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雪之丞

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海蓝之钻(II)
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風吹き乱れる草原に


--------------------------------------------------------------------------------

砂漠を越えると、そこは見渡す限りの草原。

今までの暑さがウソだったように、風が吹き乱れる。

どこまでも続く緑の絨毯に、私は驚かずにはいられなかった。



「ここが、キュアンの国なのね」

風で乱れる髪を押さえながら、私は隣にいるキュアンに声をかけた。

「ああ。さあ、行こうか・・・」

と。キュアンは答えて馬を歩かせる。



シアルフィを発って3日。

イード砂漠を越えて、私は始めてレンスターの地を踏んだ。

青々と続く草は、見える所すべてに広がって、

風が吹けば、その草はいっせいに波打つ。

西から吹く乾いた風、それがレンスター特有の気候を作り出していた。

その気候のため、この国には珍しい生き物や草木があった。





「エスリン、城へ行く前に寄りたいところがあるんだが、行ってもいいか?」

「?? ええ、もちろん。かまわないわ」

私の返事を確認すると、キュアンは馬首を少し変えた。

私もその後に付いて歩いた。

「ねえ、どこへ向かっているの?」

「行けば分かるよ」

「??」

キュアンはどこへ向かっているのか、教えてくれなかった。



しばらく歩くと、お城が見えてきた。

「キュアン、あのお城は?」

「アルスター城だ。レンスターと同盟を結んでいる」

「あそこが目的地?」

私が尋ねると

「いや、はずれだ。あそこではない」

そう、答えるだけで、キュアンは相変わらず、なにも教えてはくれない。

アルスター城を通り過ぎて、私たちは馬を歩かせ続けた。



それから10分ほど経った頃、前方に何かが見えてきた。

遠くて、ここからでは何なのかはっきりとは分からない。

ただ、大きな石のようなものが見えていた。

私は黙って、キュアンについて歩いた。



キュアンの目的地はそこだったらしく、近くまで来ると、キュアンは馬から降りた。

私も、馬から降りて、キュアンについていった。

「ここ・・・お墓?」

私が呟いた言葉に、キュアンは頷いて、

「レンスター王家の墓だ。母上が、ここにいらっしゃる・・・」

「え?だって・・・キュアンのお母様は生きていらっしゃるでしょう?」

「今の母上は育ての親。俺を生んでくださった母上はここに眠っていらっしゃる」

キュアンはそう答えると、黙って墓を見つめた。

「そう・・・だったんだ」

私も、墓石を眺めた。

石には“レンスター王家”と、大きく彫られており、

その下には名前がたくさんあった。

一番したに彫られている名前がキュアンのお母様だろうか?

キュアンに尋ねてみた。すると・・・

「そうだ、それが母上の名前だよ」

「なんて読むの?特別な字で彫られてるわよね?」

「アルテナル・・・“アルテナル・ロレル・フォン”それが母上の名前だ」

「アルテナル様・・・」

「母上は、もともと体が弱かったらしい。それなのに俺を無理して生んだから・・・

寿命を縮めてしまったんだ。俺が一歳になった頃に亡くなったらしい」

キュアンはお墓を眺めたままそう言った。

「お母様のことは覚えているの?」

「・・・」

黙って、首を横に振った。

「そう・・・」

言葉か途絶えた。

しばしの沈黙―――――

その後、口を開いたのはキュアンの方だった。

キュアンは、お墓に語りかけるように話す。



「母上・・・。今日は報告に参りました。

・・・私は、ここに居るエスリンと・・・」

そう言うと、キュアンは私の肩をつかんで引き寄せた。

「エスリンと、結婚することになりました。

母上に、一目合わせたくて・・・ここへ参りました・・・」

「キュアン・・・?」

私が声をかけると、キュアンは視線を私の方へ向けた。

「命をかけて俺を生んでくれた母上に、君を一番に紹介したかったんだ・・・」

そう言って、微笑んだ。

私も、その笑顔に答えるように微笑み返した。

そして、キュアンには聞こえない声で言ったの。

(お母様、これからは私がキュアンを守っていきます。ずっとそばで・・・永遠に・・・)



その時、急に強い風が吹いた。

辺りの草が舞い上がる、そしてそれは墓石の上に落ちた。

私はその風が、キュアンのお母様の返事なんだと・・・そう思った。









乾いた風が吹き乱れるこのレンスターの地に・・・

いつか・・・

キュアンと私、二人揃って眠れること願って・・・

私たちはお墓をあとにした。





END



--------------------------------------------------------------------------------
あとがき
当サイト10000hitをゲットされた、志幸様のリクエスト作品です。
キュアンとエスリンは初めて書くので楽しかったです。
二人がレンスターの地で眠ることは・・・できない、ですよね(;;)
二人の運\命を知っているだけに、最後の部分を書くのはかなり苦しかったです。
でもエスリンだって、嫁いできた当初は、レンスターの大地に
いつかキュアンと二人で永遠の眠りにつくことを願っていたでしょう。
それが叶うことはないのですが・・・。
志幸様、いかがだったでしょうか?
表現力、文章力はこれが限界でして・・・申しわけありません。
すこしでも気に入っていただければ幸いです。
この度は、キリバン報告をしてくださってありがとうございました。
踏み逃げされるかも・・・と、内心不安でしたが・・・本当に感謝です(^^)
重ねがさね、お礼申し上げます。
<2003年5月28日 海乃アナゴ>



[220 楼] | Posted:2004-05-24 10:59| 顶端
雪之丞

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海蓝之钻(II)
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ここに永遠の愛を


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グランベル王国の王都バーハラ。

皇帝セリスの宮があるその都では、盛大な祭りが執り行われていた。



今日は聖戦からちょうど5年。

『平和な時代に感謝せよ』それが祭りの名目。

だが、それは表向きのこと。実際は他に理由があった。







城のバルコニーから、若き皇帝セリスは眼下を見渡していた。

祭りで賑わう人々の列は、波のようにざわざわと流れる。

何かイベントが始まると、一瞬波は動きを止め、

人々の視線はそこに集中する。

そして数秒後、またその波は流れ出す。

その様子をずっと眺めていたセリスは、後ろから声をかけられ

視線を背後へ移した。

「ラクチェ」

そこに立っていた少女の名を呼ぶ。

少女といっても、すでに一児の母である。

イザーク特有のシャープな雰囲気と、母親が持つ優しいオーラ。

すでに少女ではなく、一人の大人の女性であった。

「まだ来ませんか?」

微笑みながら夫に問うラクチェ。

「うん、まだみたいだ・・・」

そう返事をして、セリスはまた人々を眺めた。

ラクチェは隣に寄り添い、同じく眼下を眺める。

二人はなにも言葉を交わさず、人々の賑わう声を聞きながら、それを眺めていた。



しばらくして、人々の波が左右に別れ始めた。

中央に道ができる。

その道の遥か先、ちょうど王都の入り口付近に、馬車が一台。

イザーク王室の紋章を掲げ、この城へ向かって走ってきていた。

「あ、来た」

セリスが言葉をこぼす。

ラクチェはクスクス笑いながら、「知らせてきますね」と言うと、

城内に消えていった。

セリスは再び城下に視線を戻し、こちらへ向かってくる馬車を見つめながら言った。

「遅いじゃないか・・・スカサハ・・・」







さて、城内へ消えたラクチェはというと、

城の最上階にある自室の、隣の部屋へと向かっていた。

トントン

ドアをノックする。

すると中から、妖精のような透き通った、けれどしっかりとした声が答えた。

「はい」

声と共にドアが開かれる。

「ラクチェお姉様?」

ニコニコと笑うラクチェに、疑問符を浮かべながら首をかしげる。

「着いたわよ」

「え?」

「スカサハがこの城へ着いたの!」

「え・・・本当ですか!?」

たちまち表情が明るくなる。

「あのね~こんなたちの悪いウソ言うわけないでしょ!」

「あ、ごめんなさい」

「ほら、もう城門に着いてるわよ。行ってきなさい」

「はい!!」

ラクチェに促され、少女は階段のあるフロアへと駆け出した。



その頃、すでに城内へ案内されていたスカサハは

セリスと言葉を交わしていた。

そこへ、飛び込んできた声。

「スカサハ!!」

呼ばれて振り向く。

「ユリア!!」

階段を駆け下りてきて、そのままスカサハの胸に飛び込むユリア。

そのユリアを優しく抱きとめるスカサハ。

その様子に、周りにいた兵士は驚いた。

この国で二人の仲を知っているのは皇帝と皇后のみ。

まさかユリアに恋人がいるとは思わなかった兵士たちは、戸惑いを隠せない。

だが、そんなことは二人には関係なかった。

5年ぶりに会うスカサハとユリア。

離れていた5年の空白を、埋めるかのように強く抱きしめ合う。

「遅くなってごめん。迎えに来たから」

「スカサハ・・・」

しばらく、抱きしめあっていた二人は、少し離れると。

「指輪・・・つけてくれてるんだな」

「これをあなただと思って、ずっと待っていたのよ」

涙の滲んだ瞳が、スカサハを見上げる。

「ごめんな、遅くなって。」

「ううん。あなたは迎えに来てくれると約束してくれたから・・・

だから、だから全然平気・・・」

先ほど流れた涙の跡を、新たな雫が伝う。

スカサハは、その雫を指で拭き取り、そしてユリアの瞳を見つめた。

あの別れの日とは、比べものにならないぐらい伸びた髪。

すこし大人びた視線。

そして、流れることを止めない涙を見て、5年という月日の長さを実感する。

“平気”と言っていた。けれど、その涙は

自分を待って、辛い日々を送ってきた証。

部屋でただ、自分を待つそのユリアの様子を想像するだけで

スカサハの胸は、誰かに強く掴まれたように痛かった。



見上げてくる、その瞳に・・

スカサハも見つめ返して思いを通わせる。

少しして、視線をユリアの指輪をはめた手へと移したスカサハは、

その手を取って跪くと、

「俺と、結婚してください。共にイザークへ・・・」

瞳を大きく開かせるユリア。

涙は、さっきのそれよりも大きな雫となって床に落ちた。

数秒の後、ユリアは再びスカサハに抱きつくと、

「はい・・・はい。あなたと一緒に・・・どこへでも・・・」

返事を聞き、スカサハは微笑むと、

ユリアをギュっと抱きしめた。





ユリアが少し落ち着いてきた頃、ラクチェは二人に声をかける。

「お二人さん。ラブシーンはそのぐらいにしてもらえない?」

久しぶりに聞く、双子の妹の声にスカサハは答える。

「ラクチェ、少しぐらい気を遣えよ・・・」

「そうしたいんだけどね・・・。周りを見てくれる?」

言われて、周囲を見渡す二人・・・。

「な、なんだ?」

「??」

兵士があちらこちらで倒れている。

魂の抜けた者もいるだろうか・・・。

「ラクチェ・・・?」

この異常な様子の答えを求めて、スカサハは妹の名を口にする。

「ユリアに恋人がいたから、ショックで倒れてるのよ。

スカサハがもう少し遅かったら・・・ユリアはここの誰かと結婚する羽目に

なっていたかもね」

冗談っぽく言う。

「ついでに・・・どうして今日のお祭りが

『平和な時代に感謝せよ』という名目なのかわかる?」

「いや?」

「この城内の状態が、国の独身男どもに起こってはいけないから。

『皇妹ユリア婚約パーティー』には出来なかったの」

ラクチェの答えに、スカサハは一度周りを見渡し、そして。

「なるほど」

と言って、大きく頷いた。















それから一月後、ユリアはイザーク入りを果たす。

シャナン王、その他大勢の人々に暖かく迎えられ、

さらに二月後、二人はイザーク城で、結婚式を執り行い

ここに、永遠の愛を誓った。

















END


--------------------------------------------------------------------------------

あとがき
第二回カップリング投票、一位に輝きましたスカサハ×ユリア。
いかがだったでしょうか?
これはですね、『恋のプロローグ(出会い編)』『共に在るための約束(別れ編)』
『ここに永遠の愛を』の順で読んでいただければ、よりいっそう楽しめるかと思われます。
べつにこれだけでも十分ですけどね・・・。

投票にご協力くださった皆様、本当にありがとうございました。
第三回投票はマイナーカップルのみの投票となっています。
そちらの方もよろしくお願いします。



[221 楼] | Posted:2004-05-24 11:00| 顶端
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君に会いに
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「ちょっと・・・また怪我したの!?」



信じられない、といった様子でラナは言った。

手に持っていたライブの杖も落として・・・。

「なんだよ、その顔・・・」

「何回目?!最近、毎日欠かさずここへきてるじゃない」

ラナはライブの杖を拾いながら言う。

「あのな~好きで来てるわけじゃないんだぞ?

俺は戦場に出てるんだからな・・・ったく、母上に似てうるさい・・・」

「お兄ちゃ~ん?それ、お母様に言うわよ~」

そういいながらラナは詰め寄る。

「な・・・」

少しずつ後ろへ下がっていったレスターは、後方の椅子に足があたり、

そのまま座る形になった。

「本当に・・・もうちょっとケガをしない戦い方はできなの?」

「なんだよそれ・・・」

「セリス様や、スカサハ、あのラクチェだって滅多にここへは来ないわよ?」

兄にライブをかけながら、ラナは続けた。

「そんなこと言われてもな~、仕方ないだろ?」

「心配・・・なのよ・・・」

「ラナ・・・?」

「ライブの杖が壊れないか・・・・」

「そっちかよ・・・。なんの心配してんだよ・・・兄の心配をしろ、兄の!!」

そう言いながら、治療が終わり、立ち上がりながらレスターは

台の上に置いていた弓を手に取ると、矢筒を肩からかけ

テントから出ようとした。

が、レスターはテントの入り口で見知った人に会い、立ち止まった。

「セティ様?そんなところでなにをなさっているのですか?」

声をかけられ、慌てて振り返るセティ。



「いや・・・その、怪我をしたのでここへ来たのだが・・・

ラナさんがすごいことを言っていたので入りにくくなって・・・」

するとラナは慌てて飛び出てきた。

「セティ様、今のはお兄ちゃんに言っただけです!セティ様はお気になさらず!!」

「そ・・・そうですか?では・・・」

セティはレスターの顔色を窺いながら、テントの中へ入っていった。







セティがなぜこんな態度を取るのかというと、

彼もまた、最近ここへよく来る人間の一人なのだ。

だから、ラナがレスターに言っていた台詞は、全てセティにも当てはまることだった。

それを聞いてしまっては、テントへ入ることはできない。

それで、どうしたらいいのか悩んでいるうちに、テントからレスターが出てきてしまった

のだった。



「これは・・・ひどいですね。だいぶ痛みますか?」

「少し・・・」

「ライブでは時間がかかりますね。ユリアに頼んでリライブをかけてもらっ」

「ライブでいいですよ!」

ラナの言葉を、セティは慌てて遮った。

「? でも時間がかかったら、それだけ痛みも我慢しなければいけないのですよ?」

そう言いながら、ライブの杖を手に取った。

「それでかまわない・・・」

セティの返事を確認すると、ラナはライブの杖を翳した。

目を瞑り、一心に祈る。

杖にはめられた水晶玉から光があふれ出すと、光はセティを包み始めた。

そして、徐々に傷口を塞いでゆく。



数分後、ラナは翳していた杖を降ろした。

「ふう・・・。終わりました、痛みはありませんか?」

セティに問うラナ。

「ああ、大丈夫だ、ありがとう」

セティはそう言って、微笑んで見せた。

ラナは、それにポ…っと、頬を赤く染める。

その顔を隠すように後ろを向くと

「で、でも…珍しいですね。セティ様がこんなお怪我をするなんて・・・」

「え?あ~・・・うん。ちょっと考え事をしていたら、弓兵に気づかなくて・・・」

するとラナは、パッと振り返って、

「だめじゃないですか!!戦場で考え事なんて!!もし、もし命を落とすようなことがあ

ったら・・・わたし・・・わたし・・・」

「ラナさん?」

俯いてしまったラナに歩み寄り、声をかけるセティ。

ラナは側に来たセティを見上げて言った。

「あの・・・この間の返事・・・今してもよろしいですか?」

「え?・・・あ、ああ、かまわないよ」



数日前のある日。その日もセティはラナのいるテントへ来ていた。

かすり傷程度の怪我だったのだが、セティはそれを口実に、実はラナに話をしに来たのだ。

そして、戻っていく間際にセティは言った。

「あなたが好きです。つきあってもらえませんか?」・・・と。

その後も、セティは毎日ラナのところへ通った。

別に返事の催促にきているわけでもなく、だたラナに会いに。

そんなセティを、ラナもイヤだとは思わず、いつしか彼が来るのを待っているようになっ

ていた。






風が吹いて、テントの入り口の布が舞い上がった。

二人は同時にそれに目を向ける。

そして、また向き合うと・・・

ラナは、懸命に言葉を捜して・・・俯きながら話し始めた。

「えっと・・・その、この間のセティ様のおっしゃったこと、とても嬉しくて・・・

でも、その・・・すごく驚いて・・・。今まで。お返事できなかったのですが・・・」

セティは黙ってラナを見つめていた。

ラナそこで言葉を止めると、顔を上げてセティを見た。

そして・・・

「私、あなたが好きです。だから・・・その・・・よろしくお願いします!!」

そう言って、頭を下げた。

そんなラナを見て、セティはラナの肩に手を置くと

「頭をさげることはない。私が先にあなたにお願いしたのですよ?」

そう言って、ニコリと笑い、言葉を付け足した。

「でも、とても嬉しい返事です。こちらこそ、よろしく」

ラナもセティの笑顔につられて笑うと、

そっと、セティ胸に抱きついた。

セティはそんなラナの頭を優しく撫でて、そして抱きしめた。









END


--------------------------------------------------------------------------------

あとがき
セティ×ラナ大好きです!!
なのに小説一作も書いてなかったのはなぜ?(しらねーよ…)
ラナとセティ、どちらが先に好きになるのか悩みましたが・・・
海乃はやはり男性から告白するのが好みなので・・・
セティ様に頑張ってもらいました(^^)





遠き日の思い出は


--------------------------------------------------------------------------------

「エーディン様」

自分の名を呼ばれ、彼女は振り返った。

「あら、ミデェール!久しぶりね」

そう言いながら、何かを編んでいた手を止めた。

「本当ですね。同じイザークにいながら、前にお会いしたのが2年も前だなんて」

クスクスと笑い、「そうね」と言って、エーディンはまた編み物を始めた。



「何を編んでいらっしゃるのですか?」

「もうすぐ冬が来るでしょう?ジェダにセーターを編んであげようと思って」

「なるほど・・・」





ジェダとは、レスターとマナの子供。エーディンの初孫だった。

聖戦後、レスターは父の祖国を立て直すため、恋人のマナを連れて

ウェルダンへ向かった。

マナはミディールとイザーク人の女性との間にできた子供。

エーディンと一緒にイザークへ逃れたミデェールは、イザークの女性と結婚し、

子供も二人授かっていた。



「そう言えば、ラナ様ももうすぐ二人目をご出産なさるとか」

「そうなのよ、それも、どうやら双子らしいのよ」

エーディンは微笑みながら言った。

「双子ですか?シレジアはもう冬でしょう?大変ですね」

「そうね。私も行ってあげたいけど、セティ様が気を遣ってしまわれるから・・・」

そう言いながら、せっせと編み物をする。

楽しそうに、孫のセーターを編んでいる姿は、とても輝いていた。

「時が経つのは早い・・・ですね」

ミデェールは、編み物をするエーディンを見つめながら言った。

「・・・そうね。私もいつの間にか3人の孫のおばあちゃん。

もうすぐ、5人に増えるし」

「何があっても・・・時間というものは止まることはない・・・ですね」

二人の思いは25年前のバーハラへと飛んでいた。









これで戦いは終わる。

そう思ってバーハラへ向かったシグルド軍。

けれど、そこで待っていたのは裏切りだった。

この時、既にエーディンはイザークへ向かっていた。

ミデェールはブリギッドの護衛として、共にバーハラへ赴いた。

指揮官シグルドの死亡を確認する前に、彼らはバラバラになった。

空から降る大量の赤い雨。

周囲を地獄と化する、炎の玉。

皆、ちりじりになりながら、それでも生きるために戦い、あるいは逃げた。

いつか、かならず・・・平和を手に入れるため・・・。









その平和は、シグルドの息子。

現グランベル皇帝の手によってもたらされた。

17年間、イザークで力をつけたセリスは、今から8年前に

イザークの辺境ティルナノグで挙兵した。

さまざまな、困難に立ち向かい

挙兵から3年後、異父兄弟のユリウスを倒し、平和は訪れた。

各国の主なものは、恋人と共に、祖国へ帰り、復興に力を注いだ。











聖戦から5年・・・。

本当に時が経つのは早いな・・・と、二人は思う。

ふと、エーディンが笑いをもらす。

「おかしなものよね。私や、ミデェールはグランベルで育ち、

そこで生活をしていた。だけど、今はイザークにいる。

そして、レスターとマナはウェルダン、ラナはシレジア・・・」

「グランベル・・・あそこにはいろんな思い出がありますね」

「ええ。ユングヴィンでの楽しい思い出・・・・バーハラでの悲しい思い出・・・」

エーディンは手を止め、立ち上がると、窓を開けた。

少し冷たい風がエーディンの髪を揺らす。

部屋の中に入ってきた風は、テーブルの上の紙を舞い上がらせた。

ミデェールがそれを拾う。

「あら、ごめんなさい。ありがとう・・・」

エーディンはそう言って、窓を半分閉めた。

「私たちは・・・私たちだけ、取り残されているのかもしれないわね」

「??」

「25年前の出来事。忘れてはいけない・・・だけど、それに縛られている気がする」

「そうかもしれません・・・」

「子供たちも、きっとあの戦いでいろんな出来事にでくわし、辛い思いをしたはず。

だけど、それにとらわれることなく・・・今を懸命に生きている。」

「見習わなければいけませんね・・・」

ミデェールが言うと、エーディンは

「ええ」

と言って、先ほどの椅子に腰を降ろした。

そしてまた、編み物を再開させる。

















どうしても、グランベル――――――ユングヴィンを尋ねることができない二人。

楽しい思い出と、悲しい辛い思い出のある祖国。



いつの日か、帰ることが出来るだろうかと

二人は心の中で呟いた。





END





--------------------------------------------------------------------------------

あとがき
ミデェールとエーディンの語らい。
グランベルへ帰ると、どうしても辛いほうの思い出を思い出してしまう。
だから、イザークを離れることができない二人。
いつか、「久しぶりに、帰ってみましょうか?」と、
ミデェールの奥さんと3人で、小旅行できればいいなあと思います。



[222 楼] | Posted:2004-05-24 11:01| 顶端
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恋のプロローグ


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愛剣を腰に掛け、自分に当てられたテントから青年が駆け出てきた。

「スカサハ、何をそんなに急いでるの?」

双子の妹に声をかけられ、スカサハは立ち止まった。

「ラクチェ。セリス様に呼ばれてるんだよ」

「? 何かあったの?!」

一瞬、表情が険しくなるラクチェ。

「いや、違うらしい・・・」

「ふ~ん。じゃあ、何かしたんじゃない?スカサハ」

「・・・・」

「スカサハ?」

何か思い当たることがあるらしいスカサハは、だんだん真っ青になっていった。

ラクチェと別れて、セリスのテントへ向かうスカサハの頭は

いろんなことが溢れかえっていた。

あれのことだろうか?それともあの事?もしかしてあれか?

とにかく思い当たること全部を思い浮かべる。

何度もため息をつきながら、やっとスカサハはセリスのテントに到着した。



深く深呼吸して、声をかける。

「セリス様、スカサハですが・・・」

「入っていいよスカサハ」

セリスの返事を聞いて、スカサハは中へ入った。

「あの~」

スカサハが顔を上げると、中にはセリスともう一人、見たことが無い少女が立っていた。

紫水晶のような瞳に、髪。すらっと伸びた手と足。

美しいとはこういう少女のことを言うのだろうと思った。

「スカサハ?」

あまりの美しさに我を失っていたスカサハは、ハっとセリスの方を見た。

「いえ、あの・・・何か御用でしょうか?」

セリスは、隣に居た少女を前へ出すと、

「この子はユリア。レヴィン王からお預かりした。君に、彼女の護衛を頼みたいのだが・・・」

「?俺・・・ですか?」

「イヤかい?」

「いえ、そういうわけではありませんが・・・いいのですか俺で?

レヴィン様からお預かりしたのなら、もっとしっかりとした方に護衛を頼んだほうが・・・」

スカサハは少女――――――ユリアを見ながらそう言った。

「だから君に頼むんだよ」

ニコリと笑って、セリスは返した。













「あの・・・スカサハさん?」

ユリアとスカサハはセリスのテントを出て、歩いていた。

ユリアのことを考えていたスカサハは本人に声をかけられて、内心焦った。

「え?あ~何だい?」

必死に、平常心を装う。

「えっと・・・よろしくお願いします」

ペコリと頭を下げるユリア。

「こちらこそ、よろしく。ユリア」

微笑むと、ユリアも微笑み返してくれた。

「じゃあ、仲間を紹介するから、こっちに来て」

「あ、はい」

テッテッテと、スカサハの後を追うユリア。

スカサハはユリアにペースを合わせて歩いた。







この時間なら、皆んなあそこにいるだろうと判断したスカサハは

ユリアを連れて、オイフェのテントへ向かった。

予想通り、ティルナノグの幼馴染たちはそこに集まっていた。

スカサハの隣にいる見慣れない少女に、いち早く気がついたのは妹のラクチェ。

「スカサハ、誰その子?」

「紹介するよ・・・彼女は・・・」

ユリアを紹介しようとしたスカサハの言葉を遮ったのはデルムッド。

「なんだよスカサハ!彼女か?かわいい子だな~」

次に飛びついてきたのは、言うまでもなくラクチェ。

「え?!彼女?スカサハ、彼女なんていたの??」

「違う・・・」

「なんだよ照れるなよ」

と、からかうのはレスター。

「お兄ちゃん、性格悪いよ」

と、口では言うが、楽しそうに、にこにこ笑っているのはラナ。

「違うって言ってるだろ!」

「まあまあ、スカサハ」

そう言って、ユリアに声をかけたのはラクチェだった。

「あなた名前は?」

「あ、ユリアといいます」

「ユリアね。OK、覚えたわ。スカサハはあんな奴だけど

いざって時は役に立つから。盾にでもなんでもつかってちょうだい!」

「は・・・あ・・・」

「ラクチェ、いい加減にしろよ!ユリアはせ・・・」

「セリス様に頼まれたのでしょう?この子の護衛。レヴィン様から預かったとか・・」

「???」

「オイフェさんから聞いたのよ」

そう言って、ニッコリ笑うラクチェ。その後ろで、デルムッドやレスターも笑っていた。

「お前ら・・・俺をからかったなぁぁぁぁぁ!?」

怒るスカサハから逃げるように、デルムッドとレスターはテントから出ていった。

そこに残っているのはラナと妹のラクチェ。

「スカサハからかうと面白いからね」

恐れずなんでも言うところは、さすが妹だなとラナは思った。

まだ兄をからかうラクチェと、妹にからかわれているスカサハを横目に

ラナはユリアに声をかけた。

「初めまして。私はラナよ。あそこにいるのがスカサハの妹ラクチェ。

さっき出て行った二人のうち、青い髪のほうが私の兄のレスター。

もう一人がデルムッドよ。いつも、こんなふうに賑やかだから・・・ちょっとうるさいけど我慢してね」

「あ、はい。よろしくお願いします」

「私たちは戦闘には直接参加しないから、一緒にいる時間が増えると思うの。

仲良くしましょうね」

「はい!」

ユリアが答えた時、スカサハの声が響いた。

「ラクチェ、お前、俺を誰だと思ってるんだ?!」

「誰って、スカサハじゃない!」

「俺はお前の兄だぞ!」

「双子だから関係ないわよ。ちょっと早く生まれたからって偉そうに

兄貴ぶらないでよ!」

「は?俺がいつ偉そうにしたんだよ!」

「たった今よ!」

言い争う二人を、ラナとユリアはクスクス笑いながら眺めていた。



















こうして出会ったスカサハとユリア。

二人はまだ気づいていなかった。

心の中にできた『恋』という名の種。

その種が花開くのは、もう少し先の話し・・・。









END





--------------------------------------------------------------------------------

あとがき
スカサハ×ユリア第二弾ですね。
今回はイザークでの出会い編。まだお互い、恋のお相手としては意識していません。
これから二人は、どのようにして想いを通わせていくのでしょうか?
海乃は個人的に、双子の喧嘩が気に入ってます(^^;





記念日の我侭


--------------------------------------------------------------------------------

「はぁーーー!!」

キーンと、剣と剣がぶつかる音がする。

静かな森の中、その音と、荒い息使いだけが響いていた。

黒\髪の剣士が二人、剣を握り向かい合っている。

一人は腰の当たりまで髪を伸ばしていて、もう一人は両脇だけを残して、

動きやすいショートヘアだった。

息使いが荒いのはショートヘアの少女。

対するロングヘアの男は余裕の笑みを浮かべていた。



「もう降参か?」

剣を握ったまま一瞬動きが止まった少女を見て、男は言った。

「はぁ・・・まだ・・・まだまだです!!!」

そう答えるなり、剣を構えて飛びかった。

男は、少女の渾身の一撃をヒラリと軽くかわし、

手に在る剣を少女の首元へ突き出し、ぎりぎり触れる寸前でそれを止めた。

少女の荒い息だけが聞こえる。

「はあ・・・はあ・・・」

「今日は諦めろ。明日、また相手をしてやる」

男はそう言うと、少女が握っている剣を片づけようとした――――が、しかし

「イヤです!」

少女は再び剣を握り構えた。

肩で息をする少女を見て、男は言った。

「ラクチェ、今日はもう無理だ、明日にしなさい」

「イヤです」と言いながら、首を横に振る。

「ラクチェ」

「シャナン様から一本取るまで、今日は休みません!!」

言い終わると同時に、再びラクチェは飛びかかった。

キーーンッ!

シャナンはラクチェの一撃を剣で受け止めた。

その一撃には、先ほどまでの重さが感じられなかった。ラクチェの疲労がピークに達して

いるのだ。

シャナンは仕方なく、強行手段に出た。

思い切りラクチェの剣を押し返し、そしてすぐに、下からすくいあげるように

剣を弾く。

ラクチェはあまりの衝撃に耐え切れなくなり、剣を離してしまった。

「っ・・・」

右手首に強い衝撃を受けたラクチェは、手首を押さながらその場に座り込んだ。

シャナンは飛んでいったラクチェの剣を拾うと、それをラクチェへ渡した。

「分かっただろう?今日は、無理だ」

差し出された愛剣をラクチェは無言で受け取った。

シャナンがその場を立ち去ろうとすると、ラクチェはまた剣を構えた。

「いい加減にしろ!」

シャナンの厳しい声が飛ぶ。ラクチェは一瞬ビクリとした。

だが無言のまま、シャナンの目を見つめるラクチェ。剣は構えたままだった。

「なぜそこまで無理をするんだ?」

シャナンはため息をこぼし、尋ねた。

「私のお願いを聞いてもらうためです。」

「あれは、明日でもいいだろう・・・」

「いいえ、今日でなければいけません」

「なぜ?」

「・・・・・・覚えていらっしゃらないのですか?」

「何をだ?」

シャナンの返事にラクチェは驚いた。

「覚えていないのですね・・・」

「ラクチェ?」

ラクチェは握っていた剣を振り上げ、

「もう。いいです!!」

言うと、剣を地面に投げつけ、その場を走り去っていった。

何がなんだか分からなく呆気にとられたシャナンは、ハッと我に返ると

まずは追いかけなければと思い、ラクチェが走り去った方へ駆け出した。







ラクチェは振り返って後ろを確認する。

シャナンが追いかけて来てくれないことに気づき、ショックを受けた。

足を止め、側にあった切り株に腰を下ろす。

少し冷たい風が、頬を撫でて通り過ぎ、両脇の髪を揺らした。

風で揺れる髪をじっと見つめていると、後ろでカサッと音がした。

振り返ると、そこにはシャナンが立っていた。

「ラクチェ、いった今日はなんだというのだ?」

「もう、いいです・・・」

ラクチェは視線をシャナンから逸らした。

「ラクチェ!」

「・・・」

立ち上がりラクチェはそこを離れようとした。が、シャナンに腕を掴まれて動けない。

「離してください」

「イヤだ。お前が訳を話すまで、離さない」

するとラクチェはシャナンの目を見て、そして震える声で言った。

「今日は・・・シャナン様と私が・・・付き合いだして丁度一年じゃないですか!

大切な記念日です!!」

言われてシャナンは思い出した。

確かに一年前、イード神殿の辺りで、自分がラクチェに告白した。

思い出して一瞬、ラクチェを掴んでいた手の力が抜けてしまった。

ラクチェはそのスキを逃さず、シャナンの手を振り払った。

「シャナン様にとっては、どうでも良い日なのですね」

「ちが・・・」

言い訳を言おうとすりが、ラクチェはその間も与えてくれない。

「シャナン様は本当は、私のことなんてどうでもいいのではありませんか?

だから今日のことだっ・・・!!?」

シャナンはラクチェを抱きしめ、言葉を遮った。

「今日のことを忘れていたのは誤る。だが、今のは撤回しろ!」

「!?」

「どうでもいいなどとは思っていない」

「だったらどうして・・・」

すると、シャナンはラクチェから離れて、そして先ほどラクチェが投げつけた剣を

ラクチェに手渡すと、

「今日のことを忘れていたのは事実だ。だから、お前にもう一度チャンスをやる」

ラクチェは渡された剣をギュット握りしめた。

「俺はここから一歩も動かない。お前が、俺をここから動かすことが出来れば

お前の願いを叶えてやる。ただし、次の一撃で、だ。」

シャナンは剣を構えながら言う。

「もし、次の一撃で決まれなければ、今日は諦めろ」

その言葉にラクチェは頷いた。





対峙する二人。

風が吹き、一枚の葉が二人の間に舞い降りてきた。

その葉が地面に着地すると同時にラクチェはそれを合図として、シャナンに切りかかった。









キーーーンッ!!!!

剣のぶつかる音と共に

ザザッ!という音がした。

シャナンの右足がほんの少し動いたのだ。

それを確認したラクチェは

「やった!!」と言って、飛び上がった。

そんなラクチェの様子を見て、シャナンはフッとため息をもらし

「お前が勝ってくれなかったらどうしようかと思ったぞ」

と言うと

ラクチェの腕を引っ張って、自分の方へ引き寄せ

ラクチェの唇に、自分のそれを重ねた。

「!!」









暫くして唇を離すと

「お前の願いは叶えたぞ」

シャナンはそう言いながら微笑んでいた。

ラクチェも照れながら、微笑み返す。



「帰るか」

シャナンの言葉に、ラクチェはハイと答えると、落とした剣を拾って、

シャナンの隣へ並んだ。

側に駆け寄ってきたラクチェを確認して、歩き始めたシャナンは

少し小さな声で、ラクチェの顔を見ずに言った。









「キスをしろというのは、こんな日のお願いに使わず、普段の我侭の中に入れておけ・・・」







照れたシャナンの横顔を見ながら、ラクチェはクスリと笑い、返事をした。





「はい」











END


--------------------------------------------------------------------------------

あとがき
シャナン×ラクチェです。
一番好きなカップルだけに、すこし力が入りました。
しかもほぼ一週間ぶりのFE小説ですし・・・。
ラブラブ・・・まではいかないでしょうが、結構頑張って書きました。
甘々は書けないですね~・・・・え?十分甘々ですって?!



[223 楼] | Posted:2004-05-24 11:02| 顶端
雪之丞

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Decision


--------------------------------------------------------------------------------


「いよいよ、明日か・・・」

ため息をこぼし、夜空を仰いだ。

金色の長い髪が風に吹かれてサラサラと宙をおよぐ。

闇に捕まった星たちが、そこから逃れようと必死で輝いている。

それを視界に捉えながら、ブリギッドは夕刻の知らせを思い出していた。







シレジアの内乱を鎮圧したシグルド軍は、ザクソン城に留まり、

グランベルへ帰る機会を窺っていた。

ここからグランベルへ帰るには、リューベック城を通過しなければならない。

だが、そこにはランゴバルト卿が待機しており、うかつに進軍することはできなかった。

なんとかリューベックを避けて、帰国できないだろうかと審議を繰り返していた。

だが、ある知らせを受け、リューベックへ向かうことを余儀なくされた。

その知らせとは・・・



「アンドレイがこの城へ?!」

そう言って、座り込んでしまったのはエーディン。

「エーディン!」

ジャムカが慌てて側へ寄る。

とうとう、弟と戦うことになるのだと、エーディンはただ涙をこぼす。

そんな妹を視界の隅に捉えながら、ブリギッドはシグルドに言った。

「アンドレイの軍がこの辺りに到着するのはいつ頃だ?」

「おそらく、明日の正午・・・だろうな」

「時間はまだあるな・・・」

「時間?」

ブリギッドの言葉を不思議に思って、シグルドは問い返した。

「アンドレイと・・・弟と戦うための心の準備だ」

「まさか君も戦いに参加するつもりか!?今回は無理しなくていいんぞ?」

「私は出る。弟の罪は私の罪でもある。他の誰でもなく、この私が決着をつける!」

決意に満ちたその瞳に、シグルドもそれ以上なにも言えなかった。

側にいた彼女の夫ミデェールに、それでいいのかと尋ね、

だまって頷くミデェールを確認して、シグルドは明日の戦いの作戦会議を始めた。







「決着をつける・・・か」

自分が言ったことを、もう一度呟いた。

視界に映る星々は、今まで自分が手にかけてきた命の数なのだろうか?

そんなこと考えながら、

「決着・・・」

先ほどの言葉を繰り返した。



ふと、背後に気配を感じた。

「ミデェールか?」

「はい」

ブリギッドに歩み寄りながら答えた。

自分の隣に並んだ夫を見上げて、ブリギッドは言った。

「エーディンは私を恨むかもしれないね」

「なぜです?」

「私はアンドレイと過ごした記憶はない。だから、戦える・・・

だけどあの子は、ついこの間まで一緒に暮らしていたんだ。

自分の姉が、自分の弟を殺そうとしている・・・あの子が一番辛いだろうね」

ブリギッドは視線を夜空へと戻し、ミデェールの答えを待った。

けれど、一向に返事が返ってこない。ブリギッドは疑問に思い、夫の顔を見た。

ミデェールはとても辛そうな顔をしていた。

「なぜそんな顔をする?お前は、私がしようとしていることに反対なのか?」

ミデェールは羽織っていた上着をブリギッドにかけながら小さく言った。

「反対ですよ」

「!!」

なぜ?と、ブリギッドは瞳で訴える。

「アンドレイ様と戦って、一番辛い思いをするのは・・・ブリギッド様です」

「ミデェ?・・・」

「私は、あなたが辛い思いをするのが耐えられない。ですから、本当は・・・

明日はここで待機していてほしかった・・・」

そう言うと、すこし間を空けてそして微笑むと

「ですが、あなたは私が止めても考え直すことはしないでしょう?

だから、せめて側にいて、その辛さを一緒に背負ったら・・・あなたが楽になる。

そう思って、何も言わなかったのですよ」

ブリギッドはミデェールの優しい碧の瞳に映る自分の姿を見つめた。

「それに、エーディン様もきっと分かって下さいます。

自分の弟に武器を向けなければいけないあなたの気持ち・・・」

「ミデェール・・・」

ブリギッドの瞳から涙が溢れる。夫の胸に顔を押し当てて、声を出さずに泣いた。

ブリギッドが泣くところを初めて見たミデェールは、戸惑いながら、

それでもそっと抱きしめた。

「ブリギッド様・・・」

「ごめん・・・もう少しこのままで・・・」

ブリギッドは溢れる想いを必死で堪えた。



本当は戦いたくはない。

一緒に過ごした記憶はない。けれど、確かにアンドレイは自分の弟だ。

だけど、弟だからこそ・・・武器を向けるのは自分でなければいけない。

他の誰でもなく、自分が弟の罪を背負わなければいけない。

どうして弟が敵なのだろう?どうして自分は弟の敵なのだろう?

いままでずっと自問していた。だが、答えは返ってこなかった。

でも、もう答えなど必要ない。

ミデェールが一緒にいてくれる。

自分の気持ちを理解してくれる人がいる。

間違ったことなどしていないと言ってくれる人がいる。

それだけでブリギッドは楽になった。









明日までに心の準備をしなければいけない・・・そう思ってここに来た。

だが、一人になるとどうしても心が弱くなってしまう。

ブリギッドはミデェールが来てくれて良かったと、ミデェールの腕の温もりを感じながら

明日への覚悟を心に決めた。



END



--------------------------------------------------------------------------------

あとがき
藤崎様への贈り物として書きました。
ミディール×ブリギッドです。
弟と戦う前の日の夜。ブリ姉さんは初めて涙を見せました・・・。




共に在るための約束



--------------------------------------------------------------------------------

銀色の長い髪が、夜風に吹かれて空気を撫でる。

顔にかかる髪を押さえて、夜空を仰いだ。



彼と出会ってもうすぐ二年。

激しい争いの中、いつも側で守ってくれていた彼に、恋をしたのは一年半前。

そして両想いになったのが一年前。

一緒に笑って、悲しんで。

辛いことも、一緒に乗\り越えてきた。





彼がいなければ、彼女は兄と戦う勇気も持たぬまま

きっと逃げて、逃げて、逃げ続けて・・・そして今頃は後悔していたに違いない。

だけど、彼は一緒にいてくれた。そばで見守ってくれた。

兄殺しの罪を、一緒に背負ってくれると、言ってくれた。



共に手を取り合い、ここまで歩いてきた二人。











だけど、運\命(さだめ)は残酷だった。

二人に、別々の道を用意している。

共に歩むことを、妨げる。





けれど、そんな運\命(さだめ)に負ける二人ではなかった。









後ろから足音が聞こえて、彼女は振り返った。

「スカサハ・・・」

優しく微笑み、スカサハは答える。

「早いな、ユリア。約束の時間はまだなのに・・・」

「スカサハこそ」

二人はお互いの顔を見て、笑いあった。



「明日・・・帰ってしまうのですね」

「うん。シャナン様をお助けしたいから・・・」

ユリアは笑って言う。

「シャナン様にはスカサハの力が必要です。イザークで頑張って下さいね。」

スカサハには、その笑顔がウソだと分かった。

けれど、かける言葉が思いつかない。

するとユリアは

「イザークは、私たちが初めて出会った場所・・・ですね」

風が吹いて、ユリアの髪がスカサハの顔を撫でていた。

その髪の感触を感じながら、スカサハは答える。

「イザークで、出会ったんだよな。あれからもう二年か・・・」

「スカサハはいつも私を、守ってくれた。

どんな危険な時でも、いつも側で、あなたは守ってくれた・・・」

ユリアの瞳から、涙が溢れてきた。

ここで、泣いてはいけない。

ちゃんと笑顔で見送ってあげなくちゃいけない。

そう思って、ユリアは涙を止めようとする。だけど・・・

一度こぼれてしまった本音を、涙を、止めるのは困難だった。

スカサハはユリアの頭をそっと自分の胸に引き寄せた。

そして、優しく頭を撫でながら

「必ず、迎えに行くから。だから待っていてほしい」

ユリアは驚いて、顔を上げた。涙は止まっていた。

大きな瞳がスカサハを捉える。

スカサハはユリアの瞳に映った自分を見つめながら

「いつか、イザークで一緒に暮らそう」

そう、言った。

ユリアは、その大きな瞳をさらに見開き

じっとスカサハを見つめる。

せっかく止まった涙が、また溢れ出した。

「待っててくれるかい?」

スカサハの言葉に、ユリアは無言で何度も頷く。

そんなユリアを愛おしく見つめながら、スカサハは彼女の手を取った。

「?」

ユリアは不思議に思い、けれどされるがままに手をスカサハの手に預ける。

スカサハはもう片方の手で、ポケットから何かを取り出した。

そしてそれを、ユリアの指に・・・

「!!」

自分の指に光るそれを見て、ユリアはスカサハの顔を見上げた。

「約束の証。婚約指輪・・・・とまでは言えないけど、それを持っていてほしい」

「スカサハ・・・」

「いつか、ちゃんとした物をあげるから・・・今はそれで我慢してくれよ!」

照れながら、スカサハは言った。

ユリアは首を横に振って

「うれしい・・・・ありがとう」

指輪が光る手を、胸の前でギュッと抱きしめた。

スカサハはユリアを抱きしめ、そして・・・





「どんなに離れていても、君のことを愛してるから・・・」

ユリアも暖かい腕の中で、指に光るそれを見つめながら

「私も、あなたを愛してます。ずっと、待っています」









小さく囁かれた二人の言葉は、夜風に溶けて、そして空へと消えた。





END





--------------------------------------------------------------------------------

あとがき
スカサハ×ユリア、バーハラでのお別れシーンですね。
ユリアは誰とくっついても、恋人と離れてしますから可哀想。
でも、きっと・・こんな感じで約束して、そして何年か後には王子様が迎えに来て
幸せになるのでしょう。
第一回カップリング投票で、海乃が気になったコメントから考えました。



[224 楼] | Posted:2004-05-24 11:02| 顶端
雪之丞

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The noticed love


--------------------------------------------------------------------------------

最近ナンナの様子が変だ。
そう思ったのはコノートを制圧した頃だった。


「あ、ナンナ!」
ナンナを見つけて、声をかけても・・・
「リーフ様・・・あの、ごめんなさい。今、忙しいので後で」
そう言って、去ってしまう。
始めの頃は、ただ単に忙しいのだと思って邪魔しないようにしていた。
だけど、何日もそういう態度を取られたら、さすがにおかしいと思う。
フィンに、何か知らないかと聞いてみたが、彼は首を横に振るだけだった。
父親のフィンには、いつもどおりのナンナにしか見えないらしい。
でも、僕には分かる。何か・・・隠してる。





そんな頃だった、その現場を目撃したのは―――――
マンスターへ向けて、進軍している時。
ふと隣にナンナがいないことに気がついて、辺りを見渡した。
フィン、セリスはいる、だけどナンナは・・・近くにはいなかった。
僕はセリスと一緒に軍の先頭にいたが、セリスに許可を貰って、その場を離れた。
もちろん、ナンナを探すために。
前からずっと、順に探す。だけど、どこにもナンナはいない。
軍の最後尾辺りまで来たが、この辺にいるはずはないと、
先頭へ戻ろうとした時だった。
「え~なにそれアレス」
ナンナの楽しそうな声が耳に入ってきた。
もう一度、最後尾を見た・・・。
すると、軍の殿を務めている、アレスとデルムッドの間に
楽しそうに笑っているナンナがいたんだ。
デルムッドはナンナの兄だから、気にならなかったけど・・・
なんでアレスも?
そう思ったら、なんだか急に胸が苦しくなった。
普通に声をかけて、話しに混ざれば良かったのに・・・
僕はそのまま声をかけず、セリスのところへ戻ったんだ・・・。




僕が声をかけても、「忙しい」と言って、避けるのに
なぜアレスと、あんなに楽しそうに話すんだ?
そんなこと考えながらセリスのところへ戻ったら
「リーフ、何かあったのか?今、怖い顔してたよ?」
その言葉で、我に返った僕は
必死で笑顔を作って「なんでもない」、そう言った。
うまく笑えてたのかな?セリスは納得してくれたみたいだった。




それを見た日から、ナンナに声をかけるのが怖くなったんだ。
その時の僕には、何が怖いのか分からなかった。
ただ『怖い』それだけで、ナンナに話しかけられない。
ナンナに声をかけられても、まともに顔を見て返事が出来なかった。
彼女の瞳を見たら、何かが崩れるかもしれない・・・。
そう、思ったんだ。
だんだん、僕はナンナを避けるようになった。
そしたら、ナンナも何かを感じたのだろうか、僕に声をかけなくなったんだ。






話さなくなって、何日たっただろうか?
確か・・・ミーズ城を制圧した直後。
ナンナがアレスに手紙を渡しているのを見てしまったんだ。
その時、初めて分かった。
何故苦しかったのか、何故怖かったのか。
ナンナと面と向かって話して、もし・・・もし、
「アレスのことが好きなんです」、そんな事を言われてしまったら
僕は立ち直れない。
それが怖かった、だからナンナと話をしないようにしたんだ。

そして気がついた。
僕はナンナが好きなんだと。
だから、アレスと楽しそうに話してるのを見て、
胸が苦しくなったんだ。
あれは嫉妬・・・だったんだ。



このままじゃ、イヤだと思った。
たとえ、ナンナがアレスを好きでも、僕は自分の気持ちを伝えたい。
押し付ける気はない、ただ・・・僕の気持ちを知ってほしかった。
だから、彼女を呼び出した。




ナンナは、笑顔で僕の部屋を訪ねてきた。
そして、僕の顔を見ると
「こうしてお話しするの、久しぶりですね」
そう言った。
「ああ・・・」
「どうか・・・したのですか?リーフ様」
リーフ様・・・ナンナの口から自分の名前がこぼれたのは
何日ぶりだろうか?
それが、それがとても嬉しくて、気がついたら
ナンナを抱きしめていたんだ。
「リーフ様?!」
ナンナは驚いたようだったが、僕の腕から逃れようとはしなかった。
「ナンナ・・・。好きだ。」
「え?!」
ナンナの大きな瞳がさらに大きく開かれた。そしてその瞳の中には、
今、僕だけが映っている。
「ナンナは、アレスのことが好きかもしれないけど・・・僕は君が好きだ。
それだけは、知っていてほしかった・・・」
僕はそう言った後、ナンナから離れようとした。
だけど・・・
「ナンナ?」
ナンナは僕の背に回した腕を解いてはくれない。
「リーフ様・・・私がいつ、アレスを好きだと言いました?」
「言ってないけど・・・」
「では、どうしてそう思われたのですか?私には他に好きな方がいます」
「え?じゃあ・・・だれなんだ?」
ナンナの腕に力が込められたように感じた。
「お分かりにならないのですか?」
「???」
ナンナは背に回していた腕を解くと、僕の顔をじっと見つめてきた。
そして、頬を少し染めながら・・・
「お慕いしております。リーフ様・・・」
そう言うと、赤くなった顔を隠すように、僕の胸に顔を押し当ててきた。
「え?だって・・・ナンナ、アレスに手紙を渡していたじゃないか・・・」
「手紙?・・・・・・・ああ、あれは、ラケシス母様から預かった、アレスへの手紙です。」
「どういうことだ?」
僕がそう尋ねると、ナンナは少し驚いた顔で僕を見た。
「お聞きになっていないのですか?」
「何を?」
「アレスは、母様の兄君エルトシャン様のご子息です。私の従兄妹です」

その瞬間、頭の中のもの全てが弾けとんだ気がした。
「リーフ様?」
事情が分かって、急に恥かしくなった。
ナンナの目を見れなくなったんだ。
そしたらナンナはクスっと笑って、そして
僕の耳元で囁いた。






「リーフ様、大好きです」





先に二度目の告白をされてしまった僕は、
ちょっと悔しかったから、
笑って油断してるナンナの額にキスをしたんだ。



END

--------------------------------------------------------------------------------
あとがき
ということで、リーフ×ナンナを書かせて頂きました。
あんまり、リーナンな場面はなかったのですが・・・。
リーフの勘違いから始まって、最後は両想いですね(^^)
トト様のお望みどうりになったかどうかは定ではありませんが、
リンクのお礼兼相互リンク記念として贈らせて頂きます。

この度は、私などのサイトにリンクして下さり、誠\にありがとうございました。
駄文しか展示しておりませんが、これからも末永くお付き合いくださいませ(_ _))))


In the inside of moonlight


--------------------------------------------------------------------------------
「セリス様、アレスを見かけませんでしたか?」

碧色の髪の少女は、自室へ戻る途中のセリスを呼び止めて、尋ねた。

「アレス?さっきまで一緒にいたけど・・・部屋へ戻ると言って出て行ったよ」

「そうですか・・・」

すると、すぐ側の扉が開いた。

「あれ?セリスとリーンじゃないか、こんな所で何をしてるんだい?」

不思議そうにそう言ったのはリーフ。

レンスターへ帰る日時を相談していた彼は、フィンの部屋から出てきたのだった。

「あの、アレスを見かけませんでしたか?」

「え?ん~・・・さっきセリスと3人で話してたけど・・・途中で出て行ったよな?セリス」

「ああ。・・・部屋には戻ってないの?」

リーンは首を横に振った。

するとリーフが「あ!」と何かを思い出した。

「もしかして・・・デルムッドのところじゃないかな?」

「デルムッドさんのところ・・・」

リーンはもう一つ探しに行く所を忘れていた事に気がついた。

「そうかもしれません。ありがとうございました」

リーンは二人にペコっと頭を下げると、デルムッドの部屋を目指して駆け出した。

その場に取り残された二人は

「あの二人、何かあったのかな?」

「そうじゃないと思う。多分、アレスの放浪癖だろ・・・」

リーフが答えた。

「放浪って・・・城の中で放浪されてもな~」

二人は笑いながら、廊下を歩いていった。




デルムッドの部屋に到着したリーンは扉をノックした。

「はい?」

「あの、リーンです」

デルムッドは、なんだろうと扉を開けた。

「アレス、来てませんか?」

「え?アレスなら今さっきまでここにいたけど。」

「どこに行ったか分かりますか?」

デルムッドはアレスの居場所を知っていた。だが、アレスに、リーンが来ても言うなと言われていた。

けれど、リーンの真剣な目を見て、デルムッドは彼女に、アレスの居場所を教えた方がいいのではないかと判断した。

「屋上に行くと言っていたよ」

「屋上・・・。ありがとうだざいます」

リーンはデルムッドにお礼を言うと、側にあった、屋上へ繋がっている階段を上っていった。









屋上にいたアレスは、足音に気がついて、後ろを振り返った。

そこには走って上ってきたのだろう、息を切らしたリーンが立っていた。

「デルムッドの奴、しゃべったんだな・・・」

そう言うと、視線を夜空へと移した。

ゆっくり、歩み寄りながらリーンは尋ねた。

「何をしていたの?」

リーンの質問に、アレスは夜空を見たまま答えた。

「アグストリアのこと・・・考えていた」

「・・・」


戦いは終結し、仲間たちはどんどん祖国へ帰っている。

リーフも明日、ここバーハラを発つし、アレスも明後日にはアグストリアへ向かう。

恋人についていく者以外は、そのほとんどの者が祖国を知っている。

だけど、アレスは祖国を知らない。レンスターで育ち、イードの傭兵部隊で成長した。

初めて踏むことになる土地に、不安を感じていた。

アグストリアの人々は自分を受け入れてくれるだろうか?

今までほおっておいたくせに、今更帰ってくるな、と思っていないだろうか?

そんな不安がアレスを覆っていた。



リーンはそんなアレスの心を分かっていた。だからこそ、一緒にアグストリアへ行き、

彼を助けてあげようと思ったのだ。

アグストリアはリーンも初めての土地。不安がないはずはない。

だけど、アレスが側にいてくれるのなら不安なんて吹き飛んでしまう。

アレスさえいれば・・・。

リーンも自分がアレスにとっての、そんな存在になりたいと思っている。





「アレス・・・大丈夫だよ・・・」

「え?」

アレスは、リーンの顔を見た。

そこには月光に照らされた飛びっきりの笑顔があった。

「リーン?」

「きっと、アグストリアの人たちはアレスの帰りを待ってる。

私が生きていくためにアレスが必要なように、アグストリアの人たちもアレスを

必要としてるよ」

アレスは、リーンの瞳をずっと見つめていた。

「私にはアレスがいるし、アレスには私がいる。でも、アグストリアの人たちには

今、頼れるものがなにもないんだよ?だから、アレスが帰って来るのを楽しみにしてる。」

アレスは瞼が熱くなったのを感じた。

「だから・・・!!・・・・っアレス?」

アレスはリーンを抱きしめた。そして、耳元で囁くように言った。

「そうだよな。俺にはリーンがいるんだよな・・・」

リーンは腕をアレスの背中へ回した。

「ずっと、側にいてくれるよな?」

アレスは抱きしめる腕に力を入れた。

「うん。ずっと、ず~っと・・・アレスの側にいるよ・・・」

月の光のスポットライトに照らされながら、そして、さわやかな風に包まれながら、

二人は抱きしめ合っていた。




あとがき
第一回カップリング投票第一位に輝きましたこのお二人。
アレス×リーンの小説は2作目でしょうか・・・?この二人は大好きですよ。
コメントで、「しっかり者のリーンがアレスをリード・・・」って感じのがあったので、それをヒントにしてみました。
でも、アレスが頼りないってわけじゃないですよ。リーンが特別しっかりしてるわけでもないし。コメントを参考にさせて頂いただけですので。

皆さん、投票にご協力して頂き、誠\にありがとうございました。
おしくも、小説にならなかったカップリングは、次の機会に小説にするかもしれませんので、
第二回投票にもご協力下さいますよう、お願い申し上げます.



[225 楼] | Posted:2004-05-24 11:03| 顶端
雪之丞

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ずっと一緒に

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いつからお前に恋をしていたのだろうか?

気がつけばお前を一人の女として見ていた。

お前が生まれた時からずっと一緒だったから・・・

お前が側にいる事が当たり前すぎて・・・自分の気持ちに気づけなかった。

失いかけて、そこで初めて気がついた。

私のなかでお前という存在が大きくなっていることに。

やっと気づいて、慌ててお前の手を掴んだあの日・・・



「シャナン様どうしたのですか?」
スカサハから、ラクチェがヨハンにプロポーズされていてその返事を今日する、と聞いて
私は慌てて彼女を探していた。
そして廊下を歩いているラクチェを発見した。
「いくな・・・」
その時なにを考えていたのかまったく覚えていない。
ただ、『行くな』その言葉だけが頭の中を支配していたことはだけは覚えている。
「え?」
当然ラクチェは何のことだか分からない。
不思議そうに私を見つめる瞳が微かに揺れていた。
何を言えばいいか分からなくて、気がつけば
ラクチェを抱きしめていた。
「シャ、シャナン様?!」
ラクチェは驚いて瞳を大きく見開いている。
「ラクチェ・・・行くな・・・。好きなんだ・・・お前が・・・・」
必死だった。どんなことをしてでもラクチェを引きとめようと思った。
しばらく沈黙が続いた後
背中に腕が回されたことに気づいて、私はラクチェを見た。
「シャナン様・・・もしかしてスカサハから何か聞きましたか?」
「・・・」
「やっぱり・・・」
背に回された腕はそのまま、ラクチェは続けた。
「ヨハンには・・・断りましたよ。好きな人がいるからヨハンの気持ちには答えられないと・・・」
そう言ってニコリと笑うと、
「でもまさか、ヨハンを振ったあとに、好きな人から告白されるなんて思ってもいませんでした」
と言うと、照れて赤くなった顔を隠すようにシャナンの胸に顔を押し付けて、
背中へ回されていた腕に力を入れた。




今、ラクチェの口からこぼれた言葉は・・・聞き間違いではないだろうか?

この愛しい少女を、これから先ずっと側で守ることが許されたのだろうか?

ずっと、抱きしめていていいのだろうか?




私を包み込んでくれるラクチェの腕が、身体が、全てを許してくれた証だった。
ずっと側で守ることが出来る。
嬉しくて、その愛しい少女をギュッと抱きしめた。









あの日、私はラクチェを失わずにすんだ。

だけどまだ、大切なことを伝えていない。

だから今日、全てを伝えるためここへ来た。






-----聖戦が終結した翌日の晩。
私はラクチェをバーハラ城の屋上へ呼び出した。


「シャナン様、遅くなってすみません」
私より少し後に来たラクチェはそう言って、私の隣に立った。
夜空を見ながらラクチェは続ける。
「やっと・・・終わりましたね。長かった・・・」
ラクチェの瞳はどこか遠くを見ていた。
きっと、幼い頃の記憶をたどっているのだろう。
「戦いは終わった。だけど、これから国の復興が始まる。
それは今までの戦いよりも厳しく辛いことになるかもしれない」
ラクチェは黙って頷いた。
「私はイザークの王として民を導いていかなくてはいけない。だけど・・・一人でそれをする自信はない」
私はそう言って、膝をつきラクチェの手を取った。
慌てるラクチェを無視して私は続けた。
「ラクチェ、どうか私の妻になってほしい。一緒にイザークへ・・・」


しばらくしてラクチェの瞳からキラキラ光る雫が溢れてきた。
ラクチェはそれを隠そうともぜす、まっすぐ私を見ると、一度深呼吸をして
そして、微笑むと
「はい。いつまでも、シャナン様のお側に・・・」
「ラクチェ・・・」


満月だけが見守る中
私たちは永遠の約束を交わし、そして強く抱きしめ合った。






END





--------------------------------------------------------------------------------
あとがき
シャナ×ラクでした。これは、一年ほど前に書いたものなのですが
その下書きをどこへなおしたのか思い出せずずっと探しておりました。
そしてついに見つかったのです。少しだけ修正しましたが、ほとんど原文どうりです。



草原の蒼い騎士

--------------------------------------------------------------------------------
だれがこんなことになると予想できただろうか?
大事な主君を失うなんて。

だれがこんなことになると想像しただろうか?
幼い王子に全ての期待がふりかかるなんて。


未だ紛争がおさまらないこの国で、いつ隣国トラキアが攻めてくるか分からないこの時勢。
人々の期待はまだ1歳にもならない幼い王子へ向けられていた。
まだハイハイも、立つことも、話すこともできない王子。
けれど、その小さな身体で国全ての人の期待を受け止めている。
そんな王子を支えていたのはたった一人の騎士だった。
亡き王子キュアンに拾われ、彼が亡くなるまで付き従ってきた騎士。
名はフィン。
真っ青な髪の、優しい雰囲気を持った青年である。
フィンの元に、主君キュアンとその妻エスリンがトラキアの竜騎士に殺されたという知らせが入ったのは
キュアン死亡から2日後のことであった。

その日フィンはレンスター城のバルコニーで、キュアンの息子リーフと遊んでいた。
遊ぶといっても、リーフはまだ一歳にもならない。
正確に言えば、フィンがリーフを抱いて散歩をしていただけだ。
バルコニーからはレンスター全土を見渡せる。
草原の国レンスター。
青々と茂る緑の草原。風に揺られて、いっせいに波打つ草。
この地方でしか見ることの出来ない鳥。
そこから見える全てのものが、この国が平和であることを表していた。
けれど、魔の手は少しずつ忍び寄る。

フィンはこの城へ向かって走ってくるレンスターの騎士を見つけた。
その騎士はキュアンと共にシグルド公子を助けるためにグランベルへ向かった騎士だった。
「なぜあんなに慌てているのだ?」
不思議に思ったフィンはリーフを部屋まで連れて行くと、世話係の女官に腕の中で眠っている幼子を預け
城門まで降りていった。
そこには、先ほどフィンが見つけた騎士と、レンスターの老将たちが集まっていた。
「あの、なにかあったのですか?」
状況が分からないフィンは一人の老将に尋ねた。
すると老将は一度深い深呼吸をして、そしてしばらくフィンを見つめると
信じられないことを話し始めた。
「落ち着いて聞いてください。フィン殿・・・キュアン王子とエスリン様がお亡くなりになられました。」
フィンは瞳を大きく見開き、何もいえないでいた。
「アルテナ様の生死は不明・・・ですが、この状況では助かることはないでしょう。
助かったとしても、砂漠の真っ只中。生きている可能性はないに等しいですな・・・」
フィンには落ち着いて話しているこの老将が信じられなかった。
何故こんなに落ち着いていられる?なぜ・・・助けに行こうとしない?
生死不明であれば生きている可能性もあるのに。
なのに行動も起こさないで諦めてしまっている。何故だ?フィンには分からなかった。
「助けに行く価値はあるでしょう?」
とフィンは言った。
「この城には兵士はあまり残っていない。もしトラキアに攻められたらお終いだ。」
「ですが!」
「キュアン王子がご存命ならば少々の戦力不足は補えます。けれど、今のレンスターにはキュアン王子ほどの
指揮力を持っているものはいない。兵士をアルテナ王女救出へ向かわせるわけにはいかないのです。」
「・・・っ!」
何も言い返せなかった。すべて事実である。
もし、リーフ王子とアルテナ王女、どちらか一人しか助けることが出来ないのであれば
フィンもやはりリーフを助けに行く。この国が存続してゆくにはリーフが必要なのである。
老将たちもそう判断したのだ。
「フィン殿、リーフ王子を頼みます。我らは全力を持って城の防衛にあたります。
けれど長く持ちこたえても2年・・・いや、1年半でしょう。もし城が落ちることがあればリーフ王子を連れて城を脱出して下さい」
「?!」
「あなたも、上級騎士の勲章を得た身だ。私が・・・我らが何を望んでいるか・・・おわかりでしょう?」
「・・・」
何も言えないでただ立っているだけのフィンに、先ほどの騎士が声をかけてきた。
「フィン様、キュアン王子からの伝言でございます。」
「?」
「『城は捨ててもかまわない、出来るだけ多くの兵士と、そしてリーフの命を守ってくれ』
そうおっしゃっておりました。」
「キュアン・・・さま」
フィンは君主の名を呟いた。
「フィン殿当分はこの城にいても大丈夫でしょう。今のうちに身を隠す場所を探しましょう・・・」
「・・・」
フィンは強く目をつぶり、手を握り締めた。


キュアン様、命にかえてもリーフ王子はお守りいたします。


そしてフィンは老将の方を見ると、黙って頷いた。
その様子を他の老将や騎士たちは見届けると、城の警備の強化や、武器の手入れに向かった。
キュアン死亡の知らせを持ってきた騎士はそれから6日後、トラキア軍との戦闘でした怪我の為に息を引き取った。



あれから10年。
レンスター城落城寸前にフィンによって城を脱出したリーフは、アルスター近くの村に身をひそめていた。
11歳になるその年、リーフは初めて両親の死の原因を知った。
自分の国の民を苦しめるどころか、両親までトラキアに奪われていた。
そして姉アルテナも。
トラバントへの憎しみがさらに増すリーフ。
そんなリーフを見ていたフィンは、リーフに視線を合わせるように膝をつくと
「リーフ様、お気持ちは分かりますが、国を治める者が表に感情を出してはいけません」
「どうして?」
フィンに尋ねてくるリーフの頭を優しく撫でると
「あなたの役目は敵討ちではありません。」
「なぜだ?父上も母上も・・姉上まで殺されたんだろ?」
「そうです。けれど・・・敵討ちなどキュアン様は望んでおられない・・。
リーフ様の役目はレンスターの民を守ること。そのためにトラキアと戦うことはしかたがありません・・・
ですがそれは敵討ちではありません。それだけは間違えないで下さい。」
自分で言いながらフィンは苦しかった。
出来ることなら敵を取りたい。自分の大切な君主を奪ったトラキア軍。
幼い王子に『憎しみ』という感情を持たせたトラキア軍。
けれど、その思いを表に出す事は許されない。
キュアンが望んだものはそんなものではなかったから。
平和・・・ただそれだけがキュアンの望むもの。
そして
平和を手に入れるためには『憎しみ』を糧にしてはいけない。
『憎しみ』は新たな『憎しみ』を生み出すだけだと・・・フィンは知っていた。




幼い王子は、この蒼い騎士のもと、立派な青年へと成長する。
そして、かつて父がそうしたように
リーフもまた、『平和』を目指すため、挙兵する。
その傍らには蒼い騎士がいつも寄り添っていた。

END

--------------------------------------------------------------------------------
あとがき
僕ができることのAffekt様に相互リンクのお礼に差し上げたものです。
フィンを主体に書いてみました(^^;
どうでしょうか?自分では・・・ダメだと思います。
ダメなのもをどうして贈ったかって?だって・・・これが私の限界だから・・・。
ごめんなさい;;)



[226 楼] | Posted:2004-05-24 11:04| 顶端
雪之丞

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赤い糸
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彼に惹かれたのは親友リーンの結婚式だった。
リーンとは踊り子時代からのつきあいで
今までいろんなことを二人で乗\り越えてきた。
そのリーンがアグストリア王アレス様と結婚すると聞き
こうしてノディオンに駆けつけたのだ。

リーンの隣にいる金髪の少年、
名をコープルと言った。
彼はリーンの弟で私より2つ年下になる。
現在彼はエッダ教最高の地位にいて、セリス皇帝の
補佐役も務めていた。
今まで私はこんなにも人を愛しく思ったことはなかった。
少年のような表情が少し残っている・・・けれどしっかりと
自分の意志を持ったその瞳。時折見せる大人びた顔。
どうしても、彼の『特別』になりたいと思った。
私は思い切ってリーンに相談することにした。すると彼女は
「レイリアがコープルを?え?え?これってやっぱり運\命の赤い糸かしら?」
と、言った。
「どういう意味よ?赤い糸?」
「あ、なんでもないの。いいわ!協力してあげる」
そう言ってリーンは彼を側へ呼んだ。
「コープル、彼女は私の親友のレイリアよ。仲良くしてね」
リーンが言うとコープルは
「あ・・・初めまして。コープルと申します。」
そう言って頭を下げた。
さすがに最高位の神官ともなると、礼儀正しい・・・。
リーンは気をきかして二人にしてくれた。

パーティー会場から少し離れたバルコニーで私たちは話していた。
「コープルはセリス皇帝の補佐をしているんですって?」
私は思わず弟に話すみたいに言ってしまった。
「あ、ごめんなさい・・・偉そうに。つい弟に話すみたいに言っちゃって」
するとコープルは
「構いませんよ貴女の方が年上です。レイリアさんには弟がいるのですか?」
「え、ええ。シャルローといいます。今はエッダ教の司祭としてシアルフィ家に使えています。」
「シャルロー?それは、シャルロー=ディファーソンのことですか?」
コープルは聞き返した。
「え?ええ、そうですよ。ご存知でしたか?」
「もちろん、彼にシアルフィへ行くように言ったのは僕ですから」
「そうなの?まあ、偶然ね」
私たちはシャルローの事で話題が合い、その日遅くまで話しは続いた。

夜中、リーンの友人ということでノディオン城に部屋を与えられていた私は
その部屋へと戻った。するとそこで新婚の二人が待っていた。
「え・・・リーンはともかくアレス様までどうしてここに?」
「・・・。」
「えへへ、無理やりつれてきたの。ちょっとそれより、どうだったのよ」
「何が?」
「コープルと、よ!!」
リーンは詰め寄ってきた。
「どうって・・・世間話を少し・・・」
「それだけ?」
「あと、シャルローのことで話題が合って・・・」
「それだけ!???」
「そ、そうよ」
するとリーンは肩を落とし
「はぁ~駄目ね。やっぱりお姉ちゃんが面倒見ないと・・・」
「??」
「おいリーン、人の事にあんまり口を出すなよ。」
今までだまっていたアレス様が口を開いた。
「何言ってるのよ!大事な弟のためなの!それにね~」
「これがうまくいけばレイリアとの繋がりができる・・・だろ?何度も聞いた・・・」
「そうよ!だから頑張ってもらわないと」
リーンは私の手を握り締めて言った。
「コープルにはあなたのような人が必要なの!!お願いだから頑張ってねレイリア!」
そう言ってリーンはアレス様を引っ張って部屋を出て行った。

・・・頑張って!って言われてもコープルが私の事好きにならなきゃ
どうしようもないのに・・・。
それから数日間、私はリーンの勧めでノディオンに滞在することになった。
お城ってのはどうしてこんなに広いのだろうか?
リーンに会いに行くのに何回部屋を間違えたか・・・。
しかもほとんどの部屋が使われていない部屋だったの。
この話をリーンにしたら
「やっぱりレイリアもそう思った?」
だって。私たちって似たもの同士?田舎者?
まあ、そんな感じで私は暇潰しをしていた。

結婚式から5~6日が過ぎたその日、私の部屋にとんでもない誘いが届いた。
「え?私なんかが出席してもよろしいのですか?」
それはエッダへ帰ったコープルからの食事会への誘いだった。
「はい、コープル様は是非にとおっしゃっております。」
「でも私は部外者です・・・」
「部外者ではありません。シャルロー様の姉君であり、コープル様の姉君のご友人でもあります」
「はあ・・・たしかにそうですけど・・・じゃあ・・・」
本当はこういうのは断った方がいいのかもしれないけど・・・
でも、コープルに会う口実ができるのは嬉しいことだったから私はYESと返事をした。
私の返事を聞いたコープルの使者は食事会の日時の書いた紙を置いて、帰っていった。
「・・・・リーン、そこで何してるの?」
「あ・・・バレてた?」
「影が見えてたわよ。」
「あはは・・・。ねえねえ、コープルなんだって?」
「話し聞いてたんでしょ?食事会に出席しないかって・・・」
「おおおお!!!とうとう、とうとうあの子は決めたのね?!」
「リーン?この間から聞こうと思っていたのだけど・・・何か私にかくしてない?」
「え゛!?な、何をかくすことがあるのよ~やだわレイリア」
そう言ってリーンは逃げるように立ち去った。
やっぱり何かかくしてる・・・。
昔からリーンはウソをつくのが下手だったわ。
「何を企んでるのよ」と私は愚痴っぽく呟いた。


「え~と・・・ここでいいのかな?」
目の前には綺麗な城が建っていた。エッダ教の中心エッダ城である。
外見は城と言うよりは大聖堂といった感じの造りになっていた。
なぜ食事会があるのか、どうして私が呼ばれたのか全然検討もつかない。
だけど、呼ばれたのだから行ってもいいかなと思った。
こういうチャンスは二度と来ないかもしれなかったし。
城の前でウロウロしていると中から声が聞こえた。
「レイリアさん?」
「え・・・あ!コープル・・・」
聖職者の格好をしたコープルだった。
「ふ~ん・・・聖装似合うねコープル。シャルローは似合わないからな~。
カッコいいよコープル!!」
「!!」
コープルはカッと赤くなった。
かわいい、と思ったけどこれはさすがに失礼かなと思ったから心の中に留めておいた。
「こちらへいらして下さい」
私はコープルに案内されて食事会が催される会場へ向かった。
そこにはすでに何人かの聖職者が来ていた。
コープルは誰かに呼ばれてその場を離れた。
すると
「姉上!」
うれしそうに声をかけて来たのは弟だった。
「シャルロー!!あなたも招待されていたの?」
「??・・・もちろんですよ!姉上、おめでとうございます」
そう言ってシャルローは頭を浅く下げた。
「おめでとうって何が?」
「だから、姉上の結婚ですよ!!」

・・・・・・・・・へ?

今の言葉は聞き間違いよね?誰が結婚するって?
「シャルロー・・・ごめんなさい。言っている意味が理解できないわ・・・」
「だから、今日は姉上とコープル様の婚約はっ・・・」
「シャルロー!!」
そこへ慌てて飛び込んできたのはコープルだった。
初めて見るうろたえたコープル・・・。
「コープル?私とあなたの婚約って・・・・」
状況を理解したシャルローが慌てる。
「コープル様、もしかしてまだ姉上には言ってないのですか?」
「・・・ああ。」
「え?何・・・どういうこと?」
「すみません、姉上はとっくに知っているものだと・・・」
「いや、気にしなくてもいいよ。遅かれ早かれ、話さなきゃいけなかったし・・・」
コープルはシャルローに言うと、その場からシャルローを下がらせた。

心臓の鼓動が良く聞こえる・・・
私は何を期待してるのだろうか?
コープルが・・・何て言うのかとても、とてもまちどうしくて・・・
「コープル?」
はやく彼の返答が聞きたくて・・・
「姉上に・・・話を聞いて・・・」
私に背を向けたままコープルは言った。
「リーン?」
そこで私は思い出した、リーンの不審な行動。
「・・・リーンが言ったから私と婚約を?」
「違います!!」
聞いたこともないコープルの大声。
「あ・・・すみません。その・・・ひとめぼれ・・・なんです。」
「え?」
顔を赤くして彼は続けた。
「レイリアさんは知らないと思いますが・・・あの戦乱中に貴女を一度みているんです。
覚えていますか?ミレトスの街で姉上と再会した時のこと・・・」
ミレトス・・・そういえば、リーンに再会したのそこだったっけ・・・。
あの時は、私の所属していた旅の一座の都合であまり長くは話せなかったけど・・・
「覚えてる・・・」
「その時、あなたを見ています。姉上の側に見慣れない女性が・・・楽しそうに話していて。
ひとめぼれって本当にあるんだなって思いました。」
「・・・私に?・・・コープルが?」
「はい。」
少してれていたけれど、コープルの瞳は私をしっかり捉えていた。

自然と涙が溢れる・・・
止まることなくポロポロと。
私にはそれを止める手段はなかった。
ただ流れるがままに・・・
それをコープルがそっと拭ってるれた。
「・・・」
「姉上に、あなたの気持ちを聞いた時、とてもうれしかった・・・
貴女は年上だから・・・年下の私なんか相手にされないだろうと思っていましたからね」
そう言って微笑む。
「・・・今、分かったわ・・・」
「何がですか?」
「リーンが言っていた『赤い糸』の意味」
「そんなことを言っていたのですか?」
「ええ・・・。だけど、ひどいわねリーンは・・・私がコープルのこと好きなの
本人に言うなんて・・・」
「・・・じゃあ、文句を言いに行きますか?」
「え?」
「二人で、もう一度アグストリアへ・・・」
悪戯っ子のような笑顔。
「そうね。そうしましょう・・・ついでにお礼も・・・ね?」
「ついで・・・ですか」
「もちろん!文句が先よ!」
そう言って私たちは笑った。

その日の食事会では、予定どおり私とコープルの婚約発表が行われた。
始めは皆、驚いていたけれど私の踊りが好評??だったらしく
帰る時には、今度はいつ来るのかと尋ねられたりした。
まあ、今回はリーンのお陰でコープルと両思いになれたし
私の気持ちを本人に話したことは許してあげようと思った。だけど・・・

「結婚することになった?おめでとう」
アグストリアへ二人で報告しに行った時
「やっぱり私のお陰よね~ホホホホ!」
この態度は何?
「レイリア感謝してよ!!私っていい人だわ!!!」
許してあげようと・・・思ったけど・・・
少し頭にきたから言ってやった。

「リーン、コープルは私のものだから近寄らないでね」

これから楽しい嫁VS義姉戦争が起きそうです。



--------------------------------------------------------------------------------
あとがき
コープル×レイリアです!!このカップルは好きです(^^)
レイリアってリーンより役にたちませんか??私だけ?
黒\髪の踊りにもうメロメロ(><)ごめんねシルヴィア・・・いつも独身で。
この話しは1年前ぐらいに書いたもの。加筆修正してアップしました。
でも、まだまだ表現力、文章力が・・・。
いつかまた修正したいです。






幼い頃からずっと聞かされていた言葉……

「お前がこの森から出れば、世界に災いが降りかかる」

災いって何だろう?

意味も分からないままただ頷くだけだった幼い頃

けれど今は違う

分かってしまった……

どんな災いが降りかかるのかは、分からない

でも……

私はこの森から出られない……という事だけは分かった


けれど、望むことくらいいいでしょう?

この森から出ること……

望むだけならいいでしょう?

この運\命から逃れることなど出来はしないのだから

せめて……



ヴェルダン王国に精霊の森と呼ばれる森がある。
なぜそのように呼ばれるようになったかは分からないが
たしかにその森はその名に相応しい場所だった。
一歩森へ入るとそこは異世界。
高い木が並び、陽を遮っていて
昼間であるのにそこだけは闇であった。
ヴェルダン人もこの森にだけは近づかない、入ってしまえば
出ることは出来ないのだから。
だが、そんな森にも住んでいる者はいた。
その者達は森を難なく歩き、外へ出てくることが出来た。
ヴェルダン人は彼らのことを『精霊の守人』と呼び、彼らが森から出てきても
危害を加えることはなかった。
危害を加えれば、精霊の怒りにふれ、災いが降りかかると信じられていたからである。

その森に、もうすぐ15歳になる少女が住んでいた。
彼女は透き通るような薄紫の髪に、紫水晶のような瞳をもっていた。
彼女の名はディアドラ、精霊と呼ばれている娘である。
けれどディアドラはもちろん精霊などではなく、普通の人であった。
それを唯一信じてくれるのが育ての親である占い師の老婆だった。
「お前は、お前だよ。他の何者でもない。皆が言うことなど気にしてはいけないよ」
いつも老婆はディアドラに言い聞かせていた。
ディアドラもその言葉に頷くが、やはり皆から精霊と呼ばれれば
気にしないわけにはいかなかった。

ある日、ディアドラは森の中にある小さな泉へやってきた。
そこにも陽の光は届かず、薄暗い場所であった。
しかしこの森にずっと住んでいる彼女はそんなこと気にもならなかった。
泉に写る自分の顔を見てディアドラはため息をつく。
「どうして私は……皆と違うの?」
返事は返ってこない。
「……自由になりたい……」
泉に写る自分に呟く。
「一度でいいからこの森の外へ行ってみたい……」
望んではいけないこと。
それはディアドラも十分わかっている、
わかってはいるがどうしても声に出さずにはいられなかった。
物心ついたときから聞かされている。
私が森からでれば世界に災いが降りかかる。
自分ひとりのわがままで世界の人々を危険にさらすかもしれない……。
だから、私はここから外へは行けない。
けれど、望んでしまう……誰かが私をこの森から連れ去ってくれることを……
そんな事はあり得ない。
けれど……望むだけならいいでしょう?とディアドラは囁いた。
しばらくそこにいたが陽が落ちていることに気がついたディアドラは
早々にそのばを去った。
ずっとこの森に縛られている少女はこの泉だけが、唯一くつろげる
場所であり、唯一本音を言える場所でもあった。


この場所で少女がこの運\命の鎖から一時解放されるまでにあと二年かかる。
それは異国の騎士との出会い。
けれど、その出会いは新たな鎖に縛られるまえのささやか幸せ。
やはり運\命は運\命でしかなく、それを変える方法はなかった。
けれど、少女はその騎士との出会いで運\命に立ち向かう勇気と
運\命を受け入れる覚悟を手に入れる。
そして少女は世界に災いをもたらす……だが、それと同時に
世界を災いから救う希望を残す。
それが彼女ができる精一杯の償いなのであろう。

だがこの時、ディアドラの運\命を知るものなど誰もいなかった。



                   

--------------------------------------------------------------------------------


あとがき
初ディアドラです。ディアちゃん大好きです!!美人ですしね(^^)
シグルドに出会う2年前の話です。超短!短すぎですね~でも書きたかったエピソードなので
書きました。いつか修正するかも??エーディンとの出会いも書いてみたいかも……
初めて森をでた少女は妖精に出会う?!ってな感じで。
ではこの辺で。



[227 楼] | Posted:2004-05-24 11:05| 顶端
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思い出の場所

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グラン暦778年、聖戦は終結し
解放軍の盟主であったセリス皇子は帝位についた。
セリスと共に戦った仲間は、それぞれの国へと帰り始めている。
昨日はイザークへ向けてシャナンとラクチェがバーハラ城を出た。
今朝早くにはシレジアへ向けてセティとラナが出発した。
オイフェはその様子を自室の窓から見ていたが、セティたちの姿が見えなくなると
窓から離れて、荷作りを始めた。

オイフェはシアルフィへ帰る。
セリスが継げないいじょう、シアルフィ公諸家を継ぐのはオイフェしかいなかった。
オイフェの中でいろんな思いが交差する。
正直言うと、オイフェはセリスの側にいたかった。
最後まで共に在ることが出来なかったシグルドの代わりに
セリスだけは最後まで側にいて、守りたい。それが本心だった。
けれど、シアルフィをほおっておくわけにもいかなかった。
結局、彼が選んだのはシアルフィへ行くことだった。

「ではセリス様、私はシアルフィへ帰ります。」
「やっぱり行ってしまうのか?あなたはずっと側にいてくれるものだと思っていたのに……」
セリスは寂しそうに言った。
「セリス様はもう、お一人でも大丈夫です。
私はセリス様のかわりにシアルフィを守らなければなりません。
大丈夫、バーハラとシアルフィなど目と鼻の先です。
セリス様がお呼びでしたら、すぐに駆けつけます。」
「オイフェ……貴方は、父を知らない僕にとって父そのものでした、
今までありがとう。そして、シアルフィをよろしくお願いします。」
「セリス様……。では、失礼します」
オイフェは一礼してバーハラ城を後にした。
オイフェの脳裏に幼い頃のセリスの姿が写し出される。
(ご立派になられた……)
そして、シグルドとディアドラの姿が浮かぶ。
二人は、微笑みながらオイフェを見ているようだった。
(シグルド様、ディアドラ様。私の役目は終わりました。
セリス様は立派に一人で歩いてゆけます。どうか、見守ってあげて下さい。)
そう、心で呟くとオイフェはシアルフィへ向かう足を速めた。


シアルフィに着いたのはバーハラを出て3日後だった。
ついこの間、アルヴィス皇帝を倒して取り返したその城は少しあれてはいたが
十数年前、シグルドと城を出た時とほとんど変わっていなかった。
「帰って来てしまったな……一人で」
この城を出た頃は思いもしなかった。
まさかこの城にたった一人で帰ってくることになるとは……。
オイフェが城の客間へ向かう途中、声をかけられた。
「オイフェ……か?」
振り向くと老人が立っていた。
「?……あなたは?」
「わからないか?ノーラントだ。」
「あ……ノイッシュさんの父上?!」
「そうだ、立派になったな。」
懐かしそうに老人はオイフェを見ていた。
「なぜここに?」
「わしはアルヴィス皇帝にこの城のことを任されていたのだ。
お前がここへ帰ってくると聞き、少し片づけをしていた。」
「お一人でですか?」
「いや、まご娘も一緒だ。」
と、そこに花瓶を持った女性がやってきた。
「お祖父様、水をかえて来ました。」
「おお、ありがとう。こっちへ来なさい」
ノーラントは女性を側へ呼んだ。
「オイフェ、この子はエミール。アレクとネミシェの娘だ。」
「アレクさんの?」
ネミシェとはノイッシュの妹で、アレクの婚約者だった。
「ネミシェさんはお元気ですか?」
オイフェが問うとノーラントは俯いてしまった。
「お母様は、私が5歳の時に病気で亡くなりました。」
ノーラントのかわりにエミールが答えた。
「ネミシェさんが……」
「こんな話はよそう、今さらはなしてもどうこうなるもんでもない。」
ノーラントは話題を変えた。
3人は城の中央にある大きな階段を上っていた。
「エミール殿は、いくつですか?」
「今年、22になりましたわ。」
そう言って微笑んでいた。
「そうですか、貴方を見ているととても懐かしいです。」
「どうして?」
「貴女の目はノイッシュさん譲りですし、髪の色はアレクさんと一緒です。
声はネミシェさんと同じで……あの頃に戻ったような感じがします」
本当に楽しかった、とオイフェは心の中で呟いた。
「オイフェ、ここシアルフィを復興するには時間と体力を消耗するだろ。
役に立つか分からんが、エミールも使ってやってくれ。」
「ですが……」
オイフェが続きを言おうとすると
「お願いします。お父様とノイッシュ伯父様が守っていたこの城のために
わたしも何かしたいのです。何でもします、掃除でもなんでも、だから……」
オイフェは少し考えていたようだが
「では、お願いします。」
そう、返事をした。
憧れだった、アレクとノイッシュの姿を映したその女性が
側にいてもいいのではないかとオイフェは思った。
そうすれば、その女性がいる時だけはあの頃に戻れると……
あの楽しかった日々を忘れなくてすむ。
そんなことを考えてるなんてとてもエミールには言えないが……

微笑みながらエミールはオイフェにぺこりと頭を下げ、
先に歩き出したノーラントの後を追った。
オイフェはその姿を見つめている。
ふと、さわやかな風がオイフェの髪を撫でて通りすぎる。
その風を感じながらオイフェは心で囁いた。

シグルド様、アレクさん、ノイッシュさん

ただ今、戻って参りました……





それから、2年後オイフェはエミールと結婚した。
シアルフィは昔の活気を取り戻し、人々はオイフェのもとで
穏やかな時間を過ごしていた。



END


--------------------------------------------------------------------------------
あとがき
オイフェがシアルフィへ帰ってきた時の話。
ノイッシュの妹(ネミシェ)、父(ノーラント)、アレクの娘(エミール)はオリキャラです(^^)
オイフェとエミール(アレクの娘)の年の差は10歳の設定ですが……
もしかしたらもっと離れてるかも……。
以前書いた『約束』はこれを描くための準備小説なんですよ。
オイフェの奥さんどうする??って考えていたら
こんな設定に……。なので、このアレクはナンパヤローではないのです。ネミシェ一筋!!
はっきり言って、この話は一番気に入りません。なんかへん。いつか修正すると思います。
では、今回はこの辺で。


約束

--------------------------------------------------------------------------------
ここで死ぬわけにはいかない。
俺は必死の思いで砂漠を歩いていた。ノイッシュを背負って・・・


数日前、それは突然起こった。
「アレク隊長、ノイッシュ隊長!!」
一人の兵士が走って、俺たちのテントに入って来た。
その顔はとても深刻な表情だった。
俺たちもイヤな予感はしていたが、まさかこの兵士から
あんな言葉を聞くことになるとは思ってもいなかった。
「どうしたんだ?落ち着いて話せ」
ノイッシュが言った。
「し・・・シグルド様が・・・」
そこで、兵士は言葉を詰まらせ、俯いた。
「シグルド様がどうなさったのだ?」
俺が問う。
兵士は一回唾をのみ、弱々しい声で言った。
「シグルド様が・・・お亡くなりになられました・・・」
兵士は強く手を握り締め、唇を噛んだ。
「なん・・・だって?」
俺は頭の中が真っ白になった。
だが、横で残された兵士たちに指示を出すノイッシュの声で
俺は我に返った。
「ノイッシュ・・・信じられるか?」
ノイッシュに尋ねた。
ノイッシュは俺を睨みつけ
「信じない。俺は絶対に信じない」
と怒鳴った。そしてまた、兵士たちの指示を・・・
と、その瞬間、空から炎の玉が降ってきた。
シグルド軍は皆、逃げ回る。
だが、その炎は逃げるものでさえ容赦なく焼きはらっていた。
そう・・・その光景は紛れも無く・・・地獄だった。
それ以外にどう例えられる?
俺たちは生きて、地獄の苦しみを味わっっているのだ。

俺たちは、シグルド様の死を受け入れた。
いや、受け入れざるおえなかったのだ。
ノイッシュも俺も涙を流しながら、兵士たちに指示を出す。
俺たちにできること・・・それは一人でも多く生き残ること・・・
それがシグルド様の願いである、俺たちはそう思った。
「シレジア方面へ逃げろ!!ラーナ様なら助けて下さる」
「怪我をして動けぬ者には手を貸してやれ!!」
「いいか!何があっても、生き残れ。シグルド様の為に生き残るのだ」
辺りに生きている者がいないか確認し、俺たちもシレジアへ向かおうとした時
ノイッシュの声がした。
「アレク!!」
俺はノイッシュのもとへ駆け寄った。
そこは、一つのテントが焼けた後だった。
「どうした?」
ノイッシュが黙って、指をさす。
「・・・。アー・・・ダン?」
そこには、すでに息絶えたアーダンの姿があった。
「おい!!なにやってんだよアーダン。ここで死んだら・・・シグルド様にしかられるだろ!!
おい・・・アーダン・・・返事を・・・しろ・・・」
「行こう、アレク。」
そう言ってノイッシュは俺の肩に手を置いた。が、俺はそれを払いのけた。
「アレク?」
「・・・ノイッシュお前だけ逃げろ・・・おれはここに残る」
「何言っているんだ、冗談を言ってる場合ではない。早く!!」
「イヤだ!!」

バシン!!
ノイッシュの手が俺の頬を打った。
「お前がここで死んだら・・・シアルフィでお前の帰りを待っているネミシェはどうなる?
あいつ一人に子供を押し付けるのか?俺は・・・そんな奴に妹をやった覚えはないぞ!!」
「ネミシェ・・・」
「それに・・・俺たちはアーダンの分まで、生き延びなけれ・・・あっ!!!」
その時、また炎の玉が降ってきた。
「アレク危ない!!!」



俺は、俺を庇って倒れたノイッシュを背負って、シレジアを目指していた。
ノイッシュは死んだ。そんなこと、あの日から何日も経っているのだから分かっている。
だが、どうしてもそれを受け入れることができない。
それは、俺が2年前交わした約束のせいだろうか・・・?
2年前・・・エーディン公女を助けるためシアルフィを出る時・・・
おれはノイッシュの妹ネミシェと約束した。
「アレク・・・必ず、必ず帰って来てね。お兄様と二人で・・・」
「ああ、約束するよ。」
「本当?だったらいいこと教えてあげる。」
笑顔でそう言うネミシェ。
「いいこと?」
「あのね・・・・・・・」
顔を赤くして少し俯くネミシェ
「本当か?子供が・・・、帰ってきたら、結婚しよう!!」
「アレク!!はい。お兄様に、祝ってもらおうね」
嬉しそうに笑うネミシェに見送られて、俺たちは城を出た。

必ず帰ってきてね。お兄様と二人で・・・

お兄様に、祝ってもらおうね・・・


約束した。二人で帰ると・・
だから俺は、ノイッシュを背負って・・・帰る・・・
俺たちは二人で帰るんだ・・・
二人で・・・ネミシェの・・・もとへ
ふた・・・り・・・

鮮やかな緑色の髪をした男と、黄金の髪をした男。
彼らは喜びや、悲しいみを分かち合い、共に窮地を乗\り越えてきた。
その絆は何よりも強かった。
彼らは最後まで共に戦った、そして2人肩を並べて
砂漠の塵となった。



ただいま、ネミシェ・・・



お帰りなさい、アレク・・・





END

--------------------------------------------------------------------------------
あとがき
アレク&ノイッシュて感じでしょうか?
ノイッシュは死んでしまってますが・・・最後は二人で砂漠に倒れちゃいました。
私の中では、親世代のキャラはほとんど死んでる設定なのです。
エーディンや、ラケシス、は生きていますがね。
ここで少し出てくるアーダンですが、『愛する者よ』と関連しているので良かったらそちらも
読んでみて下さいね。
ではこの辺で。



[228 楼] | Posted:2004-05-24 11:06| 顶端
雪之丞

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守りたいもの

--------------------------------------------------------------------------------

優しく微笑み 暖かく包み込んでくれた笑顔

いつも 体を張って守ってくれた

今はもう……失ってしまったけれど

今度 同じ笑顔に出会えたなら 

守れるだろうか?

あの時 守れなかった笑顔を

今度こそ守り抜くことが出来るだろうか?

もう二度と失いたくはない

だから俺は、戦うんだ





廊下を兵士たちが慌ただしく駆けていく
兵舎へ向かう者、あるいは武器庫へ向かう者
各々が、各々のするべき事をするため廊下を行き交っていた。
ファバルは、そんな兵士たちの足音を聞きながら自室で武器の手入れをしている。
ここはフリージ城、後に『最後の聖戦』と呼ばれる戦いの開戦前日である。
ファバルは愛弓―――イチイバルを手に、幼い頃を振り返っていた。

母に連れられてやってきたマンスター。
小さな村で、帝国から隠れるようにして過ごした日々。
貧しくても、楽しかった日々。
どんな時でも 母の優しい笑顔があった
生まれたばかりの妹と母と……
本当に楽しかった日々。
けれどそんな日々は、イチイバルを手にした時に失ってしまう。
山賊\から自分を庇って母が死に、村人もほとんど殺された。
村に残ったのは子供ばかり……
母は最期に、イチイバルを自分に託した。
イチイバルを手に入れ……そして母を失った。

不意にファバルが声を漏らす
「あの時、俺に力があったら……母さんを守れたのに……」
今の力があれば……そう思った時、人の気配を感じて後ろを振り返った。
「ラナ……」
優しい笑顔でラナはファバルを見つめる
その笑顔は、薄れかけている記憶の中の母の優しい笑顔と重なる
それもそのはず、ラナはファバルの母ブリギッドの、双子の妹エーディンの娘なのだから。
妹パティに紹介されて、初めて従兄弟の存在を知った。そして自分の身分も。
「ラナ、明日は後方で待機か?」
「ええ……だけど……」
「だけど?」
ラナは少し考えて、何かを決心したように頷くと
「あなたと一緒に、前線へ行きます」
と言った。
ファバルは驚いて、手にしていたイチイバルを放してしまった。
「ダメだ!危険すぎる!明日からの戦いは今までのようにはいかない
イシュタル公女も出てくるだろうし、噂では十二魔将という得体の知れない奴らも
控えているという。後方に下がって待機を」
「あなたが心配なの!」
そう言ってファバルの言葉を遮った。
ラナはファバルを見つめたまま、一歩も引く様子もなく続けた。
「あなたの戦い方は危険だわ。いつ命を落としてもおかしくない戦い方をする。
だから、私が側であなたを守らなきゃ」

その言葉でファバルはハッとした。
ラナと出会ってからずっと 彼女は自分の側にいた。
気がつくと、いつも隣で微笑んでいた。
守られていたのは自分の方?
守っていると 思っていたのは勘違い?
胸の中で、自分への苛立ちが波打つ。
「……大丈夫だから。守ってもらわなくても俺は大丈夫。
それよりも俺がラナを守る……だから……ラナは後方に」
「うそ!私を守るなんてウソよ」
ラナの瞳から雫が零れた。
「ウソじゃない、かならず守る!」
「だったら、もっとあなたの命を大切にしてよ。
命を盾に……守ってくれるのはうれしいけど、でも……
もしあなたが命を落としてしまったら、どうやって私を守ってくれるの?
あなたの命があるから、だからこそ……私を守れるのでしょう?」
涙を浮かべながら、それでもラナはファバルから目をそらさない。

大切な人を守るために、命をかけてきた
それが『守る』と言う事だと思っていたから
母さんが俺をかばって死んだように
俺も 命をかけてラナを守ろうと……
だけどラナはそれを望まない
俺が生きることを望む

「守ってくれなくていい……だから、あなたは自分の命を一番に考えて……お願い」
ずっとファバルを見つめていた視線が、フッとファバルの足元に落ちた。
そこには、先ほどファバルが手から放してしまったイチイバルがあった。
ラナはそれを手に取るとファバルの手に握らせた。
そして、そのままファバルの手を握り
「あなたは以前言っていたでしょう?この弓には不思議な力があると。
傷を負ったとき、このイチイバルを手にすると少しずつ傷が癒えてくる……。
そんな力があるイチイバルを、あなたに託したブリギッド様の気持ち……考えてみて?」

母さんの気持ち?
敵を討てって、ことだろ?
そうじゃ……ないのか?

「あなたに生きてほしいから、だからイチイバルをあなたに託した、そう思わない?
自分の子供に、戦うことを、命をかけることを要求する親なんていない」
その時、ファバルの脳裏にふわりと幼い頃の記憶が蘇る。
自分を庇って倒れてゆく母の最期の言葉。
「逃げ……なさい。そして生きな……さい。
何があっても……いき……て……」
ファバルの瞳から涙が一筋零れ落ちた。
そう、確かにあの時、母は言った。
生きろ、と。
何があっても、生き残れと。

母と同じその瞳で、けれど母より少し幼いその笑顔を
やっぱり 守りたいと思った。
けれど、それは命をかけるのではない。
共に『生きる』のだ。
生きて、共に歩むことが大切な人を『守る』ということ。
そんな、当たり前のことを忘れていたファバルは
それを教えてくれたのはきっと、ラナの体を借りたブリギッド母さんなんだと思い、
ラナを見つめて、そして微笑むと
「やっぱり母さんにはかなわないな……」
そう言って肩を震わせて笑った。
「え、どうしたの?ブリギッド様が何?」
急に笑い始めたファバルを前にラナはただ、困惑するだけだった。
そんな二人を見守るかのように、ファバルの手に在るイチイバルは
薄っすらと、光を放っていた。




また 同じ笑顔に出会えた

今度は 必ず守るよ

共に生きていく

だから 見守っていてほしい

もう、道を間違えたりはしないから




--------------------------------------------------------------------------------
あとがき
ファバル×ラナいかがだったでしょうか?
これは、相互リンク記念に書いたものです(^^)
ファバル×ラナはゲームではやったことがないので、少し時間がかかりました。
イチイバルの効果を使えないかな?と、思いこんな話に(^^;
776をご存知の方は、エーヴェルってブリギッドじゃないの?生きてるよ。と、おっしゃるかもしれませんが
エーヴェルとは断定していませんでしたよね?(たしか)だから、この話しでは、ブリギッドとエーヴェルは別人ということで。あるいは、実は死んでいなかった!って思って下さっても結構です。





The  Stolen  Heart


--------------------------------------------------------------------------------

愛とか……恋……とか、今は邪魔なだけだと思ってた。

この戦乱の世でそんな感情を持っていたら……

指揮官である僕が、そんな感情を持っていたら

多くの人々の命を預かっている僕が恋なんてしたら……

ダメなんだって。

でも、君はそんな僕の心に……いとも簡単に入ってきて……

そして、僕の心を盗んでいったんだ。



あれはたしか、イード砂漠でシャナンと合流した直後────── 

「え?この剣を……僕に?」
「はい。『勇者の剣』というそうです。セリス様使って下さい。」
彼女から差し出された剣は、とても美しい剣だった。
シャナンの話しによれば、昔、世界を闇の手から救った勇者が使っていた剣だそうだ。
『勇者の剣』と呼ばれる剣は世界にいくつかあって、
すべてその勇者が使ったものだと、言い伝えられている。
ラクチェもその1つを母親から受け継いでいた。
「でも……これは君が持っていた方が」
「いいんです。セリス様が持っていて下さい!」
そう言うと彼女は走り去って行った。
「勇者の……剣……。どうしようか、父上に貰ったこの剣があるし……」
僕は腰にかけていた銀の剣を見つめていた。
そこへ声をかけてきたのは幼なじみのスカサハと、デルムッド。
「こちらでしたかセリス様」
「捜しましたよぉ~、なぁスカサハ」
「ああ……・・。セリス様?どうかなさったのですか?」
スカサハの声で我に返った。
「え、いや……。この剣……どうしようかな……・って」
「これ……ラクチェの剣じゃ……ん?刻まれている紋章が違う……」
「どうしたのですか?この剣……」
「パティが……くれた……」
「パティ?誰だっけ・・」
「……。さっきシャナン王子と一緒にいた女盗賊\ですか?」
「うん……。どうしようか・・」
「お使いになられないのでしたら売ってはどうですか?」
デルムッドが言った。
「できない。せっかく彼女がくれたのに……」
僕は貰った剣を強く握りしめた。
「では、セリス様。こうしてはいかがですか?」
スカサハが笑顔で提案した。
「敵の城を1つ制圧するごとに、お使いになる剣を持ちかえるというのは?」
それから僕は、スカサハの提案どおり、剣を持ちかえることにしたんだ。
彼女に貰った剣を使わないときは、
彼女の視線が気になった。

悲しい顔をしていないだろうか……。

彼女に貰った剣を使っているときも、
彼女の視線が気になった。

どんな顔をしているだろう?


彼女はいつも笑っていた。いつも、太陽みたいな笑顔でその場を和ませて……。
いつの間にか、僕は彼女を目で追うようになっていたんだ。
でも、それが恋なんだって気づいたのは、君の涙を見たときだった。
気づくのが遅いって後で言われたけど、
でも、本当に彼女は静かに、そしてそっと僕の心に入ってきたんだ。

ミーズ城を制圧したその夜──── 

彼女を見つけたのは、城のバルコニーだった。
「パティ……どうしたんだい?ここにいては風邪をひくよ。」
返事は返ってこない。
「パティ……」
「……セリス様。私って……可愛く無い?ただうるさいだけの女なのかな?」
彼女は背を向けたまま僕に尋ねた。
「そんなことはない。パティは可愛いよ !誰よりも、ずっと可愛いよ!!」
すると彼女は振り返って
「えへへ。ありがとうセリス様。……私、振られちゃったんだ。
だから、ちょっと弱気になっちゃって!でも、もう大丈夫。」
顔にはうっすらと涙の後があった。
彼女が誰に振られたのかだいたいの検討はつく。
さっきの夕食でのシャナンとラクチェの様子をみれば……。
その二人を前に、普段どおり明るくふるまう彼女の笑顔が偽物だって分かったから、
心のなかでは泣いているんだって分かったから……僕は彼女を捜してたんだ。
満月を背に「もう、大丈夫 ! 」そう言って笑った彼女がとても眩しかった。
それと同時に、心ではまだ泣いている彼女がとても痛々しかった。

「パティ……好きだよ。」
無意識に言った自分の言葉で、顔が赤くなるのが分かった。
「あ、いや、今のは……」
そこで言葉を失い、俯いてしまった。
「……ありがとうございます。セリス様。」
彼女の言葉に驚いて顔を上げると、そこにはあの太陽みたいな笑顔があった。

愛情とか……恋とか……今は邪魔なだけだと思ってた。
でも君は、そんな僕の心を簡単に盗んでいった。
さすが盗賊\。そうからかうと君は怒るけど……。

「セ・リ・ス・さ・まーーーーー!!!!」
「パティ。」
「なにしてるのですか?
せっかくシアルフィからオイフェさんがいらしているのに!行きましょう!!」
そう言って僕の腕を引っ張る。
「分かったよ。」



あの時、女盗賊\パティは
満月を背に、僕の心を完全に盗んでしまったんだ。
そして女盗賊\は、今も太陽みたいな笑顔で僕を照らし続けている。



[229 楼] | Posted:2004-05-24 11:08| 顶端
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20年の愛

--------------------------------------------------------------------------------

雲一つない真っ青な空。
小鳥が時々横切るだけ。
そんな空に何かが見えた。
竜騎士である。
「ディーン様」
それはトラキアの一兵士だった。
「ディーン様、報告いたします。
ミーズ城及び近辺の復興作業は順調に進んでおり
あと数週間で終了する見込みです。」
すると、ディーンと呼ばれた将軍らしき男は答えた。
「わかった。下がっていいぞ」
そう言われ、兵士はドラゴンに跨り飛び去った。
ディーンは兵士の姿が見えなくなったのを確認すると
「さて、王女に報告に行くか・・・」
と、振り返った。
「待って!!」
こちらもまた、若い、将軍らしき女性だった。
「アルテナ様はいつもの場所で遠景をご覧になっています。
急ぐことではないのなら後にしてもらえる?お兄様。」
「エダか。アルテナ王女が見ているのは遠景などではないだろ。
あのお方がいらっしゃる方角だ。」
「・・・。アルテナ様はお可愛そうです。
もう、あの戦いから1年半も経ったわ。どうして、どうして
アリオーン王子はお帰りにならないの?
もう、けじめはついたはずです。なのに・・・どうして・・・」
エダは俯いて手を強く握り締めた。
ディーンは先ほど兵士が飛び去った方を見つめながら言った。
「おそらく、もう一つの方のけじめがつけられないのだろう。
王子も苦しんでいるはずだ・・・」
「もう・・・一つ?」
エダが言うと、ディーンは、分からないのか?と言わんばかりの顔で続けた
「元の優しい兄を演じられるかって事だ。」
「どういう意味よ?」
それでもエダが理解できないでいると、
ディーンは分からないならもういいと手を振って
「だが、そろそろ、いい頃だな。俺は今から王子の所へ行ってくる。
報告の内容聞いていただろ?王女に伝えておいてくれ。」
そう言うと城を出て行った。




「アルテナ様、よろしいでしょうか?」
自室から続くバルコニーにいたアルテナはこの声で振り返った。
「あら、エダ。いいわよ、どうしたの?」
「はい、復興作業は数週間で終了するようです。先ほど報告がありました。」
「そう、わかったわ。明日、ハンニバル将軍へ伝えてもらえるかしら?」
「はっ、承知しました。」
エダの返事を聞くとアルテナは、また遠くの景色に目を向けた。
その瞳が捉える景色の先には
幼いときからずっと慕っている、大切な人がいた。
アルテナがバルコニーで見つめる先にある者を知っていたのは
ディーン、エダ、そしてハンニバルだけであった。
知っていて、わざと知らん振りをしていたのだ。
こればかりは自分たちではどうすることも出来ないだろう・・・と。
当人同士でなければどうにもできない。

「アルテナ様、そろそろ中へお入りになって下さい。」
エダが声をかけると
「エダ、私ね・・・結婚するかもしれないの。」
驚いて出た言葉は
「ど・・・何方と・・・ですか?」
するとアルテナはエダを見て微笑み
「あなたも良く知ってる人。ディーンよ。」
エダは驚いて何も言えなかった。
出てきた名前が自分の兄だったのだ。
「ディーンはトラキアのために戦ってくれました。
そして今も、将軍として私の下でトラキアのために力を尽くしてくれています。
私は、新トラキア王リーフの姉として、責任を果たさなければならない。」
「ですが、どうして急に?」
「急ではないの・・・前からリーフに話を持ちかけられていたから・・・。」
「でも、アルテナ様はアリオーン王子のことが!!」
「兄上・・・いえ、アリオーン王子は戻ってはこられない。
私を憎んでいるもの・・・」
「そんなことは・・・」
「いいのよエダ。さあ、冷えてきたわ、中へ入りましょう。」
エダは返事をすると先に中へ入り、アルテナは一度後ろを振り返りそして
部屋へと入っていった。






その頃、アリオーンの元へ向かったディーンは目的地に着いていた。

「王子、そろそろ姫様のもとにお帰り下さい」
「それは・・・できない。」
「もう、いいではありませんか。アルテナ様は王子の帰りを待っています。」
アリオーンはディーンに背を向けると
「自信がない。兄を演じる自身がないのだ。」
「兄を演じる必要はないと思いますよ?レンスターの王女、トラキアの王子として
向き合ってはいかがですか?」
それにアルテナ様も妹には戻りたくないはずですよ・・・と付け加えたかったが
あえてディーンは言わなかった。
「わるいな、ディーン。やはり無理だ。
アルテナのもとへ帰ってやってくれ。そしてこれからもアルテナを頼む。」
するとディーンは
「では、私がアルテナ王女と結婚してもいいのでしょうか?」
アリオーンは驚いて振り返る。
「リーフ王から話しがありました。ずっと断っていたのですが、
王子がそのおつもりでしたら、この話、考え直させて頂きます。」
そう言うと、ディーンは一礼し、ミーズ城へ帰っていった。
強いショックとともに取り残されたアリオーンは
「・・・アルテナ・・・」
その場に座り込んだ。





だが、数日後、話は急変する。
「アルテナ様~!アルテナ様!」
「どうしたの?エダらしくない、城を走るなんて。」
「あ、アルテナ様、お・・・王子が・・・アリオーン王子がいらしています。」
「・・・え?」
「ですから、ここに王子がいらしています!!大広間にいらっしゃいます」
「兄上・・・が?」
それだけ言うとアルテナは大広間へ向かって駆け出した。

この城も久しぶりだなとアリオーンが辺りを見渡していると
「兄上!!」
アルテナが大きく叫んだ。
そしてそのままアリオーンに抱きつくと
「ああ、兄上。お戻りになられたのですね!!」
瞳からは涙があふれていた。
兄上、兄上と泣くアルテナに
「私はもう、兄ではない。」
「え?」
「だから、兄としてお前の側にはいられない・・・」
「それは・・・」
「私は男として、お前の側にいたい。
アルテナ・・・ずっとお前が好きだったんだ。」
突然の告白にアルテナは瞳を見開き、そしてアリオーンの言葉に答えた。
「アリオーン!わたしも・・・ずっとあなたのことが・・・
本当の兄妹ではないと知ったとき、とてもうれしかった。
でも、私はレンスターの王女だから・・・」
「そんなことは関係ない。・・・20年前父上がお前を連れて帰ってきたとき
妹ができたと喜んだ。一生懸命私の後を付いてくるお前が可愛かった。
だが、年々美しく成長していくたびに、妹ではなく女としておまえを見ている
自分に気が付いた。それからずっと・・・くるしかった。」
アリオーンはアルテナを強く抱きしめながら続けた。
「お前は、本当の兄妹だと思っているから、この想いを伝えることはできなかった。」
アルテナはアリオーンの腕の中で囁いた。アリオーンにだけ聞こえる声で・・・
「これからは・・・ずっと一緒です。」


「ハァーーーーーーー・・・やっとくっついてくれた。」
え?とアルテナが振り返ると青年が立っていた。
「リーフ?!」
するとそばにいたエダが
「すみません。これ全部兄上が1年前に企んだことです。」
「ディーン・・・が?」
アルテナが困惑していると
「姉上、1年前にもちかけた結婚話、あれが1つ目の罠(笑)です。」
リーフの後ろにいた、ディーンが続きを話す。
「2つ目の罠は・・・王子、あなたに言った言葉です。」
するとアリオーンは
「この間の『アルテナをもらってもいいでしょうか?』・・・あれか?」
「はい。」
「あ・・・アルテナ様・・・怒ってます?」
エダが心配そうに尋ねた。
「え、おこるもなにも・・・待って、まだ理解できない。」
かなり困惑しているようだった。
そんなアルテナにリーフは歩み寄り
「姉上、これで僕も安心して、ナンナと結婚できます。」
そう言って微笑んだ。
そしてそのままアリオーンにも声をかけた。
「アリオーン王子。義兄上と呼べるようになる時を楽しみにしています。
姉上と、南トラキアを頼みます。」
浅く一礼し、リーフは従者とともに帰っていった。
アリオーンはリーフの姿が見えなくなるまで深く礼をしていた。





それから数年後、アリオーンとアルテナは結婚した。
二人の間に生まれた子供は3人。
長男にはダインの聖痕があらわれた。二人目の女の子にはノヴァの聖痕が現れ、後に
リーフとナンナの子供の元へ嫁つぐことになる。3人目は・・・・
またどこかで、語られるでしょう。



祈る神 踊る神   


--------------------------------------------------------------------------------

ブラギの塔で私は、復活の杖───バルキリーを授かった。

皆を想い、己の命を懸けて戦う勇者を護るための杖。

我々の勇者、それは紛れもなくシグルド公子。

しかし、彼はバルキリーを拒んだ。


「公子!!なぜです?この杖があれば、例えあなたがアルヴィス卿に倒されても、
復活する事ができるのですよ!!」
「クロード様…その杖は、今は使う時ではありません」
「シグルド…公子?」
彼はティルフィングを鞘から抜き出しながら続けた。
「いつか、かならず…その杖を使わなければならない時がくるでしょう。その者は、
この世界に光を導く真の勇者。その時のためにも、どうか…その杖と共に…お逃げ下さい」
「公子は…神の判断に逆らう…、と?」
そう、この杖はシグルド公子のために授かった物。
それが、ブラギ神のご判断…。
「わかりました…」
あなたが神の判断に逆らうならば、私も共に…逆らいましょう。
「シグルド公子…ご武運\を!!」
私はバルキリーを手に、その場を去った。




数分前、私は確かにシグルド公子の側にいた。
だが、今はそれが夢だったように思えてしかたがない。
空から炎の雨が降り、地上は火の海と化している。
その中を私は、ケガをしたシルヴィアを抱えて走っていた。
「クロード様、もういいです。私をおろして、どうかあなただけでも逃れて下さい」
「何を言っているのですか?!そんなこと出来るわけないでしょう!!」
「でも!!」
「黙って、しゃべっていたら舌を噛みますよ」
「………」
ヴェルトマー軍の総攻撃。
おそらくシグルド公子はアルヴィス卿の手に…。

今、ここを乗\り切って逃げ延びたとしても、すぐに残党狩りが始まる。
聖戦士の血を引く私と一緒にいては…シルヴィアを危険な目に遭わすだけ。ならば…。
「シルヴィア。今から私が言うことを良く聞きなさい」
「は、はい…」
「もうすぐ見えてくる村で、私はあなたを降ろします」
「え?」
「その後、敵を引きつけるため私はシレジア方面へ逃げます。
あなたは、敵が私を追っていなくなるのを待ち、ダーナへ逃げなさい」
「え?どうして…」
「今、私たちが逃げ延びたとしても、そのうち残党狩りが始まります」
「わかっています、でも!!」
「私は聖戦士の血を引いている、だから追っ手も強者ばかりかかるでしょう。
きっと厳しい逃亡になります。お腹に子供がいるのに、あなたを危険な目に遭わせるわけにはいきません」
「クロード様…気づいて…?」
彼女の顔が少し赤くなっていた。
「二人目です。何となく分かりますよ。…それともう一つ、あなたには辛い事だと思いますが
…ダーナの修道院に預けているリーンを…迎えに行ってはいけませんよ」
「!!」
なぜだ?と、彼女が目を見開いて私を見た。
「私たちは追われている身。子供まで危険にさらす必要はない…わかりますね?」
「…。ダーナへ逃れた後、私はどうすれば良いのでしょう?」
「ダーナの街の南に村があります。そこへ行きなさい」
「クロード様は?」
「シレジアのどこかの村でかくまって頂きます」
「リーンには…もう、会えないのでしょうか!?」
俯いたまま、声を震わせて呟いた。
「いいえ。残党狩りがおさまり、周りが落ち着いてきたら、きっとあなたを迎えに行きます。
リーンはその後、二人…いえ三人ですね。三人で迎えに行きましょう」
「必ずですよ?絶対…迎えに来て下さいね。約束よ?」
「はい…かならず…」
そして私はまた、黙って走り続けた。
村に着いたのは、翌日の早朝だった。
村長にシルヴィアを一時かくまってもらい、私は少し休んですぐに村を発つことにした。
「クロード様…」
「シルヴィア、これを」
「これは!!バルキリーの杖?!どうして私に…」
「ブラギの神がきっとあなた達を守ってくれます。
そして、もし…生まれてくる子供にブラギの聖痕が現れたら、これを託して下さい」
「どうして…そんな…。いつかあなたから、手渡せば…」
「シルヴィア…」
「あ…クロード様…まさか?!」
「私が迎えに行くまで、必ず…生き延びて下さい」
彼女の瞳から大粒の雫がこぼれ落ちた。
「ううっ…。はい…はい…必ず生きて…あなたの帰りを待っています。
どうか、あなたにブラギ神の御加護がありますように・・・」



これでいい。これで…。
村で馬を買い、私はシレジアへ向かって走っている。
もう…シルヴィアと別れて3日が経っていた。
その間に追っ手が10名ほどかかった。
「彼女を置いてきて正解…でしたね…」
もうすぐ、グランベルとシレジアの国境に着く。シレジアへ入れば、追っ手も簡単には入ってこれない。

そう、安心したその時―――前方の岩陰から、子供の泣き声が聞こえた。
見ると、少女と岩の下敷きになった男の死体があった。おそらく父親だろう。
少女は娘のリーンと同じ年ぐらいだろうか…死んだ父を必死で呼んでいた。
ここに残しては私の追っ手に殺されるかもしれない…。
私は馬からおり、暴れる少女を抱えて再び馬に飛び乗\った。


と、その時───・・・

追っ手の放った矢が私の胸を貫いた

          シ ・ ル ・ ヴ ィ ・ ア 

私は少女を抱えたまま、馬から落ちた。
かろうじて、少女を庇えたので、ケガはしなかったようだが、驚いて泣いていた。
私は起きあがろうとした。が、
「う…目が…かすれて…周りが見えない」
遠くから馬を駆る音と、反対側から天馬の羽ばたく音が近づいてくる。
「ペガサス?いったい誰が…」

先に到着したのは、天馬の方だった。
「あ、あなたは。クロード神父?」
「その声は…フュリー殿か?」
「はい、そうです。いったいこれは…」
「そんなことはいい、それよりもこの子を連れてここを早く離れて下さい」
「ですが!!」
「相手には弓兵もいるようです。油断しました。早く!!矢がとどかない間に行ってください」
「クロード神父は?」
「わたしは…もう、ダメです。ブラギの塔でバルキリーを授かったとき…私は全てを知った。
己の運\命も…。あの時から分かっていた事です。」
「………」
「さあ、行って下さい!!」
「は、ハッ!!」
フュリーは少女を抱えてシレジアへ向かった。
その直後追っ手は私に追いついた。
「神父さんよ~。悪いが、その首、もらった!!」



私はブラギの塔で全てを知った。
炎の海に沈む仲間。
闇に呑み込まれていく世界。
そして…
何も出来ず、散っていく己。

だが私は見た。
絶望の後にやってくる光を。

だから私は死など恐れない。
私の死の後で光りが訪れるのだから。

私の見た未来の中で、出会った少年。
とても幸せそうだった。
名はコープル。

私は願う
リーンと、生まれてくる子供に
その少年───コープルと同じように
笑える未来が訪れることを…。

ブラギ神よ、どうか私の愛する者達の未来を守りたまえ。

「やったぜ!!クロード神父を殺った。これは大手柄だな」
「ああ、なんたって聖戦士の一人だからな、へへへ」
「じゃー、バーハラへ帰るか」
「おい、さっきのペガサスはどうする?」
「あきらめな、もうシレジア領に入っちまってる」






クロードの死をシルヴィアが知るのに時間はかからなかった。
だが、彼女は泣かなかったという。
あのとき…バルキリーを受け取った時、彼女は全てを悟っていた。
彼女は、夫────クロードの冥福を祈り
三日三晩、踊り続けたという。






--------------------------------------------------------------------------------

END



[230 楼] | Posted:2004-05-24 11:09| 顶端
雪之丞

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蘇る記憶と伝説



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私はそれまで、人に負けたことがなかった。天馬騎士の学校でも、私に勝てる者などいなかった。だからあいつは私にとって初めての邪魔者だったんだ。


私は天馬騎士の学校を卒業してすぐに天馬士官学校に入学した。シレジアには天馬学校が4つ、士官学校が1つあった。今までは見知った人ばかりだったが、流石に士官学校ともなると知らない奴の方が多い。シレジア中の実力ある天馬騎士たちが集まるのだからそれは当たり前。天馬学校の同期はほとんど卒業してすぐに騎士団に入団した。だから、ここ士官学校には知っている奴などいなかった。

「ふん、ここにもたいした奴はいないようだな」

そんな事を思いながら半年近くを過ごしていた私にその出来事は起こった。



パシン!!

誰かが、誰かの頬を叩く音が裏庭から聞こえた。そしてその後に迫力のある声。

「もう一度言ってみなさい!!」

相手はその勢いに完全に負けていた。

「い…いえ、なんでもありません。」

「…。今度、同じようなことを言ったらこんなもんじゃすまないわ。覚えておいて」

この声はたしか…マーニャ。

あいつ、こんなにはっきりものを言えたのか?おとなしい奴だと思っていたが…

こんなにおとなしい奴が天馬騎士を従える士官になれるのかと思ったことさえあったが…

なるほど、そういうことか。

「マーニャ」

「え?…あら、あなたはたしか…パメラ」

少し驚いた様子でこちらを見た。

「あんたがこんなにハッキリものを言えるなんて知らなかったよ」

するとマーニャはクスリと笑い

「パメラ、あなた何も知らないのね」

と、一言。

「なに!?」

するとマーニャは胸をはり、堂々と口を開いた。

「私は、四天馬騎士筆頭の候補としてこの士官学校に入学したのよ。

このことは周知のことだけれど?」

「筆頭…だと?」

「自分の言いたいこともいえない奴が筆頭候補になんてなるかしら?」

「ない…な」

「でしょ?…でも、あなたと話す機会ができて良かったわ。

聞きたいことがあったの。パメラ、士官学校に入学した目的は?」

凛とした瞳で私を捕らえ、そう問うマーニャ。

「決まっているだろ、指揮官になるためだ。」

「それは、小隊や中隊の指揮官?」

「ああ、そのつもりだが…」

「もったいないわね。パメラ、今度一ヶ月後に四天馬騎士候補を選ぶテストがあるの。あなたも受けてみない?表向きは候補選びだけど、そのテストで選ばれた者は確実に四天馬騎士になるわ。私もそのテストで筆頭は確実になる。どう?あなたも受けてみない?」

「なぜお前がそんなことを言う?」

「私はラーナ様直々の推薦で確実に筆頭になるでしょう。筆頭になればシレジア近衛隊、そして4つの城シレジア、セイレーン、トーヴェ、ザクソン全ての騎士を従えることになる。でも、それぞれの城の騎士を従えるには補佐が必要なのよ。」

「補佐?」

「そう、それが四天馬騎士。それぞれの城の騎士団のトップね。筆頭は自動的にシレジア城騎士団のトップだから…残りは3人。その3人が頼れて、そして信用できる相手でなければならない。私はその一人にあなたが就いてくれることを望むわ。」

「フン、勝手な奴だな。自分の理想騎士団結成の手伝いをしろだと?ふざけるな!!だいたい、そのものの言い方がムカつく。確実に筆頭になる?なぜそんなことがわかる?お前に勝てる者などいないといってるのと同じだぞ!!」

「あら、私に勝てる人がいると?それは、あなたのことかしらパメラ?」

「…さあな。」

「面白いわ。そうね、私を超えられるとしたらあなたぐらいかも…じゃあ、あなたも、筆頭を狙ってテストを受けてみたら?」

そう言うと、マーニャはその場を去った。



私が筆頭を狙うだと?バカバカしい。

…だが、テストか…受けてみる価値はありそうだな。

なんなら、あいつの言うとおり筆頭の座を奪ってやってもいい。





これが、私とあいつ…マーニャとの出会いだった。私はあいつの言っていたテストにトップクラスで受かり、その資格を得た。だが、筆頭に選ばれたのはやはりあいつ。
私のほかにそのテストに受かったのはディートバと、騎士学校から推薦で受かったフュリーという女。フュリーはマーニャの妹だという。

わたしは常にトップクラスの座をキープしていた。
だが、どうもがいても、あいつにだけは追いつけなかった。生まれて初めて悔しいと思った。
今まで負けたことがない私にとってそれは何んとも言えない屈辱だった。とうとうあいつを超えられないまま士官学校を卒業することになった。マーニャはシレジア天馬騎士総筆頭になりシレジアの任に就いた。私はザクソンのダッカー公に気に入られザクソンの任に就き、ディートバはトーヴェへ、フュリーはセイレーンへそれぞれ就いた。
マーニャ、私、ディートバそしてフュリーをシレジア四天馬騎士と呼んだ。



どんなに走っても追いつけない。

あいつは私にとって邪魔者以外の何者でもなかった。だが、同時に憧れでもあった。

人々から愛され、慕われ、そしてあいつもそれを受け入れる。

だからあいつにだけは一生かなわない…そう思った。

だが、あいつは私の腕の中にいた。

冷たくなって…

私との一騎打ちの最中飛び込んできた矢。

ユングヴィンのアンドレイ公子が放った矢がマーニャの胸を貫いた。

私の目指した者が崩れてゆく光景。

それは私にとって忘れられない…忘れてはいけない一瞬だった。

伝説の騎士とまで言われたあいつの光が失われていく…

こんなに簡単に崩れるものなのか?私が目指した者はいったい…。

だが、あいつの意志は妹のフュリーが受け継いだ。私から見ればまだまだ未熟な騎士。

だが私よりマーニャの想いを叶えることが出来るだろう。

私には、あいつの最も大切にしていた人々を想う心が欠けている。

そうでなければ、私はこの戦いであいつに刃を向けることはなかったはずだ。

ダッカー公を説得し、共にあいつの望む理想の国を目指しただろう。

だが、私はそうしなかった。あいつに…逆らった。

フュリーはあいつの望むものを目指すだろう。今度はわたしもそれに従おう。







私がそれを決意してから何年がたっただろう。

フュリーはレヴィン王の妃となった。だが数年後はやり病でこの世を去った。

そして、2年ほど前シグルド公子の忘れ形見であるセリス皇子が解放軍を組織し、

苦しい戦いの末、見事ユリウスを倒し帝位に就いた。

マーニャが夢見た世界はここから始まった。

だが、あいつはもういない。そしてその意志を継いだフュリーも…。

だから私が代わりに見届け、見守ろう。この世界の行く末を。

いつか天界で会うその日のために。

そして語ろう。

シレジアを愛し、守ったシレジア最強で最高の天馬騎士マーニャ。



「お母さん。その騎士様は強かったの?」

「そうよフェミナ。お母さんの最高のライバルなの」

「でも、お母さんはその騎士様に勝ってないのに、その騎士様は死んじゃったんでしょ?

お母さんかわいそう…。勝ちたかったよね…」

「いいえ、かわいそうじゃないわよホーク。お母さんはその人の最後を看取れたから」

「ふーん」

「それにきっと天界で、お母さんが来るのを待ってるわ」



過去の過ちを勇気にかえて 
失ったものを求めながら 
いつか会えるその日まで語り継ごう 
緑の騎士の伝説を・・・・・・



誇り高き剣士



--------------------------------------------------------------------------------

「レックス!!」

私が彼を呼ぶと、驚いた顔で彼は私を見た。

「アイラ?なぜここにいる?シャナン達と一緒にイザークへ行けと

言ったはずだ」

彼は駆け寄ってそう言った。

「私も、おまえと共に最後まで戦う」

「何を言っているんだ、子供たちはどうする?

あいつらにはまだ母親が必要だ!!すぐにシャナンたちの跡を追え」

私は首を振った。

「イヤだ!!私はイザークの戦士だ!その名に恥じない戦いをしたい……

あなたの側に……いたいの」

涙をこらえて私は彼を見つめた。

「……、だが、子供たちには今一番おまえが必要のはずだ……一緒にいてやったほうが……」

半ばあきらめたのか、さっきのように強くは言わなかった。

「そうだ、あの子たちには私が必要だ。そして、レックスだって……。

父親だって必要だ。……なんだかレックス…死にに行くみたい…」



イヤな予感はしていた。

勝利は目の前のはずなのに、なんだか落ち着かない。喜べない。

それは多分、他の戦士たちも同じだっただろう。

だからこそ、大事な家族はイザークへ逃がしたり、どこかへ預けたりして……

戦力になる者しか、同行していなかった。

どこからともなく襲ってくる不安をかき消すことができないまま

決戦の地まで行くことになった。

誰もが感じながら、決して口には出さない不安。

口に出してしまえば、その不安が的中してしましそうだった。

だから誰も口に出さない。



「わかったよ、アイラ。二人で子供たちを迎えに行こうな」

「ああ……」



これが、私たちの最後の会話。

最後の彼の笑顔……だった。





体が……熱い……

だが、その熱は直接私には伝わってこない。

私の体の上に何かが、覆いかぶさってる……

私は必死でそれを体から下ろした。

だが、起き上がって私の目に飛び込んできたそれは……

「レッ……クス?」

私に覆いかぶさっていたのはレックスだった。



それはいきなりのことだった。

シグルド公子の死の報告が入ったとほぼ同時刻

空から、赤い雨が降ってきた。

指揮官死亡の知らせの後でもあり

兵士たちは混乱していた。

アレクやノイッシュが必死に指示をだすが意味がなかった。

混乱し、逃げまどう兵士、覚悟を決め、立ち向かう兵士。

その中を、私とレックスは走っていた。

どうしても、自分の目でシグルド公子の死を確認したかった。

だが、油断した。



「アイラ、上!!」



それが、最後の彼の声。



レックスにかばってもらった私は、かすり傷程度、

だが、彼は炎を直接受けて……

私が油断したから……

私がレックスの言うとおり、シャナンたちと一緒に行っていれば……

彼の足を引っ張らずにすんだ……

私のせいだ……!



そばにあった剣を私は拾った。

そして、レックスにキスをひとつ…

そして…

「ありがとう…愛してる……」

私は駆け出した。



仲間を傷つけようとしていた敵兵に剣を振り下ろす。

後ろに気配を感じ、振り返って剣を振り上げた

その瞬間……

私の瞳に真っ赤な竜が写った……

体が宙に舞い上がる

いったい何が起こったのだろう?

私はいったい……





「これは!!アルヴィス様。御自らがいらっしゃるとは……」

「この女は、イザーク王室の女。おまえたちがかなう相手ではない。」

「なんと、一兵士のために『ファラフレイム』をお使い下さるとは!!」

「他に生きている者はいないか?」

「はっ、この辺りは今の女で最後のようです」

「そうか、ならばここにもう用はない。次へ行く」

「御意」

*****************************************



私は、子供たちと約束した……

かならず迎えに行くと……

だが、私はイザークの剣士

戦いを放棄するわけにはいかなかった……



ごめんね……スカサハ、ラクチェ……

ごめんなさい……レックス

今、あなたのもとへ……



バーハラの悲劇の戦場は、シグルド軍の戦士たちの死体が散乱していた

そのほとんどが、炎で焼かれ、誰であるか判別できなかったという。

死体はそのままにされ、砂漠の狼と呼ばれる獣に食い尽くされた……

と、歴史文書は語る。

END


--------------------------------------------------------------------------------




END



[231 楼] | Posted:2004-05-24 11:10| 顶端
雪之丞

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愛するものよ




--------------------------------------------------------------------------------

「この戦いが終わったら、一緒にシレジアへ行こう…ティルテュ」
「でも、あなたはヴェルトマーへ帰らなければいけないでしょう?」
「僕には城主なんて務まらないよ。きっとアイーダ将軍あたりが治めてくれるさ…」
「そう?…じゃあ私たちはシレジアへ…」

            
   

    ・・・――――シ レ ジ ア へ――――・・・ 





なんなんだ?いったい …。
どうしてヴェルトマーの兵が僕たちを攻撃してくるんだ?
それにさっき見えた、兄さんの奥さんって…ディアドラ様じゃなかったか?
どうして兄さんのところに、アグストリアで行方不明になったディアドラ様がいるんだよ!!

混乱していた僕は
「きゃー、アゼル!」
ティルテュの声で我にかえった。
「どうした。」
「あそこ…あのテントにはアーサーがいるわ!!」
ティルテュが指した方角には息子を置いてきたテントがあった。
そのテントが燃えていたのだ。
「あそこにはアーダンとデューがいたはずだが・・・とにかく行こう。」
僕たちはそのテントへ向かって全力で走った。


それはシグルド公子の死の知らせが入ってからすぐのことであった。
空から炎の雨が降り、大地は火の海と化し、シグルド軍が悲鳴をあげている。
その光景はシグルド公子の死を認めさせるには、十分過ぎるほど悲惨だった。

僕とティルテュはその中を必死で走った。
(くそっ…どうして、どうしてあの時、アーサーをシャナンに預けなかったんだろう。
危険じゃないなんて保証はどこにもなかった!!
それどころか、言い様のない不安が増すばかりだった…なのに…)

今更、後悔しても遅い。そんなことは分かっている。

前方からヴェルトマーの兵が二人向かってきた。
僕とティルテュは同時に魔法の詠唱に入った。
『炎の精霊よ我にサラマンディーの力をエルファイアー!!』
『いかずちよ神の怒りの鉄槌となりて敵を討てトローン!』
二人の兵はその場に倒れた。僕たちはそのまま走り続けた。

テントが見えてきた…
「アーサー!アーサー!」
涙を流しながら必死で走るティルテュ。
やっとたどりついた…。
「アーサーどこ?!アーサー!!」
テントの中を見渡したが誰もいない。
ティルテュがさらに奥へ行こうとしたとき、テントの中央の柱に火が移った。
「ティル!こっちへ来い。」
僕はティルテュの手を引っ張って外へ出た。僕たちが出てすぐにテントは倒れた。
「いや…いやよ、アーサー!!!!!!!!」
泣き叫ぶティルテュを後ろからぎゅっと抱きしめた。
「ティル、中には誰もいなかった。きっとアーダンたちがどこかにつれていったんだよ」
「まだ奥を見てないわ!もし奥で寝ていたら…アーサー!」
ティルテュはその場で泣き崩れた。
僕はただ抱きしめるしかできなかった。
するとちょうどテントの後ろだった辺りから声が聞こえた。
「アーアー!マンマン…アー」
「アーサー!?」
僕は慌てて声のする方へいった。
するとそこには、アーダンに覆い隠され、守られる様にしてアーサーが座っていた。
ケガはしていないようだ。だが…アーダンはもう息をしていなかった。
(アーダン…すまない)
「ティル…立て!すぐにシレジアへ向かうぞ」
僕はアーサーを抱き上げて言った。
「え?どっ…どうして?最後まで戦わなきゃ…」
「ばか!アーサーをまた危険なめに遭わす気か?
アーダンが命を懸けて守ってくれたんだぞ!!アーダンの死を無駄にするのか!?」
「え?そこに…アーダンがい…るの?」
ティルテュがこっちへ来ようとした
「来るな!!…見ないほうがいい…」
「…アーダン、あり…がとう。…っぅ」
「行こう…」
僕たちはそこから、一気にグランベルとシレジアの国境に一番近い村まで走った。

「ティル、大丈夫か?もうすぐシレジアだからな…」
「え、ええ。」
追っ手が掛かっている気配がなっかたので、少し休憩してから国境に向かう事にした。
だがその判断が間違っていた。半日もしないうちにヴェルトマーの兵士が村へ入って来たのだ。
どうやらシグルド軍の残党狩りが始まっているらしい。
「アゼル!!」
「…ティル、馬で一気に国境へ走るぞ!!」
「はい!!」
僕たちは馬に飛び乗\りすぐに村をで出た。

だがすぐに兵士に気づかれてしまった。
一騎がものすごいスピードで迫ってきた。
「くっ…詠唱が間に合わない。精霊よ我に力をファイアー」
なんとかファイアーの詠唱が間に合った。だがこのままでは国境に付く前に追いつかれる。
ここでくい止めなければ!!
僕は、少し前を走るティルテュに声をかけた。
「ティルテュ、いいか良く聞け!今から何があっても
シレジアの国境にたどり付くまでは後ろを振り返るな。何があってもだ!!」
「え?」
「わかったな!?」
「は…い。」
「よし、そのまま一気に国境へ走れ!!」

 ・・・――― 一 緒 に シ レ ジ ア へ―――・・・  



ティルテュ……アーサー……どうか無事生き延びてくれ。
そして僕の分まで幸せになってくれ。
アーサー…おまえの成長をティルと一緒に見守りたかった…
どうか立派に育ってくれ。そして仲間を信じる心を大切に…

僕は馬首を返した。
「お前達…、ここは通さないぞ」
「アゼル様…申し訳ありません。これもアルヴィス様の命令なのです。…死んで頂きます」

炎の玉が四方から飛んでくる。僕は必死でそれをよけた。
ティルテュが無事国境にたどり着くまで出来る限り時間を稼いだ。
そしてティルテュが国境に着き振り返った瞬間―――――・・・

『っ!アゼルー!!!!!!!!!!!!イヤー!!!!!!!』

 


どうか…子ども達が大きくなった時には、こんな時代が終わっていますように…



END


--------------------------------------------------------------------------------
あとがき
少し加筆修正しました。
サイトを開設する2年ほど前に、なにげなく書いた小説です。
まさか、自分でHP作って、掲載するとは思ってもいませんでした。
アゼル×ティルテュのお話しですね。
アゼルは死んじゃってますが、これが海乃の二人のイメージです。
大沢版も結構好きですが、海乃の好みは妻と子を守って死んでゆくアゼルがいいですね。








母の想いとともに


--------------------------------------------------------------------------------

「ん~!!いい天気」
私はバルコニーで初春の風に耳を傾けていた。
見上げる空には雲一つない。
真っ青な空を時おり横切る山鳥。
遠くに見える山は桃色に色づき始めていた。
そして私の心も、この風景のように晴れ晴れとしていた。
その穏やかさに、私はうつらうつら、夢の世界へ入ろうとしていた。
その時、後ろで声がした。

「ご用意が出来ました。どうぞこちらへ」

夢の世界の入り口で呼び止められ、私は目を覚ました
「あら、大変。こんな事してる場合じゃなかったのに」
「ふふ、今日はお天気もいいですし、初春にしては温かいですから眠ってしまいそうにもなります。大丈夫、まだ時間はありますから」
この人は私の身の回りの世話をしてくれる女官のラドネイ。
元は剣士なんだけど、今は剣士なんて必要のない時代だから、
ラドネイは子供のころから知っている私の世話をしてくれることになったの。
彼女は微笑みながら、話し始めた。
「10日ほど前、グランベルの帝都バーハラへ行ってきましたの。
とても平和で、市などは活気にあふれていましたわ。
2年前にあんな戦争があったなんて信じられないぐらい……」

グランベル……。セリス皇帝の治世の下、人々はみな平和に暮らしている。
だが、そんなグランベルも2年前まではロプト教団によって支配され、
子供狩りという卑劣なこともされていた。解放軍の指揮官だったセリス様は、
異父兄弟であるユリウス皇子を自らの手で倒し、大陸に平和をもたらした。
私も、セリス様とともに戦った。そして、このラドネイも。
「どんどん、平和になり豊かになっているのね。
シグルド様やキュアン様の死は無駄ではなかった……」
「はい……。そして、アイラ王女の死も無駄ではありませんわ。」
イザークの王女アイラ……私の母。
窓から小鳥の声が聞こえてきた。
ふと、窓へ目をやると、2羽の小鳥が手すりの上で遊んでいた。
「……お母様。」
無意識に出た言葉に、ラドネイは微笑み、
「ですから、幸せになって下さい、ラクチェ様。お母様の分まで」
「ラドネイ……。うん、幸せになるよ」
その時、扉を叩く音がした、そして部屋に入ってきたのは
「フィー!!もう、来ていたの?」
私は駆け寄った。
「うん。アーサーが早く行こうってうるさいのよ。でも、早く来て正解だったわ。」
「どうして?」
「お城の周り、町の人であふれかえってたわよ。ここからじゃ見えないようだけど」
「そう……」

今日、私は結婚する。イザークの王シャナン様と。
お城の周りに人が集まることは予想していたけど、
まさかこんなに早い時間に集まるなんて。
フィーも結婚式に出席するため、来ていた。
「じゃあ、私はアーサーの所へ戻るね。あ、そうだ。セリス様もいらしてたわ」
「ほんとに?」
「ええ。じゃあ、また後で」
そう言ってフィーは部屋を出て行った。
「ラクチェ様、そろそろドレスに着替えましょう」
「ええ」


数十分後……私は廊下を歩いていた。
ラドネイがドレスの裾を持ってくれていた。
すると前から足音が聞こえてきた。数人いるみたい。
その中で一人、おもいっきり走ってくる人がいた。
「ラークチェ!!おめでとうラクチェ!!」
そう言って、手を握ってきたのは……、
「パティ……様」
「あら、『様』なんて堅苦しいわ。私たち友達なんだからパティでいいわよ!!」
パティとは出会ったころにいろいろあったけど、本当に大事な友達。
今はセリス様と結婚してグランベルの皇后様。だけど、出会ったころと全然かわらないの。
「パティ、走ると危ないだろう」
「セリス皇帝」
「久しぶり。おめでとうラクチェ」
やさしい笑顔で言った。
「ありがとうございます。セリス皇帝」
「ん~慣れないんだよねそれ。前みたいに呼んでよ。」
「でも……」
「あら、シャナン様は普通に『セリス、今日はすまないな。忙しいだろうに』って言ってたわよ」
「シャナン様は普通じゃないから……」
私が言うとセリス様が
「ぷはっ……普通じゃないか、シャナンが聞いたら怒るだろうね。
クックック……いいんだよ、シャナンは僕の兄みたいな人だから」
「セリス様……」
「そうよ、ラクチェも!!仲間でしょ?」
「そうね。」
すると、セリス様の後ろで声がした。
「盛り上がってるところ悪いんだけど……」
「スカサハ、ラナも!!」
「久しぶりラクチェ。今日はセティ様がどうしても来れなくて、私だけなんだけど」
「ううん。シレジアは雪が溶け始めるころだから一番忙しい時期だもんね」
「ええ、雪が降っている間は何も出来ないから、今が一番大変なの」
「ありがとうラナ。忙しい時期に」
「おい、ラクチェ。兄を無視するなよ」
情けない声でスカサハが言った。
「あら、スカサハ。いたの?」
スカサハは私の双子の兄。今はドズルで恋人のティニーと暮らしている。
「お前な~……」
「冗談よ。ティニーは元気?」
「ああ、一緒に来たんだけど、兄貴に捕まった」
「あらら、シスコンアーサーに捕まったか~」
「じゃあ、ラクチェ、私たちは先に大聖堂へ行くから……」
「あ、はい。ありがとうございました、セリス様」
4人はその場を去った。

「……」
「ラクチェ様?どうかなさいました?」
「ううん。何でもないのラドネイ」

急に胸がキュンとなった。
今、私がここにいるのも、今日幸せになれるのも、
そして素晴らしい仲間がいるのも全てお母様のおかげ。
自然と、涙があふれてきた。
ラドネイがそっと涙を拭いてくれた。
「ラクチェ様。今のあなたの姿はアイラ王女の想いそのものです。
あなたが幸せになることが、アイラ様の想いです」
「うん。幸せにならなくちゃね」

大聖堂に向かう途中、たくさんの仲間に再会した。
アグストリア王アレスと王妃リーン、統一トラキア王リーフと恋人のナンナ、
アルテナ王女と恋人のアリオーン様。ヴェルダンの王レスター、
他にグランベル公諸家のファバルとその恋人ユリア、コープル、オイフェ、ヨハン、ヨハルヴァ。
みんな、忙しいのに私たちの為に集まってくれた。
その、暖かい、お母様が残してくれた想いに包まれて、私は大聖堂の扉の前に立った。
その時、微かに声が聞こえた。

『幸せになってね』

「え?……お母様?」
私は、辺りを見渡した。
「……ありがとう、お母様」
誰にも聞こえない声で呟いた。
この扉の向こうにはシャナン様がいらっしゃる。
兵士二人がかりで開かれた、大聖堂の扉。
お母様の想いに包まれながら、私は一歩、また一歩と幸せに向かって歩き出した。


      私、幸せになります。お母様の分まで・・・


END


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あとがき
FE聖戦の小説で初めて書いたのがこれ。
シャナラク大好きっ子なんで。で、これを書いた後、「じゃあ、告白はどっちから?結ばれたようじゃになったのはいつだ?」ということで『この腕の中で』を書きました。この二人ってなぜか書きやすいです(^^)それだけ私がこのカップルを愛しているからかもしれませんが・・・たぶんシャナラク以外のカップリングは私は書けない。この二人の!ですよ?他キャラなら書けます。でも、シャナパティやヨハラクは無理ってことです






この腕の中で
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こんなことになるなら・・・・・・
あの時、自分の気持ちに素直になって・・・・・・
あいつを・・・・・・抱きしめれば良かった
抱きしめて・・・・・・だきしめて・・・・・・
だが、そんな事を今さら後悔しても、もう・・・・・・遅い。
今はただ、あいつの無事を祈るだけ。

ほんの数時間前───── 
パシン・・・・・・・!!!
私は彼女の頬を叩いた。
「なぜ、あんな勝手なことをした?」
私は彼女に言った。
だが、彼女の返事は返ってこない。
「いつもお前は、自分勝手な事ばかりして・・・・・・今回の事もそうだ。
何もなかったから良かったものを・・・・・・もし、今回のことで
解放軍が全滅していたらお前はどうするつもりだったのだ?」
すると彼女が何かを呟いた。
「え?」
「どうして・・・・・・ですか?どうして私にはいつも厳しいの?パティには優しいくせに!!」
「何を言っているんだ?」
すると彼女は私の顔をみて、声を振るわせながら言った。
「シャナン様にとって、私っていったい何なんですか?
ただの従妹ですか?剣技の弟子ですか?」
私はラクチェの言っている意味がいまいち理解できなかったので、
聞き返そうとした。が、
ラクチェの口が一足さきに開いた。
「そう・・・・・・ですよね。私・・・・・・何を言ってるんだろう。
そうよ・・・・・・従妹で弟子なのよ・・・・・・ただ・・・・・・それだけ。」
ラクチェの瞳からは涙がこぼれていた。
「でも・・・・・・でも私にとってシャナン様は従兄でも師匠でもない!私にとってシャナン様は・・・・・・
心から慕う人、尊敬する人、憧れの人・・・・・・なにより、
ずっと側にいたい人・・・・・・大好きな男性(ひと)なの!!」

うれしかった。
すぐに駆け寄って、ラクチェを抱きしめたかった。
だが、そんなことは出来なかった。
格好悪いと・・・・・・嫌われるのが、怖かったんだ。
そして、言ってしまった。
「子供が何を・・・・・・。」
その後のことは予想がつくだろう。泣きながらラクチェは部屋を出ていった。
最後に一言残して・・・・・・。   

       『シャナン様なんて・・・・・・大嫌い!!』


私は必死になって馬を走らせている。
ミーズ城攻略時の作戦。
私は本隊に、ラクチェは囮部隊にいた。
囮部隊の相手はドラゴンライダー。
飛行兵と戦う事などほとんどない兵士達は、ドラゴンライダーとの戦いにとまどっていた。
ラクチェはケガをした兵士達を退却させるため、自ら前線で指揮をとり、
囮となっていると早馬が知らせに来た。頭の中が真っ白になっていった。
いくらラクチェが剣聖オードの血を引くイザークの王女であっても、
空を自由に飛ぶドラゴンライダー相手に長時間耐えられるはずがない。
私の横にいたセリスが兵士達に指示を出していたが、私の耳にはもう何も入ってこなかった。
ただ、瞳に涙をためたラクチェの顔が脳裏に浮かぶだけ・・・・・・。

そして、気がつけば私は馬にまたがり草原を走っていた。

しばらくすると前方に我が軍やトラキアの兵士達の死体が見えてき
た。この中にラクチェがいたらどうしよう・・・・・・そんなことを考えるたび私は震えた。
ラクチェの無事を祈りつつ、辺りを見渡した。
バサバサバサ───     
東方でドラゴンの羽ばたく音が聞こえた。振り向くと3体トラキアの方へ飛び去って行く。
手足が・・・・・・震える。
「まさか・・・・・・ラクチェはもう・・・・・・」
ひざを地面につき、その場に座り込もうとした。
その時・・・・・・
ドサッッッッ!
後ろで物音がした。
おそるおそる振り返ると、そこにはラクチェが倒れていた。
刃こぼれした剣を片手に、頬には剣でできたのであろう傷があった。
「ら・・・・・・くちぇ・・・・・・?」
わたしは駆け寄って声をかけた。
「ラクチェ!!しっかりしろ、ラクチェ!」
ラクチェを抱き起こした。
「シャ・・・・・・ナン・・・・・・様?」
生きていた。ラクチェは生きていた。
「ラクチェ!良かった・・・・・・無事で・・・・・・よかっ・・・・・・っ」
「シャナン様?泣いているのですか・・・・・・?私の・・・・・・ために?」
ラクチェの細い指が私の涙をぬぐう。
「心配・・・・・・しましたか?」
「当たり前だ!!また・・・・・・無茶をして・・・・・・」
「ごめんなさい・・・・・・」
「違う・・・・・・。こんな事が言いたいのではない!!」
「シャナン様?」
「謝らなければならないのは私のほうだ。あの時、好きだと言ってくれた時
本当は、すぐにでもお前を抱きしめたいほど・・・・・・うれしかったんだ。
だけど・・・・・・そんな格好悪いところをみせたくなかった。だから・・・・・・すまない。」
「シャナン・・・・・・様・・・・・・」
「お前が適地に残ったと聞いたとき、心臓が止まるかと思った。
初めて、お前の存在がどんなに大きいものだったかを思いしらされた。
あのとき、心にもないことを言ってしまった報いをうけるのかと・・・・・・。
嫌いでも・・・・・・嫌いでもいいから無事でいてくれと祈った。」
するとラクチェは
「嫌いになんてなりませんよ・・・・・・大好きです。
シャナン様・・・・・・あなたを愛しています」それ以上何も言葉はいらなかった。
私達は抱きしめ合った。
その時間はほんの数秒だったであろう・・・・・・だが私たちは何時間もそうしていた気がする。
少し照れながら私たちは顔を見合わせた。
「わたし・・・・・・トラキア軍と戦いながら思ったんです。
シャナン様に『大嫌い』なんて言ったまま死ぬなんてイヤだって。」
「ラクチェ・・・・・・」
遠くから軍旗が近づいてくる。セリスが援軍を送ってくれたのだろう。
「ラクチェ、これからはずっとわたしの側にいろ。私がこの腕で守ってやる」
「はい。シャナン様・・・・・・。」
辺りには、まるで私たちを祝福するかのように
さわやかな風が吹き乱れていた。


その後セリス達解放軍は、ロプト教団を倒しユグドラル大陸に平和が戻る。
そしてイザークに戻った私は王位に就き、ラクチェを正妃に迎えることになる。
だが、それはもう少し先の話・・・・・・。

END



[232 楼] | Posted:2004-05-24 11:11| 顶端
雪之丞

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海蓝之钻(II)
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本想就此收手,可是这几篇是在很有意思,于是……终于没能抵抗住诱惑,发了上来。顺便说一句,这些好像都是一个人写得耶。真是了不起的创作量。 :wub:


[233 楼] | Posted:2004-05-24 11:14| 顶端
yydherro

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看了第一段就不看了,阅读量太大了,这么多中文看的我就头昏了,别说日文了。
不过还是要鼓励一下,毕竟找到这些不容易。

[234 楼] | Posted:2004-05-24 16:22| 顶端
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