雪之丞
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【続☆流星の奇跡】
奇跡のその後(1)
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早朝、寝室を出るラクチェの姿があった。
昨日、奇跡という言葉でしか現せない出来事が起きた。
それはラクチェとスカサハの両親――レックスとアイラが生きていた事だ。
イザーク城の西に位置する山で、イザーク兵が偶然小屋を見つけたことから始まったこの奇跡は
王妃ラクチェや、その兄スカサハは勿論、王シャナンも大変驚き、そして喜んだ。
今まで一緒に過ごせなかった時間を取り戻すかのように親子4人は語り合っていた。
ところが、途中でレックスがシャナンを連れて姿を消してしまったのである。
レックスの目的は明白なのであるが、ラクチェは心配でならない。
シャナンを心配するラクチェに、大丈夫だから、と微笑みながらアイラは言う。
母の言葉に納得したように見えたラクチェだが、やはり心配だった。
その晩、シャナンはとうとう部屋に戻って来なかった。
目が覚めて、隣にいるはずの夫がまだ返ってないことに不安になり、ラクチェは部屋を出た。
おそらく夫はお父様の部屋にいる、ラクチェはそう思ってレックスの部屋へ向かった。
だが、レックスの部屋へたどり着く前に、ラクチェは急に足を止めた。
声が…聞こえる…
誰かが話している声だった。
ラクチェは声のする方へ視線を送る。
「お母様? と…」
柱が邪魔で、アイラが誰と話しているのかわからない。ただ、この声はおそらくシャナンだろう
とラクチェは思った。
すこし場所を変えて、母の話し相手を確認する。
やはり、夫だった。
二人は楽しそうに話しをしていた。時折笑い声もまじっている。
ラクチェはすこしずつ近くへ寄っていった。
「…そう、本当に大変だったのね」
「ああ」
アイラの言葉に、シャナンは短く答えた。
「シグルド公子のお子が、グランベル皇帝…。
公子もきっとヴァルハラで喜んでおられるでしょうね。 ディアドラ様とご一緒に…」
今度はシャナンは何も答えなかった。
薄明るくなってきた空を仰ぐシャナンの横顔を、アイラは見つめながら
「レックスは何か言ってた?」
何げなく尋ねた。
シャナンは視線をアイラへ向けると、目を細めて微笑みながら答えた。
「話してたよ。アイラを口説いた時の話を…」
「?」
レックス何を言ったんだ?と言いたげな表情でアイラはシャナンを見た。
シャナンはすこし笑いながら
「ラクチェのことには触れなかった。 認めてもらえたということなのだろうか?」
今度はシャナンがアイラに尋ねた。
「認めるもなにも、ラクチェがあんなに幸せそうにしていたら、何も言えないじゃない」
アイラは答える。
「じゃあ、まだ認めてはくれていないってことなのか?」
「安心しなさい、レックスは認めてるわよ。それよりも安心してるわ。ラクチェの夫があなたで…」
「………」
シャナンは黙って空を見つめていた。
しばらくアイラとシャナンのやり取りを見ていたラクチェは、シャナンが居たことに安心して、再び
歩き始めた。二人の話の中に入っていっても良かったかもしれないが、久しぶりの二人きりの語らい
を、邪魔したくはなかった。
ラクチェが向かった場所はレックスの部屋。
部屋の前へ来ると、ラクチェは声をかけながらノックした。
「お父様、ラクチェです」
すると中から
「入っておいで」
と、優しい声が答えた。
失礼しますと言って中へ入ったラクチェは、レックスと視線が合った。
「シャナンを探しているのか? あいつなら朝方解放してやったぞ」
冗談まじりに笑いながら言う。
父親の言葉に、クスリと笑いラクチェは答えた。
「いいえ、シャナン様は見つけました。 お父様とお話したくてここへ来たの」
「俺とか? ラクチェにはつまらないかもしれないぞ?」
「いいの。お父様とお話ししたいから!何か聞かせて!!」
「そうだな…」
――――あれは、ウェルダンでアイラと初めて会ったときのこと――――
奇跡のその後(2) *レックスの話が聞きたい方はここからどうぞ
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「それがお母様とお父様の出会い?」
「ああ」
レックスの返事を聞いて、ラクチェはクスクス笑った。
「どうした? 何かおかしかったか?」
先ほどの話を振り返りながら、レックスは尋ねる。何か変なことを言っただろうか?
「いいえ、そうではなくて…クスクス…」
「???」
ではなぜ笑っているのだ?と、ラクチェの顔を見るレックス。
「シャナン様にも、子供時代というのがあったのですね」
ラクチェは楽しそうに話す。
アイラとの出会いの話だったはずが、ラクチェはその内容より、シャナンの登場場面のほうが
気になったようだ。
「そりゃあ、あいつだってガキの頃はあったさ。出会ったばかりの頃は
俺にだけ警戒心むき出しだったしな」
「お父様だけに?」
「ああ。 まあ、アイラを狙っていたのは俺だけだったから」
「シャナン様はお母様のボディーガードだったのですか?」
「ぷ…」
レックスは急に笑い出した。始めは遠慮してか、小さく笑っていたが、次第に我慢できなく
なったのだろうか、声を出して笑い出した。
ラクチェはなにがなんだかわからないまま、ただ父が笑っているのを見ていた。
ようやく、笑いがおさまりレックスは話し出す。
「出会ったばかりの頃のシャナンは、剣さえろくに使えないただのガキだったんだぞ。
アイラを守るどころか、守られていた」
ああそういうことか、とラクチェは微笑んだ。
「まあ、元々才能があったから、シグルドに会ってから剣を習いだして腕を上げ、イザークへ向
かうために別れるときにはかなりの腕になっていた。その成長ぶりといったら…
オードの末裔だし、当然といっちゃあ、当然なんだがな」
ラクチェはやはり、笑っていた。
父親から語られる、夫の少年時代は、ラクチェの知っている夫とはまったく違った人物で、
それがとても新鮮で、可笑しかった。
レックスは楽しそうに笑う娘を、目を細めて見ていた。
「ラクチェ」
名を呼ばれて、ラクチェは父親の顔を見る。
「今、幸せか?」
ラクチェはその問いに、一瞬目を見開いたが、すぐに微笑むと
「はい。とても幸せです」
と、答えた。
その笑顔は、昨日再開してから見た娘のどの笑顔よりも、ずっと輝いていた。
その様子に安心し、そしてつられるように微笑むと
「そうか、では大事な娘を奪ったことは許してやらないといけないな」
と、悪戯っぽく呟いた。
さて、場所を変えてここはスカサハの部屋。
スカサハは、今朝届いたばかりの手紙を何度も読み返していた。
と―――突然背後で人の気配を感じた。
スカサハは、ハッっと振り返る。手は傍らにある剣に伸びていた。
「…! 母上!!」
背後にいたのがアイラだとわかり、スカサハ剣から手を引いた。
「どうしたのですか、母上」
「いや、お前の部屋がここだと女官が教えてくれたから、来てみたのだが…」
「なんでしょう?」
「ユリア…というのは誰だ?」
母から出た名に、スカサハは驚く。
「なぜその名を…」
「手紙…、今読んでいただろう?」
読ませてくれとばかりに、手を差し出すアイラ。だが当然、スカサハそれを拒否する。
「ふむ、ではその子とお前の関係は?」
アイラは、ユリアという娘がおそらくスカサハの恋人だろうと予測していた。
だが、もしそうなのであれば是非ともスカサハの口から直接聞きたい。そう思っていた。
スカサハは少しためらったが、どうせすぐに会うことになるのだと、自分に言い聞かせ話し出し
た。
「彼女は俺の婚約者です。その…」
「?」
「ディアドラ様とアルヴィス元皇帝のご息女です」
アイラはアルヴィスという名に、一瞬眉を吊り上げた。だが、スカサハの何かを訴えるような目を見て、思った。
(ああ、もうこの子達の時代だったんだよね)
そして微笑んだ。それは母としての笑みだった。
「それで、ユリアさんは今どこに?」
「兄君の…セリス皇帝のもとにいます」
「え? 皇帝のもとって…」
その言葉を聞いて、アイラは先ほどのスカサハの話を思い出す。
ディアドラ様とアルヴィスの子―――つまり、ユリアは皇族なのである。
アイラは再び息子の顔を見た。
自分より高いところにあるスカサハの視線を、アイラは見つめる。
スカサハは、どうしたのですか?と、首をかしげてアイラを見ていた。
しばらくして、アイラはクスリと、肩で笑い始めた。
自分たちの子供は、とんでもない相手と結ばれているようだ。
娘も、従兄弟とはいえイザークの王を夫としている。
息子はさらにすごい。大国グランベルの皇妹を婚約者としているのだから。
本当に世界は平和になったのだなと、アイラは実感した。
国も身分も関係ない。好きな相手と結ばれ。幸せになれる時代。
自分は幸運\にも好きな人と結ばれ、そして今、ここにいる。
だが、かつての仲間のほとんどが、命を失い、もうここには…いない。
アイラは、今生きていることが悔しくてたまらなかった。だからといって、死ぬことも出来ない。
死んでしまった仲間のぶんまで、精一杯生きなければ、合わせる顔がないのだ。
アイラは、この変わりつつある世界の何かを、ジィンと感じていた。
「スカサハ、ユリアさんにはいつ合わせてくれるのだ?」
やっぱりそう来たか、とスカサハは思った。
「4日後、セリス様がイザーク訪問にこられるとき、一緒に来るそうです」
手紙の内容はこれだったのだろうと、アイラは思った。
「そうか、楽しみだな。ディアドラ殿のご息女なら、さぞ美しい娘だろう」
そう言いながら、アイラは部屋を出て行った。
バタンと、扉が閉まる。と同時に、スカサハのため息が部屋に響き渡った。
シャナン様の仰るとおり、ラクチェの性格は母上譲りだな……
奇跡のその後(3)
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「アイラ!!」
そう言って、泣きながらアイラに抱きついてきたのは、かつてユングヴィの女神だと言われていた
エーディンであった。
「エーディン!」
アイラも懐かしさのあまりエーディンを抱きしめる。
「ああ、あなたが生きていたなんて…、もう嬉しくて…」
エーディンは涙を零しながら言う。
「なぜ、私がここにいることがわかった?」
「シャナンが教えてくれたのよ。会いにきてやってほしいと…」
そう言って微笑むエーディン。
アイラはシャナンの方を見た。
その視線に気づいたシャナンとラクチェはニコリと微笑み、その場から離れた。
アイラはエーディンを伴って、自分たちに与えられた部屋へ向かった。
突然の来客に、部屋にいたレックスは驚き、そして喜んだ。
「エーディンは昔とかわらないな…」
レックスの言葉に
「そうだな、まさに女神様だ」
と、アイラが答えた。
エーディンも、「二人だって変わってないわ」と笑って答える。
しばらく、昔話をしていた3人だが。
突然、レックスとアイラが顔を見合わせ、頷くと、アイラが話を切り出した。
「エーディン…、あのあと…バーハラの戦いのあと、逃げ延びた仲間のことだが…何か知っているか?」
アイラとレックスは、この事が一番気になっていた。気になっていたが…怖くて聞けなかった。
シャナンやラクチェなら、その辺りの情報はすべて持っているはず。
だが、聞きたい、知りたいと思う心と反対に、知りたくない、聞きたくないという心もあった。
けれど、エーディンと再会し、やはり聞かずにはいられなくなった。
大切な仲間のことだったから…。
「俺たちがイザークに逃れてきた時、すでにシグルド公子、シアルフィの三騎士、
そしてアゼルは死んでいた」
「そのほかの者がどうなったかは…わからない…。エーディン、辛いかもしれないが…
教えてほしい。あれから仲間がどうなったのか…」
アイラは頭を下げた。
そのアイラの頭を軽くポンポンと叩いて、エーディンは言った。
「いいわよ」
そう言った彼女の笑顔は、まさに女神そのものだった。
まずは…と、話し出すエーディン。
「ジャムカとクロード神父。二人は逃げる途中、誰かを庇って死んでしまったそうよ」
それはフュリーからの情報だった。
そして、そのフュリーは数年前に病気でこの世を去っている。と付け足した。
エーディンの口から次々に語られる、仲間の悲運\。
覚悟していたが、実際に聞くとどうしようもない思いに駆られてしまう。
話しが終わり、しばしの沈黙がその部屋を覆った。
コトン…と、ティーカップを置き、アイラは呟くように言う。
「生き残ったのは、私たちと、レンスターにいるフィン殿だけか…」
「ラケシスと、ブリギッドが生死不明だろ…」
アイラの呟きに、レックスも呟いて応じた。
暗い雰囲気になってしまったことにエーディンは気づき、話題を変える。
「ねえ、レックスは甥っ子のこと聞いた?」
「え?」
「あなたの甥っ子が、ドズルにいるのよ」
「兄貴の…子供?」
「ええ、一度会ってみたらどう?」
エーディンの提案に、レックスは黙り込んでしまった。
レックスの兄ダナンは、イザークを苦しめていた張本人である。
戸惑うのは当然だった。
「ねえ、レックスの気持ちはわかるけど…、親と子はべつよ。
あなたの甥っ子たちを、お兄さんと一緒にはしないであげて…」
エーディンが言うと、アイラがそれに頷き、付け加えるように言った。
「もう、子供達の時代なんだよ…」
ね?と微笑むアイラを見て、レックスも「そうだな」と答えた。
「そういえばエーディン、レスターはどうしているのだ?」
「あの子は…ヴェルダンにいるわ」
「あ、そうか…ジャムカ殿の…」
アイラの言葉に、ええ、とエーディンは笑って見せた。
「実はイザークに逃れてきた頃ね、お腹に二人目がいるのに気づいて…」
「二人目? ジャムカ殿は知って…?」
フルフルと、首を横に振る。
「勿論、知らないわ。だって、あの後、二度と会えなくなってしまったもの…」
「………。その子は今どこに?」
「シレジアにいるのよ」
「シレジア!? どうしてそんな所に?」
「シレジア王セティ様の妻として、傍にいるわ」
「セティ…? もしかしてレヴィンの子供か?」
レックスが尋ねた。
エーディンは笑顔で頷く。
アイラとレックスは顔を見合わせ、そしてため息一つ。
「本当に…、新しい時代なんだな…」
「私たちが生きていることが、悪い事のような気がするな」
アイラが苦笑する。
アイラとレックスにとっては、信じられないことであろう。
子供たちと再会してまだ2日。だが、もう2日。戸惑う二人をよそに、時間は流れていく。
一つ、一つ、新たなことを知る度に、時代の差を感じさせられる。
アイラは思う。 世界はドンドン変わっている―――と。
レックスは思う。 これが自分たちが夢み求めた世界だ―――と。
流れる時間の早さに戸惑いながら、しかし、それでもその事実を喜ぶ二人であった。
「じゃあ、エーディン。今度は私たちが遊びに行くから」
「ええ、待ってるわ」
そう言って、城を出るエーディン。
何度も振り返る女神を、アイラとレックスは見えなくなるまで見送った。
手を振りながらレックスが言う。
「女神でも年はとるんだな」
「それも、流れる時間の早さ…だろ?」
ははは、と笑って二人は城の中へ入っていった。
ちょうどその頃、バーハラ城を二人の男女が出発した。
グランベル皇帝セリスと、皇妹ユリアである。
二人の行き先はもちろん……。
奇跡のその後(4)
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今日は、スカサハが珍しく落ち着きが無い。
シャナンの執務室で仕事をしているのだが、先ほどからペンを落としたり紙をばら撒いたり…。
そして、スカサハの落ち着かない原因を知っているシャナンとラクチェは、可笑しくて笑が止まらなかった。
「スカサハ、今日はもういいぞ。彼女を迎えに行って来い。そろそろ城下町に到着する頃だ」
「いえ、まだ仕事が残っていますので…」
シャナンの言葉にそう応じたスカサハだが、
「ほら!行ってきなさい!!」
スカサハが対峙していた資料の山をラクチェが強引に奪い、スカサハの背を押した。
「ラクチェ…、返せよそれ!」
「ダメよ。今日のスカサハの仕事はこれでお終い。イザーク王と王妃の命令です」
「そうじゃなくて…」
「え?」
スカサハはラクチェが奪った資料の上に置かれた紙を指差した。
「それ返してくれよ」
「何これ?」
ラクチェはその紙を取ると、開いて中を見た。
「あ!バカ、ラクチェ!見るな」
慌てて取り返そうとするスカサハ。だが、一歩遅かった。スカサハが紙を取り返したときには、すでにラクチェはそれがなんなのかわかっていたから。
「ふ~ん…この間届いたユリアからの手紙か~…」
ニヤニヤしながらラクチェはスカサハを見ていた。
(やっぱり母上の娘だ…)
スカサハはため息をついた。
その様子を笑いながら見ていたシャナンは
「ラクチェ、そのぐらいにしてやれ。スカサハ、今日は本当にもういいから、ユリアを迎えに行って来い。半年も会っていないのだ、少しでも早く会いたいだろう」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて失礼します」
一礼すると、スカサハは執務室を出て行った。
「シャナン様?」
「なんだラクチェ?」
えへへ、と言いながらラクチェはシャナンの傍へ歩み寄った。
「シャナン様も落ち着きが無いですね?」
「え?」
「シャナン様だって、セリス様に会うの半年ぶりでしょう?シャナン様にとってセリス様は、ずっと大切な弟ですからね」
そう言って微笑む。
「なんだ、バレバレだったんだな。お前には隠し事ができん…」
「ふふ。あたりまえですよ!何年シャナン様を見てきたと思っているのですか?」
「生まれてからずっとか? だが、それは私だって同じだぞ?お前が生まれてからずっとお前を見てきたのだ」
シャナンは得意げに言った。なぜなら、明らかにシャナンの方がラクチェを見てきた時間が長いからだ。ラクチェは、「生まれてからずっと見てきた」とは言えないのだ。
「ぶ~!!シャナン様今日は意地悪です…」
「ははは。まあ、お互い隠し事はできないって事だな」
「ですね!」
そう言って、二人は笑いあった。
「スカサハ?どこへ行くんだ?」
城から出ようとするスカサハに声をかけたのはレックスだった。
「父上。セリス様をお迎えに行ってまいります」
「そうか。気をつけていけよ」
「はい、では失礼します」
そう言うと、スカサハは城を出て行った。
レックスは自室へ戻るため180度方向を変えた。
すると
「うわっ!!」
レックスは驚いて、一歩後ろへさがった。
「アイラ!いつからそこにいたんだ!?ビックリしたぜ…」
後ろに、アイラが立っていたのだ。
「さっきからいたぞ。お前がスカサハに声をかけたときから」
そう言って、意味深な笑みを浮かべる。
「なんだ?」
「スカサハ、嬉そうだったな」
「そうか?いつも通りに見えたがな…?」
「はぁ~…これだから男はだめだ。息子の色恋事にも鈍感なんて…」
「お前には言われたくね~よ!」
まったくである。十数年前、レックスがどんなにアプローチしても全然気づかなかったのは、
なにを隠そうこのアイラだ。周りはとっくにレックスの気持ちを知っているのに、当の本人は、自分は片思いだと思い込んでいた。まあレックスも、そのアイラの気持ちを理解できず、やはり片思いだと思っていたことは事実なのだが…。つまり、お互い様なのである。
昔のことを言い合いながら、二人は部屋へと戻って行った。
それからしばらくして、スカサハが城へ戻ってきた。もちろん、彼らを伴って。
嬉しそうにスカサハと腕を組むユリアと、それを見守るセリス。
3人を迎えたのは、イザーク王シャナンと、王妃ラクチェ。
「あら、ユリア?なんか顔が赤くない?」
彼らを見るなり、挨拶もなしにそう訪ねたのはラクチェだった。
グランベルの皇帝、皇妹を前に、そういった接し方をできるのも、彼らを繋ぐ見えない絆のためなのだろうか。城内の守備にあたる兵士たちには理解できないものである。
「それがさ~…」
ラクチェの問いに答えたのはユリアではなく、兄のセリスだった。
「城下町についた後、町を歩きたかったから我侭言って馬車を降りたんだけど…」
そう言って笑っている。
「そこにスカサハがいてさ、町の人たち見てるのに何も気にしないで抱きついて…
くっくっ……、ユリアからキスしたんだよ」
セリスが言い終わると、ユリアはさらに赤面して
「もう!!お兄様大嫌い!意地が悪いです!!」
そう言った。
「俺もビックリした…」
そう呟いたのはスカサハ。
「そうそう、スカサハも何が起こったのかわからなくて、ただ突っ立ってただけだったんだよ。
騒いでいるのは町の人たちだけ」
楽しそうには話すセリスを、ユリアとスカサハは少し睨みつけると
『一番騒いでいたのはセリス様(お兄様)です!!』
同時に言った。
「あ…、えっと…」
何も言い返せないのはもちろんセリス。騒いでいたのは自分だから…。
ちょうどその頃、アイラとレックスが姿を現した。
何かさわがしいなと、部屋から出てきたのである。
そして、二人はユリアの顔を見て、驚いた。
「レックス…、あの子」
「ああ、ディアドラにそっくりだ」
少し離れたところから、セリスたちのやりとりを見ている二人。
「あの子がディアドラとアルヴィスの娘か?スカサハの婚約者の…ユリア…」
そのときだった、
「シャナン!!」
セリスがシャナンの傍へ駆け寄った。まるで弟が、大好きな兄のもとへ駆けていくように。
「セリス、元気そうだな」
まあ、先ほどのやりとりを見ている限り、元気が無いということはないだろう。
「あのさシャナン、どうしよう…」
「? 何がだ?」
「僕…、父親になるんだ…」
「!!」
その言葉に一番初めに驚き、喜んだのは、ラクチェだった。
「パティが妊娠したの!?」
「そう、ここへ向かって城を発つ前日の昼にわかったんだ」
ラクチェは涙を流して、喜んだ。
パティとラクチェ。出会った頃は、シャナンを取り合ってぶつかったことが何度もあった。
だが、次第にそれは友情へと変わり、今では掛け替えのない親友になっていた。
シャナンに告白され、しかしパティのことを思うと返事ができないラクチェに、パティは言った。
「私を親友だと思うのなら、ラクチェは幸せになって」そう言った彼女は涙を流していたが、とても眩しい笑顔をラクチェに向けてくれた。その後、セリスが好きになってしまったとパティに打ち明けられたラクチェ。親友のために、いろんな協力をして…。そして親友の恋が実った時には、自分のことのように一緒に泣いて喜んだ。
そしてそのパティが、大切な人の子供を身ごもった。これほど嬉しいことはない。
ラクチェも今、シャナンの子供を宿しているからなお更、パティの気持ちがわかる。
涙を流すラクチェの肩をそっと抱いて、シャナンは言った。
「セリス、おめでとう。よかったではないか」
「でも…シャナン…不安だよ」
子供ができて頼りなくなるのは父親。母親は自分の体にやどる命を感じ取り、強くなる。
だが、父親はただ戸惑うしかない。
「それを私に言われてもな…」
シャナンも同じである。父親になるなどもちろん初めてで、当初はかなり戸惑った。
今でも外見は冷静にみえるが、ラクチェから見れば、今まで見たこともないくらい頼りなく見えるのだ。男とは、父親とは皆そういうもの。生まれてきて、その姿を見るまでは実感がなく、ただ言いようのない不安だけが付きまとうのだ。
「うう、そうか…シャナンも同じだったよね…」
そんな様子を見ていたアイラと、レックス。笑を抑えることはできなかった。
クスクスと笑う声が聞こえ、セリスたちは声のしたほうへ視線を移した。
「シャナン…?この方々は?」
セリスが問うと、アイラが少し前へ出て一礼した。
「セリス皇帝、お初にお目にかかります…いえ、お久しぶりです、の方がいいでしょうか。
イザーク王女アイラにございます」
続けてレックスが言う。
「ドズル公子、レックスです」
二人揃って、頭を下げていた。
「え…まさか、アイラ王女…と、レックス公子?」
セリスは驚愕した。
「ち、父上とともに戦ってくださった……本当に…?」
セリスの問いに、微笑で答えるアイラとレックス。
「セリス様の声…シグルド公子とそっくりで、とても懐かしいです」
アイラが言った。
「姿は、どちらかと言うとディアドラ似だが…やはりシグルドの息子ですね」
と、レックス。
二人はセリスをじっと見つめた。
前に会ったのはいつだろうか。シャナンに連れられてイザークへ向かう前だから…
そう、セリスが2歳になるすこし前だ。
アイラとレックスは成長したセリスを見て、昔のセリスの姿を思い浮かべた。
立派になられた。シグルド公子、良かったですねと、心で呟く。
「セリス皇帝は、相変わらずシャナンが大好きと見える。立派に成長なさっておりますが、
その辺はお変わりありませんね」
アイラはシャナンの顔を見てそう言った。
シャナンは苦笑する。
そこへ、申しわけなさそうに入ってきたのはユリアだった。
「あの…」
ユリアは戸惑った。なぜなら、アイラとレックス、そしてその仲間を苦しめ、死に追いやったのは、自分の父親なのだ。だから怖かった。拒絶され、そしてなによりスカサハとのことを反対されるのが怖かった。
言葉を失ったユリアに声をかけたのはレックス。
「ユリア殿、あなたのような可愛らしい娘ができること、とても嬉しいことだ。
どうか、スカサハをよろしく頼みます」
途端、ユリアの瞳からは涙が溢れた。
「ユリア!?」
慌てて駆け寄ったスカサハ、そっとユリアを抱きしめた。
暖かい腕の中、安心と喜びで涙が止まらないユリア。
アイラとレックスがあえてアルヴィスのことを話しに出さなかったことが、その二人の心遣いが、とても嬉しかった。
「ユリア殿…」
アイラが優しく呼びかける。
「はい…」
「良かったら、私のことは『お母さん』と呼んでくれないか?」
「え…」
微笑む優しい笑顔。スカサハはユリアの肩をそっと叩き、促した。
「あの、お母…さま」
その言葉を口にするのは久しぶりだった。最後にそう呼んだのは自分がシレジアへワープさせられる瞬間で、そしてその後は…。
また『お母様』と呼ぶことができる人に出会えた。そしてそれは愛しい人の大切な人。
アイラは、スカサハから奪うようにユリアを引き寄せ抱きしめた。
…ああ、お母様の温もりも…。そう、こんな風に暖かかったわ…
しばらくユリアはアイラの腕の中で、懐かしい温もりに浸っていた。
それを黙って見守るシャナンたち。
かれらの顔には、自然と笑みが浮かんでいた。
そしてこの時、アイラとレックスはあることを決意する…。
「俺に…客?」
以外だ。と、言わんばかりの表情でレックスは問い返した。
奇跡のその後(5)
いったい誰だ?
そんなことを考えながら、レックスはシャナンに言われた通り会議室へ向かった。
十数年間、人が訪れることのない山のなかで暮らしていた自分を、いったい誰が訪ねてくるというのだ?不思議に思いながら、レックスは会議室の扉を開けた。
そこにはスカサハと同じ年ぐらいの男が二人と、5歳ぐらいの少女が腰掛けて待っていた。
「俺に用って…あんたたちか?」
レックスが自信なさげに尋ねると、男の一人が立ち上がった。そしてレックスの傍まで寄ってくると、口を利いた。
「初めまして、ヨハンと申します。向こうにいるのが、弟のヨハルヴァと、娘のラサンナです」
「ああ、どうも…。で?」
何のようなわけ?といった感じでレックスは返した。
「ドズルのダナン…ご存知ですよね?」
「…ああ」
「俺たちはダナンの息子です」
「!! 兄上の!?」
ヨハンとヨハルヴァは黙って頷いた。
椅子に座った4人。しばらく沈黙が続いていた。
しかし、レックスがその沈黙に耐えられるわけもなかった。そして尋ねる。
「兄上には…ダナンには、もう一人子供がいたよな?たしか…ブリアンって名前…」
「はい、俺たちの兄です。一年前の戦乱で…俺たちが殺しました…」
ヨハルヴァが低い声で答えた。
実の兄を殺さなければいけない苦しみは、レックスにはよくわかる。
なぜなら、父親にとどめを刺したのは…紛れもなく自分なのだ。
「そうか…」
「父上も、兄も間違ったことをしていたのです。しかたがありません」
ヨハンが言った。
「…あれはどうなってるんだ?」
「あれ?」
レックスの問いの意味がわからなかったヨハルヴァは、首をかしげていた。
だが、兄のヨハンはすぐにレックスの言わんとしていることを理解し、娘に声をかけた。
「ラサンナ」
「はい」
ヨハンに言われ、少女ラサンナは袋から何かを取り出した。
その少女の動作に、レックスは驚いていた。そしてこぼれる言葉…。
「まさか…、こんな子が…?」
「はい。スワンチカはラサンナに受け継がれました」
驚き、その反応に戸惑うレックスに、ヨハンははっきりそう言った。
スワンチカ。十二聖武具の一つであり、大陸一の斧である。
聖武具は、聖痕を持つ者にしか扱うことはできない。運\ぶだけなら大人の男であれば、不可のではない。だが、子供には絶対に持つことのできない重いものである。
だが、聖痕を持っている者は別である。簡単に言えば、聖痕を持っていれば、子供であっても
聖武具は綿のように軽く持ち上げることができるのだ。
そして、この少女はスワンチカを軽々と持ち上げたのだ。それはスワンチカの継承者である証。
これが驚かずにいられるわけがなかった。
「ラサンナは、兄ブリアンの一人娘です。俺が、養女として引き取りました」
ヨハンはそう言うと、娘にスワンチカをしまうように促した。
コクンと頷く少女は、自分の背丈と変わらない大きさのスワンチカを持ち上げ、それを袋になおした。
「驚いた。まさか女に受け継がれるとは…」
「トラキア王姉アルテナ殿もゲイボルクを扱えます。べつに不思議ではありません」
それはそうなのだが…。だが、目の前で5歳ぐらいの幼い少女が、少女とほぼ同じ大きさの
斧を軽々と持ち上げたのだ。話に聞くだけなら、アルテナ王女のことのように納得もできるが、
実際にそれを目の前で見て、驚くなというほうが無理な話である。
「そうか、スワンチカも…ちゃんと次代へ受け継がれているのだな…」
レックスは呟くように言い、目を細めて少女を見た。
少女ラサンナも、不思議そうにレックスを見返した。
しばらくしてレックスは微笑むと、視線をヨハンヘ移した。
「ヨハンは、ドズルにいるんだよな?」
「はい、そうです」
「ヨハルヴァは?」
この問いに、ヨハルヴァ自身が答えた。
「イザークの、リボー城に…」
「この国に?」
「はい。グランベルは、特にドズル家は…イザークの人々に長い間、酷いことをしてきました。
俺は、ドズル家の末裔としてその罪を償わなければいけない…。それに、ここは俺たちが育った国、故郷です。俺たちの故郷のために、俺はできる限りのことをしたいのです。ですから、シャナン王に頼み、リボー城を預かりました」
ヨハルヴァが言い終わると、レックスは返す言葉に困った。
“ドズル家の末裔としてその罪を償わなければいけない”
この言葉が、レックスの胸に重くのしかかった。
自分は、一番辛いことを甥たちに背負わせている。
そんな自分が、この青年に何と言葉をかければいいのだろうか?
自分にそのような資格はあるのだろうか?
自問自答するが、答えは返ってこない。返ってくるはずもなかった。
「叔父上、ドズルへ帰ってきては下さいませんか?」
「……」
「アイラ様もご一緒に…。もちろん無理にとは言いませんが…」
レックスは首を横に振りながら
「今は…やめておく…」
と言った。
「では、いつかいらして下さいますか?」
この問いに、レックスはただ微笑むだけで、答えはしなかった。
この時のレックスの微笑が、ヨハンとヨハルヴァの不安を大きくした。
この人は、もう二度と、ドズルへは帰ってこないのではないか、と。
だがそれを言葉にするだけの勇気は、ヨハンにもヨハルヴァにもなかった。
ただ微笑む叔父の、その姿だけを…二人はじっと見つめていた。
夕刻。
ヨハンとヨハルヴァ、そしてラサンナはイザーク城を後にした。
甥達の乗\った馬車を、レックスは黙って見送った。
「どうだった?」
不意に後ろから声を掛けられ、レックスは声に引かれるように振り返った。
「アイラ…」
「甥に…会ったのだろう?」
「ああ。立派だったよ…。俺たちとは比べ物にならないくらい…立派に…」
馬車が去った方角を見つめながらそう言うレックスの隣に、アイラは立ち並ぶと、
夫の手に自分の手を重ねた。
その行動にレックスはクスリと笑うと、
「俺たちも年をとったんだな…」
と言う。
「そうだな。時間は確実に進み、時代は変わっている」
「俺たちも…もういい…かな」
「ええ、そうね。私たちも…」
『もう子供達に託して大丈夫』
意味深な言葉を残して、アイラとレックスは城の中へ消えていった。
奇跡のその後(6)
時間は確実に進み、時代は移りゆく。
奇跡の再会を果たしたイザーク王家。
そこでも、時間は確実に進んでいた。
アイラとレックスがイザーク城に来てから、一ヶ月が過ぎでいた。
いつもと変わらない夕食時。それは、家族全員で過ごす最後の食事となる。
アイラとレックスが、改まって話しがあると言った。
「話しとは?」
シャナンが二人に尋ねた。
それにレックスが答える。
「お前たちと再会してから、いろんなことがあったよな…。まだ、ほんの一ヶ月…
だが、もう一ヶ月も経った」
「父上?」
この一ヶ月を思い出しながら、ゆっくり話すレックスに、スカサハは声をかけた。
だが、レックスはそれに答えることなく話を続ける。
「エーディンに会って、甥に会って、セリスに会って、アルヴィスの娘に会って…」
そう言いながら、レックスはスカサハとラクチェを交互に見た。
「そして、お前たちの幸せそうな姿を見て…二十年という時の長さを知った…」
レックスの言葉に続けるように、今度はアイラが話し出す。
「時間は流れ、時代は移りゆく…。もう、ここ(今の時代)は私たちの在るべき場所じゃない」
「お母様?何を言って…」
スカサハとラクチェを、言いようのない不安が襲う。
不安な瞳で見てくる娘に、レックスは微笑むと、
「俺たちは明日、ここを出る」
そう、言った。
もちろん、スカサハとラクチェがそれに納得するはずがない。
「父上!!」
「どうして!?」
ラクチェの瞳から、涙が溢れ出した。
「旅を…しようと思うの」
アイラが優しく言った。
「バーハラで死んでいった仲間たちの変わりに、俺たちがこの大陸を見て回るんだ。
この、平和な世界を…いつかヴァルハラであいつらに会った時、自慢できるようにな!」
「でも、どうして今なのですか?お父様にも、お母様にも話したいこと…まだまだたくさんあるのに!!」
そう言うとラクチェは、この様子を黙って見つめていたシャナンの胸に飛び込んだ。
「ラクチェ…」
優しく、妻の頭を撫でるシャナン。
アイラはシャナンとラクチェのもとへ歩み寄り、そしてラクチェの手を握った。
ラクチェは驚いてアイラの顔を見る。そこには、やさしい笑顔が…。
「ラクチェ、お願いわかって…。あなたたちが創ったこの世界を、見て回る義務が、生き残った私たちにはあるの。そして、これから創られていく世界を見届ける義務も…」
アイラの言葉に、ラクチェは小さな声で問う。
「では、世界を見て…知ったその時は…、また…ここへ帰ってきて下さいますか?」
「それは…」
返答に戸惑うアイラに変わり、レックスは はっきりと言い放った。
「ここへ帰ってくることはない」
ラクチェにとって、つらい言葉だった。
だがそれは、言ったレックスと、アイラにとっても辛い言葉である。
「いやです!!そんな…の、いや!!」
シャナンの胸に顔を埋めて、ラクチェは泣いていた。
「父上と、母上は…」
スカサハが俯きながら言った。
「俺たちに会って…後悔…してませんか?」
すこし不安げな表情で、スカサハは顔を上げた。
「後悔…してないわ」
「するはずがないだろう…」
レックスとアイラの返答に、スカサハは安心すると、彼もまた微笑み言った。
「では、俺は父上と母上を止めません。お二人の、思うままに…なさって下さい…」
兄の言葉に、ラクチェが驚いて顔を上げ抗議した。
「スカサハ!!なんでよ!どうしてそんなこと言うの!!
私はいやよ!お母様とお父様と離れるなんて…もう会えないなんて!!
ずっとあきらめてて…だけどやっと、やっと会えたのに!!!!」
ラクチェは両手でスカサハの胸を叩いていた。スカサハもそれに逆らわず、ただされるがまま。
ラクチェの気持ちは、わからないわけではないから。
泣きながら、その動作を続けるラクチェを止めたのは、シャナンだった。
「ラクチェ、やめろ」
腕を掴んで強引にやめさせる。
「シャナ…ンさ・ま…」
雫を溜めた瞳が、シャナンを見上げた。
「わかってやれ…アイラたちにはやるべきことがあるんだ…」
「いや…」
ラクチェはシャナンの腕を振りはらった。
「ラクチェ!!」
そして、その部屋から駆け出ていった。
アイラとレックスが、顔を見合わせる。その表情はとても寂しげだった。
「シャナン、ラクチェにはかわいそうなことをするが…俺たちは明日ここを出る」
シャナンは黙って頷く。
「親らしいこと、何一つできなかったし…それどころか、また悲しい思いをさせてしまう。
だけど…」
アイラは一度言葉を切った。そして
「ラクチェのこと頼む、シャナン…」
そう言うと、アイラは頭をさげた。
「幸せにしてやってくれ」
レックスは手を差し出す。
「はい…」
シャナンも答えて、手を差し出した。そして強く握り合う。
義父と義息子の、最初で最後の握手。
スカサハは涙をこらえて、その情景を見守った。
そして焼き付ける、両親の姿を…。
キィィ・・・。
扉が開いて、そして閉まった。
「ラクチェ…」
寝台に横になり、声を殺してないているラクチェに、シャナンは声をかけた。
返事はない。
「明日の朝、発つそうだ」
「………」
「ラクチェ…アイラたちは」
「わかってる!」
シャナンの言葉を遮った。
「ラクチェ?」
「本当は…わかってる…。お母様とお父様の気持ち…」
そう、わかっている。
アイラとレックスは、悔やんでいる。自分たちだけが生き残ったこと…。
あの日あの場所(バーハラ)にいながら、現代(いま)を生きていること…。
だが、だからといって…仲間を追うわけにはいかない。
仲間たちのぶんまで生きて、そして世界を見守り続ける。
それが、それだけが…二人をこの世に繋ぐ綱となっているのだ。
生きる気力がないわけではない。ただ、生きていることが苦しいのだ。
その苦しみを紛らわせるためには、この世に生きる、生き続ける理由…が必要なのだ。
そしてその理由が、死んだ仲間の代わりに世界を見知り、そして見届けるということ。
それは、この一ヶ月の間の二人を見ていて、ラクチェもなんとなく感じていた。
だけど、いざとなると、やはり「はい、そうですか」というわけにはいかなかった。
「ラクチェ…お前の気持ちもわかる…。せっかく会えた両親…それが突然いなくなる」
ラクチェはシャナンの顔をじっと見つめていた。
「だけど、この一ヶ月の間に作った思い出は…消えないだろう?」
「思い出?」
「そうだ。楽しい思い出が、たくさんできただろう?」
「………」
「だけど、アイラたちはどうだろうか?」
「え?」
「最後に、お前に笑顔で見送ってもらえなかったら…この一ヶ月の思い出が…すべて消えてしまうんじゃないか?」
「消・え…る?」
シャナンはラクチェの隣に腰をおろし、続けた。
「なあ、ラクチェ。こう考えたらどうだ。アイラとレックスは、この世界の人々の両親なんだ」
「世界の人々の?」
「そうだ。だから、世界を旅し、子供たちの様子を見て回る。世界には、たくさんの人々がいるだろう?だから、一人一人を見ていくと時間がかかる。だから、ここへ戻ってくる暇がないんだ。
でも、二人はラクチェやスカサハの親でもある、だから、困った時はかならず帰ってきてくれる」
「だって…帰ってこないってお父様が…」
「それは、お前が信じるか、信じないかの問題だ。帰ってくると信じていれば、帰ってくる。
だけど、信じなかったら、二人は二度と帰ってはこない」
「信じていれば…帰って…?」
呟くように言葉をこぼすラクチェに、シャナンは微笑む。
「な、ラクチェ。明日は、笑顔で見送ってやろう。そうしたら、二人は楽しい思い出を持って旅に出られる。そしていつか、その思い出に引き寄せられて、ここへ帰ってくる。かならず」
シャナンの言葉に、ラクチェは黙って頷いた。
信じていれば 必ず 再び会える。
なぜなら、彼らには 強い強い見方がいるから。
『流星の奇跡』
それは、流星の一族に舞い降りた 唯一の見方。
信じる者だけに舞い降りる…
「ラクチェ…」
「お母様……」
そう言って、ラクチェは微笑んだ。
「どうか、ご無事で…」
涙は、止めることはできなかった。
「ラクチェ、ごめんね。本当は、あなたの子供を見てからにしようと思っていた…
だけど、それでは駄目なの。これ以上、私たちは…」
幸せになるわけにはいかない…。
言葉にはできなかった。だが、ラクチェは、そのアイラの言葉を…さも聞いたかのように答える。
「いいえ。もっと、もっと幸せになって下さい。世界を旅し、どう変わったかを知ることで、
現代(いま)を生きる理由を見つけてください…」
生きることの息苦しさを紛らわせる理由ではなく、楽しく生きる理由を…。
―――そしていつか 必ず 帰ってきて下さい―――
最高の笑顔でそう言ったラクチェ。
アイラとレックスはホッと胸を撫で下ろした。
いつか会える。だからさよならは言わないの。
ラクチェとスカサハは、遠くなる両親を見つめながら、この一ヶ月の思い出を思い返す。
偶然二人のいた小屋を発見し、城に案内すると、なんと二人は自分たちの両親で…。
シャナンを拉致した父に、恋人からの手紙を盗み見する母。
すべてが、楽しく、やさしい思い出。色褪せることのない、永遠の宝物。
それを胸に、彼らはこれからを生きる。
それぞれの、在るべき場所で。
流星の奇跡よ 永久(とわ)に――――・・・・
END
『奇跡のその後』あとがき
はい、なんとか無事終わりました。 皆さんにつっこまれる前に、一つ言っておきます。 ラスト、気に入らない方がほとんどだと思われます。わたしも、ハッピーエンドが好きな方なので、その気持ちわかります。 ですが、今回のこのラストは譲れません。なぜなら、このラストが思い浮かんだことが、「流星の奇跡」の続編連載を始めるきっかけになったからです。 ラストだけは、始めから決まっていたということです。 ラストを読んで、この話しが嫌いになった…、というかた。一向に構いません。 どうぞ、嫌いになって下さい。そういう話にしたのは私ですし、その気持ち、わ らないわけではないので。 ですが、誰に何を言われようと、この話のラストはこれしかありません。 それが私の思い描く、一つの物語です。
流星の奇跡から始まったこの流星一族の物語。 私にとっては、初めてのFESS連載でした。連載開始当初は、ラストシーン以外なにも思い浮かばず、悪戦苦闘の毎日。(おおげさかも…) だけど、書き始めると、勝手にラクチェたちが動いてくれ、以外にすらすら書けるようになってきました。文章力、表現力、まだまだです。日々精進の心構えを忘れず、やってきたつもりですし、これからもやっていきます。どうぞ、よろしくお願いします。
FE聖戦の連載小説はしばらくないと思います。 10/25開始予定のFE烈火の長編小説連載がおわるまでは…。 またいつか、聖戦の連載をできたらなと、思っております。
では最後に、 「奇跡のその後」を最後まで読んでくださった皆様に心よりお礼申し上げます。 本当にありがとうございました。 皆様に、奇跡が舞い降りることを祈って、あとがきとさせて頂きます。
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[212 楼]
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Posted:2004-05-24 10:45| |
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