雪之丞
级别: 火花会员
编号: 18260
精华: 1
发帖: 12974
威望: 0 点
配偶: 单身
火 花 币: 2062 HHB
组织纹章:
所属组织: GL党
组织头衔: 换头部部长
注册时间:2004-05-22
最后登陆:2012-05-28
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風 の 騎 士
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― 3 ―
シャガール王の降伏により、アグストリアの内乱は一応終結を見た。しかし、いつのまにか内乱はアグストリアとグランベルの戦争にまで拡大しており、敗戦国となったアグストリアはグランベルの統治下に置かれることになった。 アグストリア王シャガールは王宮をマディノ城に移し、エルトシャンもそれに付き従いシルベール城から王を警護することとなる。親友エルトシャンを救い出すという目的は達せられたものの、シグルドの心は晴れなかった。
ラケシスもまた、ひとり暗鬱な思いを抱いていた。兄を助け出そうと思ってしたことが、アグストリアに他国を介入させる結果となってしまった。 自分は間違っていたのだろうか……。しかし、シグルドに助力を要請しなければ、ノディオンは隣国ハイラインに征服されていたであろうし、兄の身もどうなっていたかわからない。 だが、そのことよりもラケシスの心を暗くしているのは、兄エルトシャンの言葉だった。アグスティ城を出立する時、当然共に付いていくつもりだったラケシスに、エルトシャンは言ったのだ。このままシグルドの軍に留まれ、と。 確かに今となってはシャガールの監視下にあるシルベールも、グランベルの役人の駐留するノディオンも、ラケシスにとって安全な場所とは言えなくなっている。しかし、どんな時も兄と共にありたいと望む彼女には、辛い言葉だった。
「手当てがよかったのね。これなら跡も残らないわ」 ぼんやりと物思いにふけっていたラケシスは、その声に我に返った。今、エーディンが目の前でラケシスの足のケガの具合を見てくれている。 そして念のためにと、もう一度ライブをかけてくれた。すでに直りかけていた傷跡が、もうほとんどわからないくらいに薄くなる。 同じ、回復魔法を扱う身でも、エーディンとラケシスとではレベルがまるで違った。ラケシスが何度もライブを唱えなければ直せないようなケガを、エーディンはたった一度の唱和で回復させてしまう。 回復魔法が使えるというだけで軍の役にたてると単純に思いこんでいた自分が、ラケシスは急に恥ずかしくなった。
エーディンの部屋を退出し、そのままアグスティ城内の中庭を歩いていた。石畳に舞い散る落ち葉が、秋の訪れを告げている。 ふと、前方の木立の中に人影を見つけた。背の高い、大きな背中のその後姿には見覚えがある。思わずラケシスは走り出した。
「ベオウルフ、待って」 息を切らして駆けてくる少女を、ベオウルフは少し驚いたような表情で見ていた。 「そんなに走って足は大丈夫なのか? お姫様」 「ええ…。それよりわたし、あなたに謝りたくて……」 「謝る? 何を?」 「わたし、危ないところを助けてもらったのに、ちゃんとお礼も言ってなかったわね。それどころか、ずいぶんひどいことを言ったわ。本当にごめんなさい」 真剣な表情のラケシスを見て、ベオウルフの顔にも笑みが浮かぶ。 「気にすることはないさ。あれも仕事のうちだ」 「でも、あなたの言う通りでした。わたし、自分が足手まといだということに気づかずに、のこのこと戦場に出たりしてみんなに迷惑をかけて…。とても恥ずかしいわ」 「変わったお姫様だな。ふつう、あんたみたいに身分の高い女は俺達ふぜいが言うことなんか気にも留めないもんだぜ。野良犬が吠えてるぐらいにしか思わないもんだ」 「そんなことないわ。同じ人間でしょう」 少し憤ったような表情で、まっすぐ自分を見つめる少女。 他の人間が口先だけで同じようなことを言うのを聞いたことはある。しかし今目の前にいる少女は、本気でそう言っているようだった。 その澄んだまっすぐなまなざしをベオウルフは、少しまぶしいような思いで見ていた。自分がとっくの昔に失ってしまった純粋なものを、この少女は持ち続けている。
「そう思ってくれるのはありがたいが、それは理想論だ。人間は生まれた時から身分によって隔てられている。同じ人間ではありえない。俺とあんたの住む世界が違うようにな」 「そんな……」 ラケシスはひどく傷ついた顔をした。うつむいてしまった彼女に、さすがにベオウルフも気がとがめる。しかし再び顔を上げた時、ラケシスの瞳には強い光が宿っていた。 「それは、わたしが一人前ではないから対等に相手できないってこと? それならわたしは、絶対にあなたに認めてもらえるような人間になってみせるわ」
自分の言葉が、まさかそういうふうに受け取られるとは思わなかった。 ベオウルフは思わず苦笑を浮かべる。
―――つくづく変わったお姫様だ
挑戦するかのように自分を睨んでいる少女を見た。 「何がおかしいの。わたしは本気よ」 だがベオウルフはそれには答えず、ラケシスの後ろに視線を走らせた。 さっきからこちらを見て立っている、一人の男の姿がある。 「それよりお姫様、忠実な騎士殿がお出迎えだぜ」 「え?」 ラケシスが振り返ると、そこにはシグルドの直属の部下ノイッシュが居住まいを正していた。
エルトシャンと共にシルベールに行ったイーヴ達兄弟の代わりに、ノイッシュとフィンが交代でラケシスの護衛に付くことになった。街に出かける時はもちろんのこと、城内にいる時も必ずどちらかがラケシスの側に付き従った。 ノディオンの王女でありながらグランベル軍に身を置くラケシスの立場は、下手をするとアグストリアとグランベルの両国から狙われることにもなりかねない。 シグルドもキュアンも、親友の妹のために自分の最も信頼する部下を護衛に付けたのだ。
「お話し中申し訳ございません、ラケシス様。シグルド様がお呼びです」 「わかりました。すぐに参ります」 ベオウルフに、もうひとこと言っておこうとラケシスが振り返った時、すでにその後ろ姿は遠ざかりつつあった。 なんとなく中途半端な気持ちでベオウルフの去った方を見ているラケシスに、ノイッシュが声をかける。
「ラケシス様。よけいなこととは思いますが、あまりベオウルフに気を許されるのはいかがかと思います。彼は、金で主を替える傭兵です。いつシグルド様を裏切って敵にまわらないともかぎりません」 その言葉を聞いた時、ラケシスはほとんど反射的に声を上げていた。 「本当によけいなことだわ! そのくらいの判断は自分でします。 それに……」
―――ベオウルフはそんな人じゃないわ
そう言いかけて、はっと口許を押さえた。 今、自分は何を言おうとしたのだろう。なぜ彼をかばうようなことを? 戦場で助けてもらったとは言え、ベオウルフがどんな人間なのか、まだよく知らないことは事実なのに…。 ましてノイッシュは、自分を心配して言ってくれたのだ。
「あ……、ごめんなさい、ノイッシュ。言いすぎました。心配してくれてありがとう」 ラケシスの言葉に、固く引き締められていたノイッシュの口許が、少しほころんだ。 「いえ、私こそ出すぎたことを申しました。お許し下さい」 一礼し、先に立って歩いて行く騎士の後ろ姿を見つめる。以前から思っていた。彼は兄に似ている――と。 顔立ちは特に似ていないが、背格好が同じくらいということもあって、金の髪に赤い鎧を身につけたノイッシュを遠目に見た時、何度かエルトシャンと見間違えたことがあった。 そして何より、主君に忠誠\を誓い騎士道を貫く、穢れなきまっすぐなまなざしがそっくりだった。彼は兄と同じ種類の人間だ。ノイッシュを見るたび、ラケシスは思った。
―――なのにどうして彼を見ても胸が騒がないのかしら?
ノイッシュを好ましく思ってはいるが、あくまでも好意の域を出ていない。彼の事を考えて眠れなくなったり、彼の姿を垣間見て心がときめいたりということはない。
―――やっぱりエルト兄さまを超える人なんて、この世には いないんだわ……
シルベール城にいる兄エルトシャンのことを思った。今ごろ彼はどうしているのだろう。
兄のために強くなりたい。それはアグストリアの内乱を通じて、ラケシスが強く思ったことだった。今まで彼女は、兄に守られるだけの立場だった。エルトシャンの庇護の下、微笑みながら過ごす毎日がずっと続くと思っていた。しかしもう時代はそれを許さない。
ならば今度は自分が兄を守りたい。そしてどんな時も彼と共に戦いたい。 そういう形でしか側にいることのできない妹の、それはせめてもの願いだった。
風 の 騎 士
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― 4 ―
その日、城下の定期巡回から戻ったベオウルフを、思いつめた表情のラケシスが待っていた。
「わたしに戦いかたを教えてほしいの、ベオウルフ」 馬の手綱を引いて厩舎に向かうベオウルフの後ろを歩きながら、そう声をかける。 「なぜ、俺に頼むんだ? ノイッシュかフィンに言えば、喜んで教えてくれるだろう?」 「……彼らではだめなの。二人ともわたしに怪我をさせまいと気を遣って、本気で相手をしてはくれないの」 ベオウルフは立ち止まり、意外そうな顔でラケシスを見た。この王女は、相手が手加減していることをちゃんとわかっているのか。
「あなたにお願いするしかないんです。あなたならきっと手心を加えずに、剣を教えてくださるでしょう? もちろんお礼はします」 真剣なまなざしで訴えるラケシスに、ベオウルフも少し心を動かされた。彼女がこんなことを言い出した一因は、自分にもあるかもしれない。 「礼は要らない。だが、俺のやり方についてこられるのか?」 「はい」 決意を込めた表情で少女が頷く。 「乗\馬はできるか?」 「ええ、一応は」 「じゃあ、騎馬での戦い方を教える。あんたは防御が弱い。騎馬で戦った方が有利だ。慣れるまでに少し時間がかかるかもしれないがな」 「わかりました」 ラケシスの表情が明るく輝いた。
そして次の日から、ベオウルフを相手にラケシスの剣の稽古が始まった。 ベオウルフは言葉での説明は極力省き、実践を通してラケシスに戦い方を教えていった。 最初はあまりに無防備でどうなることかと思ったが、ラケシスの剣の腕はどんどん上達していった。とにかく飲み込みが早い。同じ注意を二度は受けない。 さすがはエルトシャン王の妹。黒\騎士ヘズルの血を引く王女だと、ベオウルフも認めずにはいられない。 そして何よりも、ラケシスの訓練に対する姿勢には、並々ならぬ決意が感じられた。何度馬上から落とされても、土にまみれても、決して自分から止めようとは言い出さない。 この少女は強くなる。そうベオウルフは思った。
そんなある日、すでに日課となったラケシス相手の剣の稽古を終え、部屋に戻ろうとするベオウルフの前にノイッシュが現れた。彼は、ここ数日間の二人の訓練の様子を見ていたという。そして、稽古をやめるか、やり方を変えるようベオウルフに要求しにきたのだった。
「あれはやり過ぎだ。ラケシス様がケガでもされたらどうするつもりだ!」 声を張り上げるノイッシュを、少しうんざりしたような表情でベオウルフは見た。 「ケガですむんならそれでいいだろう。そんなことに気を遣っていたら、訓練にならん。戦場じゃ、敵は手加減なんかしてくれないんだからな」 「ラケシス様は戦う必要などない。あの方を守るために我々がいるのじゃないか!」 「おまえが守ってやれるという絶対の保証があるのか? どんな強いやつでも運\が悪ければ死ぬ。それが戦争だ。もしおまえが倒されたら、誰が彼女を守る? ラケシス王女に自分を守る方法を教えることが、彼女を守る一番の近道なんだ」 「それは……騎士の考え方ではない!」 声を震わせるノイッシュを見て、ベオウルフは口の端に皮肉な笑みを浮かべた。 「あいにくと俺は、騎士じゃないんでね」
そして初めて真剣な顔になると、ノイッシュに向かって強い口調で言う。 「正直言って俺も、あのお姫様はすぐに音を上げるだろうと思ってたよ。だがあいつは決して弱音を吐かない。ラケシス王女はおまえが思っているほど弱い女じゃないんだ。おまえの言ってることは、彼女に対する侮辱だ」 硬直したように黙り込んだノイッシュを一瞥すると、そのままベオウルフは立ち去った。
少しの後、拳を握り締めうつむいたまま立ち尽くすノイッシュの背後から、ためらいがちな声が聞こえて来た。 「ノイッシュ殿」 「…フィンか」 振り返った先には、フィンが複雑な表情で立っている。 「申し訳ありません。聞こえてしまいました」 「いや、かまわない…」 そう言った後、ノイッシュはフィンに問いかけた。 「フィン、君はベオウルフの言うことをどう思う?」 「私も騎士ですから、ベオウルフ殿のような考え方はできません。…でも、あの人の言っていることが間違っているとも言いきれないような気がします」 ノイッシュも同じ思いだった。だからあの時、ベオウルフに言い返すことができなかったのだ。 フィンは続けた。 「どちらにしても、私は騎士としての生き方しかできません。我々は我々のやり方でラケシス様をお守りすればいいのではないでしょうか」 まだ少年の面影を残したまま真摯なまなざしで答えるフィンに、ノイッシュの顔にもわずかな笑みが浮かぶ。 「そうだな」 いくぶん明るい表情になったノイッシュは、フィンの肩を軽く叩くと歩き出した。 おそらく同じ想いでラケシス王女を見つめている騎士の後ろ姿を、フィンは静かに見送っていた。
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[56 楼]
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Posted:2004-05-22 16:26| |
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