦を見る。確かちょうど一年前、旧トラキアの王トラバントは、レンスターのリーフ王子の剣によって倒された。今日は彼の命日にあたるのだ。
「僕もご一緒してよろしいでしょうか?」
「コープルが?」
「はい、僕もかつてはトラバント様の民でした。最後には敵対する立場になってしまったけれど、あの方を王として尊敬していたことに変わりはありません」
 まっすぐなコープルの瞳に、思わずアルテナは胸がいっぱいになる。
「…ありがとう、コープル」
 気がつくとコープルに向かって頭を下げる自分がいた。


 トラバントの陵墓は、小高い山の中腹にあった。眼下に王宮を見下ろすこの場所に、まるでトラキアを見守るかのように代々の王の廟がある。
 旧トラキア最後の王、トラバント。彼もここで永遠の眠りについていた。
 周囲は険しい山が続いているため、飛竜を使わなければ容易に来ることはできない。まして、レンスターと統合され新しく生まれ変わったこの国には、このような場所に来る人はめったにいなかった。

 アルテナとコープルは飛竜を降り、手綱を木に繋いだ。
 アルテナの手には、美しい紫の花が抱えられている。王宮の庭でも栽培されている高山植物、竜紫蘭。特産物の少ないトラキアにとって、数少ない輸出品のひとつだった。トラバントに花を愛でる趣味はなかったが、トラキアを愛した彼ならばたぶん喜んでくれるだろう。

「アルテナ様、あそこに竜が」
 その時、コープルが少し離れた場所に繋がれている一頭の竜に気づいた。自分達以外にも、この廟を訪れる者がいるのだろうか…。そう思って近づいた竜に、アルテナは見覚えがあった。

 普通の竜よりも一回り大きな体躯の黒\い竜。強い翼と固い鱗を持ち、倍近い速度で飛行する。その分気性も荒く、乗\りこなせるものはそう多くはなかった。
 しかし、かつてアルテナは、毎日のようにこの竜と並んで空を駆けていたのだった。

 はやる心を押さえ、アルテナは廟の白い扉に手をかけた。
 高窓から差し込むわずかな光の中、トラバントの棺の前にひざまづく一人の男の姿があった。









天と地の絆


--------------------------------------------------------------------------------

-2-



「兄上……!」
 押し殺したような声が、アルテナの唇からもれる。その声に気づいたのか、男はゆっくりと立ち上がり振り返った。
 バーハラのユリウス皇子との決戦以来、アルテナの前から姿を消していた兄アリオーンだった。

「アルテナか。ひさしぶりだな…」
 そう言ってかすかに微笑む。しかし、何か全てを拒むような気配が、アルテナに近づくのをためらわせていた。

「あの、僕は外で待っています」
 その場の空気を察したコープルが、遠慮がちに言う。
「ごめんなさい、コープル」
 そう言ったアルテナの瞳は、アリオーンにくぎ付けになったままだ。

 ユリウス率いる十二魔将との戦いで、メティオの嵐の中アルテナを守り抜いて戦ったアリオーンは、その後誰にも告げずに姿を消した。そして、亡くなった母の領地に引きこもったまま、決して王宮に来ようとはしなかった。アルテナが何度訪ねていっても、館の奥から出ては来ず、会ってもくれない。
 戦争で荒れた大地を、アリオーンと共に立て直すつもりだったアルテナはひどく落胆した。会ってくれないならばと書状を送っても、なんの返事もない。
 なぜこうも避けられるのだろう。ユリウスの傭兵として自分の前に現れた兄に、命をかけて思いを伝えた。ついには兄もわかってくれ、自分を守るために戦うと言ってくれたのに。
 あの時、気持ちが通じ合ったと感じたのは、錯覚だったのだろうか…。

「お願いです、兄上。わたしと共に王宮に帰って下さい」
 しかし、アルテナの必死の訴えをアリオーンは即座に退けた。
「アルテナ、それはできない」
「どうしてです!? 戦いはもう終わったのですよ。兄上がトラキアに戻るのを咎める者などおりません」
「私は、天槍グングニルを受け継ぐ者だ。あれはレンスター地方の民にとっては侵略の象徴。私が表に出れば、人々はまたトラキアとレンスターの対立を思い出すだろう。それに、私を利用して再びこの地を戦火に巻き込もうと企む者もいる」
 それは事実だった。トラキアとレンスターの対立には根深いものがあり、国民の心も一朝一夕にはひとつにはならない。

「でも、わたしには兄上が必要です! わたし一人では……この国を導けません」
「アルテナ、おまえはまだ父上を憎んでいるか?」
 静かにアリオーンが尋ねる。その意味は計りかねたが、アルテナはごく自然に答えていた。
「いいえ。もう憎んではいません。あの人はわたしにとって、確かにもう一人の父でした」
「そうか……」
 兄の瞳に、初めて本当の笑みが浮かぶ。
「それならば、おまえは一人でも大丈夫だ。リーフ王と手を取り合って、この国をまとめていくことができるだろう」
 その言葉には、有無を言わせぬ力があった。
「………どうしても…、戻っては下さらないのですね…」
 無言のまなざしが、アルテナの問いを肯定している。

 アルテナはふと、ゲイボルグまつわる言い伝えを思い出した。槍騎士ノヴァの直系に代々受け継がれる地槍ゲイボルグ。それを手にするものは、いつか愛するものと離れ離れになるという。
 はるかな昔、ノヴァが兄のダインと決別してレンスターを建国したように、アルテナの両親キュアンとエスリンが若くして砂漠に命を散らしたように、決して愛する者との幸福な結末を迎えることはないという。
 そして今、そのゲイボルグを受け継ぐのはアルテナだった。

 ―――それでは、所詮わたしも愛する人とは結ばれない
    運\命なのかもしれない……

 アルテナは目の前に立つ兄を見つめた。
 いつからこの人を愛するようになっていたのだろう。
 トラバントの娘ではないとわかった時、怒りと悲しみで心の全てが支配された。しかし、その激情が過ぎ去ってみると、後に残るのは優しかった兄との思い出だけだった。その思い出を一つ一つたどっていくうちにいつしかアルテナは、アリオーンと血がつながっていないことを喜ぶ自分を発見したのだった。
 兄ではなかった。では、この人を愛しても許されるのだ。そう思うと、この運\命に感謝する気持ちさえ湧き起こってくる。そして、その想いはアリオーンにも届いていると思っていたのに…。

 ―――兄上は、わたしを受け入れてはくれなかった…

 あきらめたようにうつむくアルテナに、アリオーンは暖かなまなざしを向けた。
「たとえ側にいることができなくても、私はいつもおまえを見守っている」
「兄上……」
「私の力が必要な時は、必ずおまえの元に駆けつけよう」
 この時アルテナは気づいた。
 アルテナが旧トラキア領を治めるようになった時、真っ先に危惧したのが旧トラキアの国民による反乱だった。トラバントは冷酷な男だったかもしれないが、民にとっては力強い指導者だった。熱狂的な忠誠\を誓う兵も多い。その彼らが、仇敵レンスターの支配をすんなりと受け入れるとは思えない。
 しかし、それから半年以上。予測された反乱らしいものはほとんど起こっていなかった。不審に思いながらも安堵していたアルテナだったが、おそらくアリオーンが血気にはやる家臣達を抑えていてくれたのだろう。トラバントの嫡子であり、天槍グングニルを受け継ぐアリオーンにしか、彼らをまとめることはできない。
 子供の頃と同じように、アルテナは兄の大きな庇護の翼の中にいたのだ。

「……時々は、兄上の元を訪ねてもよろしいですか?」
「そうだな。私ももう、おまえを追い返したりはしないよ。だが…」
 アリオーンはいったん言葉を切ると、視線をはずした。
「それより、早く良い相手を見つけることだ。私の代わりに、側で助け、支えてくれる男を…。おまえのことを想っている騎士は、いくらでもいるだろう」
 しかし、その言葉を聞いたとたん、アルテナはきっとした表情でアリオーンを睨んだ。
「わたしは兄上以外の人の妻になる気はありません!」
「アルテナ…」
「子供の時からそう言っています。兄上も約束して下さいました」

 まだ、兄とは結婚できないと知らなかった幼い頃。アルテナは、「あにうえのおよめさんになる」が口癖だった。父は厳しい人だったが、兄はただ優しかった。いつもアルテナを気遣い守り、庇ってくれた。そんな兄が大好きで、アルテナはいつもアリオーンの後を付いてまわっていた。
 「およめさんになる」とアルテナが言うと、アリオーンは「約束だよ」と言って微笑んでくれる。
 そしてそんな二人を、トラバントは口の端に笑みを浮かべながら見ていた。
 あの時、アリオーンはアルテナが実の妹ではないことを既に知っていたはずだ。どんな気持ちであの言葉を言ったのか…。アルテナには推し量るすべがない。
 しかし今は、そんな小さな約束にもすがりたい気持ちだった。

 アリオーンの目がふっとなごんだ。
「そうだったな」
 たしなめられると思っていたアルテナは、意外な兄の答えに驚いた。
「よろしいのですか? そう思っていても」
「おまえを見ていると、自分の気持ちを偽ることができなくなる。だから今まで会わなかった…」
 思いがけないアリオーンの告白に、アルテナは一瞬言葉を失った。
「もう、自分に嘘をつくのはよそう。……アルテナ、おまえを愛している。子供のころから、ずっと…」
「兄上…」
「もう兄とは呼ぶな、アルテナ」
「はい………アリオーン…」
 たとえ側近く暮らすことができなくても、アリオーンはいつも自分を見守ってくれている。心はいつも共にある。
 それこそが、アルテナの望んでいた幸福だった。

 遅いので気になって戻ってきたコープルが目にしたのは、抱き合う二人の姿だった。アリオーンの腕の中で目を閉じているアルテナの横顔は、とても幸せそうに見えた。
 ほんの少し、胸が痛い。でも、悲しそうなアルテナの顔を見ているよりはずっといい。
 コープルは、そっとその場を離れた。

 しばらくして、二人が姿を見せた。コープルはアリオーンに挨拶をし、トラバントの棺の前で祈りを奉げる。ひっそりと静まり返った王廟の中、聖なる祈りの声だけが流れていた。


 祈りを終えた三人は、廟を出て木もれびの中を少し歩いた。木々のざわめきの音と、鳥の声だけが聞こえる。
 やがて、木立の中に白い礼拝堂が姿を現した。かつては大勢の僧侶達が、王廟を守るために詰めていたのだろうが、今ではほとんど手入れされていないらしく、人の姿も見当たらない。
 正面の扉の前で、ふとアリオーンが立ち止まった。
「アルテナ、式を挙げようか」
「え?」
「結婚式だ、二人だけの」
 子供のころのように、二人だけの…。でも、もう二人は子供ではない。
 とまどうアルテナをよそに、コープルも賛同の意を唱える。
「では、僕が立ち会いましょう」
「コープルが?」
「若輩ですが、一応司祭ですから」
 ようやくアルテナの顔にも笑みがこぼれた。
「そうね。エッダの司祭なら、これ以上の見届け人はないわ」


 祭壇の前に進んだ二人は、コープルの導きに従って誓いの言葉を唱和する。互いの手を重ね、ブラギの祝福を受けた。
「リーフ王が驚くだろうな」
 アリオーンがそっと囁いた。
「祝福してくれるわ。いつか、きっと……」


 天槍グングニルと地槍ゲイボルグ。
 遠い昔、二人の兄妹によって引き裂かれた天と地の絆は、長い年月を経てここに再びひとつに結ばれることとなる―――




<END> 



[1 楼] | Posted:2004-05-22 15:32| 顶端
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淡雪の花嫁


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「ステキねぇ…」
 花嫁にヴェールを被せながら、シルヴィアがため息をついた。
 目の前にいるティルテュが身に付けているのは、シレジアに降り積もる
淡雪を思わせる純白のドレス。それは、この日のことを知ったラーナ王妃
から特別に贈られたものだった。

「そうね、今日ばかりは淑女に見えるわ」
 丁寧にレースの襞を整えながらラケシスが言う。いつもなら、ここで何
か一言言い返すティルテュだが、今は鏡の中の自分を見つめたまま夢見る
ような表情を浮かべている。

 いつの頃からアゼルを愛するようになっていたのだろう…。
 自分の父親によってシグルド達が反逆者の汚名を着せられたことが辛く
て、アゼルに悩みを打ち明けたことがあった。アゼルは辛抱強く話を聞い
て、慰めてくれた。それ以来、なにかにつけて気遣ってくれる彼の視線を
感じるようになり、気が付くと、自分にとってかけがえのない人になって
いた。
 そして、もうすぐ自分はアゼルの妻になる…。

「いいなあ、あたしもこういうの着たい」
「何言ってるの、シルヴィア。自分の結婚式で着たばかりじゃない。クロ
ード神父に言いつけるわよ」
「こういうのは何回でも着てみたいの!」
 きゃあきゃあとはしゃぐシルヴィアとラケシスを見ながら、ティルテュ
は幸せそうに微笑んでいた。


 にぎやかな花嫁の控え室とは対照的に、花婿の控え室では、アゼルが今
日の主役にふさわしくない沈んだ表情でうつむいていた。
 隣では、困った顔のレックスが腕組みしたまま壁にもたれかかっている。

「ごめん、レックス……」
 そうつぶやいて、アゼルは目を伏せた。

 ほんの数日前、ふとした事で知ってしまった、レックスのティルテュへ
の想い。
 それまでレックスは、そんなそぶりを少しも見せたことがなかった。
 ティルテュに対する自分の気持ちを打ち明けた時も、この親友は顔色一
つ変えずに、相談に乗\ってくれた。
 今までレックスがどんな気持ちで自分達を見ていたのかと思うと、申し
訳なくて、彼の気持ちに全然気づかなかった自分が情けなくて、とても今
日という日を喜ぶ気にはなれない。

 この式を取り仕切ってくれたのもレックスだった。状況が状況だし、大
げさなことはしたくないと言うアゼルを説き伏せて、結婚式の計画を立て
てくれた。ティルテュの嬉しそうな顔を見た時、初めてアゼルは彼女が本
心では式を挙げたいと望んでいたことを知ったのだ。
 レックスの方がティルテュのことをよくわかっているのかもしれない…。
 子供の頃は三人でよく遊んだことがあったけど、もしかしたらレックス
はあの頃からティルテュのことを好きだったんじゃないだろうか。

「バカ…、花嫁ならともかく花婿が泣いてもサマにならんぞ」
 いつの間にかアゼルの瞳に涙が浮かんでいる。それが頬にこぼれ落ちる
前に、レックスが袖口で拭ってくれた。
「あのなあ、アゼル。ティルテュが選んだのはおまえなんだ。俺に気兼ね
することなんか、何もないんだぞ」
「でも…」
「勘違いするなよ。俺はおまえ達ふたりとも好きなんだからな」
 強い口調で言うレックスに、アゼルが顔を上げる。
「おまえ達が幸せになってくれることが、俺にとっても幸せなんだ。だか
ら、そんな顔するな。笑ってくれよ…」

 昔からアゼルが落ち込んでいる時は、いつもこうやってレックスが側に
いて、励ましてくれた。引っ込み思案だったアゼルを、外の世界へ引っぱ
り出してくれたのも彼だった。
 ティルテュとのことだって、レックスが背中を押し出してくれたから前
に進むことができたのだ。
 そんなレックスに、自分は何を返すことができたんだろう?
「ああ、ほら、目が真っ赤だ。ま、元々赤いから目立たんか」
 レックスの軽口に、アゼルがぎこちなく笑みを返す。
 彼の思いやりがよくわかるだけに、辛かった。

「さ、そろそろ行こうぜ。花嫁の準備もできた頃だろう」
 アゼルの肩を軽く叩くと、レックスは扉の方に歩き出した。
 その背中に向かって、レックス…と小さく声をかける。
「これからも…、ずっと親友でいてくれるかい?」
 心配そうに問いかけるその瞳に、レックスはふっと口元をほころばせた。
「当たり前のこと、聞くな」
 それを聞いた時、ようやくアゼルは笑顔を見せた。


 礼拝堂の中にアゼルを見送ったレックスに、エーディンが近づいてきた。
そして何やら耳打ちをする。
「俺が花嫁のエスコートを?」
「ええ、普通は花嫁の親族の男性がするものだけど、ここにはいないでし
ょう? それであなたにお願いしたいって、ティルテュからの申し出なの。
レックスはお兄さんみたいなものだから…って」

 ―――お兄さんか…
 苦笑を浮かべながらレックスは思う。
 まあ、それが俺にふさわしい役割かもしれないな。しょうがない、一生
見守ってやるよ、二人まとめて。

 やがて向こうから、純白の花嫁衣装に身を包んだティルテュが姿を表し
た。だんだんと近づいてくる彼女を目にした時、レックスは一瞬言葉を失
った。
 普段のおてんばで生意気な少女の面影はかけらもなく、雪の結晶のよう
に清純な美しさをたたえた花嫁がそこにはいた。

 無言で立ち尽くすその様子を勘違いしたティルテュが、小さな唇をとが
らせる。
「なによ、どうせ似合わないって言いたいんでしょ?」
 いつもと変わらぬその口調に、レックスの目が和む。
「いや……。綺麗だよ、ティルテュ。アゼルが惚れ直すな」
 いつになく神妙な顔で言う幼なじみに、ティルテュはちょっと面食らっ
た表情を見せた。が、やがてはにかんだような笑みを浮かべる。
「ありがとう……レックス」

 レックスはティルテュの手をとって、開かれた扉の中へと静かに進んで
いった。苦楽を共にしてきた仲間達の見守る中、祭壇の前で待つアゼルの
元へと花嫁を送りとどける。
 ティルテュの手をアゼルへと受け渡した時に、彼の視線がレックスのそ
れと交差した。二人は、お互いだけにわかる視線で言葉をかわす。アゼル
の瞳には、もう迷いはなかった。

 神の前に誓いの言葉を述べる二人を見ながら、レックスは不思議な安堵
感を覚えていた。決定的に失恋した瞬間だというのに、二人を祝福する気
持ちだけが、心の中を満たしている。
 ―――俺もとんだお人好しだな…
 誰にも気づかれないように、レックスは苦笑した。

 雪深いシレジアの春は、もうすぐそこまで来ていた。



<END> 



[2 楼] | Posted:2004-05-22 15:35| 顶端
雪之丞

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春のシレジアにて


--------------------------------------------------------------------------------



-1-



 大地を覆っていた根雪も解け始め、シレジアの長い冬もようやく終わりを告げようとしていた。ここセイレーン城の一室にも、春の訪れを思わせる暖かな日差しが差し込んでいる。

 シルヴィアは手にしたブラシで、クロードの髪を丁寧に梳いていた。それは二人が結婚してからの、シルヴィアの朝の日課になっていた。
「シルヴィア。あなたがこんなことをしなくてもいいのですよ。自分の身の周りのことくらい、自分でしますから」
「ううん。あたし好きやってるんだもん、気にしないで」
 そう言って、クロードの絹糸のような髪を手に取る。
「クロード様の髪ってとってもきれい。うらやましいなあ。あたし金髪って憧れてたの」
「あなたの緑の髪もとても美しいですよ。私はそちらの方が好きです」
「クロード様・・・」
 二人が結ばれてからすでに数ヶ月が経つが、シルヴィアに対するクロードの賛辞は、少しも衰える様子がなかった。
 頬を染めたまま戸惑うような表情を見せるシルヴィアを鏡ごしに見て、クロードは椅子から立ち上がった。そして彼女の手からブラシを取り、そっとテーブルに置く。
「クロード様・・・、あの・・・」
 そのまま肩を引き寄せられ、シルヴィアは言葉を続けることができなかった。
 その少し前、控えめなノックの音と扉の開くかすかな音がしたのだが、お互いに夢中になっている二人は全く気づかなかった。

「おや、アゼル。どうしました?」
 扉の影で、途方にくれたような表情で立っているアゼルにクロードが気がついたのは、それからだいぶたってからだった。



「どうしたんだ、アゼル。赤い顔して。熱でもあるのか」
 通りかかった部屋の中から声をかけられ、アゼルは振り返った。見ると、
声の主レックスが黒\髪の赤ん坊を抱いてこちらを見ている。
 あれはラクチェだろうか、スカサハだろうか。二人ともそっくりな顔をしているから、見分けるのがむずかしい・・・。何の脈絡もなくそんなことを考えたまま立っていると、彼の親友は心配そうにアゼルの顔をのぞきこむ。
「おい、どうした、ぼんやりして。本当に熱があるんじゃないだろうな」
「あ、なんでもないよ」
 適当にごまかして立ち去ろうとしたところ、今度は別の声がアゼルを引きとめた。
「そんなところで立ち話をしていないで、アゼルもお茶を一緒にいかが?」
 アゼルのかつての憧れの人エーディンが、天女のごとき微笑を浮かべてこちらを見ている。
 気がつけばここはジャムカとエーディン夫妻の居室。そして部屋の中にはレックスとエーディンの他に、シグルドとブリギッドとオイフェ。そして何人かの子供達がいた。

 このセイレーン城にいる子供達の中で一番先に生まれたのが、エーディンの息子レスターだった。最初に母親になったエーディンの元に、産み月を控えた女性達が相談に立ち寄るようになり、子供が生まれてからもなにかと集まることが多くなった。今ではこの部屋はサロンか託児所のようである。
 根っから子供好きのエーディンは聖母のような微笑を絶やさずに、平等に子供達の面倒を見ている。特にシグルドは幼なじみの気安さもあって、ほとんど日参していた。ディアドラが行方知れずになってセリスには乳母がつけられたが、本人はエーディンのほうにすっかり懐いている。
 おかげで、なかなか夫婦水入らずの時をすごせないジャムカには、いい迷惑かもしれなかった。そのジャムカは、今日は城下の警備の担当で姿が見えない。

「ありがとう、エーディン。でも、僕ちょっと急ぐから」
「エーディンの誘いを断るとはますますおかしいな。何があったんだ、アゼル」
「何でもないったら。ただ、ちょっと刺激的な光景を目にして、動揺してたものだから・・・」
「刺激的な光景? なんだい、そりゃ」
「う、うん、じつは・・・」
 説明しない限り放してはもらえないと判断したアゼルは、ついさっき目にしたクロードとシルヴィアの、熱愛中の恋人同士もかくやという言動を語って見せた。

「おまえなあ、朝っぱらから夫婦の寝室に邪魔しに行くやつがあるか」
「失礼なこと言うなよ、レックス。寝室になんか入ってないよ。僕はただ、ティルテュに頼まれたから・・・」
「頼まれたって、何を?」
「ティルテュがシルヴィアに、髪飾りを貸す約束をしていたそうなんだ。でも彼女、今朝具合が悪くて起きられなくて・・・熱も少しあるみたいなんだ。だから代わりに届けてくれって頼まれて、それで・・・」
「新婚早々、すっかり尻に敷かれてるな、アゼル」
「そんなことないよ。レックスだってアイラに子供が生まれる時、そりゃあ大騒ぎしてみんなに迷惑かけまくったじゃないか」
「え? そうだっけ?」
「・・・とにかく僕はティルテュが心配だから、もう行くよ」
 まだ何か言いたそうな親友を振り切って、アゼルは去って行った。

 ティルテュの「病気」がおめでたであることが判明するのは、もう少し後である。








春のシレジアにて


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-2-



「ご一緒させてもらっていいかな」
 アゼルが立ち去ってから少しして、レヴィンが部屋に入って来た。腕にはセティを抱いている。たいてい母親に任せきりなのに、珍しい光景だった。
「フュリーは?」
「シレジア城からマーニャが来てるんだ。たまには子供抜きでゆっくりしてもらおうと思ってさ」
 レヴィンは空いている椅子に腰を下ろした。父親の膝の上で、セティは行儀良く座っている。
「まあ、セティは俺に似て、大人しくて手のかからない子供だから助かるけどな」
 そりゃあんたじゃなくて、フュリーに似たんだろ―――心の中でレックスはつぶやいた。

 話題はさっきアゼルから聞いた、クロードとシルヴィアのことに戻った。
二人の仲のよさをからかうレックスに、オイフェが言う。
「でも、あの二人ならいつものことですよ。ねえ、シグルド様?」
「うん、特にクロード神父はああ見えて、意外と情熱的だからな。あの人の愛情表現には手加減というものがない」
「心が純粋な方は、どんなことも真っ直ぐなんですね」
 同じことをレックスがしたとしても、オイフェはこうは言ってくれまい。
日頃の行いがものをいうのだ。

「それにしても最近シルヴィアは、目に見えてきれいになったわね。元々とても可愛らしい娘ではあったけど」
 みんなのカップに新しいお茶を注ぎながら、エーディンが微笑んだ。
「そうですね。踊りも前から上手でしたけど、近頃は何か凛とした気品のようなものが加わって、この間ラーナ様に披露した舞なんか神々しくさえ思えました」
「女は男によって変わるからな。要するに、レヴィン王子にはシルヴィアの本当の美しさを引き出すことができなかったってことだ」
 レックスがちらりと、隣に座っているレヴィンに視線を送る。
「俺は別に、シルヴィアの恋人だったわけじゃない」
 変な言いがかりをつけられて、レヴィンは憮然とした表情をする。そして、レックスの側でじゃれあっているスカサハとラクチェに目を移した。
「アイラは?」
 話題を変えようとでもいうのか、双子の母親のことを聞いてくる。
「外でホリンと剣の稽古をしている。一日一回は手合わせをしないと気がすまないらしい。シャナンも混ざって三人でやってるかもな」
「そのたびにレックスが子守りをしてるってわけか?」
「当然だろ。そのために父親がいるんだから」
 あっさりと返されて、普段あまり育児に協力しているとは言いがたいレヴィンは肩をすくめた。
「しかしなあ、なにもわざわざブリギッドの夫と稽古しなくても・・・」
「あの二人くらいのレベルになると、他に練習相手も見つからないのだ」
 代わってブリギッドが答える。彼女の腕には安らかな寝顔を浮かべたファバルが抱かれている。戦場ではイチイバルを手にして戦う女戦士も、こうしている時はすっかり母親の顔だ。

 その時、あわただしげに扉が開き、ラケシスが顔をのぞかせた。
「あの・・・。こちらにデルムッドが来ていないかしら?」
 エーディンがブリギッドと顔を見合わせる。
「いいえ、今日は来ていないわ。どうかしたの?」
「さっきまで部屋にいたのに・・・、ちょっと用事があって戻ってみたら姿が見えないの」
 胸のところで固く組まれた手が、切羽詰った彼女の心中を物語っている。
だが、その緊張を破るようにのんびりとレヴィンの声がした。
「さっきベオウルフが、デルムッドを抱いて厩舎の方に向かうのを見たけど」
「まあっ! ベオウルフったらまた」
 そう言うなりラケシスは、扉も閉めずに走り去った。
 その様子にレヴィンが目を丸くする。
「なんだい、あれは?」
「どうもベオウルフはデルムッドに乗\馬を教えようとしているらしいんだ」
 シグルドが笑いながら答えた。
「一才にもならない赤ん坊を? 無茶だよ」
「でも、案外デルムッドは喜んでるらしいぞ。少なくとも泣いたりはしないって話だ」
「やれやれ・・・。それも親馬鹿って言うのかね」
 そう言いながらレヴィンが窓の外に目をやると、仲睦まじげに並んで歩いているクロードとシルヴィアの姿があった。


 シルヴィアはクロードと一緒に、付近の村へ向かう小道を歩いていた。
回復魔法を得意とし医術の心得もあるクロードは、村人達のケガや病気の治療を無償で行っている。シルヴィアも助手として手伝い、今ではすっかり一人前の看護婦だ。

 小鳥がさえずりながら羽ばたいている。それを追いかけてシルヴィアは二、三歩走り、そのままくるりとターンした。そしてふと立ち止まり、自分のお腹にそっと手を当てた。
「もうすぐお腹が目立ってきて、そうしたらだんだん踊れなくなっちゃうなあ」
 少しさびしそうにつぶやく。しかしすぐに顔を上げると、明るい笑顔を取り戻す。
「でも、平気。この子があたしの代わりにお腹の中で踊るの。きっと踊りの大好きな女の子よ」
「そうですね。きっとあなたに似た美しい子です。もし女の子が生まれたら、リーンと名付けましょう」
「リーン・・・。可愛い名前! ありがとう、クロード様」
 そう言ってシルヴィアは、クロードの首に抱きついた。

「あっ、ごめんなさい。クロード様」
 一瞬の後、シルヴィアはあわてて手を離した。
 人目も気にせずに、道の真中で思わず抱きついたりしてしまった。はしたない女の子だと思われたらどうしよう・・・。
 しかし、見上げるとクロードは、にっこり微笑んだままシルヴィアを見ていた。その優しい微笑みに、シルヴィアはほっとする。

「ずっとこんな時が続くといいのに・・・」
 青く広がる穏やかな空を眺めながらシルヴィアはつぶやいた。一見平和な日々が続いているが、海の向こうのグランベルでは黒\い陰謀\が渦巻いている。
 シルヴィアは傍らに立つクロードをもう一度見上げた。なんだか急に不安が胸にこみあげてくる。
「いつまでもお側に置いてくださいね、クロード様」
「もちろんです。私はあなたと出会うために生まれてきたんですから」

 ―――今まであたしに、こんなことを言ってくれた人はいなかった

 シルヴィアは思う。
 それまでにも、かわいいと言ってくれる男性はたくさんいた。しかし、こんなふうに宝物のように大切にしてくれた人はいなかった。自分が価値のある人間だということを、クロードは初めてシルヴィアに教えてくれた。

「さ、行きましょう、シルヴィア。村人達が待っています」
 そう言って差し出された手に、そっとシルヴィアは腕を絡める。

 ―――大丈夫、今にきっとみんなよくなるわ。こんなお優しい方を、
    神様が見捨てるはずがないもの

 寄り添いながら歩くシルヴィアにも、笑顔が浮かんでくる。

 道端では、早咲きの鈴蘭が風に揺れている。シレジアの春が、今まさに始まろうとしていた。





<END>



[3 楼] | Posted:2004-05-22 15:38| 顶端
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太陽の少女

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- 1 -



 ―――ブリギッドさんは太陽の女神みたいに輝いている人だった

 育ての親デューは、幼いパティにそう言った。

 ―――パティ、おまえは太陽の女神の娘なんだから、どんな時も
    誇りを忘れずに生きていくんだぞ

 ものごころつく前に孤児となり兄と二人きりになったパティにとって、その言葉だけが生きていく支えとなった。


「あの…、あなたがパティ?」
 声をかけられて振り向いた先には、白いローブを身につけた少女が微笑んでいた。
 イードの砂漠でシャナン王子と出会い、成り行きのような形でパティが解放軍に参加してから数日がたつ。
 戦闘の合間の野営地で突然声をかけてきた少女を、パティは見つめ返した。確か回復魔法を扱うシスターで、矢の飛び交う戦場でも気丈に杖を振るっていた。名前はなんといったっけ…。

「うん、パティはあたしだけど、何か?」
 とりあえずそう答えると、目の前の少女はにっこりと微笑んだ。
「ああ、やっぱり…、よかった。わたし、ラナ。あなたの従姉妹よ」
「えっ…?」
 突然のことに状況を把握できないでいるパティの前で、ラナが背後に向かって手を振った。
「レスター兄さま、こっちよ、早く。パティが見つかったわ」
 視線で追ったそこには、数人の兵士の姿があった。ラナの呼びかけに、弓を背負ったその中の一人がゆっくりと振り返る。青い髪のその青年はパティを見て少し驚いたように目を見開いたが、やがて軽く微笑むとこちらに向かって歩いて来た。
 それだけなのにパティはなぜか彼から目が離せなかった。

「パティ、あなたのお母様はわたし達の母とは双子の姉妹だったの。私達、従姉妹になるのよ」
「いとこ…? あたし達が?」
「ええ、あなたのことはエーディン母様から聞いていたわ。ずっと気になっていたの。さっき、レヴィン様からあなたが解放軍に加わったことを聞かされて…。ああ…会えて嬉しいわ」
 あまりに唐突なその言葉にどう対応していいか戸惑っていると、さっきの青い髪の青年がラナの隣にやって来た。
 パティは、目の前に立つ長身の青年を見上げた。ラナとよく似た穏やかな微笑みを浮かべて、パティを見つめている。
「じゃ……、あなたもあたしの?」
「ああ、俺はレスター、ラナの兄だ。よろしくね、パティ」
 そう言って差し出された右手。それをおずおずと取ったパティは、まだ信じられない表情で、レスターの顔と右手とを交互に見ている。
「あたしに…いとこがいたの……?」
 ものごごろついた時から、兄と二人っきりだった。育ての親と呼べる存在はいたけれど、留守がちな彼がいない間、周りは誰も助けてくれなかった。いざという時に頼れる肉親がいる人達が、どんなにうらやましかったことか…。
「…あたし、一人ぼっちじゃなかったのね……」
 みるみるうちに、パティの青い瞳に涙があふれる。そして気がついた時には、レスターの胸に顔を埋めて泣いていた。



[4 楼] | Posted:2004-05-22 15:40| 顶端
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太陽の少女

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- 2 -



「あら、ここにも剣が落ちてる。うっわ~、こんなおっきな宝石なんかちりばめちゃって贅沢! ほんと帝国軍って金持ちね。ま、いいわ。もらっとこ」
 足下に散らばる武器の残骸の中から、パティは銀色に輝く細身の剣を拾い上げた。
 周囲には、折れた矢や、血のこびり付いた槍の穂先などが至る所に散らばっている。また、ところどころに、敵と思われる兵士の骸が転がっていた。

 解放軍の主戦力はブルーム軍を追い、コノート城へと進撃しつつあった。戦況は優位に運\びつつあるらしい。徒歩の回復要員や準戦闘員は、後方で待機するよう指令が出ていた。
 しかし、パティはこっそりとその場を離れ、こうして使えそうな武器や高く売れそうな装飾品などを拾い集めていた。どうせ放っておいても、戦場荒らし専門の盗賊\達に奪われてしまうのだ。それなら解放軍のために使ったほうがいい。

 戦いの中心部から離れているとはいえ、どこに敵兵が潜んでいるかわからない。
 パティは慎重に歩を進めた。

 ふと気が付くと、後方部隊の待機する位置から随分離れてしまったようだった。

 ―――そろそろ、戻った方がいいかも…。

 そう思った時だった。
 突然、岩影から一人の兵士が現れた。胴衣に付いている紋章は、フリージ家のものだ。
 兵士はものも言わず、いきなりパティに斬りつけてきた。
 あわててパティは身を翻す。しかしその瞬間、左腕に鋭い痛みを感じた。とっさに頭部をかばった時に、敵の剣がかすめたらしい。それほど深い傷ではなかったが、みるみるうちに血があふれ出した。
 敵兵は剣を構えたまま、じりじりと間合いを詰めようとしている。
「どうしよう……」
 周囲に視線を走らせるが、近くに味方の姿は見あたらない。
 目の前の敵が剣を振りかざした。

 ――――斬られる!

 思わず目を瞑って身をすくめた。攻撃を受ける構えを取ることさえ忘れていた。
 その時――――

 ヒュッ・・・
 風をきる音が耳元をかすめた。続いてうめき声が聞こえ、何か重い物が倒れるような音がした。
 パティの頭上に振り下ろされるはずの刃は、いつまでたっても落ちてはこなかった。

 おそるおそる顔を上げると、そこにはさっきパティに剣を向けていた兵士が、仰向けに倒れていた。胸あてを貫いて、深々と刺さっている矢。
 安堵感にぺたん…とその場に腰を落とした。だんだんと近づいてくる蹄の音。

「だめじゃないか、パティ。こんな前線に出ちゃ」
「レスター…」
 懐かしい顔に、泣きたいような気持ちになる。でも口をつくのは正反対の言葉。
「あら、平気よ。あたしだって一応、剣くらい使えるんだから…」
「ケガしてるじゃないか。ラナのところに連れていくから、早く乗\って」
「大丈夫だってば、このくらい」
 とっさに左腕を後ろに隠したが、レスターは目敏くパティの傷を見つけていた。
 そのまま走り去ろうとするパティを有無を言わさず馬上に引き上げると、レスターは馬首を巡らせた。



[5 楼] | Posted:2004-05-22 15:41| 顶端
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- 3 -



「もう、レスターってば大げさなんだから」
 ラナにかけてもらったライブのおかげで、きれいにふさがった傷跡を見ながらパティはつぶやいた。
 あの後、ラナにパティを預けると、レスターはまたすぐに戦場へと戻っていったのだ。

 すでに勝敗はほぼ決したようだった。敵将ブルームが討たれ、オイフェを従えたセリスが、制圧のために城に向かうのが見える。
 あのあたりにレスターもいるのかな…
 パティが目をやった方向には、数人の騎兵が固まっている。その中から、いつのまにか青い髪を探していた。

「兄さまは本当にパティの事が心配なのね」
 ラナが隣に腰を下ろした。ライブの杖を手にしたまま、パティに笑いかける。
 ラナとレスターは、顔だちはそれほど似ていなかったが、微笑んだ時の表情がそっくりだった。ふわっとした雰囲気が暖かい気持ちにさせてくれる。

 ―――ブリギッド母さんも、こんなふうに笑ったのかな…。

 ラナの笑顔を見るたび、パティは顔も覚えていない母を思った。

「うん、レスターってほんとに面倒見がいいのね。あたし、もう何度も助けてもらっちゃったわ」
「パティはときどき無茶をするから目を離さないようにって、わたしも兄さまから言われてるの」
「まあ、失礼ね。あたしを子供扱いして、レスターってば」
「ふふ…、心配してるのよ、あなたのこと」
「最初があんなんだったから、あたしよっぽど泣き虫だと思われちゃったのかなあ…」
 パティは、初めてレスターと出会った時のことを思い出した。

 解放軍に加わって2、3日たった頃、突然ラナに声をかけられた。パティが自分の従姉妹だという。
 そして紹介されたレスター。
「よろしくね、パティ」そう言って差し伸べられた右手。
 その手とやさしい表情とを見ているうちに、今までの辛かった思い出や、兄の他にも肉親と呼べる人がいた喜びや、いろんな思いが一気に押し寄せてきて、胸がいっぱいになって…、目の前のレスターにすがりついて泣いてしまった。
 レスターは一瞬驚いたようだったが、すぐに元の穏やかな表情に戻った。そしてパティが泣き止むまで、ずっと背中を撫でていてくれた。

「でも、血のつながった人がいるっていいわよね。レスターも従兄妹ってだけで、こんなにあたしのことを心配してくれるし…」
 その言葉を聞くとラナは、ちょっと複雑な表情をした。
「従兄妹…ってだけじゃないと思うけど…」
「え?」
「ううん、何でもない」
「ラナ?」
「あ、ほら、セリス様が城を制圧したみたいだわ。わたし達も行きましょ、パティ」
 ラナが城の方を指さして立ち上がった。
「…うん」
 さっきのラナのセリフがちょっと気になった。しかし、あまり深くは考えずにパティも立ち上がると、後について歩き出した。



[6 楼] | Posted:2004-05-22 15:41| 顶端
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- 4 -



 コノートの城門内には、勝利にわきかえる兵士達の姿があった。長い間、帝国の圧制に苦しめられてきた市民達も、歓呼をもって解放軍を迎えている。
 ごったがえす人の群の中から、パティはレスターを探していた。
 やがて、ようやく目的の人を見つけ出す。人混みから少し離れたところに、ファバルと話をしているレスターが見えた。

 ファバルはこの戦いの少し前、ブルームに雇われた傭兵として解放軍の前に姿を現した。世話をしている孤児たちを養うため、やむを得ずの行動だった。
 しかし、妹パティの説得により解放軍に下り、今は仲間としてここにいる。
 その後、パティによってレスター、ラナとも引き合わされ、彼らともすぐに意気投合したようだった。普段は、こうしてレスターと一緒にいることが多い。

「レスター!」
 そう呼びかけると同時にパティは走り出した。すぐに気付いたレスターは、こちらを見て、軽く手を振っている。
「さっきはありがとう、レスター。ほんとに助かったわ」
 まっすぐレスターに駆け寄ると、パティはぴょこんと頭を下げた。
「いや、それよりケガは大丈夫なのかい?パティ」
「うん、平気よ。元々たいしたことなかったし、ラナに手当てしてもらったから」
「そうか、よかった…」
 パティの左腕に目をやり、傷がふさがっているのを確認すると、レスターは安心したように微笑んだ。

「なんだ、パティ。おまえ、またレスターに迷惑かけたのか?」
 しょうがないなというような口振りで、ファバルが二人の会話に割り込んできた。パティが兄の自分より先にレスターに声をかけたことが、少し不満らしい。
「なによ、お兄ちゃんなんかよりレスターの方がよっぽど頼りになるわよ」
 兄に向かって舌を出すと、素早くパティはレスターの背中に避難する。
「おまえ、仮にも兄に向かってそういう態度は…!!」
 ファバルがムキになって追いかけるが、パティはひょいひょいと身体をかわして、一向に捕まらない。やがて息をきらしたファバルは、妹を追うのを諦めた。
 そんな二人の様子をくすくす笑いながらレスターが見ている。

「なに? おかしい?」
「いや…、ほんとに仲がいいなと思って」
 問いかけるパティに、笑いをこらえながらレスターが答える。
「見ろ、おまえのせいで笑われたんだぞ」
「なに言ってるのよ、お兄ちゃんが子供みたいなことするからでしょ」
「どっちが子供みたいだ!!」
 またしても追いかけっこを始めそうな兄妹をレスターがあわててなだめる。
 やがてレスターを間に挟んだファバルとパティは、互いに牽制しあいながらコノート城内へと向かって歩いていった。



[7 楼] | Posted:2004-05-22 15:42| 顶端
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- 5 -



「えーっ、それじゃお兄ちゃんがブルームをやっつけたの!?」
 思わずあげた大声に、パティはあわてて周囲を見回した。
 ここは、コノート城内にある食堂の中。市民たちが自主的に食料を持ちより、解放軍の兵士達に振舞っていた。パティ達三人もその一角で食事をとっているところだった。

 スープを口に運\びながら、ファバルが答える。
「止めを刺したのはアレスだけどな。ブルームだけは、どうしても俺の手で倒したかったんだ」
「すご~い。見直しちゃった、お兄ちゃん」
 妹に素直な尊敬のまなざしをむけられ、ファバルはちょっと得意そうな顔をした。
「と言っても、ほとんどこの弓のおかげだな。これを引くと、自分でも信じられないくらいの力が湧いてくるんだ」
「聖弓イチイバルか」
 ファバルが背にした弓に、レスターは視線を向ける。

 太陽の弓とも呼ばれるユングヴィの至宝。正当な後継者が手にした時、初めて光を放つ黄金の弓、イチイバル。それは、先のバーハラの戦いの後、ブリギッド公女と共に行方がわからなくなっていたものだった。
 弓神ウルの傍系である自分には決して引くことのできないそれを、レスターは静かに見つめた。

「でも、これがそんなすごい弓だなんて全然知らなかったよ。母さんが大事にしてた物だからずっと身に付けていたけどさ」
 ファバルはレスターに聞いて初めて弓の由来を知ったのだ。
「うん。それにこんな美しい弓だとも思わなかったわ。お兄ちゃんてば、ろくに手入れしないんだもの」
「こら、パティ」
「レスターが磨いてくれたらこんなに光輝くようになっちゃって。まるで違う弓みたい」
「ほんとだよな。…母さんもこれを見たら喜んでくれるかな。今までどんなに貧しくても、これだけは絶対に売らなかったんだ」
「ブリギッド母さん…」
 会話が途切れ、食事の手が止まる。兄妹は遠くを見つめるようなまなざしをして、黙り込んだ。

「そう言えば、伯母上…ブリギッド公女は行方知れずのままなんだって?」
 レスターの問いかけに、二人ははっとしたように顔をあげた。

「うん。俺達が子供の頃出かけたまま、まだ帰ってこないんだ。父さんを探しに行ったんだって、デューは言ってたけど」
「デューも二年前に出てったきり、帰ってこないのよね。しょっちゅう留守にしてたけど、今回は長いわね」
「デューって?」
「あたし達を育ててくれた人。母さんの昔の仲間だったんですって」
 パティはファバルと顔を見合わせ微笑んだ。
「あたしの鍵開けの技術も、宝物を見分ける方法も、みんなデューから教わったのよ」
 レスターは、パティが簡単な道具を使ってどんな鍵でも開けてしまうのを実際に目にしていた。そして、解放軍がその恩恵を受けているのも事実だった。
「じゃあ、もしかしてファバルも鍵を開けたりできるのかい?」
「ううん、お兄ちゃんはだめ。不器用なんだもん。デューもさじを投げてたわ」
「悪かったな」
「デューはブリギッド母さんが公女様だなんて教えてくれなかったけど、今にして思えば帝国兵にでも知られて、あたし達が危険な目に会っちゃいけないと考えてのことだったのね」
 そう言うと、パティは顔を上げファバルの方を向いた。

「ねえ、お兄ちゃん。あたし、これから修道院に行ってみようと思うの。子供達のことも心配だし、シスターにもあたし達が解放軍に参加したこと、報告しておいたほうがいいでしょ。ここからなら、半日で帰ってこられるわ」
 コノートの街でパティはファバルと共に、多くの孤児達の世話をしていたのだった。

「そうだな。…だけど俺、これから弓を修理しに行かなきゃならないんだ。それが終わってからだと、遅くなるな」
「そっか…。じゃあ仕方ないわね。あたし一人で行ってくる」
 少し残念そうに言ったとき、それまで黙って二人のやり取りを聞いていたレスターが口を開いた。

「もしよければ、俺が一緒に行こうか?」
「え、レスターが?」
「ああ。俺はこの後特に予定はないし、馬を使った方が早く着けるだろう。それにまだ、フリージの残党がどこに潜んでいるともわからない。一人で行くのは危険だよ」
 それを聞くなりパティは、ぱっと顔を輝かせた。
「ありがとう、レスター!」
 感謝に満ちた笑顔でレスターを見る。
 その笑顔を見ているとレスターは、なぜかいつも暖かい気持ちになるのだった。パティが喜ぶならなんでもしてあげたい。そんな思いが浮かんでくる。

「じゃあ、セリス様に許可をもらってくるから、ここで待っててくれ」
「悪いな、レスター。よろしく頼むよ」
 礼を言うファバルに軽くうなずいて、レスターは出口へと向かっていった。
「ほんとにいい人よね…」
 その後ろ姿を、パティはずっと見つめていた。



[8 楼] | Posted:2004-05-22 15:42| 顶端
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- 6 -



「パティ!」
「パティお姉ちゃん!」
 いっせいに飛び出してきた子供達の歓待を受け、パティとレスターはしばらく修道院の中に入れなかった。
 やがて騒ぎを聞きつけて現れたシスターが子供達をなだめ、二人を奥の部屋へと案内した。
 子供達は、パティの持参した手料理に夢中で飛びついている頃だから、当分はおとなしいだろう。

「…そう、それじゃファバルもあなたと一緒にいるのね」
 シスターは温かいお茶を淹れながら、パティの話に耳を傾けていた。ファバルとパティが解放軍に参加したことを聞いた時、一瞬お茶を注ぐ手が止まったが、何も言わなかった。

 ロプト教団が世界中を支配する中、ブラギの神を信仰するこの修道院にはさまざまな圧力がかけられている。ファバルとパティの兄妹は、それらからずっとこの修道院を守ってきた。
 ファバルの傭兵としての腕を認めていたブルーム王が大目に見ていたため、配下のフリージ兵達も直接手出しをするようなことはなかったが、そうでなかったらこんな小さな修道院は、とっくにつぶされていただろう。
 ブラギへの信仰を捨てないため国からの補助金は打ち切られ、大勢の孤児たちを養うための収入は、ファバルとパティ二人の肩にかかっている。
 そして二人が留守の間、この初老のシスターが一人で子供達を守っているのだった。

「とにかく無事でよかったわ。ブルーム王の仕事だと言って出ていったきり連絡がないから、心配していたのよ」
「お兄ちゃんは元気よ。今日はこられなかったけど、シスターによろしく伝えてくれって言ってたわ。…それと」
 パティは言いにくそうに一度言葉を切った。
「そういうわけだから、しばらく帰れそうにないの。どのくらいかかるかわからないけど、帝国を倒すまでは解放軍にいるつもりだから…。それでこれを渡しておこうと思って」
 パティは、重そうな布袋をテーブルの上に乗\せた。

「その間の生活費にしてもらえる? 当分は持つと思うんだけど。お兄ちゃんからの分も入ってるから」
「パティ」
 シスターは静かに口を開いた。
「わたしが至らないために、あなた達兄妹にばかり苦労をかけてしまうわね。本当にごめんなさい」
「ううん、そんなこと。あたしもお兄ちゃんもこの修道院には恩があるんだもん、当然よ。それより…許してくれる? 解放軍に入ったこと」
「許すも許さないもありません。あなたとファバルが決めたことなら、私は何も言いませんよ。わたしはあなた達二人を信じていますからね」
 そう言ってから、今度はパティの隣に座っているレスターに目を向けた。

「レスターさんでしたわね。どうかパティをよろしくお願いします。この子は向こう見ずなところがあるから、危険な目に遭いそうになったら助けてあげてくださいね」
「はい、必ず」
 誠\実な青年のまなざしを見て、シスターは安心したように微笑んだ。

 その後、パティは育ての親デューが使っていたという部屋に、レスターを案内した。
 狭い階段を上った先にある、屋根裏部屋と言ってもいいようなその部屋には、寝台のほかには小さな書物机と木の椅子しかなかった。しかしきちんと掃除はされているらしく、埃ひとつ落ちていない。

「ほら、ここから街が見下ろせるでしょ」
 パティは壁際の小さな窓を開けた。
「あたし、子供の頃から嫌なことがあるとここへ来たの。ここから見下ろすと人間なんてちっぽけで、嫌なことも忘れちゃうんだもの」
 そのパティの横顔に、普段は見ることのない影のようなものをレスターは感じた。いつも明るい笑顔を絶やさないパティだが、その裏では自分の思いもつかないような苦労をしてきたのだろう。

「きみ達兄妹だけで、あれだけの子供達の面倒を見るのは大変だっただろうね」
「うん。でも、デューもいたから。……そういえば、ここでいろんなことデューに教わったなあ」
 パティは懐かしそうに周囲を見渡した。
「デューが教えてくれた一番大切なことは、誇りを持って生きること…。デューはいつもあたしにこう言ってたの」

 ―――パティは太陽の女神の娘なんだから、どんなに辛くても
    曲がったことをしちゃだめだ。どこにいたってお日様が、
    ブリギッド母さんが見ているんだからな。

 パティの輝く瞳を見て、レスターはそのデューという人がどんなふうに二人を育てたのかわかるような気がした。
 レスター自身も決して豊かな生活を送ってきたわけではない。しかし、周囲にはオイフェやシャナンといった頼れる存在があったし、妹のラナや親友のデルムッドをはじめ心をひとつにする多くの仲間がいた。イザークの人々も、なにかと力になってくれた。そしてなにより自分には、暖かな愛情でいつも見守ってくれている、母エーディンが側にいたのだ…。
 それに比べて恵まれているとはとても言えない環境で、この兄妹がこんなに明るくまっすぐに生きてこられたのは、彼のおかげによるところが大きいのだろう。

 ―――パティを守りたい

 その時レスターは、改めて思った。今までも、何かにつけて彼女のことは気を配ってきたつもりだが、よりいっそうその思いが強くなる。
 窓辺にたたずむパティに目を向けた。午後の日差しを受けて、パティの金の髪が光を放っている。

 ―――太陽の女神の娘か…

 レスターには、パティこそが太陽の女神そのものに見えた。



[9 楼] | Posted:2004-05-22 15:43| 顶端
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- 7 -



 ミーズ城から進撃してきたドラゴンナイト部隊を、解放軍はほぼせん滅させた。しかし油断はできなかった。生き残った何名かが引き返していったため、おそらく増援が来ることが予測される。
 第二陣が来るまでのわずかな間に、兵士達は交代で休憩をとっていた。与えられた時間内に、全員が簡単な携帯食で食事をすませなければならない。

「はい、お兄ちゃん、お弁当」
 戦場のど真ん中とは思えない明るい声が響く。
「おっ、待ってたんだ」
 これに答える声もまた、ここが戦場であることを忘れたかのように明るい。
 目の前で何やら包みを広げ始めた兄妹を、あっけにとられてレスターは見ていた。
 パティが持参したかわいい布包みから表れたのは、見た目にもおいしそうな料理の数々だった。調理された肉や野菜、そして何種かの和え物を挟んだパン…。
 携帯食として支給された食料(それは乾し肉や、穀類を練って乾燥させたものが主だった)とは比べ物にならない食欲をそそる品々が目の前に展開されている。
 早くもファバルはそれらを口に運\んでいた。
 自分たちを見つめるレスターに勘違いしたパティが、にっこり微笑んだ。
「よかったら、レスターもどうぞ」
「いや…俺は…」
「遠慮するなよ、たくさんあるから」
 ファバルにも勧められ、レスターは遠慮がちに料理に手を伸ばした。
「うまい」
 ひとくち口にするなり思わず声を出していた。それを聞いて、パティが嬉しそうな表情をする。
「ほんと? よかった」
 どうやら、これらはパティのお手製らしい。
「美味しいよ、驚いた。パティは料理が上手なんだな」
「それだけがこいつの取り柄でさ」
 憎まれ口をたたく兄の頭を軽くパティがこづく。
「ファバルはずっとこんな料理を食べてたのか。うらやましいな」
 しみじみと言うレスターに、パティはちょこんと首をかしげた。
「じゃあ、今度からレスターにも作ってあげる」
「えっ?」
 レスターが絶句していると、
「うん、それがいい。レスターにはいろいろ世話になってるからな」
 ファバルも妹の案に賛成する。
 二人とも全くの善意の固まりで自分たちの行動に少しも疑問を抱いていない。このどこまでも素直な兄妹を見ていると、ついここが戦場であることを忘れてしまいそうになる。
 結局レスターはこの兄妹の申し出を、少しばかりの苦笑と共にありがたく受け取っておくことにした。




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[10 楼] | Posted:2004-05-22 15:44| 顶端
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- 8 -



 ミーズ城下の街の一角で、ふと聞き覚えのある声を耳にしてレスターは立ち止まった。武器屋で新しい矢を仕入れた帰りだったが、その声は隣の中古屋のあたりから聞こえたような気がする。
 そちらに足を向けると、中古屋の横の路地で押し問答をしている二人の姿が目に入った。

 片方は、思った通りパティだ。何やら重そうな袋を抱えている。おそらく戦場で手に入れた武器等を売って手に入れた金が入っているのだろう。戦利品の換金は、パティに一任されていた。貴重品を見分ける目を持っているパティは、他の人間よりもかなり有利な値で中古屋と取引することができるのだ。

 もう片方は、下級兵士のようだった。解放軍の中で、何度か見たことのある顔だ。聞こえてきた短い会話から察するに、その兵士はパティに軍用金を分けてくれるよう要求しているらしい。

「だめよ、このお金は軍全体のものなんだから。あたしが勝手にどうこうできないわ。これからレヴィン様に預けにいくとこなのよ」
「だから、そこをなんとか…」
「お金が欲しいならレヴィン様かオイフェ様に掛け合ってよ。必要だと判断したら出してくれるはずよ」
 パティがそう言うと、兵士は気まずそうに口をつぐんだ。どうも、あまり正当性のないことに使いたい金らしい。
 兵士は、憎々しげにパティを睨んだ。
「なに気取ってるんだ。盗賊\あがりのくせに!」
 腹立ちまぎれにパティを罵倒し始める。
「どうせおまえだって、少しくらいくすねてるんだろう。ちょっとこっちに回してくれたって…」
 だが、その兵士は最後まで言葉を続けることができなかった。
 いきなり肩を捕まれた彼が振り返った瞬間、その顎にレスターの拳が炸裂した。後ろの壁にたたきつけられた兵士が呆然と見上げると、怒りを体中に纏ったレスターがまっすぐに自分を見据えている。

「もう一度言ってみろ」
 押し殺したような声でレスターが言う。
 元々、後ろめたいところのある兵士は、一目散に逃げていった。仮にやましいところがなかったとしても、今のレスターを相手にしたいとは思わなかったに違いない。

「びっくりした…、レスターでも怒る時があるんだ…」
 成り行きを眺めていたパティが、ひと事のように言う。レスターはまだ憤慨した表情で、兵士が去った方向を睨み付けていた。握りしめた拳が震えている。
「パティを侮辱するやつは許さない」
「あたしは平気よ。他人に何と言われようと気にしないもん。言いたい人には、言わせておけばいいのよ」
 実を言うと、盗賊\呼ばわりされたり蔑んだ目を向けられたりしたのは、これが初めてではない。もちろんそんなことをするのはほんの一部の人間だが、自分になんらやましいことのないパティは、彼らを相手にしなかった。
 しかし、こういった事実を初めて目にしたレスターは、まだ怒りが収まらないらしい。
「俺は嫌だ。パティが悪く言われるのは我慢できない」
 いつになく強い口調で言うレスターに、パティはちょっと不安そうに問いかけた。
「やっぱり、従兄妹がそんなふうに言われるの、嫌?」
 レスターは自分とは違って、子供の頃からセリス皇子の側で騎士として育ってきた。そんな彼にとって、血のつながった従兄妹が盗賊\まがいのことをしていたというのは、やはり許せないことなのかもしれない。
 自分のせいでレスターが嫌な思いをしているとしたら…。
 しかしレスターは、パティが考えていたのとは全然違う事を口にした。
「パティが悪く言われるのが許せないんだ。従兄妹だからとか、そういうことは関係ない」
 しかし、その言葉の意味が、パティにはつかめなかった。
「え…どういうこと……? 同じことじゃない」

 それを聞いた瞬間、レスターはなんとも言えないような表情をした。今まで見たこともない、寂しそうな哀しそうな瞳がパティを見つめている。
 なんだか自分がひどく悪いことをしてしまったような気がして、パティはあわてて声をかけた。
「ねえ、レスター。あたし何か悪いこと言っちゃった?」
「パティは悪くないよ。これは俺の問題なんだ」
 そう言って微笑んだレスターは、すでにいつもの穏やかな表情に戻っていた。
「これからは、換金しに来るときは俺が付き合うよ。またあんな連中にパティが危険な目に遭わされたら大変だからね」
 そして、金貨の詰まった重い袋を代わって持ってくれた。

 もうすっかりふだんの彼に戻っている。なんだか釈然としない気持ちが残るが、さっきのことを問いかけるタイミングは失ってしまったようだ。
「うん……ありがとうレスター」
 とりあえず礼を言い、歩き出す。途中で隣を歩くレスターを見上げたが、その横顔はいつもと代わらぬ静かな表情だった。



[11 楼] | Posted:2004-05-22 15:45| 顶端
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- 9 -



 ペルルーク城内に、弓兵用の練習場がある。
 この城に入ってから、ここで弓の練習をすることが、レスターの日課になっていた。等間隔に立てられた的に向かい、馬上から続けざまに弓を射る。騎馬が走り去った後の的は、どれもほぼ中央に矢が刺さっていた。

 レスターの父ジャムカは、天才的なスナイパーだった。もし父が生きていたらレスターもスナイパーの道を歩んでいたかもしれない。しかしレスターは、機動力のあるボウナイトを選んだ。そのほうが戦場で役に立てると、自分なりに判断した結果だった。
「ユングヴィの血が勝ったのかしらね」
 母エーディンは、そんなレスターを見て言った。その微笑みの中に、ほんの少しだけ寂しさが混じっているように感じられた。もしかしたら母は、自分が父と同じスナイパーになることを望んでいたのかもしれない…。そんなふうに思ったこともある。

 朝の日課を終え、レスターは城内に向かって中庭を横切った。
 その時、反対側の入り口からこちらに向かってくる、シャナンとパティの姿が目に入った。レスターは、とっさに彫像の影に身を隠した。自分でも無意識のうちの行動だった。

 パティは天真爛漫な笑顔を浮かべ、一生懸命シャナンに話しかけている。それに対してシャナンは、一言二言返すだけだが、それでもパティはとても嬉しそうに見えた。うっすらと頬が上気し、瞳が輝いている。レスターの前では見せたことのない表情だった。

 イード砂漠の神殿でシャナンに出会ったとパティは言っていた。シャナンの名は、帝国の圧制に苦しんでいた人々の中では英雄的な響きをもって囁かれていた。ずっと側近くでシャナンを見て育ってきたレスターにとっても、やはり偉大な存在であることに変わりはない。
 パティがしょっちゅう「あたし、シャナン様のファンなの」と言うのも耳にしている。あまりに無邪気に口にするので、漠然とした憧れにすぎないのだろうと、レスターはそれほど気にしていなかった。
 しかし、今、目の前でシャナンを見つめるパティの瞳は、単なる憧れ以上のものを含んでいるように見える。
 激しい焦燥感が、レスターの胸を苛んだ。



[12 楼] | Posted:2004-05-22 15:45| 顶端
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- 10 -



 やがてシャナンは、レスターが身を潜めている彫像の側を通り過ぎ、城内に姿を消した。パティは他に用事でもあるのか中には入らず、シャナンの後ろ姿を、手を振りながらいつまでも見送っていた。

 レスターが彫像の後ろから姿を現したのと、パティが振り返るのが、ほぼ同時だった。パティはびっくりしたように目を見張ったが、すぐに笑顔を取り戻す。
「あら、レスター。練習は終わったの?」
 明るく声をかけるパティに、レスターはとっさに返事ができない。

「パティはシャナン王子が好きなのかい?」
 ようやくそれだけを口にする。いつもならどんな感情でも胸の内にしまい込んで笑顔を見せる自信があったが、今はとてもできそうになかった。
「えっ…な、なによ、急に……」
 笑って済ませようかと思ったパティだが、レスターの顔色に、冗談で言ったのではないらしいと判断する。
「好き…っていうか、憧れみたいなものだけど…。ほら、解放軍の英雄シャナン王子ってすごく有名だったでしょ。そのシャナン様を間近に見てお話とかできたら、大抵の女の子は舞い上がっちゃうんじゃない?」
「憧れ……だけ…?」
「うん、そうよ。第一シャナン様は戦いのことで頭がいっぱいで、あたしのことなんか相手にしてくれないわよ」
 あっさりとパティは言った。だが、さっきのパティの表情を目にした今は、その言葉をすんなり受け入れる事ができない。

「じゃあ…、俺のことはどう思ってる?」
 今度こそパティはきょとんとした顔で、レスターを見上げた。
「どうしたの? レスター。なんか変よ?」
 首をかしげるようにして、レスターの目をのぞき込む。
 しかし、そんなパティに構わずに、レスターは言葉を続けた。
「パティ、俺はきみが好きなんだ」
「え!?」
 ぱっちりと大きな瞳を見開いたパティだったが、すぐに納得したような笑顔を浮かべると頷いた。

「うん、あたしもレスター大好きよ」
「違う! そうじゃない!!」
 突然、大きな声でパティの言葉を遮ると、レスターは目の前の少女の細い肩に手をかけた。
「従兄妹としてじゃないんだ。俺は、パティを…きみ自身を…」
 そこには、パティを見つめる真剣な目があった。それは、いつも穏やかな笑顔で自分を見守ってくれた優しい従兄とは、まるで別人のように思われた。
 強い力で捕まれた肩が痛い。

「いや!」
 声と共にレスターの手は振り払われた。怯えたようにレスターを見上げるその瞳。
「パティ……」
「いや……、なんだか…レスターじゃないみたい……」
 首を振りながら、じりじりと後ずさる。
 やがて、ぱっときびすを返すとパティは後も見ずに走り去った。

 呆然と立ち尽くしたまま、レスターはパティの去った方を見ていた。しばらく動くことができなかった。
 後悔が胸を苛む。言ってはいけないことを口にしてしまった。
 あの不用意な一言は信頼を裏切り、たぶんパティを傷つけた。怯えたように自分を見ていたパティ。あんな顔をさせるつもりじゃなかったのに…。

 初めてパティに出会った時、目の前で突然泣き出してしまった少女の細い肩を見ているうちに、どんなことをしてもこの娘を守ろうという思いが胸の中にわき上がってきた。
 最初は単なる保護者のような気持ちだった。しかし、パティの明るい笑顔や無邪気な言動を目にするたびに、自分の中でどんどんその存在が大きくなっていくのを感じていた。自分に対して無条件の信頼を寄せてくるその姿を愛しいと思った。
 そしていつしか、彼女を決して失いたくないと思いつめている自分に気づいたのである。

 なのに、自分の手でその信頼関係を打ち砕いてしまった。醜い下心を彼女に悟られてしまった。もうパティは、心からの笑顔を見せてくれることはないかもしれない…。
 レスターは胸にぽっかりと空洞が空いたような思いを感じていた。やがて、城内に向かってゆっくりと歩き出す。
 しかし、その足取りは重かった。



[13 楼] | Posted:2004-05-22 15:46| 顶端
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- 11 -



 次の日の夕食が終わり、パティはリーンと一緒に後かたづけを手伝っていた。レスターは廊下で、パティが出てくるのを待った。しばらくすると、パティがこちらに歩いて来るのが見える。足りなくなった備品を補充に、倉庫へ向かうところだった。

 厨房を出たところで廊下に立つレスターに気付き、パティが立ち止まった。はっとしたように身体を硬くするのがわかる。
 レスターはゆっくりと近づくと、なるべく怯えさせないように静かな声で言った。
「ごめんね…パティ。昨日のことは、忘れて」
 問いかけるようなパティの視線に、レスターは柔らかな笑みを返した。
「これからも、従兄妹としてよろしく」
 そう言って差し伸べられた手を、なぜかパティは取ることができなかった。
 この手を取れば、今まで通りの暖かな関係に戻れるのに、パティの右手はどうしても動かなかった。
 硬直したように自分を見つめるパティをどう思ったのか、やがてレスターは諦めたように手を降ろし、かすかに微笑むとその場を立ち去った。
 いつまでも戻ってこないパティを心配したリーンが様子を見にきた時、パティは床に座り込んだまま、声を立てずに泣いていた。

 その後も、レスターは今まで通りにパティに接した。パティも表面上は、あのことは忘れたかのように振る舞った。
 だから、よほど注意深い人間でなければ、二人の間になにかあったと気付くことはなかっただろう。

 パティは何度もレスターに謝ろうとした。何度も言いかけた。

 ―――従兄妹として
 ―――今まで通りに…

 でも、言えなかった。
 今まで通りになんて戻れない……そうパティは感じていた。
 「従兄妹として」そう宣言した瞬間、たぶん二人の関係は今までとは違った、もっとよそよそしいものになってしまう…。そんな気がしていた。
 だからと言って、レスターの想いに応えることも、今のパティにはできそうになかった。
 いったい、どうすればいいのか。自分の気持ちを持て余し、パティは途方に暮れていた…。


 野営中の天幕の間から、夕食用の煙が立ち昇っている。
 湯気をたてている巨大な鍋の火加減を調整しながら、パティはぼんやりと考え事をしていた。
 明日にはミレトスへの境界の門が開かれる。しかし、頭の中を占めているのはそんなことではなかった。

「パティ、おまえレスターのこと嫌いなのか?」
 突然、頭の上で声がした。
 顔を上げると、ファバルがなにやら真剣な面持ちでパティを見ている。
「え? 嫌いじゃないわよ」
 たった今考えていた人の名前を上げられ、ほとんど反射的に答えていた。
「何よ、急に」
 いぶかしそうな顔で、隣に座り込んだ兄を見上げる。
 しかしファバルはそれには答えずに、真面目な表情で言葉を続けた。

「まさかおまえ、まだシャナン王子のこと追いかけてるんじゃないだろうな。あの人はやめておけ、おまえには無理だ」
「やあね、そんなんじゃないわよ。シャナン様は憧れの人だけど、そんなふうに思ったことなんかないわ。それにシャナン様は今、この戦いを勝ち抜くことに一生懸命なんだから、そんな不謹慎なこと考えられないわよ」
 確かに解放戦争が進むに連れ、シャナンの戦いぶりには近づくのをためらわせるほどの鬼気迫るものを感じることが多くなってきた。

「まあ、そうだな。人の心を強制はできないよな。でも…」
 ファバルは、妹の頭に軽く手を乗\せた。
「レスターはいいやつだぞ」
「そんなのわかってるわよ…」
 あたしが一番よくわかってるわよ…。そう心の中でつぶやいた。



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 次の日の夕食が終わり、パティはリーンと一緒に後かたづけを手伝っていた。レスターは廊下で、パティが出てくるのを待った。しばらくすると、パティがこちらに歩いて来るのが見える。足りなくなった備品を補充に、倉庫へ向かうところだった。

 厨房を出たところで廊下に立つレスターに気付き、パティが立ち止まった。はっとしたように身体を硬くするのがわかる。
 レスターはゆっくりと近づくと、なるべく怯えさせないように静かな声で言った。
「ごめんね…パティ。昨日のことは、忘れて」
 問いかけるようなパティの視線に、レスターは柔らかな笑みを返した。
「これからも、従兄妹としてよろしく」
 そう言って差し伸べられた手を、なぜかパティは取ることができなかった。
 この手を取れば、今まで通りの暖かな関係に戻れるのに、パティの右手はどうしても動かなかった。
 硬直したように自分を見つめるパティをどう思ったのか、やがてレスターは諦めたように手を降ろし、かすかに微笑むとその場を立ち去った。
 いつまでも戻ってこないパティを心配したリーンが様子を見にきた時、パティは床に座り込んだまま、声を立てずに泣いていた。

 その後も、レスターは今まで通りにパティに接した。パティも表面上は、あのことは忘れたかのように振る舞った。
 だから、よほど注意深い人間でなければ、二人の間になにかあったと気付くことはなかっただろう。

 パティは何度もレスターに謝ろうとした。何度も言いかけた。

 ―――従兄妹として
 ―――今まで通りに…

 でも、言えなかった。
 今まで通りになんて戻れない……そうパティは感じていた。
 「従兄妹として」そう宣言した瞬間、たぶん二人の関係は今までとは違った、もっとよそよそしいものになってしまう…。そんな気がしていた。
 だからと言って、レスターの想いに応えることも、今のパティにはできそうになかった。
 いったい、どうすればいいのか。自分の気持ちを持て余し、パティは途方に暮れていた…。


 野営中の天幕の間から、夕食用の煙が立ち昇っている。
 湯気をたてている巨大な鍋の火加減を調整しながら、パティはぼんやりと考え事をしていた。
 明日にはミレトスへの境界の門が開かれる。しかし、頭の中を占めているのはそんなことではなかった。

「パティ、おまえレスターのこと嫌いなのか?」
 突然、頭の上で声がした。
 顔を上げると、ファバルがなにやら真剣な面持ちでパティを見ている。
「え? 嫌いじゃないわよ」
 たった今考えていた人の名前を上げられ、ほとんど反射的に答えていた。
「何よ、急に」
 いぶかしそうな顔で、隣に座り込んだ兄を見上げる。
 しかしファバルはそれには答えずに、真面目な表情で言葉を続けた。

「まさかおまえ、まだシャナン王子のこと追いかけてるんじゃないだろうな。あの人はやめておけ、おまえには無理だ」
「やあね、そんなんじゃないわよ。シャナン様は憧れの人だけど、そんなふうに思ったことなんかないわ。それにシャナン様は今、この戦いを勝ち抜くことに一生懸命なんだから、そんな不謹慎なこと考えられないわよ」
 確かに解放戦争が進むに連れ、シャナンの戦いぶりには近づくのをためらわせるほどの鬼気迫るものを感じることが多くなってきた。

「まあ、そうだな。人の心を強制はできないよな。でも…」
 ファバルは、妹の頭に軽く手を乗\せた。
「レスターはいいやつだぞ」
「そんなのわかってるわよ…」
 あたしが一番よくわかってるわよ…。そう心の中でつぶやいた。



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- 12 -



 ミレトス城の中庭で、練習用の木の人型を相手にパティは剣を打ち込んでいた。
 ここのところ、暇さえあればこうして剣の稽古に明け暮れている。
 強くなりたいと思った。せめて、自分の身は自分で守れるように。
 今までは、心のどこかでレスターを頼っていた。いざとなれば、きっとレスターが助けてくれる。いつのまにかそんなふうに期待している自分がいた。
 しかし、レスターの気持ちを知ってしまった今、応えることもできないのに、その好意に甘えて守ってもらおうと思うのは、あまりに虫のいい話だった。

 ラクチェやスカサハがよく相手をしてくれることもあって、パティの剣の腕は見る間に上達していった。フィーが相手なら、何本かに一本は取ることもできるようになっていた。

「さすがはホリン殿の娘だな」
 ふいに声をかけられて、パティは剣を振るう手を止めた。
「見事な剣さばきだ。元々おまえは身が軽いし、このまま続ければかなりの剣士になれるぞ」
 壁にもたれかかって、シャナンがこちらを見ていた。
「ホリン? ……あたしの父さん」
 解放軍に入り自分の生い立ちを知ったパティは、オイフェから自分の父の名前を聞いていた。

「ああ、素晴らしい腕を持つ剣士だった。私もよく稽古をつけてもらった」
「シャナン様、父さんを知ってるの?」
「物静かで、少し不思議な雰囲気を持っている人だったな。腕を頼りに闘技場を渡り歩いていたらしい。イザーク王家の血を引いているという噂を聞いたこともあるが定かではない。しかし、私はあの人に自分と同じオードの血を感じていた」
 シャナンは昔を懐かしむような目をした。
「じゃあ、シャナン様とあたしも遠い親戚かもしれませんね」
「そうだな」
 そう言って笑うシャナンの顔を、パティは静かな気持ちで見上げた。もう、かつてのように胸は騒がない。

「シャナン様、あたし強くなりたいんです。みんなの足手まといにならないように」
「おまえは足手まといなどではない。充分役に立っている」
 優しい瞳がパティに向けられる。
「だが、そうだな。強くなりたいと思うのはいいことだ。私も協力しようか」
 シャナンは壁にかけてある、稽古用の剣を取った。
「そんな…、シャナン様に相手をしてもらうなんて、申し訳ないです」
「私はおまえの父に剣を教えてもらった。それを今度は返す番だ」
 当然のことのように言うシャナンに、パティは胸がいっぱいになった。
「はい、よろしくお願いします!」
 パティは深く一礼すると、シャナンに向かって剣を構えた。




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[16 楼] | Posted:2004-05-22 15:49| 顶端
雪之丞

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- 13 -



 ミレトスとシアルフィをつなぐ一本の橋の上で、ヴェルトマー軍と解放軍の激しい戦いが繰り広げられていた。アルヴィス皇帝直属の精鋭部隊であるロートリッターは、今までの敵とは比べ物にならない手応えを感じさせた。
 全員がなるべく固まって進む。一人で突出しようものなら、たちまち集中攻撃を受けてしまうからだ。
 必殺剣を持つ剣士の部隊が道を切り開き、防御に優れた騎馬隊が壁を作る。その合間から、弓兵や魔法部隊が攻撃を仕掛ける。統制のとれた解放軍の攻撃に、さすがのロートリッターもじりじりと後退していった。

 やがて、敵の第一陣を突破し、解放軍はようやくシアルフィへと足を踏み入れた。しかし、城付近には遠隔魔法を得意とする魔道士部隊がまだ残っている。うかつに動くことはできなかった。

 そんな時、城から逃げ出した子供達に、討伐隊が差し向けられたとの報告が入ってきた。
「子供達が岬の方に逃げたらしい。アルテナとフィーが向かっているが、パティも子供達の保護を頼む」
「はい!」
 セリスの命を受け、パティはメティオの嵐をかいくぐりながら、岬に向かって急いだ。

 岬の突端付近に近づくと、アルテナとフィーが魔道士を相手に戦っているのが見える。その背後に守られるように、一人の司祭と多くの子供達の姿があった。
 敵はあらかた片付けられていた。最後の抵抗を試みていた者達も、パティの剣の下に倒れた。

「パティ、後は頼んだぞ。わたし達はこれをセリス皇子に届けなければならない」
 アルテナが、まばゆく輝く剣をかざした。それこそはシアルフィ家に代々伝わる聖剣ティルフィング。今、アルテナがパルマーク司祭から受け取ったところだった。
「まだ敵がいるかもしれないから気をつけてね」
 そう言葉をかけると、フィーもペガサスを駆り空へ舞い上がった。

「聖戦士さまぁ…」
「恐かったよう」
 口々に言って子供達がすがりついてくる。その姿に、パティは故郷に残してきた孤児達を思い出していた。
 こんな幼い子供の命まで奪おうとする帝国に、新たな怒りがわき上がってくる。

 パティは子供達を導いて、今来た道を戻っていった。ここも、いつ敵がやって来るかわからない。一刻も早く、解放軍と合流する必要があった。
 ようやくシアルフィ城が見える位置までたどり着く。主力部隊のいるところまではもうすぐだ。みんなの顔に安堵の表情が浮かんだとき、それは現れた。

 突然、蜃気楼のように空間が歪んだと思うと、だんだんと黒\い影が形を取り始める。

 ―――ワープの魔法だ!

 パティは直感した。
 黒\い影は次第にはっきりとした形を作り、やがてそこには、まがまがしい黒\いローブに身を包んだ暗黒\魔道士達が姿を現す。


 ―――三人!?

 二人までならなんとか倒す自信があった。しかし、三人となると討ち取れるかどうか心もとない。
 しかし、考えている暇はなかった。こうしている間にも、魔道士達はこちらに近づいて来る。

「ここを動いちゃだめよ。司祭様、子供達をお願いしますね」
 剣を手に、パティは敵に向かって走り出した。




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[17 楼] | Posted:2004-05-22 15:49| 顶端
雪之丞

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- 14 -



 一番手前のダークマージが魔道書を掲げる。呪文を唱えるより一足早くパティの剣が振り下ろされる。ヨツムンガンドの反撃を素早くかわし、さらに二太刀を浴びせとどめを刺した。

 ―――次!

 振り返ったパティを再びヨツムンガンドが襲う。一撃目はなんとかかわしたが、二度目の攻撃をもろに受けてしまった。暗黒\の靄\のようなものが身体を覆い、体力が一気に吸い取られたような感じがする。敵はまだ倒れていない。
 ふらつく足を踏みしめて、もう一度剣を握りしめた。
 その時、遠くから馬の蹄の音が近づいてきた。そして風をきって飛んできた二本の矢が、ダークマージの胸に突き刺さった。魔道士は不気味な咆哮と共に崩れ落ちた。
「パティ、大丈夫か!?」
 レスターが馬を跳ばしてくるのが見える。

 ―――どうしてレスターはいつもあたしが助けてほしい時に、
    ちゃんと来てくれるんだろう

 そんなふうに思いながらレスターの方に目を向ける。
 パティに、一瞬の隙ができた。さっきから攻撃の機会を窺っていた最後の魔道士が、呪文を唱え始めた。
 それはヘルの呪文だった。まともに受けたら、間違いなく瀕死の重傷を負う。

「危ない、パティ! 逃げろ!」
 先に気づいたレスターが声を張り上げる。
 しかしその時すでに魔道士の指先からは魔法が放たれようとしていた。今から矢をつがえても、間に合いそうにない。パティは立ちすくんだままだ。
 レスターは転がり落ちるように馬から飛び降りると、パティに覆い被さった。その背中を、ダークマージの放ったヘルが直撃する。

「うわっ!!」
 叫び声を上げると、やがてレスターはぐったりと倒れ込んだ。

「レスター……?」
 うつ伏せに横たわったまま動かないレスターに、パティはおそるおそる触れた。裂けた傷口からあふれる血が、みるみるうちに背中を赤く染める。
「いや! レスター、しっかりして!!」
 しかし答えはない。
 目の前の魔道士が、再び魔道書を振りかざした。二人に狙いを定めている。

 パティはレスターをかばうように前に進み出た。
 パティも、先ほどの攻撃でかなり体力を消耗している。もし反撃を受けたらおそらく命はない。自分がここで死んだら、敵はレスターにとどめを刺すだろう。
 一撃でしとめるしかレスターを救う道はなかった。

 ―――父さん、母さん、力を貸して!

 パティは剣を握りしめ地を蹴った。
 身体の奥底から不思議な力がわき上がってくる。
 淡い光に全身が包まれたような気がした。
 振り上げた剣を、魔道士の肩口に振り下ろす。パティの力からは信じられないほどの勢いで、剣は敵の身体を切り裂いた。
 そのまま刃を返し、上に向かって斬り上げると、魔道士はうなり声と共に倒れた。

 それは月光剣の発動だった。
 パティは知るよしもなかったが、父ホリンが苛烈な修行の末に体得した、自らの力を何倍にも高める技。パティの身体の中に眠る聖戦士の血が、危機に瀕して呼び覚まされ、その幻の技を発動させたのだろう。

「レスター! レスター!!」
 取りすがろうとするパティの身体を、誰かが後ろから抱きとめた。
「動かしちゃだめだ、パティ」
 ファバルの声だった。気が付くとこちらに向かって集まってくる、何人かの姿が見える。
「だって、レスターが死んじゃう…」
「大丈夫だよ」
 泣きじゃくる妹を、ファバルはなだめるように抱きしめた。

 オイフェに連れられて来たラナがリライブを唱える。暖かい光がレスターの身体を包み、次第に傷口がふさがっていく。
 やがて血の気のなかったレスターの顔に、うっすらと赤みがさしてきた。

「もう大丈夫よ」
 額の汗を拭いながら、ほっとしたようにラナが言う。
「これ以上の治療はここでは無理だわ。城に運\びましょう」
「城…?」
「アルヴィスはセリス様の手によって倒された。シアルフィは我らの手に戻ったのだ」
 代わってオイフェが答えた。
 ラナは、近くに落ちている血に濡れた剣に目を止めた。
「ありがとう、パティ。兄さまを守ってくれて」
 パティは泣きながら首を横に振った。守ってもらったのは、自分のほうだった。

「さ、パティ、おまえも手当てが必要だ」
 ファバルが促したが、パティはレスターの側に座り込んだまま、動こうとしなかった。




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[18 楼] | Posted:2004-05-22 15:50| 顶端
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- 15 -



 ようやく正当な後継者を迎え入れることができたシアルフィは、熱狂的な歓迎をもって解放軍を受け入れた。3日も経つとそのお祭り騒ぎもようやく沈静化に向かったが、まだ華やいだ空気は城下町を覆っている。
 そんな騒ぎも届かないシアルフィ城の閑静な一廓で、パティは食事を乗\せた盆を手に、廊下を急いでいた。

 ノックをして扉を開けると、部屋の中では、レスターが寝台から降りようとしていた。
「あら、だめじゃない、レスター。起きたりしちゃ」
 パティは運\んできた食事をテーブルの上に置くと、レスターを再び寝台へと追いやった。
「大丈夫だよ、傷はもうふさがったし。戦いはまだ続くんだから、いつまでも寝ちゃいられない」
「もうっ、まだ続くからこそ、ここでちゃんと治しておかなきゃいけないんでしょ」
 軽くレスターを睨むと、小卓を寝台の側に寄せ、その上に食事を並べ始めた。
「食べ終わったら、包帯を取り替えるからね。まだ完全に治ったわけじゃないんだから、油断しちゃだめよ」
 てきぱきと準備を整える。すでにパティはラナ顔負けの看護婦になっていた。
 リライブによって一応の止血は施され、体力も一時的には戻ったが、完全に回復したわけではない。あとは通常の療法と静養で、地道に治すしかないのだ。

「ごめんね、レスター」
 食器を片付け、包帯の交換を終えると、パティはそう言った。寝台の縁に腰掛けて、まっすぐにレスターの目を見つめる。
 彼の容態が落ち着いて、気持ちに余裕が出てきた今日になって、やっと言えた一言だった。
「パティに看病してもらえるなら、たまにはケガするのもいいよ」
 レスターの表情を見ると、本気でそう思っているように見える。

「あのね、レスター」
「うん?」
「あたし……レスターが好き」
 レスターを見つめたまま、パティは言った。
「…パティ?」
 それまでレスターの顔に浮かんでいた笑みが消える。

「レスターがあたしのこと好きって言ってくれたのと同じように…、ううん、その何倍も好き」
 レスターは静かな表情でじっとパティを見ていた。
「パティ…、もし俺のケガのことを気にしているんだったら…」
「違うわ!」
 パティは叫んでいた。
「そんなんじゃないわ。あたし…レスターが死んじゃうかもしれないって思った時、どうしていいかわからなかった。自分が死ぬより辛いって思ったわ! あの時、レスターがあたしにとってどんなに大事な人かわかったの」
 一気にそう言ってしまってからレスターを見ると、あいかわらず黙ってこちらを見つめるだけだ。
 その表情をみているうちに、ふと不安が頭をもたげてきた。

「あ…でも、もしレスターがあたしのこと……もう好きでなくなっちゃったんなら…」
 レスターには随分迷惑をかけてきた。挙げ句の果てに、瀕死の重傷まで負わせてしまった。
 そんな自分にレスターが愛想をつかしたとしても不思議ではない。

「そんなことないよ」
 ようやくレスターの顔に笑みがうかんだ。パティの大好きな、ほっとさせてくれる懐かしいような笑顔だ。
「ほんと?」
「ああ。すごく…嬉しいよ、パティ」
 実感を込めて、レスターはそう言った。

「じゃあ、またあたしの作ったお弁当食べてくれる?」
「うん、楽しみだな」
「よかった…」
 安心したように言うと、パティはちょこんとレスターの肩に頭をもたせかけた。レスターの手が、優しくパティの黄金の髪を撫でる。
 それは、初めて会った日にパティの背中を撫でてくれた手と同じように、暖かかった。



 エッダ城への進撃途中で小休止した軍隊の片隅で、明るい声が響いていた。
「はい、レスター。お待ちどうさま」
「ありがとう、待ってたんだ。パティのお弁当は最高だよ」
「あったりまえでしょ。レスターのために一生懸命つくったんだもん」
 持参したお弁当の包みをいそいそと開くパティと、料理が並べられるのを楽しそうに待っているレスター。
 自分のよりもいくぶん豪華なそれを横目で見ながら、ファバルがぼやく。
「ちぇ、妹なんてこんなもんだよなあ。好きな男ができると、兄貴のことなんかほったらかしだ…」
「うるさいわね。だったら作ってくれる人、さっさと見つけなさいよ」
「よ、よけいなお世話だ!」

 あいも変わらず戦場らしからぬ風景が、ここでは繰り広げられていた。



[19 楼] | Posted:2004-05-22 15:51| 顶端
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